備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

Ubuntuのアップグレード失敗からの復旧

次世代シーケンサーのデータ解析に、大学で放置されていたLinuxを使い始めました。Linuxはほぼ触ったことがなかったので、解析の入り口に立つまでにかなり苦労しました。

Ubuntuのバージョンは12.04 LTS。

 

 

Ubuntuのアップグレードをしませんか」みたいなメッセージが出てきたので、何も考えずに従うと、再起動後マウスとキーボードが動かなくなっている。なのでログインもできない。

USB端子でなく、PS/2端子のキーボードなら反応することが分かり、ログインには成功。しかしデスクトップ画面がこんな感じになっている。真っ黒。左のタスクバー(Launcerって言うの?)も表示されていない。「Ctrl+Alt+F1」で仮想コンソールも開けない。「Ctrl+Alt+F1」で端末も開けない。

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参ったなと、色々ネット検索。

起動時の下の画面の時にF6を押して、Grub画面を表示。そこでprevious versionを選択し、dpkgを選ぶ。"repair broken packages"と書いている。一通りdpkgが終わったところで、resumeを選択し、再開。

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すると、無事紫色の画面が出て、マウスとキーボードが使えるように!

寄り道をしまくったので、復旧するまでに半日くらいかかってしまいました。

SETAC NA @Orlando

SETAC Nort AmericaのAnnual Meetingに参加してきました。大統領選中に開催されるというタイミング。思っていたより、混乱している感じは受けませんでした。自分の観測範囲が狭かったからでしょうか。トランプが大統領になると、環境系の研究費が削られるという話は聞きましたが。

 

情報収集としては非常に有益な学会でした。AOP(Adverse Outcome Pathway)に代表される体系化しようとする動きの強さを感じました。既知のある生物種から他の種の感受性を推測する外挿の話がなかなか面白かったです。詳しいことは研究室のブログに書いたので、ここには書かない。

自分のアピールという意味では、あまり効果なかったかな。ポスター発表ではアピールしたい人には届けられなかったです。次はもう少しいいネタを持って行きたい。

あと英語が分からなさ過ぎて死んだ。非ネイティブの留学生の英語とは、当たり前かもしれないけど、全然違います。特におじさんの発表は、もごもごしていて聞き取りにくい。

 

 

フロリダ州までのフライトは合計16時間ほどあったので、行き帰りで5~6本映画観ました。ちょうど「The Ides of March」という大統領予備選をテーマにした映画がありました。他は「スティーブジョブズ」と「ベン・ハー(リメイク版)」が面白かった。ベン・ハーの映像の迫力、マジですごかった。最後の急展開は、正直どうかと思ったけど。

 

論文のメモ: 下水中の薬品・科学論文の書き方など

Editorialなど、最近読んだ短い文章をいくつか。

 

2016, Using waste water to flush out drug dealers, Nature, 537 (7620), 280.

違法ドラッグの使用を調べるために下水を使うというのが面白いです。自分の学科ではPPCPや大腸菌の挙動調査に下水が使われてますが、こういうのがあるとは。

 

Chapman P.M., 2016, How to review and edit scientific manuscripts, Integ. Environ. Assess. Manag., 12 (4), 608-609.

reviewerとeditorへのお叱り。"Be prompt"とか"Be thorough"とか、内容はまあ「せやな」って感じ。

今査読受けてる論文のeditorに見せてやりたいです。

 

Chapman P.M., 2014, Scientific papers should not be boring, nviron. Mar. Pollut. Bull., 87 (1-2).

この人、こういう雑文?をすごい書いてます。論文の文を短くシンプルにするために、しゃべったのを録音して書き写す、というのは面白い。あと、キャッチ―なタイトルを勧めてますが、論文の中身が推測できないタイトルは自分はあまり好きではないかな…。でも確かについ読んでしまうのも事実。

  

Chapman P.M., 2016, Sediment Contaminant Bioaccumulation: With or Without Gut Contents?, Bull. Environ. Contam. Toxicol., 97, 151-152.

またこの人。Retrospective。有害物質のBioaccumulationを求めるときに、消化管内に入った底質の分は除外しないと、過大評価しちゃうよという警告(ただ研究目的によっては除外する必要なし)。全て排泄させて測定するか、消化管の重量と底質の有害物質濃度から補正計算をおこなうか。自ら糞を食べてしまう生物の場合は、全て排泄させるのが難しいから補正計算が必要になるそうです。

 

論文のメモ: 甲殻類と細菌の関係

気晴らしで読んでみた論文。自分自身の研究との関連は特にないです。

 

「海産ヨコエビの新しい体表面共生細菌

Gillan D.C. and Dubilier N., 2004, Novel epibiotic Thiothrix bacterium on a marine amphipod, Applied Environ. Microbiol., 70 (6), 3772-3775.

