備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: トキシコゲノミクスのデータベースを生態毒性学に活用した例

トキシコゲノミクス(toxicogenomics)は、トキシコロジー(toxicology, 毒性学)とゲノミクス(genomics, ゲノム学)をあわせた言葉で、遺伝子の変異や発現変動を網羅的に見ることで生体内で生じる毒性影響のメカニズムを理解しようという学問です。

Comparative Toxicogenomics Database (CTD) なるデータベースが、化学物質と関連する遺伝子およびパスウェイ・疾患のリストをまとめています。CTDはヒトやマウスだけでなく、色んな生物種を網羅しているので、生態毒性学にも活用できそうです。

 

 

「Comparative Toxicogenomics Database

Davis A.P., Grondin C.J., Johnson R.J., Sciaky D., King B.L., McMorran R., Wiegers J., Wiegers T.C., and Mattingly C.J., 2017, The comparative toxicogenomics database: update 2017. Nucleic Acids Res., 45 (D1), D972-D978.

2017年のupdate版。

データはここで公開されています。ほぼ毎月updateされている模様。「Download」からcsvファイル等をダウンロードすれば、大規模データの解析もできます。

 

 

「環境中で採取した非モデル生物をシステムレベルで理解したい

Williams T.D., Turan N., Diab A.M., Wu H., Mackenzie C., Bartie K.L., Hrydziuszko O., Lyons B.P., Stentiford G.D., Herbert J.M., Abraham J.K., Katsiadaki I., Leaver M.J., Taggart J.B., George S.G., Viant M.R., Chipman K.J., and Falciani F., 2011, Towards a system level understanding of non-model organisms sampled from the environment: a network biology approach. PLoS Comput Biol, 7 (8), e1002126.

 7地点から採ってきたヒラメのメタボロームとトランスクリプトーム(+αでバイオマーカーなど)を調べて、各地点の有害物質汚染との関連を考察した論文。

大昔に読んだときは理解できなかった部分がとても面白かったです。各地点で発現した遺伝子が一般にどのような化学物質によって引き起こされるかを、CTDで検索してます(表2)。MeV (Multiple experiment Viewer) を使って解析している様子。でも表2の導き方がいまいち分からない。Enrichment解析をしているが…。

このCTDによる検索の結果は必ずしも正しくない、ということもDiscussionで少し述べられてます。例えばCTDで「煙草の煙」が示唆されても、単純にAhR inducerかもしれない、とのこと。

 

「生物影響と汚染物質の関連付けをおこなう事前知識ベースの手法

Schroeder A.L., Martinović-Weigelt D., Ankley G.T., Lee K.E., Garcia-Reyero N., Perkins E.J., Schoenfuss H.L., and Villeneuve D.L., 2017, Prior knowledge-based approach for associating contaminants with biological effects: A case study in the St. Croix River basin, MN, WI, USA, Environ. Pollut., 221, 427-436. 

USEPA・USGSあたりのお仕事。既にここまでやられているとは…、ちょっと落胆。

下水処理施設の上流・下流の河川水を採取して、大規模な化学分析とファットヘッドミノーの遺伝子発現解析を実施しています。研究の構成はFig. 1に示されています。

自分の理解不十分なのか、ネットワークモデルを構築する意義が良く分からない。結局、1つの化学物質に対してCTD曰く関連のある遺伝子XXX個のうち、実際に発現変動した遺伝子がYYY個あって、その変動が有意かどうか、フィッシャーの正確率検定のようなもので判断しているだけでは?面白かったけれど、理解不十分。また読む必要あり。データ解析法の元ネタ論文(Catlett et al., 2013, BMC Bioinforma)を読んだ方が良いかな?

この研究のようなデータベースをもとにおこなう解析は、(まあ当然ではあるけど)研究の盛んな物質を重視する傾向があることもdiscussionで指摘されてます。

 

 

Szklarczyk D., Santos A., von Mering C., Jensen L.J., Bork P., and Kuhn M., 2015, STITCH 5: augmenting protein–chemical interaction networks with tissue and affinity data, Nucleic Acids Res., 44 (D1), D380-D384.

