a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

最近読んだ論文のメモ: 遺伝的多様性へのフィードフォワード・汚染への適応・低酸素曝露に対する遺伝子発現

「遺伝的多様性への正のフィードフォワードループ」

Lynch M, 2015, Genetics: Feedforward loop for diversity, Nature, 523, 414-415. 

ニュース記事。原著(Yang  S et al., 2015, Nature)はチラ見のみ。

ヘテロ接合度が高いと突然変異率(mutation rate)も高くなったという話。しかもヘテロ接合部位(=組換え(recombination)が生じた位置)の近辺で、突然変異率がより高かったそうです。この論文の説が正しければ、遺伝的多様性が高い集団ほど(ヘテロ接合度も高いので)突然変異が生じやすく、どんどん遺伝的多様性を増す「正のフィードフォワード」が起こると言えます。面白いですね。

しかし後半部分を読んでみると、この説の反証となるような既往報告*1が多いようです。「ヘテロ接合度が高いと突然変異率も高い」のではなく、「近交系(inbred strains)に異系交配(outcrossing)をすると、突然変異が生じやすい」だけかもしれません。

というか、突然変異と遺伝的変異(genetic variation)のどちらにも使われる「変異」って言葉はややこしいですね。突然変異では「変化」の意味なのに、遺伝的変異では「ばらつき・多様性」の意味ですから。

 

 

「慢性的な汚染に適応した遺伝子の履歴」

Williams L.M. and Oleksiak M.F., 2008, Signatures of selection in natural populations adapted to chronic pollution, BMC Evolut. Biol., 8(1), 282.  

Oleksiakさんの論文は総説(2012)とかNature Genetics (2002)とか面白く読ませてもらってる。同一グループだとMol Ecol (2009)も。

汚染地域に棲息するマミチョグのゲノムをAFLPでフラグメント解析した研究。汚染地域と近傍の参照地域とを比較した時に、中立説neutral theoryでは説明できないレベルで出現頻度に差のある断片を「outlier loci」としてピックアップしてます。その「outlier loci」は、汚染に対する適応(adaptation)の結果だろうという話。

このoutlier lociが何の遺伝子か、ぜひシーケンスして欲しいです。

 

「短期間の低酸素状態に曝された硬骨魚の遺伝子発現」

Everett M.V., Antal C.E. and Crawford D.L., 2012, The effect of short‐term hypoxic exposure on metabolic gene expression, J. Experiment. Zool. A: Ecol. Genetics Physiol., 317(1), 9-23.  

上と同じマイアミ大学のグループの論文。総説(2012)で引用されていたもの。

個体の発現のばらつきの部分を中心に読みました。Mol Ecol (2009)と似たような観点で。曝露時間と発現のばらつきの関係は、解析部位によって異なっていたそうです(心臓と肝臓)。心臓の96 hと肝臓の4 hがばらつきが小さく、control系と有意差があった遺伝子数の多い。心臓の96 h、肝臓の4 h以外ではばらつきが大きくて、有意な遺伝子を見つけられていないという状況。対象遺伝子はn=17(心臓)・20(肝臓)と少なめですが。 

やっぱり個体差が大きいですね…。自分の研究に活かせそうな、有益な情報でした。

メモ:アレイ上の384遺伝子のうち1/3はネガコン以下の蛍光。 

*1:ヘテロ接合度の低い近交系では、劣性遺伝子を駆逐するために変異率が高まるのでは?という考えもあるみたいですし。