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a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文「底生ヨコエビに対する毒性要因を定量的PCRを用いて特定する試み」

 生物の周囲の環境を調べるのではなく、生物そのものの健康診断をすることで「どのような汚染が進行しているのか」を知る手法があります。例えば、生物の遺伝子発現を調べる手法です(参考:オオミジンコを用いた研究)。

 下記の論文は、汽水域に生息するヨコエビMelita plumulosaの遺伝子発現を調べることで、底質の汚染を予測できるか試みたものです。オーストラリアの研究グループの論文です。

Hook S.E., Osborn H.L., Spadaro D.A. and Simpson S.L., 2014, Challenges for using quantitative PCR test batteries as aTIE-type approach to identify metal exposure in benthic invertebrates, Environ. Sci. Pollut. Res. 

 

■一連の研究の流れ

この研究グループは、本論文だけでなく、いくつかの関連論文を発表しています。それらの流れは、下のようになっています。

  1. Pyro-sequencingを行い、ヨコエビMelita plumulosaのマイクロアレイを作成した(Hook et al., 2014, Aquat. Toxicol., 153)
  2. 重金属Cu, Zn, Niと殺虫剤、石油製品、アンモニアを添加した底質にヨコエビを曝露し、マイクロアレイで遺伝子発現解析をおこなったHook et al., 2014, Aquat. Toxicol., 146
  3. マイクロアレイの結果から、各物質を特定するのに用いることのできるマーカー遺伝子を探索した(同上)
  4. 定量的PCRを用いて、7-8つのマーカー遺伝子から底質中の主要毒性物質を推定する(今回紹介する論文;Hook et al., 2014, Environ. Sci. Pollut. Res.)

 

■マーカー遺伝子を用いた毒性要因の特定手法

どうやってマーカー遺伝子から「この物質が悪さをしている」ことを推定するのか。この論文では図のような基準で推定をおこなっています。例えば、キチナーゼとタンパク消化酵素、そしてへモアシアニンの発現が全てコントロールより低下していれば、どうも重金属かアンモニア、殺虫剤らしいぞ、という具合です。割とざっくりした判断ですが・・・。

 

化学組成がある程度分かっている、そしてヨコエビの繁殖能を低下させることが明らかになっている3つの環境底質に、図の推定法を適用しました。3つの底質は、高度に重金属に汚染されています(底質1-3の順に含有量がCu:1760, 810, 240 mg/kg; Pb: 16, 82, 330 mg/kg; Zn:410, 310, 680 mg/kg)

 

■結論

その結果、3つの内2つの底質では含有量測定値から予想された通りに、重金属が主要毒性物質だと推定されました。しかし残り1つの底質は、「有機物かそれ以外の未知物質」が主要毒性だと推定されました。Cu濃度が比較的高く(上記含有量の2番目の底質;Cu 810 mg/kg)、PAHsや殺虫剤は低濃度だったにもかかわらずです。

 

重金属濃度が高いのに、マーカー遺伝子による推測で重金属が主要毒性だと判定されなかった理由として、以下があげられています。

  • 手法の欠陥:定量的PCRで測定した発現変動の個体間ばらつきが大きい、(マーカー遺伝子の選択が)適切・十分でない
  • 未知物質の存在:測定していないが有害な物質が底質に含まれているかもしれない、2番目の底質は抗生物質Oxytetracyclineやフィトエストロゲンが検出されている地域から採取したものである
  • ただ単に甲殻類の汚染への応答は良くわかっていない(どゆこと?)

この論文は、結論として「数個のマーカー遺伝子では毒性要因の特定は出来ないから、マイクロアレイやRNA-seqをおこなうべし」と述べています。しかし、個体間変異の大きさなど、マーカーの選択自体に課題があるから、結論は急ぎ過ぎにも思います。