CTDと似たようなデータベース。STITCHはCTDからもデータを収集しているようです。とりあえずメモとして。

 

右下腹部の違和感の原因

右下腹部に鈍い違和感。走った後に脇腹が痛くなる感覚に似ているが、それよりも軽い痛み。

 

一度目は3か月くらい前。その時は、特に何もせず、4日間くらいで収まりました。

次は1週間くらい続いたので、お医者さんに診てもらいました。血液検査に尿検査、そしてCTスキャンまでやりました。

 

痛みの場所からして、盲腸もしくは尿管結石が疑われましたが…。

結局そのどちらでもなかったみたいです。血液中の白血球数(WBC)などから、炎症が起こってないので、まあ大丈夫だろうと。CTスキャンでも特に異常が見られませんでした。

 

では何が起きてたのかと言うと、ただ「大腸にガスが溜まっていた」みたいです。CTスキャンで見ると、痛みの場所が黒くなっており、ガスが溜まってることが分かりました。

その当時の生活から推測すると、たぶん座り過ぎがガス溜まりの原因でしょう。論文書きなどで長時間椅子に座りっぱなしで動かなかったので…。お医者さんに行ってから、1時間に1回ほどは席を立って動くようにしたところ、違和感はなくなりました。

しかし、こんな簡単なことが原因だとは思わなかったです。大したことない症状で医者に行ってちょっと恥ずかしい…。

リアルタイムPCRで発現量比の差を解析する統計的手法

リアルタイムPCRで発現解析時の統計手法

遺伝子Aの発現量が条件αと条件βで変わらないかどうか、リアルタイムPCRで調べたい。そんなときの話です。

複数のハウスキーピング遺伝子のCt値(あるいはCp値)と遺伝子AのCt値との差(=ΔCt)を条件α・βごとに求めて、さらに各条件でのΔCtの差(=ΔΔCt)を求める。ΔΔCtが0なら条件間での発現量に差はない。ざっくり書くとこんな感じが一般的な方法でしょう(Livak法あるいはPfaffl法)。

 

しかし「ΔΔCtが0である」ことが統計的に有意かどうか、どのように判断するのがベストなのでしょう?

 

 

ネットで見つけた回答

似たようなことはやはり皆考えてるようで、researh gateで同じような質問が複数見つかりました。

1Which_statistical_analysis_significance_tests_must_to_be_perform_for_relative_RT-qPCR_experiments

2Does_anyone_know_how_to_determine_the_significance_of_differential_gene_expression_using_RT-qPCR_data

1では「ΔCtは正規分布するので、ΔCtに対してt検定をしろ」と言うのがpopular answerになっています。さらにBioconductorのLimmaパッケージによるmoderated t-testを薦めてます。ちなみにGoni et al. (2009) もlimmaをお薦めしてます。

2では「t検定の仮定(正規性・等分散性)を満たせばt検定を使い、仮定を満たさなければWilcoxonの順位和検定を使うか、対数変換などによって仮定を満たすようデータをいじってからt検定をするかだ」との回答がpopular answerです。

 

この2のやり方は、2段階の検定の問題がありそうです(参考:井口研究室ブログ: 正規性検定をノンパラメトリック検定の選択基準にするな*1。なので、1のようにΔCtがどのような分布をとるのか予め理屈から考えておき、それに基づき統計手法を選択するというスタンスが好ましいでしょう。

 

また、N<5の少数サンプルの場合には、正規性の検定をすること自体が正直ナンセンスな気がします。直感で書いているので、特に根拠はないですが…。

 

 

どのような確率分布を仮定すべきか

では、1の言う「ΔCtは正規分布に従う」説は正しいのか。

自信はないですが、それなりに妥当だと思います。遺伝子の発現量はたぶん対数正規分布に従い、またcDNA濃度の対数とCt値は線形関係です。なので、Ct値は正規分布でしょう。正規分布の差は正規分布なので、ΔCtも正規分布に従うはずです。

