おなじみのPAH(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon; 多環芳香族炭化水素)に関する論文です。以前、藻類によるPAHの代謝と蓄積に関する論文を紹介しました。藻類のような下等(?)生物によってもPAHのいくらかは代謝・分解されるという話でしたが、今回は藻類の死骸でもPAHは分解され得る、という論文です。
Luo L. et al., 2014, Removal and transformation of high molecular weight polycyclic aromatic hydrocarbons in water by live and dead microalgae, Process Biochem., in press.
藻類そのままの溶液と、オートクレーブして藻類を死滅させた溶液のそれぞれにPAHを添加し、PAH量の変化を4日間測定したそうです*1。
結果、dibenzo[a,h]anthracene、benzo[g,h,i]peryleneは死亡・生存藻類のどちらでもあまりPAHが分解されず、benzo[b]fluorantheneやbenzo[k]fluoranthene、indeno[1,2,3-c,d]pyreneは死亡藻類の系でよりPAHの分解(減少)が見られたのに対し、benzo[a]anthraceneやbenzo[a]pyreneは両方の系でより分解が確認されました。
生きている藻類では、PAHは藻類内に取り込まれ、cytochrome P450などの酵素によって分解されます(Kirso and Irha, 1998)。しかしこの研究の死亡藻類は、121℃でオートクレーブされているので酵素は破壊されています。ではなぜ、死亡した藻類でもPAHが分解されるのでしょう。
この論文の中で、その理由を示す明確な実験はなされていませんが、「死亡藻類から放出される脂肪酸やタンパク質などの物質が光増感器(photosensitizer)として働き、PAHの光分解を促進しているのでは」、と考察されています*2。
藻類の死骸の方が分解を促進するとは、すごい面白い結果ですね。この研究は水処理の視点でなされていますが、自然環境中でのPAHの動態の観点から見て「死亡藻類中での分解」現象は有意な影響を与え得る要因なのかどうか…。光の届かない底質環境では、あまり関係のない現象なのでしょうか。