備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 無脊椎動物のAhR発現

脊椎動物では、いわゆるダイオキシン類やPAHsがAhR(aryl hdrocarbon receptor)に結合し、CYP1Aなど多くの遺伝子の発現を誘導することが知られています。一方、無脊椎動物ではダイオキシン類はAhRと結合しないと言われてます。 

 

Hahn ME, 2002, Aryl hydrocarbon receptors: diversity and evolution. Chemico-biological Interactions, 141(1-2): 131-160.

少し古いけど、AhRの進化をまとめた総説。無脊椎のAhRの話もまとまってます。

線虫C. elegansやショウジョウバエ二枚貝のAhRは、in vitroの系でTCDDやβナフトフラボン(脊椎動物でのAhRリガンド)によって活性化しないことが確かめられています。ショウジョウバエではAhRホモログ(spinelessと呼ばれるらしい)を欠損させると触角の末端が脚の末端になってしまうのだとか。AhRは元々細胞の分化などに関与していて、異化代謝脊椎動物から得られた機能ではないか、というお話。

 

Nebert DW, 2017, Aryl hydrocarbon receptor (AHR):“pioneer member” of the basic-helix/loop/helix per-Arnt-sim (bHLH/PAS) family of “sensors” of foreign and endogenous signals, Progress in Lipid Research, 67: 38-57.

AhRもう少し新しい総説でも同様に、無脊椎動物のAhRホモログは外来化学物質とのリガンド結合能を持たないと書いてます。しかし、AhRが他の内在性リガンドによって活性化されるという経路は否定されていないことも述べてます。

事実、無脊椎動物でも芳香族炭化水素によってAhRホモログの発現が増加するというin vivo系の報告はいくつかあるようです。例えば↓のHan et al. (2019)。脊椎動物のAhRリガンド(βナフトフラボンとか)で、無脊椎のin vivo CYP発現が誘導されるという報告も多いです。例えば↓のWatanabe et al. (2003)。

 

Han J, Park JC, Hagiwara A, Park HG, Lee JS, 2019, Identification of the full 26 cytochrome P450 (CYP) genes and analysis of their expression in response to benzo [α] pyrene in the marine rotifer Brachionus rotundiformis, Comparative Biochemistry and Physiology Part D: Genomics and Proteomics, 29: 185-192.
Watanabe H, Kobayashi K, Kato Y, Oda S, Abe R, Tatarazako N, Iguchi T, 2008, Transcriptome profiling in crustaceans as a tool for ecotoxicogenomics, Cell Biology and Toxicology, 24(6): 641-647.

 

てことで、無脊椎動物では「炭化水素→AhR→CYP」以外の経路があるんでしょう。たぶん。

MDPIの査読をやってみた

スイスに本社を置く中国系の学術誌出版社MDPI。

MDPIの雑誌は、BiologyとかChemistryとかMetabolitesとか一単語のジャーナル名が多く、全部オープンアクセス。頻繁に勧誘メールを送り付けてくることで有名。

2019年9月からは東京にオフィスを構えたとか。

 

自分はMDPIに投稿したことはないのですが、数回査読依頼が来ました。初めの2回は、自分の専門と全然離れていた内容だったこともあり断っていましたが、3回目は専門に近かったので査読を受けることに。それから月1くらいで依頼が来て、計4回はなんとなく引き受けてましたが、もう受けないかも。

 

 

なんといっても論文の質が低過ぎます。

新規性はないわ、論文というよりただの報告だわ、論文の目的は書いてないわ、結果張り付けて終わりの解釈なしだわ、考察はただの一般論だわ、Excelのデフォルトの図を張り付けてるわ、英語は読みにくいわ(これはお互い様かも)。

そしてrejectにしたら、毎回major revisionで帰ってきて、再度コメントをする羽目に。なんでやねん。

他のreviewerのコメントは適当なの多過ぎ。2行くらいのコメントでminor revision、指摘しているのはタイポのみ、みたいな。rejectにしているreviewerの方が懇切丁寧に指摘している気がします。

「自分が査読しなければ、この低レベルな論文がそのまま出版されてしまう」という問題意識から査読してましたが、面白い論文を読めるという査読の醍醐味がなさ過ぎて、引き受ける意欲が激減。

 

 

とか書いておいて、MDPIは査読を担当したら投稿料の割引がもらえるので、いつかは自分の関連分野の雑誌(Water、Toxics、IJMSあたり?IJMSはMDPIの中では比較的印象良いかも。)に投稿しても良いかも。その時はしっかりとした質の原稿を準備します。

