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やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文「キャリアーとしての有機溶媒の使用:実務・統計・レギュラトリー面での考察」

水生生物の毒性試験で疎水性物質を扱う際は、通常キャリアとして有機溶媒を用いることを先日書きました(8/21記「疎水性物質の毒性試験について」)。

そのキャリア溶媒(carrier solvents)に関する総説。以下は、この総説を読んでのまとめ。

Green J. and Wheeler J.R., 2013, The use of carrier solvents in regulatory aquatic toxicology testing: Practical, statistical and regulatory considerations, Aquatic Toxicol., 144-145, 242-249. 

 

■実務的な側面

毒性試験を行う際に、対象の試験物質のみを試験系に添加するのが最も望ましいのはもちろんです。しかしキャリア溶媒を使用しなければ、

  •  大量の水が必要になる
  • 濃度を維持するのが困難*1

といった問題があるため、現実的にはキャリア溶媒の添加が不可欠なのです。

実際、濃度0.1 mL/L以下ならばキャリア溶媒による水生生物への毒性は、急性・慢性ともに見られないそうです*2。そして、試験対象である毒性物質とキャリア溶媒との相互作用(interaction)が生じるか、という問題に関しても、キャリア溶媒濃度0.1 mL/L以下で相互作用が見られた報告はないみたいです*3 *4

とは言っても、内分泌かく乱(endocrine disruption)物質の毒性試験を行う場合などは、通常の急性・慢性毒性試験で確認しないレベルの応答を見るため、キャリア溶媒の影響が出てくるようです。Hutchinsonら(2006)は総説の中で、内分泌かく乱物質や魚の繁殖能を試験する際はキャリア溶媒濃度を0.02 mL/L以下にすべきだと述べています。

 

■統計・レギュラトリー的な側面

ざっと読み。キャリア溶媒のみを含む系を対照区とするか、水のみの系を対照区とするか、はたまた両方の結果を混ぜて対照区とするか、という問題。

「(0.1 mL/L以下の)キャリア溶媒のみ」と「水のみ」のどちらの方が応答が大きいか、傾向は定まっていないようです。もし両者に統計的差がなければ、両者の値を併せて対照区とすれば検出力も増加する、とのこと。

 

追記)この論文の元ネタ的な2006年総説のまとめはこちら

 

*1:例えばOECD(1992, OECD 210)では測定値の平均 ± 20%に試験濃度が維持されていることを試験要件に定めているそうです。他にはASTM(1992)やOPPTS(1996)が、最大測定濃度が最低濃度の1.5倍以下であることを求めているとか。

*2:ただし慢性について魚類の試験データがないなど、知見は少なめ。

*3:報告がないだけで、勿論可能性はある。0.1 mL/Lより高い濃度では、キャリアの共存によって毒性が増加することが報告されています。

*4:個人的にはこの「相互作用」が気になります。生物内の外部でのbioavailability変化なのか、内分泌かく乱物質のくだりで述べられているように、生物体内での話なのか。