備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 遺伝子ネットワーク推定とAOP

マイクロアレイやRNA-seqのデータから遺伝子間の関係(ネットワーク)を推定し、有害物質によって引き起こされる悪影響adverse outcomesのメカニズムを明らかにしようという研究について。

 

「システム生物学アプローチによってNarcosisのCa依存メカニズムを解明する

Antczak P, White TA, Giri A, Michelangeli F, Viant MR, Cronin MT, Vulpe C, Falciani F, 2015, Systems biology approach reveals a calcium-dependent mechanism for basal toxicity in Daphnia magna, Environ Sci Technol, 49(18), 11132-11140.

昔2回ほど簡単に読んだけど、頭に残ってなかったので精読し直しました。

Narcosis(Basal toxicity)のメカニズムをシステム生物学的なアプローチで明らかにしたよ、という論文。疎水性の物質ほど毒性が大きい、それは疎水性物質ほど細胞膜のintegrityを阻害しやすいから、ということまで既存研究で分かっていたけれど、より詳細なメカニズムまでは明らかになっていなかったそうです。この論文は、2013年ESTのDaphnia magnaトランスクリプトーム解析論文のマイクロアレイデータ(26種の有機物質に24h曝露)用いて、曝露物質のlogKowと遺伝子発現、曝露物質の物性との関係を調べることによって、その詳細なメカニズム理解に迫ったものです。細胞膜でのCa輸送阻害がnarcosisのMolecular Initiating Event(MIE)ではないか、というのが結論。

Ca関係のpathwayが怪しいと見做すきっかけになった結果は、logKowと発現データの相関(Significance Analysis for Microarrays; SAM, Table S6)?色々やっているけど、肝心の結果の記述はあっさりしてます。Ca阻害がMIEだという仮説の検証のため複数の追加実験をおこなっていて、投げっぱなしでないのは好感が持てます。

イントロ読んだ時は、全自動的なデータ解析でAOP(Adverse Outcome Pathway)を構築するのかと思ったけど、意外と泥臭いことやってました。

 

AOPリバースエンジニアリング

Perkins EJ, Chipman JK, Edwards S, Habib T, Falciani F, Taylor R, Aggelen GV, Vulpe C, Antczak P, Loguinov A. 2011. Reverse engineering adverse outcome pathways. Environ Toxicol Chem 30(1): 22-38.

上の論文は、この総説?を先に読んだ方が理解しやすいかも。Ankleyら(2009, Aquatic Toxicology)のファットヘッドミノーのマイクロアレイデータを用いて、ネットワーク解析をおこなった論文。RのminetパッケージとSoftware Environment for Biological Network Inference(SEBINI)を使って、ARACNeとCLRで解析。

上のAntczakら(2015)もそうだけど、遺伝子発現データだけでなくadverse outcome(AO)データ自身もネットワークに組み込んでいるのが面白い。この論文では、繁殖能低下の代わりにtestosteronレベルをAOとしてます。AOと関連の深いpathwayを探索するという目的に適している方法だと思います。

データ解析の結果を一人歩きさせないよう述べた次の文は大事。"these results must be evaluated by both leveraging preexisting knowledge of the biological system and targeting follow-up experiment to explicitly test the hypothesis generated."

 

 

論文のメモ: 水生生物の体内に蓄積した金属の細胞内局在と毒性影響との関係

このへんの論文と関係ある話。体内の全蓄積量よりも、解毒された量を除いた画分の量の方が、毒性影響に関係しているのではないかという話。

 

二枚貝におけるCd・Znの細胞内局在:MSFとBDMの重要性

Wallace WG, Lee BG, Luoma SN. 2003. Subcellular compartmentalization of Cd and Zn in two bivalves. I. Significance of metal-sensitive fractions (MSF) and biologically detoxified metal (BDM). Marine Ecol Prog Ser 249, 183-197. 

この分野で古典になっている論文。体内金属の分画手法が多く引用されてます。オルガネラとheat denaturable protein(下図のNon-MTLP)の合計であるMSF(metal-sensitive fraction)が、毒性を引き起こす金属画分として挙げられているけど、その画分が毒性とリンクしていることの証拠は特にこの論文にはない。もっと遡る必要あり。

f:id:Kyoshiro1225:20171007175945p:plain

 

「オオミジンコの細胞内亜鉛分布とその毒性への関連

Wang WX,  Guan R. 2010. Subcellular distribution of zinc in Daphnia magna and implication for toxicity. Environ Toxicol Chem, 29 (8), 1841-1848.