(追記 2020.09:やっぱMDPIへの投稿はないか。MDPIに投げるくらいなら日本の雑誌Open Accessの所に投稿します。)

論文は玉石混合でもどんどんオープンにして、出版されてから評価していこうという流れにMDPIも乗っているのでしょう(かただの金もうけかは知りませんが)。その流れは基本賛成です。

 

ちなみにMDPIの投稿料(APC)は大体1000~1800 CHFで、一回の査読でもらえた割引が50 CHFだったので(100 CHFの時もあった)、割引だけで投稿するには20回以上査読しないとですね。

 

 

 

(さらに追記。2023.11.27)

もうMDPIの査読は引き受けないかも、と書いておきながら未だに、たまに引き受けています。年に1~2回、自分の専門にぴったり合っている場合のみですが。

上に書いたときよりも、少しだけ論文のクオリティがましになっているような気がします…。自分の査読本数がそもそも多くないため、ただの偶然かもしれませんが・・。

 

論文のメモ: ネオニコチノイド系農薬による宍道湖漁獲高への影響

ネオニコチノイドが水系食物網を崩壊させ漁獲高を減少させる

Yamamuro M., Komuro T., Kamiya H., Kato T., Hasegawa H., Kameda Y., 2019, Neonicotinoids disrupt aquatic food webs and decrease fishery yields, Science 366: 620-623.

話題になっていたのでざっと読んでみました。ネオニコチノイド系農薬によってユスリカなど無脊椎動物が減少し、それらを餌とするウナギやワカサギが減少したという話。

大筋には異論ないし、ネオニコが長期的に影響していることはありそうに思えます。汽水に着目してるのも面白い。

ですが、ネオニコの使用が開始された1993年から急に影響が出始めた、という風に読めるのはちょっと書きすぎでは…。1993~1995年のネオニコ(というかイミダクロプリド)の出荷量はFig.1から現在(2018年の値はないけど)の1/5程度。2018年のイミダクロプリドの実測濃度が約0.01 μg/L(Fig. S10)なので、1993~1995年の濃度はおそらくそれ以下であり、冒頭で引用している慢性影響が懸念される濃度 0.035 μg/L(Morrissey et al., 2015, Environ. Int.; 未確認)より低いことになります。それほど低濃度の農薬の影響が散布された年に急に現れるとは思えません…。もちろん農薬の濃度は時空間的なばらつきが大きいから、当時局所的にめちゃ高濃度なところがあった可能性は否定できませんがね。

調べたら1993年は記録的な冷夏ということなので、1990年代初頭に限ってはその影響の方が大きいように思えます。と言ってもこんな素人考え的なことは既に考慮されてるでしょうか。

まあでも、こういう疫学的な研究は大事。もっと多角的に攻めれば(例:Nakanishi et al., 2018)、因果関係の信頼性はより強固になるでしょう。

あとこれほど長期のモニタリングデータがあるのは素晴らしいですね。

 

(2019.11.06追記)

 こんな指摘も。

 

アセンブラFlyeのインストール

※2019.10.16追記。Flye ver 2.6(2019.09.16~)からPython 3に対応したそうです。タイミング悪かった…。

 

この記事(MaSuRCAのインストールエラー)の続き。

今度はCanuよりも評判が良いFlyeをインストール。MaSuRCAで苦しんだのでBiocondaでインストールしようとするも、Flyeはpython 2.7に依存しているがUbuntuにはpython 3.7を入れているのでコンフリクトエラーでインストールできず。

conda install -c bioconda -y flye

上のコマンドに対して下のようなエラー。

Collecting package metadata (repodata.json): done
Solving environment: failed with initial frozen solve. Retrying with flexible solve.
Solving environment: \
Found conflicts! Looking for incompatible packages.
This can take several minutes. Press CTRL-C to abort.
failed

UnsatisfiableError: The following specifications were found
to be incompatible with the existing python installation in your environment:

- flye -> python[version='2.7.*|>=2.7,<2.8.0a0']

If python is on the left-most side of the chain, that's the version you've asked for.
When python appears to the right, that indicates that the thing on the left is somehow
not available for the python version you are constrained to. Your current python version
is (python=3.7). Note that conda will not change your python version to a different minor version
unless you explicitly specify that.

