浦瀬先生のHPで紹介されていた本*1。早速読んで正解。妄想の広がる良書でした。
山本民次, 花里孝幸, 2015, 海と湖の貧栄養化問題, 地人書館.
水環境での過剰な栄養塩によって植物プランクトンが異常増殖し、アオコや赤潮が発生する、富栄養化。そのピークはすでに峠を過ぎて、今は新たに貧栄養化が問題になっているのではないか。ノリの色落ちや漁獲量の低下は、貧栄養化が原因ではないかと懸念されている。そんな話です。
複雑な生態系
本書は、諏訪湖・琵琶湖・瀬戸内海などを対象に過去の富栄養化が生じた経緯と、貧栄養化にシフトしていく様子と背後のメカニズムを論じてます。
面白いのは、因果関係の複雑さです。「水質改善技術の向上→栄養塩流入負荷の減少→貧栄養化」という図式は単純化しすぎていて、実際は魚種による食性の違いやら土地利用の変化やら様々な要因が絡みあって、生態系の変化が進行しているようです。
個人的に面白かったのは、履歴効果(ヒステリシス)の話。人為的な影響の小さかった状態から富栄養化が生じ、今は栄養塩濃度はまた減少しました。しかし生態系は、富栄養化が起きる前のものと同一ではないみたいです。
例えば一度生じた富栄養化の痕跡が、底質のヘドロという形で残っている場合、富栄養化の前に優占していた沈水植物は、砂地を好むために戻ってこれない。そういう例が1章で解説されてます。
あとは、富栄養化が改善されても赤潮発生が収まらないというのが気になりました。
どういう生態系を求めるのか
視点・主体が変われば求める生態系の姿も変わるものだと、改めて気づかされます。水質、水産業という視点だけでなく、(5章で触れられている)ブルーカーボンのような利益を受ける主体がどこか良く分からない評価軸も含めると、本当に難しい問題になりますね。
冒頭に書いたように、いろいろ妄想が広がります。
生態毒性・微量有害物質に関しても少量の負荷のある方が「豊かな」生態系になるのかな、とか…。
*1:海洋理工学会誌には中田喜三郎先生の書評もあります。