オオミジンコの亜鉛MSFを測定し、48h急性致死との関係を調べた論文。亜鉛の曝露濃度を増してもMSFはきれいに増えない。むしろcelluar debris画分(細胞膜など)が曝露濃度に対応して増える。この論文では、MSFはオオミジンコの急性毒性の指標にはならない、と結論づけてますが、cellular debrisが毒性の指標になるかも、という方向性は考えられないのかな。あと、甲殻類の場合、殻に含まれる画分はどこに分類されるんでしょう?元ネタのWallaceら(2003)は二枚貝だし…。あと急性毒性は、解毒とかほとんど関係なさそうなので細胞内局在を指標にすることの効果は薄いのかも。

この論文は4日~14日の曝露も実施していて、その時のZnの大部分はCellular debris画分ではなく、オルガネラとメタロチオネインなどのheat-stable proteins画分に移行していました。このことから、急性と慢性では毒性のメカニズムが違うのかと思ったけど、どうなんでしょ。

  

「カキC. hongkongensis亜鉛感受性の地域差

Liu F, Rainbow PS, Wang WX. 2013. Inter-site differences of zinc susceptibility of the oyster Crassostrea hongkongensis. Aquatic Toxicol, 132, 26-33.

MSFの方が全蓄積量より、致死毒性の予測に適しているという話。けどその根拠が適切なのかは良く分からないです。MSFと致死を対数線形回帰しているけど…。

 

「2種のヨコエビにおけるCdの摂取速度と細胞内局在は致死影響を説明できるが…

Jakob L, Bedulina DS, Axenov-Gribanov DV, Ginzburg M, Shatilina ZM, Lubyaga Y A, Madyarova EV, Gurkov AN, Timofeyev MA, Pörtner HO, Sartoris FJ,  Altenburger R, Luckenbach T. 2017. Uptake kinetics and subcellular compartmentalization explain lethal but not sublethal effects of cadmium in two closely related amphipod species. Environ Sci Technol, 51, 7208-7218.

あとで読む。

精読はしてません。同属だがサイズが10倍以上異なる2種のヨコエビをCdに4週曝露させて、感受性・摂取速度・MSF蓄積量などを比較した論文。体の大きいE. verrucosusの方が感受性が低く、代謝率が低いせいかな、という話。

同じ影響レベル(LC1)の曝露時は、2種のMSF濃度がほぼ同じというCampanaら(2015)と似たような結果を示してます。

 

ヨコエビの金属細胞内局在を調べる手法の比較

Geffard A, Sartelet H, Garric J, Biagianti-Risbourg S, Delahaut L, Geffard O. 2010. Subcellular compartmentalization of cadmium, nickel, and lead in Gammarus fossarum: comparison of methods. Chemosphere 78 (7), 822-829. 

体内の細胞質基質cytosolに蓄積した金属のうち、MTLP(メタロチオネイン様タンパク質; metallothionein-like protein)とnon-MTLPに分画する手法には主に、加熱時に安定している画分をとMTLPとみなす手法と、サイズ分画する手法との2つがあります。その2つの手法を比較した論文。

手法の差は大きいという結果。例えば熱処理法ではCdのMTLP画分>non-MTLPなのに、サイズ分画法では逆転している、など。考察によると、加熱処理後にheat sensitive proteins(=non-MTLP)が金属と錯体を形成してしまうためではないかとのことです。つまり熱処理法ではnon-MTLP量を過小評価しているみたいです。

 

 

論文のメモ: 侵略的外来種なヨコエビの話

「侵略的ヨコエビになる方法:生活史形質の比較

Grabowski M, Bacela K, Konopacka A. 2007. How to be an invasive gammarid (Amphipoda: Gammaroidea)–comparison of life history traits. Hydrobiologia 590(1), 75-84.