海産ヨコエビの表面に硫酸酸化細菌がいることをFISH(fluorescence in situ hybridization)と配列解析で確認したという報告。何が研究の面白いところか始めは分からなかったけど、たぶんThiothrix以外の細菌が共生しているのは見つからなくて、見つかったThiothrixのある種が他の環境(底質など)にはいないという共生関係の特異性が面白いんですね。

 

「外部共生するヨコエビの硫化物耐性

Bauermeister J., Assig K., and Dattagupta, S., 2013, Exploring the sulfide tolerance of ectosymbiotic Niphargus amphipods from the Frasassi caves, central Italy, Internat. J. Speleol., 42 (2), 6.

上の海産ヨコエビと同じように硫黄細菌と外部共生している淡水産ヨコエビをつかった研究。「硫黄細菌が毒性の高い硫化水素を硫酸まで酸化するために、ヨコエビ硫化水素の毒性を受けにくいのではないか」という説を検証してます。このような方向性なら、環境毒性をやってる身としては、研究の面白さはよく分かります。

毒性実験の設計がひどいですけど(n=1など)、抗生物質で硫黄細菌を殺したうえで硫化水素を添加した系とそのまま硫化水素を与えた系で、致死率の大きな差は見られなかった模様。硫黄細菌がいないはずの系でも、それなりの耐性があったので、硫黄耐性は細胞共生以外のメカニズムによるものではないかと推測してます。

 

抗生物質耐性遺伝子の避難所としてのDaphnia

Eckert E.M., Di Cesare A., Stenzel B., Fontaneto D., and Corno G., 2016, Daphnia as a refuge for an antibiotic resistance gene in an experimental freshwater community, Sci. Total Environ., 571, 77-81.

タイトルのキャッチ―さに釣られて、なんとなく読んでみました。短い報告で、Daphniaに食べられるから周りの水中の薬剤耐性菌は減少するけど、Daphniaの体内(もしくは表面)には薬剤耐性菌が潜んでいるという話。だから何というわけではないけど、こんな研究もあるのかという意味で面白かったです。

この論文を読んだ後だと、上の硫黄細菌の研究に関して、抗生物質を与えた後でもヨコエビ内に硫黄細菌が残っていて硫化水素を解毒したんじゃないかという妄想が…。硫化水素の取り込みは鰓や表皮メインだろうから、体内の細菌は関与しないので違うか。

 

論文のメモ: 魚類からの環境DNAの排出速度

 「環境DNAの排出速度

Maruyama A., Nakamura K., Yamanaka H., Kondoh M., and Minamoto T., 2014, The release rate of environmental DNA from juvenile and adult fish, PloS one, 9 (12), e114639.

研究室で紹介された論文。自分は環境DNA(eDNA)について全く詳しくないけれど、面白かったです。論文では環境DNAの排出率がjuvenileとadultで違うというところに注目してて、若い方が代謝速度が大きいので環境DNAの排出率[copies/h/g body]も大きくなると論じてます。ただ誤解してるかもしれませんが、結果(Fig.1)を見ると分解の速度もjuvenileとadultで違います。juvenileの方が分解速度が大きいです。年寄りの皮膚などから排出されたDNAは分解が遅いとかあったら面白そう。

映画「シン・ゴジラ」「君の名は。」「ユージュアル・サスペクツ」「ヘアスプレー」

今年の夏は、自分にしては結構映画を観ました。

 

シン・ゴジラ

中盤ぐらいまでのスピード感。はったりのかまし方が上手いです。なんとなくハンターハンターの冨樫を思い出しました。細かい設定について、色々語りたくさせます。最高のエンターテイメントでした。

 

君の名は。

いまいちルールを掴めなくて、入り込めなかったかも。携帯に書いていた日記が消えていくとか、ちょっと辞めて欲しい。自分が主人公の友達だったら「こいつは統合失調症だな」で終わってしまいそう。

 

ユージュアル・サスペクツ

DVDで観ました。最後のどんでん返し、巻き戻さないと分からなかったです。理解力のなさが恥ずかしい。

 

◆ヘアスプレー

主人公もジョントラボルタも良い味出してます。ストーリーは荒いのに、人種差別という重いテーマを絡めるアンバランスさがすごい。

 

 

科研費書いてる

今月から学振PDに肩書が変わり、科研費の申請資格をゲットしました。

 

