備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: EDA・TIEについての最近の論文

最近出たEDA(Effect-Directed Analysis)とTIE(Toxicity Identification Evaluation)に関する論文。

   

「底質の複雑な毒性の診断:TIEとEDA

Li H., Zhang J., You J., 2017, Diagnosis of complex mixture toxicity in sediments: application of toxicity identification evaluation (TIE) and effect-directed analysis (EDA), Environ Pollution: in press.

総説。様々な化学物質が混在している汚染底質の中で、具体的にどの物質が悪影響の原因になっているのかを探る手法にSediment TIEとEDAがあります。その2つの手法の欠点を補い合い、より効果的に悪影響の原因物質を同定しようという話。ざっと読んでみて、Burgess et al. (2013, ETC) の総説から新しい話はほぼなさそうでした。TIEの利点はbioavailabilityを考慮してる点で、EDAの利点は有機物の細かい分画を実施してる点。それぞれの欠点は逆。↓表にするとこんな感じ。

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で、EDAでおこなう有機の分画をTIEでやれば良いよね、その時は強力な有機溶媒で抽出したりせずbioavailabilityを考慮したpassive samplingなどの手法を使おうね、という話の展開。最後、おまけ程度にAOP(Adverse Outcome Pathways)の話もあります。

同じグループから同時期に似たような総説も出てるみたいです↓。 こちらは未読。

You J., Li H., 2017, Improving the accuracy of effect-directed analysis: the role of bioavailability, Environ Sci Processes Impacts

 

 

「パッシブドージングとin vivo毒性試験を組み合わせた底質EDA

Qi H., Li H., Wei Y., Mehler W.T., Zeng E.Y., You J., 2017, Effect-directed analysis of toxicants in sediment with combined passive dosing and in vivo toxicity testing, Environ Sci Technol 51:6414-6421.

上の総説で引用されていたもの。総説で言うところのbioavailabilityを考慮した新しいEDAとはこの論文の内容を指すっぽいので、 実際の研究の流れを知りたければ総説よりこちらを読むべし。

河川底質を有機溶媒で抽出し、その抽出物をゲル浸透クロマト等で分画して毒性試験に使ってます。ここまでは伝統的なEDAですが、抽出物の曝露をポリジメチルシロキサン(PDMS)によるpassive dosingでおこなってることと、毒性試験はユスリカ(in vivo)でおこなってることがこの論文の新しい点だそうです。

目指している方向性は共感出来ますが、毒性原因物質であることの確認が底質含有量と毒性(致死率・バイオマーカー応答)との相関というのは少し弱い気が・・・。考察で述べられているようにどのdosing手法を用いるかによって物質ごとのavailabilityが変化するので、passive dosingを用いずに原因物質かどうかを確認するステップは大事だと思います。

というか、passive dosingがbioavailabilityを模擬?できているのかという根本的な疑問があります。このあたりは勉強したいけど、「こういう操作をしたらこういう結果が得られた」と割り切った方が良いかも。

 

 

「殺虫剤耐性に関する変異を用いて環境試料の毒性原因を同定する

Weston D.P., Poynton H.C., Major K.M., Wellborn G.A., Lydy M.J., Moschet C., Connon R.E., 2018, Using mutations for pesticide resistance to identify the cause of toxicity in environmental samples, Environ Sci Technol 52: 859-867.

面白い!

ピレスロイド系殺虫剤に耐性のある野生集団と耐性のないlab集団の両者を用いて汚染水への曝露試験をした時に、集団間で応答の違いがあれば、その原因はピレスロイド系殺虫剤と分かる、という話。このような、変異mutationによる感受性の違いを利用して、毒性原因物質を推測する手法をbiological TIEと名付けてます。

殺虫剤への耐性がある集団をlabで非汚染下で継代飼育しても、耐性はある程度維持できるそう。ピレスロイド系殺虫剤への耐性がある集団は、DDTに対しては高い感受性を有していました。この原因は不明みたいですが、交差耐性cross-resistanceの逆が生じているんですね。この現象を考えると、biological TIEというコンセプトは実現可能性が低い気もします(というかとりあえず名付けてるだけでは・・・)。ただ方向性は面白いし、AOPEDAの発展した先は実はこんな感じではないかと妄想させてくれます。

1塩基の変異×2がピレスロイド系殺虫剤の耐性獲得につながってるそうです(Weston et al., 2013, PNAS)。