ヨーロッパにおける旧ヨコエビ亜目を在来種・外来種に分けて、その生活史形質を比較した総説的な論文。Breeding female sizeやBrood size(一回当たりの産仔数)、繁殖期の長さなど。外来種で継続的な繁殖に成功している種は、brood sizeが大きかったりや人為汚染に対する耐性が高かったりする傾向にあるとのことです。

ただ、考察に書いてあるけど、例えばこの論文で在来種扱いだったG . pulexアイルランドでは侵略種と考えられているそうで、話はそれほど単純ではなさそう。あと、捕食(or 被食)様式はこの論文で解析の対象ではないけど、やはり重要だろうとのこと。

 

 

「非在来種ニホンドロソコエビの北米太平洋個体群における地理分布と隠蔽遺伝的多様性

Pilgrim EM, Blum MJ, Reusser DA, Lee H, Darling JA. 2013. Geographic range and structure of cryptic genetic diversity among Pacific North American populations of the non-native amphipod Grandidierella japonica. Biol Invasions 15(11), 2415-2428.

日本では在来種であるニホンドロソコエビ。人間活動によって他国へ持ち込まれ、そこでは侵略的外来種として認識されてます。ミトコンドリアCOI領域607bpを読んで、個体群の遺伝的構造を調べてます。

北米太平洋側海岸で、2つの集団に分かれているとのこと。各集団内での遺伝的多様性は低いので、ニホンドロソコエビが持ち込まれたのは数回だとみなされてます。2つの集団間の差異は異種間並みに大きいそうです。ヨコエビは隠蔽種の話をよく聞く気が…。 

 

論文のメモ: 環境毒性分野での遺伝子発現データと機械学習

マイクロアレイやRNA-seqの遺伝子発現データから、機械学習を使って情報を引き出す話。例えば、発がん性物質に曝露したデータと曝露してないデータを与えて、発がん性の有無を識別できる遺伝子(バイオマーカー)を探索する研究などがあるかと思います。昔このブログでも、SVM (Support Vector Machine) をマイクロアレイデータ解析に適用した論文を紹介しました(これ)。

 

 

「汚染物質を分別する遺伝子バイオマーカーの探索

Wei X, Ai J, Deng Y, Guan X, Johnson DR, Ang CY,  Zhang C, Perkins EJ. 2014. Identification of biomarkers that distinguish chemical contaminants based on gene expression profiles. BMC Genomics 15 (1), 248.

ラットの肝細胞 (hepatocyte) を105種の物質に24h曝露させて、マイクロアレイ解析した論文。論文の目的は、発現プロファルを基にした機械学習で105物質を14クラス(コントロール・antimicrobial・cancer-related drugs・metals・pesticides・PPCPsなど)に分けられるかどうかの検証と、クラスを分類するバイオマーカー遺伝子の探索。各物質、最低3回以上のアレイ解析をしてます。曝露濃度はLC50の半分で一定。

分類アルゴリズムは決定木・ナイーブベイズ・ロジスティック回帰・SVM・ランダムフォレストを使用、特徴選択 (feature selection) は7種試してます。この特徴選択によってモデルの正確さが大きく変わるというのが、一つの主眼っぽい*1最終的にgradientという新しい特徴選択の手法提案し、それとSVMの組み合わせで訓練・テストデータともにaccuracyは80%前後。

化学物質のクラスを分類するという目的が面白そうだったけど、細部が少し雑な感じの論文でした。

 

「ミミズのマイクロアレイデータから分類子となる遺伝子を同定する

Li Y, Wang N., Perkins EJ, Zhang C, Gong P. 2010. Identification and optimization of classifier genes from multi-class earthworm microarray dataset. PloS One 5 (10), e13715.

上の論文と著者の一部は同じ。

 TNTRDXにミミズを曝露させて、control・TNTRDXを識別できるバイオマーカーの探索を、SVMクラスタリングを通じておこなおうという論文です。

上の論文もそうだけど、統計的な手法で探し出されたマーカー遺伝子は、この論文の後に検証されているのでしょうか。投げっぱなし感が強い。まあでも、この論文は曝露を繰り返したり、濃度区も5~6つ設定しているので良心的かもしれません。

 

「土壌中金属を識別する遺伝子セットを遺伝子発現解析によって明らかにする

Nota B, Verweij RA, Molenaar D, Ylstra B, van Straalen NM, Roelofs D. 2010. Gene expression analysis reveals a gene set discriminatory to different metals in soil. Toxicol Sci 115 (1), 34-40.