あと残りの1年半は学振PDのお金が使えますが、その後のこと考えると科研費を取っておいて損はないので、申請することに。

昔は、PDには科研費の申請資格はなかったみたいですが、平成26年度から申請可能になったそうな。ただ一応、学振PDの研究に対して6割以上のエフォートを割かなければならないみたいです(参考:日本学術振興会特別研究員(PD)の科研費応募に関する 重複制限の緩和について)。

他の人の科研費の分担者になるのもOKみたい。なので、今回はうちのボスの分担者にも名前を入れてもらいました。ただエフォートは5%。

 

申請書の書き方については、色んな情報がネット上にあふれているし、本屋に行っても多くの関連書籍があります。とりあえずネットを探索して、本屋で30分近く立ち読みしてきました。ネットの情報ではここ科研費.com)がかなり参考になりました。実際の申請書のリンクがあったり、実用的です。

 

書こうと思ってから実際に書き始めるまで、1週間かかってしまいました。ここが一番もったいなかった。書いてみると、意外と考えがまとまってきて面白かったです。現実的に達成できる計画かどうかはさておき、夢を膨らませるのは楽しいです。一通りの作成は済みましたが、まだウリが何か分からない、ぼやけた感じ。学内締め切り10/24(月)の午後4時までに修正が間に合うか…。

論文のメモ: NGS解析を想定したRNAの固定・抽出方法

 「非モデル生物におけるRNA単離ガイド

Gayral P., Weinert L., Chiari Y., Tsagkogeorga G., Ballenghien M., and Galtier N., 2011, Next‐generation sequencing of transcriptomes: a guide to RNA isolation in nonmodel animals, Mol. Ecol. Resour., 11 (4), 650-661.

以前ざざっと読んだ論文。必要に迫られて精読しました。

全39種の生物を対象に、いくつかのRNAの固定法・抽出法を試しています。ただ全然系統的に実験してはいません。蓄積したデータをまとめたという感じ。

抽出法は、カラムベースのものとフェロールクロロホルム法、そして両者の混合法。カラムは純度高いけど収量低い。フェノクロはその逆。以前読み落としていましたが、昆虫では(と言っても蝶・蛾・蟻しかそもそも試してない)、カラムでの収量がガタ落ちするそうです。なので昆虫はフェノクロをお勧めしてます。似た話はVidal-Dorschら(2016)も書いてました。

 

 

 「次世代シーケンシングのための カイアシからの高品質RNA抽出法

Asai S., Ianora A., Lauritano C., Lindeque P.K., and Carotenuto Y., 2015, High-quality RNA extraction from copepods for Next Generation Sequencing: a comparative study, Mar. Genomics, 24, 115-118.

簡易な技術報告。

カイアシのRNAの保存方法(液体窒素+TRIZol or RNA later)と抽出方法(TRIZol or カラム)を検討したもの。方法の良しあしはRNA量、純度、分解度(ゲル泳動 or Bioanalyzer)で判断。TRIZolで保存するとなぜか分解してしまうそうな。ただRNAlaterで保存+TRIZolで抽出はやってない。

 

 

 「クモのRNA保存法がde novoトランスクリプトームアセンブリに与える影響

Kono N., Nakamura H., Ito Y., Tomita M., and Arakawa K., 2015, Evaluation of the impact of RNA preservation methods of spiders for de novo transcriptome assembly, Mol. Ecol. Resour., 16, 662-672. 

クモのRNAseq。de novoアセンブリをする際に、色んな溶媒(エタノール、RNAlater、TRIZol)、色んな温度(-80℃~室温)、生物の破砕の有無、の影響を調べたもの。

結論は、RIN>6以上ならば、発現変動遺伝子の数やCEGMA(真核生物に保存されている遺伝子?)割合には大きな影響はないというものでした。そしてRINに最も影響するのは保存温度で、-20℃以下ならRIN>6は達成できたそうです。150bpペアエンドで2,000万リード読めばCEGMA completenessは80%以上になってます。

著者らの研究室HPに、論文の解説があります。

 

論文のメモ: 底質環境における金属の毒性 ~bioaccumulationとの関連~

底生生物への金属の毒性と、bioaccumulationとの関連。粒子態の金属の寄与、dietary exposure routesの寄与をどう考えるか、そのへんの問題に対するヒントを探る目的で読んでみました。

 

 「水生無脊椎動物における金属の毒性・摂取・蓄積―甲殻類における亜鉛

Rainbow P.S. and Luoma S.N., 2011, Metal toxicity, uptake and bioaccumulation in aquatic invertebrates—modelling zinc in crustaceans, Aquatic Toxicol., 105 (3), 455-465.

