備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: RT-PCRを始めるにあたって読みたい文献

リアルタイムPCRを用いた遺伝子発現解析の原理、実験手法やデータ解析法について。

いちばん分かりやすく丁寧なのは、タカラサーモの日本語解説でしょう。特にサーモの「リアルタイムPCRハンドブック」は最高。それらを読んだ後に、将来論文に引用することを想定して読むべき文献は、下のようなものでしょうか。

  

 

全般的なことについて
Bustin S.A., Benes V., Garson J.A., Hellemans J., Huggett J., Kubista M., Mueller R., Nolan T., Pfaffl M.W., Shipley G.L., Vandesompele J., and Wittwer C.T., 2009, The MIQE guidelines: minimum information for publication of quantitative real-time PCR experiments, Clinical Chem., 55 (4), 611-622.

論文など公表するときに記載するべきことのリスト。MIQEガイドライン。公表する際のチェックリストですが、実験を始めるときにこれが頭に入ってると良いでしょう。

例えば、逆転写活性の阻害・PCRの阻害をチェックすべし、というのが必須項目に挙げられてますが、ちゃんと実施している論文は結構少ないかも。

 

 

実験手法について
Nolan T., Hands R.E., and Bustin S.A., 2006, Quantification of mRNA using real-time RT-PCR, Nature Protocols, 1 (3), 1559-1582.

Nature ProtocolのRT-PCR法まとめ。データ解析法は詳しくないですが、実験手法は一通り詳しく書いてます。

 

Taylor S., Wakem M., Dijkman G., Alsarraj M., and Nguyen M., 2010, A practical approach to RT-qPCR—publishing data that conform to the MIQE guidelines. Methods, 50 (4), S1-S5.

MIQEガイドラインに則った実験手法まとめ。

 

 

リファレンス遺伝子の選択について

遺伝子発現解析は、ハウスキーピング遺伝子群(リファレンス遺伝子)とターゲット遺伝子との発現量の相対比較でおこなうのが主流です。そのリファレンス遺伝子として18S rRNAやβアクチン、GAPDHなどがよく使われていますが、これらの発現量は条件によって変動することが広く知られています。なので、実験系によってリファレンス遺伝子を選び直すステップが必要になります。

では、どのようにしてベストなリファレンス遺伝子を選ぶのが良いのでしょうか。いくつかの方法が提案されています。BestKeeper、NormFinder、geNORMの3つを下に記しておきます。

  

Pfaffl M.W., Tichopad A., Prgomet C., and Neuvians T.P., 2004, Determination of stable housekeeping genes, differentially regulated target genes and sample integrity: BestKeeper–Excel-based tool using pair-wise correlations, Biotechnol. Letters, 26 (6), 509-515.

BestKeeper。Excelファイルがwebで配布されてます。

リファレンス遺伝子の選択方法はきわめて単純で、基本的に (i) Cp値のばらつきが小さく、(ii) 全部の候補リファレンス遺伝子のCp値の幾何平均と高い相関を示すような遺伝子を、安定的なリファレンスとして選択するというものです。

  

Andersen C.L., Jensen J.L., and Ørntoft T.F., 2004, Normalization of real-time quantitative reverse transcription-PCR data: a model-based variance estimation approach to identify genes suited for normalization, applied to bladder and colon cancer data sets, Cancer Res., 64 (15), 5245-5250.

次にNormFinder。ExcelのアドインとRスクリプトが公開されてます。 

 

Vandesompele J., De Preter K., Pattyn F., Poppe B., Van Roy N., De Paepe A., and Speleman F., 2002, Accurate normalization of real-time quantitative RT-PCR data by geometric averaging of multiple internal control genes, Genome Biol., 3 (7), research0034-1.

ソフトウェアgeNORMの元論文。geNORMは有料なので、自分は使っていませんが、そのアルゴリズムは論文を読めばわかるように、割と単純です。リファレンスに使える遺伝子の組なら、その相対発現比はどの細胞・条件でも1に近いはず、という仮定が根底にあるんですね。

(追記)

Rパッケージの"NormqPCR"はgeNORMを装備しているみたいです。もちろん無料。

 

 

相対定量の方法について

ΔΔCt法は下の2つをチェックすべし。プライマーの増幅効率が全て2と同等ならばLivakの2-ΔΔCtを用い、増幅効率がプライマーごとに異なるならばPfafflの方法を用いる。

Pfaffl M.W., 2001, A new mathematical model for relative quantification in real-time RT–PCR, Nucleic Acids Res., 29 (9), e45-e45. 
Livak K.J. and Schmittgen T.D., 2001, Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2− ΔΔCT method, Methods, 25 (4), 402-408.  

 

 

(追記)

こちらの記事に、発現量の有意差の統計的な検定法について書きました。t検定かノンパラか、など。