ただ、サンプルや対象遺伝子の性質によっては正規分布の仮定を置くのが妥当ではないかもしれません。Tichopad et al. (2009, Clinical Chem, 55:10) がDiscussionで同様のことを述べてます。いわく"Cq values obtained with samples of solid tissues are commonly assumed to be normally distributed, but to our knowledge, the validity of this assumption has yet to be demonstrated"とのこと。もっとも最新の知見では、より明確なことが分かってるかも。

正規分布に従うと仮定できるなら、ΔCtの差をt検定やANOVAで調べるのも妥当ですね。ただどういう場合にその仮定が妥当なのか、それが良く分からない。繰り返しますが、別に自信を持って書いているわけではないです…。詳しい人が見てましたら、ぜひ教えてください…。

 

(追記 2018.10.22) 

読み返してみて気付きましたが、ΔCtに対するt検定は増幅効率の異なるPCR産物には適用できませんね。この場合、Pfaffl法で相対発現量に変換してから検定をおこなうのが妥当でしょうか。

 

 

実験操作のばらつきを考慮したモデルで解析できないか?

ここからは、考えがまとまっていないつぶやき。

もう一歩進んで、抽出・逆転写・PCRなど実験操作による誤差も考慮したうえで有意差の検定をできないものでしょうか。下の論文での線形回帰モデルは、それに近いんですが、ΔΔCt法と絡める方法はちょっと思いつかない。特に複数のreference genesのΔCtをもとに標準化する場合。

Tichopad A., Kitchen R., Riedmaier I., Becker C., Ståhlberg A., and Kubista M., 2009, Design and optimization of reverse-transcription quantitative PCR experiments, Clinical Chem., 55 (10), 1816-1823.

 

 

*1:もっと言うと、「少数サンプルの時はWilcoxonを使うと良い」との記述は良く分からない。少数サンプルでノンパラ検定をおこなうと検出力がかなり低くなるはず。少数サンプルはそういうもんだという意味なのか…? また等分散の仮定はWelchのt検定なら不要?

論文のメモ: 28S rRNAのhidden breakについて

一部の生物種は、28S rRNAの真ん中あたりに切れ目が入っていることをこの記事に書きました。その切れ目はhidden breakと呼ばれ、28S rRNAが分裂するときに一部の塩基が消失することはgap deletionと呼ばれているみたいです。

今回は、hidden breakについて少し文献を読んだので、ここにまとめます。

 

 

ハダカデバネズミは分裂する28S rRNAを持ち、正確なタンパク翻訳をおこなう

Azpurua J., Ke Z., Chen I.X., Zhang Q., Ermolenko D.N., Zhang Z.D., Gorbunova V., and Seluanov A., 2013, Naked mole-rat has increased translational fidelity compared with the mouse, as well as a unique 28S ribosomal RNA cleavage, PNAS, 110 (43), 17350-17355.

なんとなく、すごく読みやすかった論文。

28S rRNAにhidden breakがあると報告されている生物種は、昆虫や甲殻類が多いみたいですが、ハダカデバネズミにもhidden breakがあるようです。28S rRNAの分裂はリボソームの構造に影響するので、タンパクの合成速度と忠実度(fidelity)も影響を受けるだろうと仮説を立てて、ハダカデバネズミの翻訳速度とfidelityをhidden breakがないマウスのそれと比較しています。

結果、翻訳速度はマウスと同じだったけど、ルシフェラーゼアッセイで測定した翻訳のfidelityはマウスよりも高かったそうな。Hidden breakの存在とfidelityとの関係は直接調べたわけではないのでそのあたりは強引な論文ですが、ハダカデバネズミを用いてる点がPNASに載る所以でしょうか…。

 

「哺乳類の28S rRNAにおける新規のプロセッシング

Melen G.J., Pesce C.G., Rossi M.S., and Kornblihtt A.R., 1999, Novel processing in a mammalian nuclear 28S pre‐rRNA: tissue‐specific elimination of an ‘intron’bearing a hidden break site, EMBO J, 18 (11), 3107-3118.