トビムシ (springtail) のマイクロアレイデータから金属6種 (Ba・Cd・Co・Cr・Pb・Zn) を識別できる遺伝子セットを探した論文。非相関収縮重心法(Uncorrelated Shrunken Centroid)法なるアルゴリズムを使用。ちゃんとは読んでない。

 

ピレスロイド系殺虫剤に対するomicsベースの曝露バイオマーカーセット

Biales AD, Kostich MS, Batt AL, See MJ, Flick RW, Gordon DA, Bencic DC. 2016. Initial development of a multigene ‘omics-based exposure biomarker for pyrethroid pesticides. Aquatic Toxicol 179, 27-35.

ファットヘッドミノー (Pimephales promelas) の幼体をピレスロイド系殺虫剤4種に曝露させてアレイ解析した論文。再現性に気を配っていて、複数濃度区で曝露させたり(phase I)、同一条件曝露を3回繰り返したり(phase II)してます。Randomforestで、遺伝子発現からどの農薬曝露かを識別するモデルを作成。

実験のrunが異なると識別精度が落ちてしまうが、アレイデータのノーマライズによってある程度精度向上するという結果。Cypermethrinがテストデータの場合、特に精度が悪い。謎なのは、なぜone-vs-oneの分類器(合ってるかな?)なのかという点。4種の殺虫剤のうちどれかを当てる分類器にしないのは何故。あと殺虫剤のTypeごとに分けるとか。自分が理解できてないだけかな?

あと文章が冗長。

 

 

*1:データ解析の元ネタはPirooznia et al., 2008, BMC Genomics

第23回環境毒性学会@東洋大

参加してきました。

面白い発表もあり、自分のポスターでも多くの人と深い議論ができて充実感がありました。ただあんな成果0の発表で賞をいただいて、申し訳ないです…。最後の海洋汚染に関するシンポジウムは所要のため参加できませんでした。

 

増えすぎても困るけど、あともう少しだけプレイヤーの数が増えて欲しいです。普及活動も頑張らねば。うちの研究室の学生も誘ったけど、結局誰も参加しなかったし…。自分が今後やりたいバイオインフォ的な研究とこれまで関わってきた底質毒性の研究は、どちらもそれに従事する人を増やさないと進展しない気がしてきました。一人で研究する限界をようやく感じ始めたところです。まずは初学者に向けて日本語で論文書こうかな。

新モンスターになって欲しかった人 @フリスタダンジョン

フリースタイルダンジョン。2代目モンスターがようやく全員発表されましたね。

 

2代目もバランスの取れた良いメンバーだと思いますが*1、もう少し幅のある人選を期待してました。初代は漢とかサイプレス上野とか、楽曲面や人望?で既にプロップスを得てる人が居て良かった。

 

 

発表された後だけど、新モンスターについて希望してたこと書いてみます。

個人的にモンスターに欲しかった人1位は、板橋区の生き字引ことPunpee。「水曜日のダウンタウン」のテーマソングでもおなじみ。MCバトルでの実績はUMB2006東京予選優勝くらいかもしれませんが、HipHop好き(とサブカル好き?)からのプロップスは間違いないでしょう。キャラも立ってるし、あの楽しんでる感じが良い。人としてのスケールのデカさみたいなのをなんとなく感じさせますよね。二代目はコワモテな人多いし、そういう意味でもNERD代表としてP様は良い。

あとは鎮座DOPENESSZorn*2。このあたりはYoutubeのコメント欄を見る限り、ダンジョン観てる人からも強く支持されてるっぽいです。

皆、今はもうバトルしてないし、スポーツ化したMCバトルでは正直そこまで勝てないだろうけど、こういう既に実績ある人がモンスターに入るだけで「格」が違うと思うんですよね。

まあでも、全員オファーあっても断りそう。実際鎮さんはチャレンジャーとしてのオファー断ってたっていう話どこかで読んだし…。

 

 

しかし、「もうMCバトルは面白くなくなるだろ」と毎度のように思ってるけど、ずっと面白い。中々観るのを辞められない。UMB2014でR-指定が三連覇した時には「もうこれ以上のバトルは見れないだろうな」と思ったけど(特にDOTAMA戦)、全然そんなことなかったです。焚巻vs般若、晋平太vs漢、ニガリvsT-Pablow@高校生ラップ選手権、あとダンジョンでのT-Pablowの成長とか、文脈込みの面白さもあるけど、名勝負は中々尽きません。

