備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: ToxCastデータを用いた高リスク化学物質の優先順位付け

米国のToxCast and Tox21プログラムで多数の化学物質に対するin vitro assayデータが生み出されています。それらのデータを、環境中の化学物質モニタリングデータと組み合わせて、リスクの高い化学物質をスクリーニングしようと試みた論文。方向性はここで書いた欧州のSOLUTIONSに近い。

 

「HTSデータとAOPを用いた五大湖支流における生態リスク化学物質の優先順位付け

Corsi SR, De Cicco LA, Villeneuve DL, Blackwell BR, Fay KA, Ankley GT, Baldwin AK, 2019, Prioritizing chemicals of ecological concern in Great Lakes tributaries using high-throughput screening data and adverse outcome pathways, Sci Total Environ 686, 995-1009.

USGSとUSEPAの共同研究。同時期に似たような論文がいくつか出てます。例えばBlackwellら(2017, EST)やRoseら(2019, Sci Total Environ)など。環境水中の有機物質を網羅的に定量分析し、ToxCastなどのHigh-Throughput Screening(HTS)データと合わせて生じ得る生態リスクのスクリーニングをおこなうという流れ。

リスクの指標はExposure-Activity Ratio(EAR)。Hazard QuotinentやToxic Unitと同様に、環境中濃度を活性濃度(AC50やACC; activity concentration at cut-off)で割ったもの。EARの算出は、ToxEvalというRパッケージで簡単に実施できます。ToxEvalの使い方はこちらExcelファイルに化学物質のCAS番号、測定濃度とカテゴリー(例えば医薬品、農薬など任意に設定可能)、サンプリング場所の名称と緯度経度だけを入れればOK。ちなみにこの論文では65物質を検出しており、その内54物質がToxCastにデータあり、48物質がToxCastで影響あり、とのこと。

このCorsiら(2019)はさらに、HTSのエンドポイントをAOP networkにマッピングしています。AOP wikiから250のAOPsをダウンロードしてHTSのエンドポイントと紐づけ(↓Table SI-5)。Ivesら(2017)オントロジーを参考にしたそうですが、いまいちどうやって作成したのか見えにくい。

f:id:Kyoshiro1225:20190831145002j:plain

 

そしてAOPのパスウェイごとにEARを加算し、どのパスウェイが影響を受けそうなのか予測してます(この時に生態学的に意義の低いAOPは除外)。例えば、ニコチン性アセチルコリン受容体の活性化から死に至るまでのパスウェイやエストロゲン受容体のアゴニズム作用による繁殖能低下などのパスウェイが着目されてます。対応する物質は農薬のDEETやBisphenol A、4-ノニルフェノールなど。

中々面白い論文でした。手法では突っ込みどころも多い。たぶん査読でも言われているんでしょう、ただし書きが多いです。"the analysis of AOP network is in its infancy"とか。あくまでも将来的なモニタリングの優先順位づけであって、実際のリスク評価ではない、とか。またin vitro assayの試験時にはwellへの吸着など化学物質の活性・availabilityを考慮していないので、in vitro assayの活性と実環境の活性は異なるだろう、とか。まあ本当に方向性を探っている段階でしょうから、課題を正直に羅列してくれているのはありがたいことです。

この論文だけではやりっぱなし、言いっぱなしの感がぬぐえないので、「答え合わせ」としてin vitroのassayをぜひやって欲しいですね。もうやってるのかな?

 

 

この論文の肝になっているTable SI-5を少しいじってみます。336のHTSエンドポイントが129のAOP Key Event(KE)と関連しています。

#Table SI-5を"data"という名前で格納

librray(igraph)

g<- graph_from_data_frame(data[,c(2,6)])
V(g)$type <- bipartite_mapping(g)$type    ##2部グラフなので
V(g)$color <- ifelse(V(g)$type, "lightblue", "salmon")
plot(g, edge.arrow.size=0.3, layout = l, vertex.size=5, vertex.label=NA)

f:id:Kyoshiro1225:20190831152206p:plain

(赤:HTS assayのエンドポイント, 青:AOPsのKey Event)

kable( degree(g)[degree(g)>50] )

 

| | x|
|:-----------------------------------------------------------------|---:|
|N/A, Cell injury/death | 252|
|Apoptosis | 126|
|Increase, Mitogenic cell proliferation (hepatocytes) | 63|
|N/A, Mitochondrial dysfunction 1 | 270|
|Damaging, Mitochondria | 54|
|Increased, Oxidative Stress | 60|
|Increased, secretion of proinflammatory and profibrotic mediators | 82|

## 細胞死やアポプトーシスのような一般的なKEが多くのHTS endpointsと結びついていることが分かる