上の論文で引用されてた、哺乳類でも28S rRNAのhidden breakが見つかった例。今のところ哺乳類でhidden breakが見つかったのは、上の論文のハダカデバネズミとこの齧歯類だけみたいです。

面白いのが、睾丸testisのみでhidden breakのない28S rRNAも見つかっている点。他の部位ではイントロン?のところでhidden breakが生じるのに対して、testisではイントロンが除去されてhidden breakが生じない、ということ。そのあたりのメカニズムは良く分かってないみたいです。

 

アルテミアプラナリアの28S rRNAにおけるgap region

Sun S., Xie H., Sun Y., Song J., and Li Z., 2012, Molecular characterization of gap region in 28S rRNA molecules in brine shrimp Artemia parthenogenetica and planarian Dugesia japonica, Biochem, 77 (4), 411.

上に書いた哺乳類ではD6領域にhidden breakがありますが、他の昆虫や甲殻類ではD7a領域にhidden breakがあるそうです。

この論文は、2生物種のD7a領域のgap region近くをシーケンスしたものです。Terminal deoxynucleotidyl transferaseでcDNAの3末端にpolyG配列を付与して、その配列をもとに28S rRNAの片割れを読む手法など参考になりそう。

28S rRNAのD7a領域内のUAAUという配列が、hidden breakを持つ種に共通しているという知見があったけれど、この論文で調べたアルテミアにはUAAU配列は存在しなかったそうです。

 

シロイヌナズナ葉緑体23S rRNAのhidden break形成にはDEAD box proteinが必要

Nishimura K., Ashida H., Ogawa T., and Yokota A., 2010, A DEAD box protein is required for formation of a hidden break in Arabidopsis chloroplast 23S rRNA, Plant J, 63(5), 766-777.

今度は植物の葉緑体。28Sではなく23S。詳しくは読んでません。後で追記するかも。hidden breakのメカニズムについて。

 

 「トビケラの絹糸腺リボソームのキャラクタリゼーション」

Nomura T., Ito M., Kanamori M., Shigeno Y., Uchiumi T., Arai R., Tsukada M., Hirabayashi K., and Ohkawa K., 2016, Characterization of silk gland ribosomes from a bivoltine caddisfly, Stenopsyche marmorata: translational suppression of a silk protein in cold conditions, Biochem. Biophys. Res. Commun., 469 (2), 210-215.

こちらもメモ。

トビケラの28S rRNAもD7a領域にhidden breakがあるみたいです。面白いのが、冬にだけ80Sリボソームが分裂してしまうこと。冬は転写活性を抑えるために28S rRNAのhidden breakが発生するのではないか、と考察されてます。

あと、hidden breakとL23a proteinが関係しているかも、という話も始めて知りました。

(追記 2018.02.03)

L23a proteinとhidden breakについて。元ネタのRoss et al. (2007, Nucl Acids Res, 35) をざっと読みましたが、L23aがhidden breakを引き起こしている、というレベルの知見ではなさそう。L23aとリボソームの位置関係と、Hidden breakを持つ昆虫などがL23aに特徴的なドメイン(Histon H1-like domain)を持っていたという系統関係とをもとに考察されただけ? 上のNishimura et al. (2016) ほど因果関係を詰めているわけではない。

 

(追記 2018.06.12)

「菌類における26S rRNAの転写後marurationの同定

Navarro-Ródenas A., Carra A., and Morte A., 2018, Identification of an alternative rRNA post-transcriptional maturation of 26S rRNA in the kingdom fungi, Frontiers  Microbiol, 9.

菌類でhidden breakが見つかったよ、という報告。Desert truffles(砂漠のトリュフ?)の3種で26S rRNAのhidden break周りの塩基配列を読んでいます。

 

論文のメモ: RT-PCRを始めるにあたって読みたい文献

リアルタイムPCRを用いた遺伝子発現解析の原理、実験手法やデータ解析法について。

いちばん分かりやすく丁寧なのは、タカラサーモの日本語解説でしょう。特にサーモの「リアルタイムPCRハンドブック」は最高。それらを読んだ後に、将来論文に引用することを想定して読むべき文献は、下のようなものでしょうか。

  

 

全般的なことについて
Bustin S.A., Benes V., Garson J.A., Hellemans J., Huggett J., Kubista M., Mueller R., Nolan T., Pfaffl M.W., Shipley G.L., Vandesompele J., and Wittwer C.T., 2009, The MIQE guidelines: minimum information for publication of quantitative real-time PCR experiments, Clinical Chem., 55 (4), 611-622.