 

(追記 2017.09.05)

第12回高校生ラップ選手権もざっと観ました。第10回を境に盛り下がってきたかなと思ってたら、Red Eye最高。この先楽しみすぎる。

*1:偉そうですみません…。

*2:あとBESが全盛期のままだったら欲しかったけど。

論文のメモ:ヨーロッパの新しい水質モニタリング (EDAや網羅的な化学分析)

年始に参加させてもらった、混合物・複合影響評価に関する勉強会。その内容に近い論文を読んでみました。

 

ヨーロッパでの水質モニタリングの話。

河川には人為起源の多数の化学物質が含まれるので、決められた少数の物質だけモニタリングの対象にしていては不十分なのではないか。もっと生態系への影響を反映したモニタリングの方法を考えよう、的な論文たちを読んだので簡単なまとめです。

 

 

 

「将来の水質モニタリング ~混合物に適したツール~

Altenburger R, Ait-Aissa S, Antczak P, Backhaus T, Barceló D, Seiler T, Brion F, Busch W, Chipman K, de Alda M, de Aragão Umbuzeiro G, Escher B, Falciani F, Faust M, Focks A, Hilscherova K, Hollender J, Hollert H, Jäger F, Jahnke A, Kortenkamp A, Krauss M, Lemkine G, Munthe J, Neumann S, Schymanski E, Scrimshaw M, Segner H, Slobodnik J, Smedes F, Kughathas S, Teodorovic I, Tindall A, Tollefsen K, Walz K, Williams T, Van den Brink P, van Gils J, Vrana B, Zhang X, Brack W, 2016, Future water quality monitoring — Adapting tools to deal with mixtures of pollutants in water resource management, Sci Total Environ, 512-513, 540-551. 

ヨーロッパでは、水域生態系の保全のためにWater Framwork Directive (WFD) なる指令?を2000年に施行したそうな。WFDの目標達成を目指して、EU各国は2003年から法律を策定して頑張ってきたみたいです。(ここまでは年始の勉強会で聞いた話。ここ以降は↑の論文の話+解釈込み。)が、WFDで定められた"good ecological status"は未だ達成されてない場所が多い。というか、その原因が化学物質汚染なのかどうかも良く分からん、という状況らしいです。

問題を難しくしている一つは、河川中に多数の化学物質が共存していることです。冒頭に書いた通り、少数の物質のみ測定の対象としていても影響を過小評価してしまうし、また、複数物質が共存するときには単一で存在するときと異なる影響を生物に及ぼす(Combined effects)こともあります。そんな複雑な環境における化学物質モニタリングのあるべき姿?を提案しているのが本論文です。

大きく3つのアプローチ、(i) 化学分析、(ii) Effect-ased tools、(iii) Effect-directed analysis (EDA) を使おう、と書いてます。

まず化学分析。検出される物質のパターンをクラスター分析などで解析し、「この物質とこの物質はよく一緒に検出されるね」みたいな傾向をつかむのが大事だと言っています。

次にEffect-base tools。化学分析だけだと本当に影響が出るかわからないので生物応答を指標にして、影響をしらべようねという話です。Whole effluent Toxicity (WET) 的な考えですね。指標とする生物応答は、重大な悪影響につながるものでないとダメなので、そこはAdverse Outcome Pathways (AOP) の考えを援用するそうです。ただ通常のAOPと違い、混合物を対象にしているので"individual initiating events"よりむしろ"common adverse outcome"を指標にするみたい。…これ、どういうこと? AOPの個々の"molecular initiating events"に捉われないということかと理解したけど、具体的に何を見るのか…?表3とAOPの関係は?

最後にEDAを使って"driver chemicals"を同定する。多数の化学物質が共存すると言っても、実際には少数の物質が悪影響の引き金となっています。その少数の物質をdriversと呼び、それらを同定するのがEDAです。EDAは、環境水の分画と各画分に対するレポーターアッセイなどを繰り返して、どの画分(とどの物質)が悪影響の原因かを探る手法です。

勉強会の良い復習になりました。けど総説なので、やっぱりふわふわした読後感。

 

 

「ヨーロッパの河川中の微量汚染物質:effect-based toolsのためのMoA調査

Busch W, Schmidt S, Kühne R, Schulze T, Krauss M, Altenburger R, 2016, Micropollutants in European rivers: A mode of action survey to support the development of effect-based tools for water monitoring, Environ Toxicol Chem, 35, 1887-1899. 