The following specifications were found to be incompatible with each other:

 

Package setuptools conflicts for:
python=3.7 -> pip -> setuptools
flye -> python=2.7 -> pip -> setuptools
Package wheel conflicts for:
python=3.7 -> pip -> wheel
flye -> python=2.7 -> pip -> wheel
Package pip conflicts for:
flye -> python=2.7 -> pip
python=3.7 -> pip
Package ca-certificates conflicts for:
python=3.7 -> openssl[version='>=1.1.1a,<1.1.2a'] -> ca-certificates
flye -> python=2.7 -> ca-certificates
Package certifi conflicts for:
flye -> python=2.7 -> pip -> setuptools -> certifi[version='>=2016.09']
python=3.7 -> pip -> setuptools -> certifi[version='>=2016.09']

 

Python - pythonのバージョンが上げられません|teratail

 

このページを頼りに、仮想環境を作るとインストールできました。

conda create -n py27 python=2.7 anaconda

conda activate py27

conda install -c bioconda -y flye

論文のメモ: ToxCastデータを用いた高リスク化学物質の優先順位付け

米国のToxCast and Tox21プログラムで多数の化学物質に対するin vitro assayデータが生み出されています。それらのデータを、環境中の化学物質モニタリングデータと組み合わせて、リスクの高い化学物質をスクリーニングしようと試みた論文。方向性はここで書いた欧州のSOLUTIONSに近い。

 

「HTSデータとAOPを用いた五大湖支流における生態リスク化学物質の優先順位付け

Corsi SR, De Cicco LA, Villeneuve DL, Blackwell BR, Fay KA, Ankley GT, Baldwin AK, 2019, Prioritizing chemicals of ecological concern in Great Lakes tributaries using high-throughput screening data and adverse outcome pathways, Sci Total Environ 686, 995-1009.

USGSとUSEPAの共同研究。同時期に似たような論文がいくつか出てます。例えばBlackwellら(2017, EST)やRoseら(2019, Sci Total Environ)など。環境水中の有機物質を網羅的に定量分析し、ToxCastなどのHigh-Throughput Screening(HTS)データと合わせて生じ得る生態リスクのスクリーニングをおこなうという流れ。

リスクの指標はExposure-Activity Ratio(EAR)。Hazard QuotinentやToxic Unitと同様に、環境中濃度を活性濃度(AC50やACC; activity concentration at cut-off)で割ったもの。EARの算出は、ToxEvalというRパッケージで簡単に実施できます。ToxEvalの使い方はこちらExcelファイルに化学物質のCAS番号、測定濃度とカテゴリー(例えば医薬品、農薬など任意に設定可能)、サンプリング場所の名称と緯度経度だけを入れればOK。ちなみにこの論文では65物質を検出しており、その内54物質がToxCastにデータあり、48物質がToxCastで影響あり、とのこと。

このCorsiら(2019)はさらに、HTSのエンドポイントをAOP networkにマッピングしています。AOP wikiから250のAOPsをダウンロードしてHTSのエンドポイントと紐づけ(↓Table SI-5)。Ivesら(2017)オントロジーを参考にしたそうですが、いまいちどうやって作成したのか見えにくい。

f:id:Kyoshiro1225:20190831145002j:plain

 

そしてAOPのパスウェイごとにEARを加算し、どのパスウェイが影響を受けそうなのか予測してます(この時に生態学的に意義の低いAOPは除外)。例えば、ニコチン性アセチルコリン受容体の活性化から死に至るまでのパスウェイやエストロゲン受容体のアゴニズム作用による繁殖能低下などのパスウェイが着目されてます。対応する物質は農薬のDEETやBisphenol A、4-ノニルフェノールなど。

中々面白い論文でした。手法では突っ込みどころも多い。たぶん査読でも言われているんでしょう、ただし書きが多いです。"the analysis of AOP network is in its infancy"とか。あくまでも将来的なモニタリングの優先順位づけであって、実際のリスク評価ではない、とか。またin vitro assayの試験時にはwellへの吸着など化学物質の活性・availabilityを考慮していないので、in vitro assayの活性と実環境の活性は異なるだろう、とか。まあ本当に方向性を探っている段階でしょうから、課題を正直に羅列してくれているのはありがたいことです。

この論文だけではやりっぱなし、言いっぱなしの感がぬぐえないので、「答え合わせ」としてin vivoのassayをぜひやって欲しいですね。もうやってるのかな?

