a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ:ヨーロッパの新しい水質モニタリング (EDAや網羅的な化学分析)

年始に参加させてもらった、混合物・複合影響評価に関する勉強会。その内容に近い論文を読んでみました。

 

ヨーロッパでの水質モニタリングの話。

河川には人為起源の多数の化学物質が含まれるので、決められた少数の物質だけモニタリングの対象にしていては不十分なのではないか。もっと生態系への影響を反映したモニタリングの方法を考えよう、的な論文たちを読んだので簡単なまとめです。

 

 

 

「将来の水質モニタリング ~混合物に適したツール~

Altenburger R, Ait-Aissa S, Antczak P, Backhaus T, Barceló D, Seiler T, Brion F, Busch W, Chipman K, de Alda M, de Aragão Umbuzeiro G, Escher B, Falciani F, Faust M, Focks A, Hilscherova K, Hollender J, Hollert H, Jäger F, Jahnke A, Kortenkamp A, Krauss M, Lemkine G, Munthe J, Neumann S, Schymanski E, Scrimshaw M, Segner H, Slobodnik J, Smedes F, Kughathas S, Teodorovic I, Tindall A, Tollefsen K, Walz K, Williams T, Van den Brink P, van Gils J, Vrana B, Zhang X, Brack W, 2016, Future water quality monitoring — Adapting tools to deal with mixtures of pollutants in water resource management, Sci Total Environ, 512-513, 540-551. 

ヨーロッパでは、水域生態系の保全のためにWater Framwork Directive (WFD) なる指令?を2000年に施行したそうな。WFDの目標達成を目指して、EU各国は2003年から法律を策定して頑張ってきたみたいです。(ここまでは年始の勉強会で聞いた話。ここ以降は↑の論文の話+解釈込み。)が、WFDで定められた"good ecological status"は未だ達成されてない場所が多い。というか、その原因が化学物質汚染なのかどうかも良く分からん、という状況らしいです。

問題を難しくしている一つは、河川中に多数の化学物質が共存していることです。冒頭に書いた通り、少数の物質のみ測定の対象としていても影響を過小評価してしまうし、また、複数物質が共存するときには単一で存在するときと異なる影響を生物に及ぼす(Combined effects)こともあります。そんな複雑な環境における化学物質モニタリングのあるべき姿?を提案しているのが本論文です。

大きく3つのアプローチ、(i) 化学分析、(ii) Effect-ased tools、(iii) Effect-directed analysis (EDA) を使おう、と書いてます。

まず化学分析。検出される物質のパターンをクラスター分析などで解析し、「この物質とこの物質はよく一緒に検出されるね」みたいな傾向をつかむのが大事だと言っています。

次にEffect-base tools。化学分析だけだと本当に影響が出るかわからないので生物応答を指標にして、影響をしらべようねという話です。Whole effluent Toxicity (WET) 的な考えですね。指標とする生物応答は、重大な悪影響につながるものでないとダメなので、そこはAdverse Outcome Pathways (AOP) の考えを援用するそうです。ただ通常のAOPと違い、混合物を対象にしているので"individual initiating events"よりむしろ"common adverse outcome"を指標にするみたい。…これ、どういうこと? AOPの個々の"molecular initiating events"に捉われないということかと理解したけど、具体的に何を見るのか…?表3とAOPの関係は?

最後にEDAを使って"driver chemicals"を同定する。多数の化学物質が共存すると言っても、実際には少数の物質が悪影響の引き金となっています。その少数の物質をdriversと呼び、それらを同定するのがEDAです。EDAは、環境水の分画と各画分に対するレポーターアッセイなどを繰り返して、どの画分(とどの物質)が悪影響の原因かを探る手法です。

勉強会の良い復習になりました。けど総説なので、やっぱりふわふわした読後感。

 

 

「ヨーロッパの河川中の微量汚染物質:effect-based toolsのためのMoA調査

Busch W, Schmidt S, Kühne R, Schulze T, Krauss M, Altenburger R, 2016, Micropollutants in European rivers: A mode of action survey to support the development of effect-based tools for water monitoring, Environ Toxicol Chem, 35, 1887-1899. 

ETCのFocus論文。面白かった。

基本的には、河川水中の化学物質を網羅的に分析した6つの論文を再解析した研究です。6つの論文で実際に検出された426物質を対象に、Hazard Quotient (HQ = 測定濃度/毒性値) を算出し、また文献情報をもとに各物質の作用機序(Mode of Action; MoA)をざっくり31種に分類してます。

たぶんこの論文のメイン部分で、かつ面白いのが、MoAごとにHQの合計値を求めている点。HQ合計値が大きいMoAは悪影響につながりやすいと見做して、そのMoAを検出できるbioassaysをモニタリングのツール(effect-based tools)に使おう、という議論をしています。EDA的な考え方ですね。ただ、割り当てられているMoAがobserved adersed effects(致死など毒性値を求めるベースとなったエンドポイント)の原因であるとは限らないんですよね…。そのちぐはぐ感は拭えません。

他にも手法上の課題はかなりあるみたいです。MoAをざっくり分けている点や、毒性値の実験データがない場合はQSARで予測していてそれが実際の値と離れている点など。

単純に読んだあと気になったのは、河川水に生物を曝露させたとき、そのMoAは何に分類されるのかなぁということ。各物質HQの合計値が高いMoAと一致しているのかどうか。

 

 

「水質モニタリングに用いる生物試験の組み合わせ:微量汚染物質による毒性への寄与

Neale P, Altenburger R, Aït-Aïssa S, Brion F, Busch W, de Aragão Umbuzeiro G, Denison M, Du Pasquier D, Hilscherová K, Hollert H, Morales D, Novák J, Schlichting R, Seiler T, Serra H, Shao Y, Tindall A, Tollefsen K, Williams T, Escher B, 2017, Development of a bioanalytical test battery for water quality monitoring: Fingerprinting identified micropollutants and their contribution to effects in surface water, Water Res, 123, 734-750. 

34個の化学物質に対して、in vivo・invitro含む20種類のバイオアッセイをおこなった研究(化学物質は、↑のBuschら(2016) のHQをもとに選定)。データが膨大過ぎて、詳細は正直追えてません。Water Res 誌でも最近はこういう論文多いです。NatureとかScience並みのSupporting Info。査読者も大変ですね…。

結論は「bioassayの種類によって検出できる毒性の得手不得手があるから、色々な試験を組み合わせよう(意訳)」で、無難な感じ。

個人的には、次のような結果を示してくれているのが嬉しい。

・Daphnia magnaの遊泳阻害試験やfish embryo toxicity test (FET) などのwhole-organism試験は、大部分の化学物質の影響を検出できる。ただし、その濃度レベルはin vitroの試験に比べると高め。

また、この論文で得られたデータを、既往の河川の化学分析結果に適用してmixture toxicity modelingもしてます。

 

 

 

 

なんとなく、彼らがやろうとしていることが理解できました。

水質モニタリングでの化学分析をもっと網羅的におこなう、モニタリングに導入するbioassayの種類はメカニズムベースで考える(なるべくin vitroでやりたい)、測定した物質で毒性影響が説明できるかどうかはmixture toxicity modelingで確かめる、EDAで毒性のdriversを探索する。そんなところでしょうか。

ただEDAはルーティーンでやるのかな?かなり面倒な気が…。