ETCのFocus論文。面白かった。

基本的には、河川水中の化学物質を網羅的に分析した6つの論文を再解析した研究です。6つの論文で実際に検出された426物質を対象に、Hazard Quotient (HQ = 測定濃度/毒性値) を算出し、また文献情報をもとに各物質の作用機序(Mode of Action; MoA)をざっくり31種に分類してます。

たぶんこの論文のメイン部分で、かつ面白いのが、MoAごとにHQの合計値を求めている点。HQ合計値が大きいMoAは悪影響につながりやすいと見做して、そのMoAを検出できるbioassaysをモニタリングのツール(effect-based tools)に使おう、という議論をしています。EDA的な考え方ですね。ただ、割り当てられているMoAがobserved adersed effects(致死など毒性値を求めるベースとなったエンドポイント)の原因であるとは限らないんですよね…。そのちぐはぐ感は拭えません。

他にも手法上の課題はかなりあるみたいです。MoAをざっくり分けている点や、毒性値の実験データがない場合はQSARで予測していてそれが実際の値と離れている点など。

単純に読んだあと気になったのは、河川水に生物を曝露させたとき、そのMoAは何に分類されるのかなぁということ。各物質HQの合計値が高いMoAと一致しているのかどうか。

 

 

「水質モニタリングに用いる生物試験の組み合わせ:微量汚染物質による毒性への寄与

Neale P, Altenburger R, Aït-Aïssa S, Brion F, Busch W, de Aragão Umbuzeiro G, Denison M, Du Pasquier D, Hilscherová K, Hollert H, Morales D, Novák J, Schlichting R, Seiler T, Serra H, Shao Y, Tindall A, Tollefsen K, Williams T, Escher B, 2017, Development of a bioanalytical test battery for water quality monitoring: Fingerprinting identified micropollutants and their contribution to effects in surface water, Water Res, 123, 734-750. 

34個の化学物質に対して、in vivo・invitro含む20種類のバイオアッセイをおこなった研究(化学物質は、↑のBuschら(2016) のHQをもとに選定)。データが膨大過ぎて、詳細は正直追えてません。Water Res 誌でも最近はこういう論文多いです。NatureとかScience並みのSupporting Info。査読者も大変ですね…。

結論は「bioassayの種類によって検出できる毒性の得手不得手があるから、色々な試験を組み合わせよう(意訳)」で、無難な感じ。

個人的には、次のような結果を示してくれているのが嬉しい。

・Daphnia magnaの遊泳阻害試験やfish embryo toxicity test (FET) などのwhole-organism試験は、大部分の化学物質の影響を検出できる。ただし、その濃度レベルはin vitroの試験に比べると高め。

また、この論文で得られたデータを、既往の河川の化学分析結果に適用してmixture toxicity modelingもしてます。

 

 

 

 

なんとなく、彼らがやろうとしていることが理解できました。

水質モニタリングでの化学分析をもっと網羅的におこなう、モニタリングに導入するbioassayの種類はメカニズムベースで考える(なるべくin vitroでやりたい)、測定した物質で毒性影響が説明できるかどうかはmixture toxicity modelingで確かめる、EDAで毒性のdriversを探索する。そんなところでしょうか。

ただEDAはルーティーンでやるのかな?かなり面倒な気が…。

海外ポスドク目指して就活中 ~メール・Skype編~

去年学位をとったポスドクです。

今の契約は今年度末までなので、そろそろ次のポジションを確定させておきたいところです。

 

何も考えず自由に海外へ行けるのは今ぐらいしかなさそうだし、一度は行ってみたいので、海外就活を目指すことにしました(適当)。

本当は海外学振に出せればよかったのですが、応募時点では色々あって海外という選択肢の可能性が低かったため、出さず…。5月くらいにようやく 「海外行くか」と意識が固まりました。

探してみると、海外学振以外にも応募できるfellowshipが複数。Marie-Curie Fellowshipとか。まずは受け入れてくれるボスにメールで打診することから始めました。メール作成には、次の2つのサイトを参考にしました(良い印象をもたれるポスドク応募メールを書く4つのポイント - アメリカポスドクの歩き方Going abroad)。

下が送ったメール。 

Dear Prof. XXXX,

 

My name is XXXX, a post-doctoral researcher at XXXXX, Japan. I would like to know is there an available post-doctoral position in your laboratory?

