備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 水生生物の体内に蓄積した金属の細胞内局在と毒性影響との関係

このへんの論文と関係ある話。体内の全蓄積量よりも、解毒された量を除いた画分の量の方が、毒性影響に関係しているのではないかという話。

 

二枚貝におけるCd・Znの細胞内局在:MSFとBDMの重要性

Wallace WG, Lee BG, Luoma SN. 2003. Subcellular compartmentalization of Cd and Zn in two bivalves. I. Significance of metal-sensitive fractions (MSF) and biologically detoxified metal (BDM). Marine Ecol Prog Ser 249, 183-197. 

この分野で古典になっている論文。体内金属の分画手法が多く引用されてます。オルガネラとheat denaturable protein(下図のNon-MTLP)の合計であるMSF(metal-sensitive fraction)が、毒性を引き起こす金属画分として挙げられているけど、その画分が毒性とリンクしていることの証拠は特にこの論文にはない。もっと遡る必要あり。

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「オオミジンコの細胞内亜鉛分布とその毒性への関連

Wang WX,  Guan R. 2010. Subcellular distribution of zinc in Daphnia magna and implication for toxicity. Environ Toxicol Chem, 29 (8), 1841-1848.

オオミジンコの亜鉛MSFを測定し、48h急性致死との関係を調べた論文。亜鉛の曝露濃度を増してもMSFはきれいに増えない。むしろcelluar debris画分(細胞膜など)が曝露濃度に対応して増える。この論文では、MSFはオオミジンコの急性毒性の指標にはならない、と結論づけてますが、cellular debrisが毒性の指標になるかも、という方向性は考えられないのかな。あと、甲殻類の場合、殻に含まれる画分はどこに分類されるんでしょう?元ネタのWallaceら(2003)は二枚貝だし…。あと急性毒性は、解毒とかほとんど関係なさそうなので細胞内局在を指標にすることの効果は薄いのかも。

この論文は4日~14日の曝露も実施していて、その時のZnの大部分はCellular debris画分ではなく、オルガネラとメタロチオネインなどのheat-stable proteins画分に移行していました。このことから、急性と慢性では毒性のメカニズムが違うのかと思ったけど、どうなんでしょ。

  

「カキC. hongkongensis亜鉛感受性の地域差

Liu F, Rainbow PS, Wang WX. 2013. Inter-site differences of zinc susceptibility of the oyster Crassostrea hongkongensis. Aquatic Toxicol, 132, 26-33.

MSFの方が全蓄積量より、致死毒性の予測に適しているという話。けどその根拠が適切なのかは良く分からないです。MSFと致死を対数線形回帰しているけど…。

 

「2種のヨコエビにおけるCdの摂取速度と細胞内局在は致死影響を説明できるが…

Jakob L, Bedulina DS, Axenov-Gribanov DV, Ginzburg M, Shatilina ZM, Lubyaga Y A, Madyarova EV, Gurkov AN, Timofeyev MA, Pörtner HO, Sartoris FJ,  Altenburger R, Luckenbach T. 2017. Uptake kinetics and subcellular compartmentalization explain lethal but not sublethal effects of cadmium in two closely related amphipod species. Environ Sci Technol, 51, 7208-7218.

あとで読む。

精読はしてません。同属だがサイズが10倍以上異なる2種のヨコエビをCdに4週曝露させて、感受性・摂取速度・MSF蓄積量などを比較した論文。体の大きいE. verrucosusの方が感受性が低く、代謝率が低いせいかな、という話。

同じ影響レベル(LC1)の曝露時は、2種のMSF濃度がほぼ同じというCampanaら(2015)と似たような結果を示してます。

 

ヨコエビの金属細胞内局在を調べる手法の比較

Geffard A, Sartelet H, Garric J, Biagianti-Risbourg S, Delahaut L, Geffard O. 2010. Subcellular compartmentalization of cadmium, nickel, and lead in Gammarus fossarum: comparison of methods. Chemosphere 78 (7), 822-829. 

体内の細胞質基質cytosolに蓄積した金属のうち、MTLP(メタロチオネイン様タンパク質; metallothionein-like protein)とnon-MTLPに分画する手法には主に、加熱時に安定している画分をとMTLPとみなす手法と、サイズ分画する手法との2つがあります。その2つの手法を比較した論文。

手法の差は大きいという結果。例えば熱処理法ではCdのMTLP画分>non-MTLPなのに、サイズ分画法では逆転している、など。考察によると、加熱処理後にheat sensitive proteins(=non-MTLP)が金属と錯体を形成してしまうためではないかとのことです。つまり熱処理法ではnon-MTLP量を過小評価しているみたいです。