備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 28S rRNAのhidden breakについて

一部の生物種は、28S rRNAの真ん中あたりに切れ目が入っていることをこの記事に書きました。その切れ目はhidden breakと呼ばれ、28S rRNAが分裂するときに一部の塩基が消失することはgap deletionと呼ばれているみたいです。

今回は、hidden breakについて少し文献を読んだので、ここにまとめます。

 

 

ハダカデバネズミは分裂する28S rRNAを持ち、正確なタンパク翻訳をおこなう

Azpurua J., Ke Z., Chen I.X., Zhang Q., Ermolenko D.N., Zhang Z.D., Gorbunova V., and Seluanov A., 2013, Naked mole-rat has increased translational fidelity compared with the mouse, as well as a unique 28S ribosomal RNA cleavage, PNAS, 110 (43), 17350-17355.

なんとなく、すごく読みやすかった論文。

28S rRNAにhidden breakがあると報告されている生物種は、昆虫や甲殻類が多いみたいですが、ハダカデバネズミにもhidden breakがあるようです。28S rRNAの分裂はリボソームの構造に影響するので、タンパクの合成速度と忠実度(fidelity)も影響を受けるだろうと仮説を立てて、ハダカデバネズミの翻訳速度とfidelityをhidden breakがないマウスのそれと比較しています。

結果、翻訳速度はマウスと同じだったけど、ルシフェラーゼアッセイで測定した翻訳のfidelityはマウスよりも高かったそうな。Hidden breakの存在とfidelityとの関係は直接調べたわけではないのでそのあたりは強引な論文ですが、ハダカデバネズミを用いてる点がPNASに載る所以でしょうか…。

 

「哺乳類の28S rRNAにおける新規のプロセッシング

Melen G.J., Pesce C.G., Rossi M.S., and Kornblihtt A.R., 1999, Novel processing in a mammalian nuclear 28S pre‐rRNA: tissue‐specific elimination of an ‘intron’bearing a hidden break site, EMBO J, 18 (11), 3107-3118.

上の論文で引用されてた、哺乳類でも28S rRNAのhidden breakが見つかった例。今のところ哺乳類でhidden breakが見つかったのは、上の論文のハダカデバネズミとこの齧歯類だけみたいです。

面白いのが、睾丸testisのみでhidden breakのない28S rRNAも見つかっている点。他の部位ではイントロン?のところでhidden breakが生じるのに対して、testisではイントロンが除去されてhidden breakが生じない、ということ。そのあたりのメカニズムは良く分かってないみたいです。

 

アルテミアプラナリアの28S rRNAにおけるgap region

Sun S., Xie H., Sun Y., Song J., and Li Z., 2012, Molecular characterization of gap region in 28S rRNA molecules in brine shrimp Artemia parthenogenetica and planarian Dugesia japonica, Biochem, 77 (4), 411.

上に書いた哺乳類ではD6領域にhidden breakがありますが、他の昆虫や甲殻類ではD7a領域にhidden breakがあるそうです。

この論文は、2生物種のD7a領域のgap region近くをシーケンスしたものです。Terminal deoxynucleotidyl transferaseでcDNAの3末端にpolyG配列を付与して、その配列をもとに28S rRNAの片割れを読む手法など参考になりそう。

28S rRNAのD7a領域内のUAAUという配列が、hidden breakを持つ種に共通しているという知見があったけれど、この論文で調べたアルテミアにはUAAU配列は存在しなかったそうです。

 

シロイヌナズナ葉緑体23S rRNAのhidden break形成にはDEAD box proteinが必要

Nishimura K., Ashida H., Ogawa T., and Yokota A., 2010, A DEAD box protein is required for formation of a hidden break in Arabidopsis chloroplast 23S rRNA, Plant J, 63(5), 766-777.

今度は植物の葉緑体。28Sではなく23S。詳しくは読んでません。後で追記するかも。hidden breakのメカニズムについて。

 

 「トビケラの絹糸腺リボソームのキャラクタリゼーション」

Nomura T., Ito M., Kanamori M., Shigeno Y., Uchiumi T., Arai R., Tsukada M., Hirabayashi K., and Ohkawa K., 2016, Characterization of silk gland ribosomes from a bivoltine caddisfly, Stenopsyche marmorata: translational suppression of a silk protein in cold conditions, Biochem. Biophys. Res. Commun., 469 (2), 210-215.

こちらもメモ。

トビケラの28S rRNAもD7a領域にhidden breakがあるみたいです。面白いのが、冬にだけ80Sリボソームが分裂してしまうこと。冬は転写活性を抑えるために28S rRNAのhidden breakが発生するのではないか、と考察されてます。

あと、hidden breakとL23a proteinが関係しているかも、という話も始めて知りました。

(追記 2018.02.03)

L23a proteinとhidden breakについて。元ネタのRoss et al. (2007, Nucl Acids Res, 35) をざっと読みましたが、L23aがhidden breakを引き起こしている、というレベルの知見ではなさそう。L23aとリボソームの位置関係と、Hidden breakを持つ昆虫などがL23aに特徴的なドメイン(Histon H1-like domain)を持っていたという系統関係とをもとに考察されただけ? 上のNishimura et al. (2016) ほど因果関係を詰めているわけではない。

 

(追記 2018.06.12)

「菌類における26S rRNAの転写後marurationの同定

Navarro-Ródenas A., Carra A., and Morte A., 2018, Identification of an alternative rRNA post-transcriptional maturation of 26S rRNA in the kingdom fungi, Frontiers  Microbiol, 9.

菌類でhidden breakが見つかったよ、という報告。Desert truffles(砂漠のトリュフ?)の3種で26S rRNAのhidden break周りの塩基配列を読んでいます。