備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 種の感受性分布における自己相関の補正

種の感受性分布(Species Sensitivity Distribution; SSD)。

化学物質に対する生物種の感受性は、経験的に対数正規分布にフィットすることが知られています。その性質を利用して累積分布関数で種の感受性を表現したのがSSDです。SSDを利用して5%の種が影響を受ける濃度、すなわちHC5(5% Hazardous Concentration)等を求め、リスク評価をおこなうことができます。

 

Moore DR, Priest CD, Galic N, Brain RA, Rodney SI, 2020, Correcting for phylogenetic autocorrelation in species sensitivity distributions, Integrated Environ Assess Manag 16(1): 53-65.

SSDはデータが独立であることを仮定しているが、多くの解析でその仮定は守られていません。近縁種は化学物質に対する感受性も似通っていますが、近縁な複数の種のデータを一緒くたにして解析することは珍しくありません。つまり自己相関(autocorrelation)のあるデータがそのまま頻繁にSSDに持ち込まれています。

殺虫剤クロルピリフォスと除草剤アトラジンを例に、自己相関を考慮して求めたHC5と考慮していないHC5とを比較したのが上記論文です。具体的には、自己相関があると有効サンプルサイズが減少するため(neff -> neff')、neff'を用いて対数正規分布の分散を求め直し、補正しています。遺伝的距離をもとに自己相関の程度を求め、neff'を求めているのですが詳細は正直理解できませんでした。

果、もともとのサンプルサイズが30個ほどある場合には、自己相関の考慮によってHC5の値はほぼ影響を受けませんでした(Fig.3の赤と青が完全に重なっている…)。サンプルサイズが9個の場合でも自己相関がなければ同様。サンプルサイズが少なくて自己相関の高い極端なデータセットの場合にのみ影響があるとのこと。

 

USEPAが開発している、DNA配列から種の感受性を予測するプログラムSeqAPASS(LaLone et al., 2016)は、このような補正に使用されるのが現実的な落としどころかと思ったり。でも論文の結論は地味でした。