備忘録 a record of inner life

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【論文】生態毒性:分子生物学的手法によるオオミジンコに対する毒性要因の特定

The molecular toxicity identification evaluation (mTIE) approach predicts chemical exposure in Daphnia magna

「オオミジンコの毒性要因を分子生物学的手法を用いて特定する試み(mTIE)」

P. Antczak, H.J.Jo, S. Woo, L. D. Scanlan, H. C. Poynton, A. V. Loguinov, S. Chan, F. Falciani, C. D. Vulpe

2013, Environmental Science and Technology, Vol.47, No.20, p.11747-11756


 

概要

 金属、内分泌かく乱性物質(endocrine disruptor, 環境ホルモン)、その他の有機物質にオオミジンコを曝露させ(濃度はLC50の1/10)、遺伝子発現の変動をマイクロアレイで解析した。遺伝子発現のプロファイリングによって曝露物質の分類(予測)が出来るかを検討した。

 

背景

 試料の分画処理と伝統的なバイオアッセイを組み合わせた従来の毒性要因特定手法(TIE)では、特定に限界がある。著者らのグループには、曝露物質に特異的なD. magnaの遺伝子発現を研究してきた実績がある。

 

目的

 遺伝子発現に基づいた曝露物質予測モデルの構築。実際にやっているのは、遺伝子発現によって曝露物質の「無機」「有機」または「無機」「内分泌かく乱性」「その他有機」を区別できるかどうかの検討。

 

対象

 Cd, Niなど金属9種、ノニルフェノール, βエストラジオールなど内分泌かく乱物質9種。アトラジン, トルエン, フェナンスレンなどその他の有機物質18種。     

 

手法

 上記物質にオオミジンコを全てLC50の1/10濃度(NOEC以下)で36h曝露させ、マイクロアレイ解析。曝露物質の分類(=予測モデル)は、①クラスタリングを用いた方法と②機械学習アルゴリズム (Random forest)を用いた方法で行った。①クラスタリングでは、Jaccard指数という指標で類似度を計算した。②機械学習では、各遺伝子による判定と、pathwayによる判定(アノテーションされている遺伝子のみを選んで)の2つを実施した。

 

結果

 ①クラスタリング分析では、「無機」と「有機」を分類できたが、「内分泌かく乱性」と「その他有機」は分けられなかった。②「無機」「有機」はわずか3つの遺伝子によってほぼ説明できた。「無機」「内分泌かく乱性」「その他有機」は5つでできた。 一方、pathwayによる判定は、アノテーションがない遺伝子が判定に用いられなかったことも災いしてか、精度が低かった。

 

結論

 単一のマーカーでなく、複数のマーカーの組み合わせで曝露物質を同定できる可能性。