 

I received a Ph. D. degree last XXXX, and currently continue to work under the supervision of Dr. XXXX, as a postdoctoral fellow. During the Ph. D. period, I have gained professional experiences of XXXX, XXXX, and XXXX. After receiving Ph. D, I started to XXXX (and now submitted a paper on XXXX).

Prof. XXXX, I have read many papers by you and your co-workers, and am impressed with your academic works. I especially admire your works on XXXX (e.g., XXXX et al., 2011, YYYY; XXXX et al., 2015, YYYY). I believe your works will really XXXX. Thus, I hope to study XXXX in your laboratory as a post-doctoral fellow.

 

I understand that there may be no available funding for a new post-doctoral researcher. I will apply for Marie-Curie post-doctoral research fellowship (and other possible fellowships). I already confirmed on the website that your institute is eligible to host a Marie-Curie fellow. https://www.xxxx

 

I have attached my CV. I look forward to hearing from you. Thank you for your consideration.

 

Sincerely,

XXXX

 

英語が適切かどうかは分かりませんが、とりあえず返信をもらえたのでダメすぎることはないと思います…。

 

ありがたいことに、2日後には返信がもらえました!

で、早速Skypeで話をすることに。ただ1回目は、教授が電車での移動中にSkypeをしようとして電波が悪くて中止。2回目は、教授のOfficeからSkypeしてもらい、上手く話ができました。

すごく緊張したけど、良い人そうで話してるうちにリラックスできました。英語も心配だったけど、教授がゆっくり話してくれた上、依然としてSkypeのつながりが良くなかったのでそれを理由に何度も聞き返せたので、なんとかなりました。一安心。

 

話した内容は、割とネットで予習した通りでした。

・まず自己紹介(博士課程とポスドクでの研究内容)

ポスドクで何をしたいか(自分の場合、対象とする生物種に拘りがあるかとか)

・教授のところでやっている研究について

・必要なスキル(プログラミングが出来るかとか)

・スケジュールについて(Fellowship締め切り、Proposal書いたらメールする)

 

自己紹介のところでは興奮して、ちょっと喋りすぎでした…。「あなたのグループのあの論文読んで…」みたいに言ったら「ちょっと待って、いっぱい論文出してるからどれのことか分からんけど…ちょっと落ち着いて」という感じ。

 

 20~30分くらいであっという間でした。緊張したけど、実際に話せたことでやる気出てきました。

 

(追記)

続きのはなし→海外ポスドク目指しての就活 ~公募アプライ・Skype面接編~

「化学の歴史」感想

全部読み通しました。が、ちょっと退屈だったかも。

研究の歴史を勉強するのは好きです。高校の時、村上陽一郎の「新しい科学論」というブルーバックスの本を読んでから。
科学史を知ると、今現在の科学が磐石ではないこと、これからダイナミックに変化していくだろうことを感じられてなんだか楽しい。


燃焼を説明するために、フロギストンという概念を産みだした結果、錆びの時にはフロギストンの質量が負、燃焼の時の質量は正になってしまったことを、中学生で勉強した時はバカみたいだなとぼんやり感じてました。しかし、ラボアジエが登場するまではそもそも正確な定量が重視されていなかったのだと筆者は書いていて(p. 67)、なるほどと思わされました。

動きが起きていて面白く感じたのは、ラボアジエ(1743~94)とトムソン(1856~1940)、ラザフォード(1871~1937)が居た時代あたり。
特に後者の原子の構造が理解されていく流れは、謎解き感があって良いです。多方面の実験結果や理論をもとに紆余曲折を経て、原子構造の理論が形成されていったのが分かります。


化学の歴史 (ちくま学芸文庫)

化学の歴史 (ちくま学芸文庫)


化学史じゃないけど、最近一部で話題になっていた
いま敢えて問います。天動説と地動説、どちらが正しいと思いますか?(松浦 壮) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)も面白かったです。

