化学物質が生態系に与えるリスクを評価する方法として、通常は生物応答を指標とした毒性試験(バイオアッセイ, bioassay)を行います。対象の化学物質の曝露濃度(あるいは投与量)と致死率などの生物応答との関係(=「用量反応関係, dose-response relationship」)を求め、「どの濃度で試験生物にどれほどの悪影響が生じるのか」を評価します。
図:用量反応関係(赤プロットは実験データの例)
この「用量反応関係」を基に、自然環境中、あるいは排水中の化学物質が、そこに棲息する生物たちにどのような影響を与えるのか評価する場合が多いです。例えば「水生生物の保全に係る水質環境基準」のような基準値の制定も同様です。
しかし用量反応関係は、あくまで条件を非常に単純にした実験室内でのバイオアッセイの結果です。その結果を、実環境中の影響予測にそのまま適用できるわけではありません。適用する上で様々な課題、問題があります。例えば思いつくものだけでも「試験生物の代表性*1」、「化学物質の複合影響」、「共存物質によるbioavailabilityの変化」、「エンドポイントのスケール*2」などがあります。
今回は、バイオアッセイの結果から実環境中での影響を予測する際の課題として「曝露履歴」「適応(adaptation)」を取り上げたたいと思います。
Mustonen M. et al., 2014, Metallothionein gene expression differs in earthworm populations with different exposure history, Ecotoxicol., 1-12.
Cu, Zn, Niに汚染された地点と、非汚染地点からそれぞれミミズを採取し、重金属汚染土壌に曝露させて、メタロチオネインの発現量を比較した研究です。メタロチオネイン(methallothionein)とは、金属に結合し解毒などに関与するたんぱく質です。
結果を簡単に書くと、汚染地域から採取したミミズは、非汚染地域のミミズに比べて重金属への曝露開始からすぐにメタロチオネインを発現したということです。汚染地域のミミズは、重金属を即座に解毒できるように適応しているのです。
バイオアッセイと実環境影響の関連の話に戻すと、適応を考慮していないバイオアッセイ系は、実は過剰評価・安全側評価なのかもしれませんね。と、書いたところで、「連続的な曝露でなかったら適応はどうなるのか?」「恒常的に曝露が生じている物質以外の曝露がパルス的に生じた場合は?」など、思いました。なので、単純に過剰評価と言い切れないかも、大した理論的な根拠はないけれども。