論文など公表するときに記載するべきことのリスト。MIQEガイドライン。公表する際のチェックリストですが、実験を始めるときにこれが頭に入ってると良いでしょう。

例えば、逆転写活性の阻害・PCRの阻害をチェックすべし、というのが必須項目に挙げられてますが、ちゃんと実施している論文は結構少ないかも。

 

 

実験手法について
Nolan T., Hands R.E., and Bustin S.A., 2006, Quantification of mRNA using real-time RT-PCR, Nature Protocols, 1 (3), 1559-1582.

Nature ProtocolのRT-PCR法まとめ。データ解析法は詳しくないですが、実験手法は一通り詳しく書いてます。

 

Taylor S., Wakem M., Dijkman G., Alsarraj M., and Nguyen M., 2010, A practical approach to RT-qPCR—publishing data that conform to the MIQE guidelines. Methods, 50 (4), S1-S5.

MIQEガイドラインに則った実験手法まとめ。

 

 

リファレンス遺伝子の選択について

遺伝子発現解析は、ハウスキーピング遺伝子群(リファレンス遺伝子)とターゲット遺伝子との発現量の相対比較でおこなうのが主流です。そのリファレンス遺伝子として18S rRNAやβアクチン、GAPDHなどがよく使われていますが、これらの発現量は条件によって変動することが広く知られています。なので、実験系によってリファレンス遺伝子を選び直すステップが必要になります。

では、どのようにしてベストなリファレンス遺伝子を選ぶのが良いのでしょうか。いくつかの方法が提案されています。BestKeeper、NormFinder、geNORMの3つを下に記しておきます。

  

Pfaffl M.W., Tichopad A., Prgomet C., and Neuvians T.P., 2004, Determination of stable housekeeping genes, differentially regulated target genes and sample integrity: BestKeeper–Excel-based tool using pair-wise correlations, Biotechnol. Letters, 26 (6), 509-515.

BestKeeper。Excelファイルがwebで配布されてます。

リファレンス遺伝子の選択方法はきわめて単純で、基本的に (i) Cp値のばらつきが小さく、(ii) 全部の候補リファレンス遺伝子のCp値の幾何平均と高い相関を示すような遺伝子を、安定的なリファレンスとして選択するというものです。

  

Andersen C.L., Jensen J.L., and Ørntoft T.F., 2004, Normalization of real-time quantitative reverse transcription-PCR data: a model-based variance estimation approach to identify genes suited for normalization, applied to bladder and colon cancer data sets, Cancer Res., 64 (15), 5245-5250.

次にNormFinder。ExcelのアドインとRスクリプトが公開されてます。 

 

Vandesompele J., De Preter K., Pattyn F., Poppe B., Van Roy N., De Paepe A., and Speleman F., 2002, Accurate normalization of real-time quantitative RT-PCR data by geometric averaging of multiple internal control genes, Genome Biol., 3 (7), research0034-1.

ソフトウェアgeNORMの元論文。geNORMは有料なので、自分は使っていませんが、そのアルゴリズムは論文を読めばわかるように、割と単純です。リファレンスに使える遺伝子の組なら、その相対発現比はどの細胞・条件でも1に近いはず、という仮定が根底にあるんですね。

(追記)

Rパッケージの"NormqPCR"はgeNORMを装備しているみたいです。もちろん無料。

 

 

相対定量の方法について

ΔΔCt法は下の2つをチェックすべし。プライマーの増幅効率が全て2と同等ならばLivakの2-ΔΔCtを用い、増幅効率がプライマーごとに異なるならばPfafflの方法を用いる。

Pfaffl M.W., 2001, A new mathematical model for relative quantification in real-time RT–PCR, Nucleic Acids Res., 29 (9), e45-e45. 
Livak K.J. and Schmittgen T.D., 2001, Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2− ΔΔCT method, Methods, 25 (4), 402-408.  