論文のメモ: トキシコゲノミクスのデータベースを生態毒性学に活用した例

トキシコゲノミクス(toxicogenomics)は、トキシコロジー(toxicology, 毒性学)とゲノミクス(genomics, ゲノム学)をあわせた言葉で、遺伝子の変異や発現変動を網羅的に見ることで生体内で生じる毒性影響のメカニズムを理解しようという学問です。

Comparative Toxicogenomics Database (CTD) なるデータベースが、化学物質と関連する遺伝子およびパスウェイ・疾患のリストをまとめています。CTDはヒトやマウスだけでなく、色んな生物種を網羅しているので、生態毒性学にも活用できそうです。

 

 

「Comparative Toxicogenomics Database

Davis A.P., Grondin C.J., Johnson R.J., Sciaky D., King B.L., McMorran R., Wiegers J., Wiegers T.C., and Mattingly C.J., 2017, The comparative toxicogenomics database: update 2017. Nucleic Acids Res., 45 (D1), D972-D978.

2017年のupdate版。

データはここで公開されています。ほぼ毎月updateされている模様。「Download」からcsvファイル等をダウンロードすれば、大規模データの解析もできます。

 

 

「環境中で採取した非モデル生物をシステムレベルで理解したい

Williams T.D., Turan N., Diab A.M., Wu H., Mackenzie C., Bartie K.L., Hrydziuszko O., Lyons B.P., Stentiford G.D., Herbert J.M., Abraham J.K., Katsiadaki I., Leaver M.J., Taggart J.B., George S.G., Viant M.R., Chipman K.J., and Falciani F., 2011, Towards a system level understanding of non-model organisms sampled from the environment: a network biology approach. PLoS Comput Biol, 7 (8), e1002126.

 7地点から採ってきたヒラメのメタボロームとトランスクリプトーム(+αでバイオマーカーなど)を調べて、各地点の有害物質汚染との関連を考察した論文。

大昔に読んだときは理解できなかった部分がとても面白かったです。各地点で発現した遺伝子が一般にどのような化学物質によって引き起こされるかを、CTDで検索してます(表2)。MeV (Multiple experiment Viewer) を使って解析している様子。でも表2の導き方がいまいち分からない。Enrichment解析をしているが…。

このCTDによる検索の結果は必ずしも正しくない、ということもDiscussionで少し述べられてます。例えばCTDで「煙草の煙」が示唆されても、単純にAhR inducerかもしれない、とのこと。

 

「生物影響と汚染物質の関連付けをおこなう事前知識ベースの手法

Schroeder A.L., Martinović-Weigelt D., Ankley G.T., Lee K.E., Garcia-Reyero N., Perkins E.J., Schoenfuss H.L., and Villeneuve D.L., 2017, Prior knowledge-based approach for associating contaminants with biological effects: A case study in the St. Croix River basin, MN, WI, USA, Environ. Pollut., 221, 427-436. 

USEPA・USGSあたりのお仕事。既にここまでやられているとは…、ちょっと落胆。

下水処理施設の上流・下流の河川水を採取して、大規模な化学分析とファットヘッドミノーの遺伝子発現解析を実施しています。研究の構成はFig. 1に示されています。

自分の理解不十分なのか、ネットワークモデルを構築する意義が良く分からない。結局、1つの化学物質に対してCTD曰く関連のある遺伝子XXX個のうち、実際に発現変動した遺伝子がYYY個あって、その変動が有意かどうか、フィッシャーの正確率検定のようなもので判断しているだけでは?面白かったけれど、理解不十分。また読む必要あり。データ解析法の元ネタ論文(Catlett et al., 2013, BMC Bioinforma)を読んだ方が良いかな?

この研究のようなデータベースをもとにおこなう解析は、(まあ当然ではあるけど)研究の盛んな物質を重視する傾向があることもdiscussionで指摘されてます。

 

 

Szklarczyk D., Santos A., von Mering C., Jensen L.J., Bork P., and Kuhn M., 2015, STITCH 5: augmenting protein–chemical interaction networks with tissue and affinity data, Nucleic Acids Res., 44 (D1), D380-D384.

CTDと似たようなデータベース。STITCHはCTDからもデータを収集しているようです。とりあえずメモとして。