 

 

この論文の肝になっているTable SI-5を少しいじってみます。336のHTSエンドポイントが129のAOP Key Event(KE)と関連しています。

#Table SI-5を"data"という名前で格納

librray(igraph)

g<- graph_from_data_frame(data[,c(2,6)])
V(g)$type <- bipartite_mapping(g)$type    ##2部グラフなので
V(g)$color <- ifelse(V(g)$type, "lightblue", "salmon")
plot(g, edge.arrow.size=0.3, layout = l, vertex.size=5, vertex.label=NA)

f:id:Kyoshiro1225:20190831152206p:plain

(赤:HTS assayのエンドポイント, 青:AOPsのKey Event)

kable( degree(g)[degree(g)>50] )

 

| | x|
|:-----------------------------------------------------------------|---:|
|N/A, Cell injury/death | 252|
|Apoptosis | 126|
|Increase, Mitogenic cell proliferation (hepatocytes) | 63|
|N/A, Mitochondrial dysfunction 1 | 270|
|Damaging, Mitochondria | 54|
|Increased, Oxidative Stress | 60|
|Increased, secretion of proinflammatory and profibrotic mediators | 82|

## 細胞死やアポプトーシスのような一般的なKEが多くのHTS endpointsと結びついていることが分かる

 

 

 

「お金2.0 -新しい経済のルールと生き方-」感想

どうして買ったのか忘れたけど、家にあったので読みました。

 

ブロックチェーンやインターネットなど技術の発展により、各個人や企業が独自の経済圏を作り出すことができるようになり、国家のような中央集権的な構造から自由になった。この「経済の民主化」は、活版印刷技術の発展とインターネットの誕生による「知識の民主化」に類する変化である。従来の資本(お金)に縛られずに社会、ネットワークとつながることができるため、お金の価値は相対的に低くなる。そのため、これまで資本主義では評価されづらかった人間の内面的な価値や社会的な価値を評価する「価値主義」が台頭してくるだろう。

大体このような趣旨です。263ページありますが、文章は平易で、同じような内容が繰り返し述べられているので、2時間強もあればざっと通読できます。

 

大筋としては、趣旨に賛同します。資本主義から自由になり、価値主義的な生き方を選択できるならば、それは純粋に良いと思います。

しかし、大学生のころに読んだ「ウェブ進化論」をどこか思い出しました。あの本は、インターネットの進化すごい、それこそ知識の民主化すごい、みたいな論調だったと思いますが(うろ覚え)、今のウェブ環境は意外と統制されているし、Google検索は汚染されているし、10年前にあの本が出た時の期待通りではありません。

この「お金2.0」の説く経済の民主化にしても、どこまで上手くいくのか。いくつかの例外はあれど、結局持てる者がより豊かになっていく気もする。今も情報、知識を持っている者がより情報、知識を蓄えていきますし、そういった人物が新たな経済圏でもより豊かになっていくのでは…。

 

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

 

 

MaSuRCAのインストールエラー

Nanopore現場の会、行けなかった。

楽しそうだったので残念です。

 

 

MinIONとMiSeq・HiSeqで読んだリードをいろんなアセンブラにかけようと試しているところ。

Canuを試してみたけどMinIONのカバレージが低いので、Canuのようなロングリードベースのアセンブラではなくてショートリードベースのアセンブラの方が良さそう。

そこでUbuntuでMaSuRCAを試してます。

 

https://github.com/alekseyzimin/masurca

GitHubからダウンロードして、./install.shでインストール。しかし下記のエラーが出てインストールできません。

swig/perl5/swig_wrap.cpp:322:10: fatal error: string.h: No such file or directory
#include <string.h>

compilation terminated.

Makefile: 1622: recipe for target 'swig/perl5/swig_perl5_jellyfish_la-swig_wrap.lo' failed

(中略)

src/merge_mate_pairs.cc:4:10: fatal error: jellyfish/stream_manager.hpp: そのようなファイルやディレクトリはありません
#include <jellyfish/stream_manager.hpp>

compilation terminated.

