備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: オオミジンコの遺伝的多様性と感受性

「オオミジンコの遺伝的多様性と生態毒性学的評価

Picado A., Chankova S., Fernandes A., Simões F, Leverett D, Johnson I, Hernan R, Pires AM, Matos J, 2007, Genetic variability in Daphnia magna and ecotoxicological evaluation, Ecotoxicol. Environ. Saf. 67 (3): 406–410. https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2006.10.004.

OECDやISOによって(オオ)ミジンコを用いた毒性試験が標準化されていますが、どの系統を使用するかについては定められていません。しかし系統によって感受性が異なることが知られています。そこで、その差が遺伝子の多型によるものなのかを調べた論文。

多型の評価にRAPD(random molecular typing technique)を使用していて、前時代感あり。ヨーロッパのラボの7集団における19座位をRAPDで調べて、硫酸亜鉛、二クロム酸カリウム、排水試料の急性毒性値との関連を比較しています。硫酸亜鉛と二クロム酸カリウムについてはほぼ差が生じてませんが、排水についてはEC50に10倍以上の差が検出されてます。ただ、RAPDの結果との明確な関連は見つけられなかったみたいです。

まあランダムな変異じゃなくてターゲットで見た方が良さそう。

 

 「エチルパラチオンに対するオオミジンコの感受性に寄与する生化学的要因

Barata C, Baird DJ, Soares AMVM, Guilhermino L, 2001, Biochemical factors contributing to response variation among resistant and sensitive clones of Daphnia magna Straus exposed to ethyl parathion, Ecotoxicol. Environ. Saf. 49(2): 155-163.

上の論文よりはかなりしっかりしてます。3つのラボ系統と2つの野外系統で、エチルパラチオンに対する感受性の違いを調べた論文。in vivoの毒性試験だけでなく、ミジンコの破砕液を使ってin vitroのAChEの活性試験も実施してます。

in vivoのEC50では3倍以上の差が見られたのに、in vitroのAChE活性ではほぼ差が見られなかったという結果。AChE活性ではなく、エチルパラチオンの代謝など他の活性の違いで決まったのでは、との考察。

 

 「オオミジンコのCd耐性はhsp70の発現

Haap T, Köhler HR, 2009, Cadmium tolerance in seven Daphnia magna clones is associated with reduced hsp70 baseline levels and induction, Aquatic Toxicol., 94(2): 131-137.

7つの系統でCdの急性毒性値とヒートショックプロテイン70 (hsp70) の発現との関連をしらべた論文。感受性が高い系統ほど、hsp70の発現量が低かったとのこと。ただ体内Cd蓄積量とhsp70発現量との間に関連は見られなかったそうです。

せっかくきれいな実験をしているので、他の酵素の反応も見てみたい…。メタロチオネインとか。考察にはいろいろ書かれていますが。

 

 「複数のオオミジンコ系統を用いた急性毒性感受性の比較研究

Baird DJ, Barber I, Bradley M, Soares AM, Calow P, 1991, A comparative study of genotype sensitivity to acute toxic stress using clones of Daphnia magna Straus. Ecotoxicol. Environ. Saf. 21(3): 257-265.

この話題で良く引用されている論文。ちゃんと読んでない。

 

 

 

以下は、野外集団の系統地理に関する論文。地域間のオオミジンコの遺伝的距離の大きさはこれらを読めば良い、はず。とりあえずメモ。

De Gelas K, De Meester L, 2005, Phylogeography of Daphnia magna in Europe, Molecular Ecol, 14(3), 753-764.

ミトコンドリアのシトクロームCオキシダーゼサブユニットI(COI)609 bpを読んでます。日本のラボ系統も含まれてます。これもちゃんと読んでない。プライマーはFolmer et al., 1994のLCO1490とHC02198。

 

Bekker EI, Karabanov DP, Galimov YR, Haag CR, Neretina TV, Kotov AA, 2018, Phylogeography of Daphnia magna Straus (Crustacea: Cladocera) in Northern Eurasia: Evidence for a deep longitudinal split between mitochondrial lineages, PloS One, 13(3), e0194045.

COI以外にも16S rDNA、18S rDNAやHSP90などを読んでますが、解析はCOIのみで実施。ロシアあたりの野外集団中心。