備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文「ハロゲンが溶存有機物の分解に与える影響:ヒドロキシラジカルとの関係から」

塩分と有機物の環境中挙動との関係に興味があるので、イントロ部分と結果の一部だけですが読んでみました(参考→こちら)。

Grebel J.E., Pignatello J.J., Song W., Cooper W.J. and Mitch W.A., 2009, Impact of halides on the photobleaching of dissolved organic matter, Marine Chem., 115(1), 134-144. 

 

Grebel J.E., Pignatello J.J. and Mitch W.A., 2010, Effect of halide ions and carbonates on organic contaminant degradation by hydroxyl radical-based advanced oxidation processes in saline waters, Environ. Sci. Technol., 44(17), 6822-6828.

  

■海洋でのDOMの分解

海洋に存在する溶存有機物(DOM; Dissolved Organic Matter)量は莫大です。DOMとして海洋中に存在する炭素量は、大気中のCO2(約750 Gt)と同程度だとIPCC (2007) は報告しています。

海洋中の、特に表層のDOMは常に安定ではありません。さまざまな要因によって分解されたり、より難分解性のDOMとなって深海へと移行したりします。海洋表層のDOMが受ける変化(processing)は大きく3つに分けられます*1

  1. 生物学的な変化(無機化・難分解化)
  2. 光分解
  3. 活性酸素種(ROS; Reactive Oxygen Species)による酸化

 

このように、どの要因がDOMの動態に影響するのかを知ることは、炭素循環を考えるうえで重要です。たとえば将来的には、多くの炭素を海洋に固定するための施策につながることが考えられます(参考→こちら;「ブルーカーボンについて」)。

上記の2論文は、上の3番目の要因である活性酸素種、特にOHラジカルによるDOM分解に着目したものです。

 

■OHラジカルとハロゲン 

海水中にはCl-イオンやBr-イオンといったハロゲンイオンが大量に含まれます。これらハロゲンイオンは、OHラジカルの消去剤(radical scavengers)として働くことが知られています。ハロゲンイオンは下の図のようにOHラジカルと反応し、反応性ハロゲン種 (RHS; Reactive Halogen Species; X・やX2・) となります。

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図:OHラジカルからRHS (反応性ハロゲン種) の生成反応(上記論文より

※X-はハロゲンイオンCl-やBr-を示す

 

RHSは、何の物質に対しても激しく反応するOHラジカルに比べると、反応性に乏しいです。理由はよく分かりませんが、RHSはelectron-richな物質、つまり求核性の物質と選択的に反応するようです*2

一般的には海水中でDOMは、淡水中よりも分解されにくくなると考えられます。海水に含まれるハロゲンイオンがOHラジカルを消去してしまうためです。しかしDOMがフェノールのような求核性の高い物質である場合は、上述の通りOHラジカルとハロゲンイオンから産生したRHSによって選択的に分解されてしまいます。

 

*1:Grebelら, 2009, Marine Chem.より。

*2:ここが一番のポイントでもある気もするけど・・・。