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a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

最近読んだ論文のメモ: タバコの吸い殻やニコチンによる生態毒性 その3 ~ニコチンのfate~

論文 生態毒性 ノンポイント汚染 ニコチン

これまで、タバコの吸い殻による生態毒性に関していくつか文献を読んできました。タバコ浸出液にTIEを適用してニコチンが主な毒性要因らしいとした論文や、タバコ吸い殻からのニコチン浸出量を測定した論文など。

最近読んだ論文のメモ: タバコの吸い殻やニコチンによる生態毒性 

最近読んだ論文のメモ: タバコ吸い殻による生態毒性 その2 

 

 

さらにもう少し文献を探してみました。まず、ニコチンの環境中での動態fateについて。

「ニコチンの動態と環境影響

Seckar J.A., Stavanja M.S., Harp P.R., Yi Y. and Garner, C. D., 2008, Environmental fate and effects of nicotine released during cigarette production, Environ. Toxicol. Chem., 27(7), 1505-1514. 

ニコチンの分解性、生態毒性、分配係数などを測定し、環境中での挙動と影響を評価した論文。細かい部分では突っ込みどころが多いけど(光分解実験とか)、全体像を見るのが目的の研究だからと言われれば、まあアリかも。

 生態毒性は、藻類の生長とレタスの種子発芽・根の生長で評価してます。Daphniaに対するnicotineの毒性値は数mg/L未満でしたが、藻類の96h生長阻害EC50は72 mg/Lという結果。レタスのEC50は90 mg/L以上。(ニコチンの急性影響は神経系への毒性だろうから、動物に対して鋭敏なのでしょうか?)

得られた分配係数をCanadian Environmental Modeling Center level III model という環境動態モデルに入れて計算すると、定常状態ではニコチンの93%は水中に存在するという結果に。そして大気環境中へのnicotine排出量を1.59 kg/hとして*1、定常状態での大気・水・土壌・底質中での濃度を算出してます。水中でのニコチン濃度は5.75 ng/Lで、毒性試験結果と比較すると生態影響のあるレベルじゃないですよーという結論。

環境への排出量としてこれまでの文献で見てきたノンポイント負荷が入っていないのは少し気になりますが、大きな傾向は変わらないかも。(藻類じゃなくてミジンコを対象にしたとしても。)ただノンポイント負荷を考える場合、パルス的な曝露の影響は大きく変わる? 

中々妄想させられた論文でした。

 

バルセロナでの処理水・地下水中の汚染物質

Teijon G., Candela L., Tamoh K., Molina-Díaz A. and Fernández-Alba A.R., 2010, Occurrence of emerging contaminants, priority substances (2008/105/CE) and heavy metals in treated wastewater and groundwater at Depurbaix facility (Barcelona, Spain), Sci. Total Environ., 408(17), 3584-3595. 

地下水と再生水を飲料水に使えないか、ということで地下水と処理水、未処理水中の170個の化学物質濃度を測定した論文。nicotineに関する部分のみ拾い読み。

流入水サンプル(n=18)の全てでニコチンが検出されていて、101~3249 ng/Lの範囲。平均値は895 ng/L。放流水では75%のサンプルで検出されていて、濃度範囲は107~269 ng/L(平均184 ng/L)。流入水でも生態影響の生じるレベルではなさそうです。

知りたかったのは流入水サンプルの由来というか、ノンポイントソース(路面排水)が含まれているかでしたが、それに関する記述は見つけられませんでした。 

 

「地表水中の薬品の存在と浄水処理での除去

Huerta-Fontela M., Galceran M.T. and Ventura F., 2008, Stimulatory drugs of abuse in surface waters and their removal in a conventional drinking water treatment plant. Environ. Sci. Technol., 42(18), 6809-6816. 

上と同様に、飲料原水と処理水中の化学物質濃度を測定した研究。またスペイン。またnicotine部分のみ読んでみました。

河川水中のニコチン濃度は700~900 ng/Lで、日変動も季節変動もあまりない様子(例外的に秋に200 ng/Lになっているくらい)。塩素添加した後の処理水中のニコチンは、検出下限30 ng/L以下だったそうです。

 

「マーカー物質として下水中のカフェインとニコチンの代謝物を測定する

Senta I., Gracia-Lor E., Borsotti A., Zuccato E. and Castiglioni S., 2015, Wastewater analysis to monitor use of caffeine and nicotine and evaluation of their metabolites as biomarkers for population size assessment, Water Res., 74, 23-33. 

イタリアの下水処理流入水のニコチン、およびその代謝物のコチニン、trans-3'-hydroxycotinineをLC-MS/MSで測定した論文です。

流入水中のニコチン濃度は1.36~6.87 µg/Lの範囲。上のTeijonら (2010) と同レベルですね。

知りたかったノンポイントソースとの関連が、この論文でようやく見つかりました。ニコチン濃度は降雨とともに上昇するという結果(Fig. 4)。路面上のタバコ吸い殻による影響だろうと述べられてます。その寄与の定量的な評価はされてませんが。なお、代謝物のコチニンとtrans-3'-hydroxycotinine濃度は明確な降雨の影響を受けてません。

さらにニコチンのstabilityを評価する実験もおこなっていて、それによるとニコチンは4℃でも20℃でも少なくとも24時間は分解されないとのこと。

 

(追記:2016.02.26)

「晴天時および降雨時の都市沿岸域における医薬品の分布

Benotti M.J. and Brownawell B.J., 2007, Distributions of pharmaceuticals in an urban estuary during both dry-and wet-weather conditions, Environ. Sci. Technol., 41(16), 5795-5802.

受水域でのニコチン濃度が降雨によって増加するもう一つの例。下水処理による除去率(87%)も示されています。

(追記終わり)

 

 

ここからは、タバコの吸い殻の生態影響に関して。

Healton C.G., Cummings K.M., O'Connor R.J. and Novotny T.E., 2011, Butt really? The environmental impact of cigarettes, Tobacco Control, 20(Suppl 1), i1-i1.

Tabacco controlという雑誌の、吸い殻のポイ捨てに関する特集号の巻頭言。吸い殻浸出液の魚類に対する致死毒性を調べたSlaughter et al. (2011) も同じ号でした。

気になったのが"butts are also reported to comprise an estimated 25-50 percent of all collected litter items from roads and streets"という記述。出典は書いていないという。。。でも調べてみるとMoriwaki et al. (2009) は、路面堆積ごみの内のタバコ吸い殻の重量割合は22%と報告しててあながち間違いでもなさそう(ごみの数ベースだと71%)。※このMoriwaki et al. (2009) の重量割合は篩で分けた画分を対象にしているわけではないので(空き缶とかも含む)、水環境への影響の大きさを表した値ではない。

 

「タバコのポイ捨ては醜悪なだけでなく有害か?

Register K., 2000, Cigarette Butts as Litter- Toxic as Well as Ugly?, Underwater Natural., 25(2), 23-29. 

Daphnia magnaをタバコ吸い殻浸出液に曝露させた実験。一応メモ。

*1:この値の出典が見つけられませんでした…。