GitHubのIssueに似たような報告がありました(↓)。そこではstring.shのエラーだけですが。で、MaSuRCAの作者によるとperlswigをupdateすればOKとのこと。

https://github.com/alekseyzimin/masurca/issues/10

 

 

しかし解決しなかったので、biocondaからインストールしました。MaSuRCAのバージョンは3.3.1。

https://anaconda.org/bioconda/masurca

conda install -c bioconda masurca
conda install -c bioconda/label/cf201901 masurca

 

ついでにFlyeもbiocondaでインストール。Flyeはバージョン2.5。

conda install -c bioconda flye
conda install -c bioconda/label/cf201901 flye

 

メモ: Nanoporeロングリードのアセンブリ

Oxford Nanopore TEchnologies(ONT)のロングリードとIlluminaなどのショートリードのデータを組み合わせてde novoアセンブリするとき、どのツールを使用するかの話。

ロングリードは長いけどエラー率高い。ショートは短いけど、エラー率低く安く大量に読める。まずロングリードでアセンブリして、その後ショートリードでエラーを補正するのが王道っぽい。

ちょっと古いけどtwitterでの議論。

 

 

Canuは一番ベタなロングリードアセンブラ。30×~60×のカバレージを推奨。

MiniasmはCanuより速いけどエラー補正のないロングリードアセンブラ。Miniasmで6時間かかるアセンブリの場合、Canuは5~10日かかる(Michael et al., 2018, Nat Commun)。

SMART denovoも同様にエラー補正のないロングリードアセンブラ

wtdbg2(=redbean)もロングリードアセンブラ

FlyeはA Brujin Graphベースのロングリードアセンブラ

SPAdesはハイブリッドアセンブラ。de Brujin Graphベースでショートリードからアセンブリした後、ロングリードでscaffolding。ただしバクテリアや菌など小さいゲノム用。大きいゲノムの場合--carefulオプションをつけてはいけない。

MaSURCAもハイブリッドアセンブラ

Unicylcerもハイブリッドアセンブラ。ただしバクテリアゲノム用。

Raconはロングリードのポリッシングツール。

Pilonはショートリードを用いたポリッシングツール。

 

 

 

 

日本語でも既にまとまっている情報がいくつかありました。例えばゲノム工学実習 - 荒川和晴(微生物ゲノムをCanuでアセンブリ)やONTの宮本さんのナノポア解析ワークフロー - Slow and Steady、そしてMinIONでシーケンスを行う - macでインフォマティクスなど。はじめは自分でまとめようかと思いましたが、あまり必要なさそう。

 

 

(追記 2019.08.17)

もうすこし新しい議論。

 

 確かに、試してみたらCanuはリソースを使いすぎました。数TBの空きが欲しい。

ロングリード、ショートリードのそれぞれのカバレージがどれだけかによって最適なアセンブリ戦略は異なりますが、ある程度はいくつかのソフトを試さないといけないですね。

Nextdenovoは新しいアセンブラ

 

 

 

論文のメモ: 核DNAにおけるミトコンドリア様配列

ある生物種のゲノム解析をしていて。

解読したミトコンドリアゲノム配列が、同じ種の既知のミトコンドリアcytochrome c oxidase subunit I(COI)配列と大きく異なっていました。

始めは、既存の報告で隠蔽種の存在が示唆されていたので、自分の読んだ配列と既往報告との違いもそういうことかなと考えてましたが、少し検証してみると別の可能性の方が高そうだと思えてきました。

既往報告はユニバーサルプライマー(FolmerらのHCO・LCO)でCOI配列を増幅していますが、その手法ではミトコンドリアDNAだけでなく核DNA内の類似の配列を増やしてしまうことがあるそうです。

 

 

「numtの同時増幅によってDNAバーコーディングは生物種数を過大評価する

Song H, Buhay JE, Whiting MF, Crandall KA, 2008, Many species in one: DNA barcoding overestimates the number of species when nuclear mitochondrial pseudogenes are coamplified, PNAS 105 (36): 13486-13491.

核内ミトコンドリア様配列(nuclear mitchondrial pseudogenes; numt)についての総説?。numtはミトコンドリア配列と変異速度が異なるため、COIのnumtをnumtと知らずにDNAバーコーディングすると、種内変異の大きさを過大評価してしまう、という注意喚起。

バッタとザリガニを再解析。ザリガニについては、numtの多くが配列の途中に終止コドンを持っているために翻訳されない偽遺伝子だと分かるが、バッタについてはそうではない。終止コドンもないし、ミトコンドリアのCOIとほぼ変異がないので、すぐにnumtだと判断できません。

ではこのバッタのようにわかりにくい場合はどうするか。numtと知らずに解析することを防ぐ方策として、逆転写PCRミトコンドリアのenrichment、long-PCRなどが挙げられています。この論文は2008年なので、今ならNGSでのミトコドリア全長解読も有力な手段でしょうか。

(2019.12.11 追記  バッタの場合偽遺伝子ではなくheteroplasmyかもしれない。) 

 

「COI様配列は分子系統学・DNAバーコーディングにおける問題になっている

Buhay JE, 2009, “COI-like” sequences are becoming problematic in molecular systematic and DNA barcoding studies, J Crustacean Biol 29(1): 96-110.