 

 

(追記)

こちらの記事に、発現量の有意差の統計的な検定法について書きました。t検定かノンパラか、など。

論文のメモ: RINは 全ての生物種のRNA分解指標にはできない

動物組織から抽出したRNAの分解度合は、電気泳動によって評価するのが普通です。ヒトなどの場合は、バイオアナライザーという装置で泳動して RIN (RNA Integrity Number; Schroeder et al., 2006) なる指標で分解度を評価します。RINの考え方は、RNAの中で大部分を占めるrRNAの存在比(分解度合)などに基づいて、RNA全体の分解度を推定しようというものです。

ただしRINは、ヒトや哺乳類のRNAを対象とした指標であり、昆虫や甲殻類など一部の生物種には適用できない場合があります(例えば下のWinnebeck et al., 2010)。昆虫や甲殻類の28S rRNAはスプライシング後に"gap deletion"なる現象によって切れ目を入れられて、RNA抽出や泳動前の熱変性の際に2つの断片に分かれてしまいます。そのため本当はRNAが分解していなくとも、28S rRNAが見られないために分解されたとみなされてしまうのです。

 

 

「RIN: RNA非分解度の指標

Schroeder A., Mueller O., Stocker S., Salowsky R., Leiber M., Gassmann M., Lightfoot S., Menzel W., Granzow M., and Ragg T., 2006, The RIN: an RNA integrity number for assigning integrity values to RNA measurements, BMC Mol. Biol., 7 (1), 3.

RNA分解度の評価としてRINを提案した論文。18S rRNAと28S rRNAの量比という指標では分解度を正確に表現できていないという問題を克服するために、RINが開発されたようです。

主にヒト・マウ・ラットのRNAサンプル1208個の波形データを専門家が1~10の分解レベルにカテゴリー分けし、そのカテゴリー分けはどのような特徴量(例:28Sと18Sのピーク高さ比)によってなされているのかをニューラルネットワークを用いて計算しています。ちなみにRINは数字が小さいほど(すなわち1に近いほど)、RNAが分解していることを示します。

ニューラルネットワークの詳細は分かりませんが(というかもはや読んでない)、カテゴリー分けに対する寄与の大きかった特徴量は、順にtotal RNA 比・28Sピーク高さ・28S 面積・fast regionに対する18Sと28S の面積比だそうです。total RNA比とは全RNAに対する18S・28S rRNAの面積比であり、fast regionとは5S と18Sに挟まれた領域のことです。このあたりの特徴量の説明は、Wikipediaにも簡単に書いてありますね。 

 

「なぜ昆虫のRNAは分解して見えるのか?

Winnebeck E.C., Millar C.D., and Warman G.R., 2010, Why does insect RNA look degraded?, J. Insect Sci., 10 (159), 1-7.

ミツバチのRNAでRINを測ろうとして、プロトコル通りにRNAを加熱してBioanalyzerに流すと28S rRNAが見えない。RNAが分解したのかと思いきや、そうではない。gap deletion (hidden break) のために28S rRNAが断裂しただけである。なので、RNAは加熱しないで流す。そうすると28S rRNAのピークが確認できるよ、気をつけよう。そんな論文です。 

28S rRNAが断裂するメカニズムについても、既往文献を引用して、まとめられています。

 

節足動物における"分解したRNA"プロファイル

McCarthy S.D., Dugon M.M., and Power A.M., 2015, ‘Degraded’RNA profiles in Arthropoda and beyond, Peer J, 3, e1436.