この人たち総説をいっぱい出していてどれを読めばよいか迷いましたが、とりあえず新しめのを選択。

毒性を考えるときには、体内に蓄積された亜鉛の全量より、"metabolically available fraction"を指標にした方が良いという話。ヨコエビの場合、亜鉛はventral caecaのリソソームにリン酸亜鉛として無害化されて蓄積されるのだ、とかなり詳しく書かれているのが面白かったです。亜鉛は必須元素なので、どの程度までは必須なのかを推定している議論も、詳しくは追えてませんが、なるほどと思わされた。

環境基準の設定とか広い視点での応用(?)を考える感じではなく、メカニズム探求的。また、蓄積と毒性影響との関係がメインの論文ですが、個人的には、環境中濃度と生物への影響との関係について、もう少し議論が欲しかったです。

 

 

 「堆積物職者の非致死影響の予測における細胞内の金属分配と動態との重要性

Campana O., Taylor A.M., Blasco J., Maher W.A., and Simpson S.L., 2015, Importance of subcellular metal partitioning and kinetics to predicting sublethal effects of copper in two deposit-feeding organisms, Environ. Sci. Technol., 49(3), 1806-1814.

二枚貝ヨコエビとにおける、銅のaccumulationを調べた論文。accumulationは、単純な総量ではなく"Metabolically available fraction (MAF)"と"Biologically detoxified metal (BDM)"という画分を調べてます。基本的には遠心分離によって分画。

ヨコエビ二枚貝では、重金属摂取の戦略が全然違う。ヨコエビは取り込んだ金属の多くを排出してしまうのであまり蓄積しない。一方、二枚貝は取り込んだ金属の多く(60%と推定)を 無害化して貯蓄する。ここまでは既往研究での推測と一致してます(上の総説でも似たような話があります)。

この論文のメインは、その先のFig.3。ヨコエビ二枚貝の戦略は大きく違うのに、体内のMAF濃度は同程度。なのでMAFをベースにしてEC50を計算すると、両種で同程度の値になるといいます。それでMAFは(生物種によらず)毒性の良い指標になるんではないか、という論旨だと思いますが、なんせ2種(の各1種のendpoint)だけの比較なのでちょっと弱いかな。でもまあ面白かったです。 

底質中Cu濃度が毒性の指標になるかどうか、この論文では言及されてなかったので、Supporting Informationの値を使って簡単に図示してみました(下図, 赤色が論文中に示されているもの)。単純に毒性の指標になるかどうか、という意味で言えば、別にMAFでなくても粒子中Cu濃度で良さそうです。そういう点でもちょっと弱い。 

 

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図:ヨコエビの場合

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図:二枚貝の場合

論文のメモ: 底質試験における細粒分の影響

底質試験はふつうの水系の毒性試験に比べて交絡因子が多くなりがちです。細粒分含有率もそのひとつ。 似たような話はこのへんにも。

 

カイミジンコを用いた底質試験における細粒分の影響

Casado-Martinez M.C., Burga-Pérez K.F., Bebon R., Férard J.F., Vermeirssen E.L., and Werner I., 2016, The sediment-contact test using the ostracod Heterocypris incongruens: Effect of fine sediments and determination of toxicity thresholds, Chemosphere, 151, 220-224.

図1つ、表2つのshort communication。底質試験のconfounding factorになりがちな細粒分含有率に対する、カイミジンコの応答を調べた研究。

砂とカオリンを混合した人工底質と、きれいな環境底質で6日間の生存試験を実施。体長と致死がエンドポイント。細粒分が多いほど、体長が阻害されるという結果。(致死は細粒分との明確な関連見られず。)

環境底質だと細粒分が多いほど汚染物質も吸着してるから、そのconfounding factorじゃないの?という話になりますが、人工底質ではその説明は通じにくいです。そこで筆者らが言うのは、カオリンを食べたことで餌の藻類を食べなくなったからではないかという説。なんじゃそりゃ。粒径分布ごとの有機含有量とか濁度(カオリンによる物理的な鰓づまりを調べる)とか、他にもいろいろ調べていくと面白そう。

 

「汽水産ヨコエビL. plumulosusを用いた慢性底質試験の開発

Emery V.L., Moore D.W., Gray B.R., Duke B.M., Gibson A.B., Wright R.B. and Farrar, J.D., 1997, Development of a chronic sublethal sediment bioassay using the estuarine amphipod Leptocheirus plumulosus (Shoemaker), Environ. Toxicol. Chem., 16(9), 1912-1920.

あまりちゃんと読んでません。上の論文で引用されてました。

きれいな環境底質にカオリンか砂を混ぜてヨコエビL. plumulosusの28日間試験を実施。カオリンが多いとやはり死んでしまう様子。窒息が原因か。砂が多すぎると疲れるからか、生存率・繁殖ともに良くないみたい。