上と同じ様な啓蒙論文。あまりちゃんと読んでません。

クローニングせずにPCR産物をシーケンスした時、numtが含まれていれば、numt配列と真のミトコンドリア配列が混ざるので汚いクロマトになるから、ちゃんとクロマトをチェックしろよ、というnumt関係なくとも至極もっともな話など。

 

 

「カイアシ類におけるCOI偽遺伝子の存在

Machida RJ, Lin YY, 2017, Occurrence of mitochondrial CO1 pseudogenes in Neocalanus plumchrus (Crustacea: Copepoda): Hybridization indicated by recombined nuclear mitochondrial pseudogenes, PLoS One, 12 (2): e0172710.

ミトコンドリア配列を対象にしたPCRを、ゲノムDNAとcDNAに行って変異解析をしている論文。cDNAにおける変異は小さく、gDNAにおける変異は大きい。一個体のクローンの中でも変異(多型)が見つかっている。cDNAはミトコンドリアDNA配列で、gDNAはミトコンドリアと核DNA配列ですね。

また、異なる2種間の交配の結果生じた核内DNAのキメラ配列が示されていて面白いです。

 

 

無脊椎動物DNAバーコーディングの誤りの事例:cox1プライマーはユニバーサル過ぎ?

Mioduchowska M, Czyż MJ, Gołdyn B, Kur J, Sell J, 2018, Instances of erroneous DNA barcoding of metazoan invertebrates: Are universal cox1 gene primers too “universal”?, PLoS One, 13 (6): e0199609.

ちょっと上記までの論文と話しは違うが、ユニバーサルプライマーを使う際の注意点という意味でこの論文もメモ。

ミトコンドリア配列を対象Folmerらのプライマー(HCO・LCO)は、バクテリアの配列も増やしてしまうため、要注意。データベースの中で甲殻類と書かれていてもバクテリア配列の場合がある。

 

 

SETAC Europe@Helsinki参加感想

環境化学と環境毒性学の国際学会SETAC Europe 29th Annual Meeting@Helsinkiに参加してきました。

SETACに参加するのは、SETAC North Americaを含めてこれで3度目。正直なところ、若干飽きてきたかも。自分が聞いた代替試験法・OMICS・底質毒性・微量化学物質汚染などの発表では大きな目玉となる動きはなかったです。パラダイムの常識に沿った知見を蓄積している段階と言えば良く聞こえるでしょうか。

代わりに目立っていたのは、マイクロ(ナノ)プラスチックの研究。ホントに多かったです。体感では1/8くらいの発表がマイクロプラスチック関連だったほど。底質毒性や微量化学物質汚染のセッションでもその関連の発表が入り込んでました。ブームってそんなものだと思いますが、発表内容もただ環境中での存在量を測ったというものや有機化学物質の吸着量を測っただけのものなどが多くて食傷気味。良かったのは、リスクを過大に煽るような発表が自分の観測範囲内では見られなかったこと。むしろリスクは検出されなかったという傾向の発表が多かったです。

 

「面白そうなタイトル」と思って発表を聞きに行ったら論文化されていて既に読んだことある、という経験が数回ありました。もしくは真逆の、これから「こういう内容で研究するよ~」という事前告知やコンセプトだけの発表。研究の盗用があるから、このような状況も致し方ないのでしょうか…。

自分と関係なさそうな研究発表(というか学会?)をもっと積極的に聞きに行かないと、強い刺激は得られないかも。

 

 

個別発表・セッションのメモ。

  • 底質を凍結して間隙水濃度を5 cm毎に測定した研究。OECD 218と219というスパイク法の違いで濃度勾配の傾向に違いが出る。結果は割と納得いく内容。凍結させる手法はやってみたい。
  • 単一物質、単一濃度、単一時間で「OMICSしました~」だけではもう生態毒性分野でも不十分。曝露時間、濃度を複数見ないと厳しい。
  • OMICS(というかRNA-Seq)ではヘルムホルツ研究所の発表(Schuttler et al., 2019関係)が良かった。 Self-organizing mapであれこれ。
  • morseというecotoxicology用のRパッケージ。既にdrcなどがある中で、TKTDモデルの1種GUTSの使用ができる点が新しいっぽい。Web版のMOSAICもある。

 

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