クモやムカデ・フジツボ類も、28S rRNAは加熱すると分裂するという話。加熱しないで泳動すれば28S rRNAピークも見られると、Winnebeck et al., 2010, J. Insect Sci.と同じようなことを書いています。

 

ただ自分の経験によると、これはヨコエビには適用できないっぽいです。ヨコエビRNAは、加熱しなくても28S rRNA分裂が生じます。同様の報告はVidal-Dorsch et al. (2016) もしています*1

例えば下の図は、あるヨコエビのtotal RNA泳動図です。Bioanalyzerでの泳動前に加熱してませんが、28S rRNAピークは小さくなってしまいます。

f:id:Kyoshiro1225:20170425105708j:plain

 

なぜこのように生物種によって28S rRNAの切れやすさに違いが生じるのでしょうか。たぶんですが、28S rRNAの配列が異なると二次構造も変化してhidden breakの水素結合部分の強さが変わるからでしょう。

 非モデル生物を扱うときは、本当に予想外のことが生じますね。

 

*1:著者のDorisさんにメールしたら、Bioanalyzer前に加熱はしてないとのことでした。

生物サンプルの送付依頼

1月ほど前、某国の研究者から遺伝子解析したいので生物サンプル送ってくれないか、という問い合わせメールが来ました。

良いよ~、でもCOI領域なら既に300 bpくらい既に読んであるので配列データ送るね、と返信したところ、1月ほど音沙汰なし。

自分とは異なる研究分野なので、連携出来たら面白いかと思ったけど、まあいっか。こちらからアクションを起こしてまで連携しようという気はないです。

論文のメモ: 化学物質曝露と甲殻類の脱皮

この記事とほぼ同じ内容。

どうも、ZnやCdが脱皮を阻害する発端のメカニズムはCa摂取阻害で説明できそう。Caは殻の材料でもあるし、またCaは脱皮を制御するecdysteroidホルモンをコントロールしているので。

 

 

「総説:異物曝露が甲殻類の脱皮に与える影響

Zou E., 2005, Impacts of Xenobiotics on Crustacean Molting: The Invisible Endocrine Disruption, Integ. Comp. Biol., 45 (1), 33-38.

主にPCBなどの有機物による脱皮阻害についての総説。曝露によってキチン分解にかかわるChitobiaseの活性が低下する原因は、Y器官のecdysteroid receptor EcRが攪乱されるためではないかとのこと(Chitobiaseはecdysteroidによって制御されている)。

 

「総説:甲殻類の脱皮の制御

Chang E.S. and Mykles D.L., 2011, Regulation of crustacean molting: a review and our perspectives, General Comp. Endocrinol., 172 (3), 323-330.

MIH(molt-inhibiting hormone)がエクジステロイド合成を制御するシグナル経路のFig. 2が良い感じ。Caがキー。

 

「総説:甲殻類Y器官におけるEcdysteroidホルモン合成のシグナル経路

Spaziani E., Mattson M.P., Wang W.L., and McDougall H.E., 1999, Signaling pathways for ecdysteroid hormone synthesis in crustacean Y-organs, Amer. Zool., 39 (3), 496-512.

上のFIg.2はMIHに絞ってますが、こちらのFig.9はecdysteroid合成経路も描かれています。分かりやすい。

H先生の最終講義

先日H先生の最終講義があって、見てきました。先生の半生記とか、学科の歴史とか、研究に対する哲学とかが聞けるかと思いきや、本当にふつうの講義みたいなのをしていました…。いちおう近年の研究の象徴的な話だったようですが、ちょっと残念でした。まあ、H先生らしいのかも。

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映画「La La Land」

公開初日に観ました。プレミアムフライデーで。

 

まあ面白かったです。でも前評判ほどではなかったかな。 

夢追い人の話。ストーリーはありきたりですが、二人がケンカしてからは、けっこう感情移入しちゃいました。ラストの切ない感じは良かったです。もし、元さやに戻るみたいな流れになったらブチ切れてました。

ミュージカルは、その世界に入り込めていないとキツい時がありますね。冒頭、渋滞で止まっている車からみんな出てきて踊りだすんですが、トラックの荷台を開けたら黒人が太鼓たたきながら踊りに参加してきたシーンは思わず笑ってしまいました。荷台で何やってたんだ。あと、プラネタリウムで浮き上がるシーンも。

軽くdisられてたJohn Legendのバンド。普通にカッコ良かったです。

 

Ost: La La Land

Ost: La La Land