備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

SETAC NA 42nd Annual Meeting

オンライン開催。

自分は共著の発表一つだけしかしていませんが、いくつか発表を聞いてました。オンライン開催だと、新しいヒト・発表への出会いが中々うまくいかない反面、いつでも発表が聞けるのは嬉しい。なお、リアルタイムの催しは一つも参加できませんでした。。

 

 

6PPD-quinone関係の発表が10個もありました。Q&Aも盛り上がっている気がしました。なんとなく。

  • 02.09.10: ギンザケに路面排水を曝露させて、トレーサー物質の脳への移行を調べたもの。Blair et al. (2021, Canadian J. Fish Aquat. Sci.) の続き。魚のsurfacingの前から既にトレーサーは脳に移行しつつあり、血液脳関門(BBB)は破壊されている様子。鰓についても同様にleakingあり。しかし3時間以内に反応が出るというのは速い。どういうメカニズムなのか。
  • 04.03.01: 6PPDとタイヤ破砕物をオゾン酸化させて、6PPD-Qの生成率を観察。モル割合で、6PPDのせいぜい10%以下しか6PPD-Qにならない。タイヤ破砕物の場合、わずか1%。
  • 04.12.09: Science論文の筆頭著者によるプレゼン。合成した6PPD-Qは、市販品に比べて15倍もピークが低く、これまでの定量結果は過大評価だったとのこと。更新されたギンザケのLC50は95 ng/L。低い!
  • 04.12.20: 河川底泥から6PPD-Qはほとんどの場合検出下限以下(< 0.25 ng/g)だったとのこと。雨が降った後でも、雨が200日(!)降っていない場合でも同じ。

 

その他の発表。

  • 01.14.11: Hyalella aztecaの胚発生試験の開発。ヨコエビの胚発生モデルと言えばP. hawaiensisがありますが。これはやってみたい! まずオス・メスそれぞれ分けてから2週間置いて、その後ペアを作成し、解剖して取り出す。
  • 02.01.10: H. aztecaの慢性繁殖試験について。オーストラリアのMelita pulumulosaの試験に触発されて、性成熟した個体を用いてオスの割合を減らせば、産仔数のばらつきを減らせるんじゃないかという提案。個人的には実用化するとはあまり思えませんでしたが。
  • 03.04.04: 低濃度のネオニコは蝶の蛹化を阻害する。Crustacean cardioactive peptide (CCAP) の阻害がメカニズム?
  • 01.05.02: Altenburger氏らのzebrafish transcriptomics。前からself-organizing mapを用いた解析をしてましたが、今回はmixture effectsに応用。作用機序の異なる物質間の、遺伝子レベルの応答でもconcentration addition (CA) モデルで予測できるというのは面白い。しかし細かいところは正直フォローできてません。この手の研究では一歩抜きんでている印象。

あまり真新しく感じたのはなかったけど、その他AOPとか、底質汚染関係とか、無脊椎動物関係などをよく聞きました。依然として発表が多かったマイクロプラとPFASは正直あまり聞いてません。

深夜のウェブ国際会議

オンラインの某国際会議に参加しました。

ヨーロッパの国が主催なので、日本時間では夕方から夜(23時)まででした。家には小さい子供がいて、しかも私個人の部屋(も机)などない。さらに、話を聞くだけでなくて、21時半頃に話をしなければならない。

ということで近くのレンタルワークスペースで会議に参加することに。電話ボックスよりわずかに広い部屋で5時間。Wifiつきで約1,500円。同じ時間帯に複数の利用があったっぽいですが、誰とも顔を合わせず、また音漏れなどもほとんどなく、思ったより快適に過ごせました。こんなサービス、コロナ前から自宅近くにあったのかな?

 

肝心の会議は、相変わらず英語が分からないことは置いといて、割と楽しめました。サイエンスとしての面白さというより、社会勉強的な面白さですが。

論文のメモ: TRWPの環境中での変化

Wagner S, Klöckner P, Reemtsma T, 2021, Aging of tire and road wear particles in terrestrial and freshwater environments–A review on processes, testing, analysis and impact. Chemosphere: 132467.

タイヤ由来の微量物質やマイクロプラスチックなどの分析をしているUFZのグループから総説。2018年にも同じグループがタイヤ粒子の生態影響に関して総説を出しているので、またかいと思いつつも読みました。

タイヤ・道路摩耗粒子(TRWP)の環境中での変化について。具体的には、熱酸化、光酸化、オゾン酸化、生物分解、そして溶出。6PPDは6PPD-Qより水溶解性が高いと書いてますが("For example, ozonation of 6-PPD results in 6-PPD-quinone (Lattimer et al., 1983) which has a higher solubility compared to its parent compound")、これは逆ですね。

 

論文のメモ: 先行晴天時間と道路塵埃

雨が降ると河川や湖沼に流れ出る道路塵埃(路面粉塵)。道路塵埃中には多くの有害物質が含まれるので、降雨時の水域で水生生物への悪影響が検出されることが、しばしばあります。

雨が降るまで道路塵埃が路面上で放置される時間(先行晴天時間; antecedent dry weather period)によって、道路塵埃の量や塵埃中有害物質の濃度はどう変わるのか、について論文を読んだのでメモ。物質は主に多環芳香族炭化水素(PAHs)。

 

Zhang J, Li R, Zhang X, Ding C, Hua P, 2019, Traffic contribution to polycyclic aromatic hydrocarbons in road dust: a source apportionment analysis under different antecedent dry-weather periods, Sci. Total Environ. 658: 996-1005. 

先行晴天時間1, 5, 10日の道路塵埃を、ドイツ・ドレスデンで採取して、道路面積あたりのPAHs収量(g/m^2)と塵埃中のPAHs濃度(mg/kg)を測定。収量は先行晴天時間に伴って増加したが、濃度は一度下がってまた増加したそうです。後半の理由がいまいちよく分かりません。粒子径分布が(風の影響とかで)変わっているかもしれないので、そのようなデータもあれば良かったです。

 

Gbeddy G, Egodawatta P, Goonetilleke A, Akortia E, Glover ET, 2021, Influence of photolysis on source characterization and health risk of polycyclic aromatic hydrocarbons (PAHs), and carbonyl-, nitro-, hydroxy-PAHs in urban road dust, Environ Pollution 269: 116103. 

オーストラリアで採取した道路塵埃への254 nm UV照射実験。ピレンやナフタレン、フェナントレンは照射によって濃度が変化しやすいが、フルオランテンやベンゾ[a]ピレン、クリセンなどは比較的安定。生の濃度データはGbeddy et al. (2021, EES) の方に示している?変化のしやすさは蒸気圧と関係するかも*1、ということもEESの方に記載あり。

 

Gbeddy G, Jayarathne A, Goonetilleke A, Ayoko GA, Egodawatta P, 2018, Variability and uncertainty of particle build-up on urban road surfaces, Sci Total Environ 640: 1432-1437. 

細かい粒子(< 75 μm)の溜まり方は予測が難しい。場所(やタイミング?)によって増えたり、減ったり。でも塵埃全体(< 3mm)の量は、先行晴天時間が増えるとべき関数に従って増える。

 

Wang J, Huang JJ, Li J, 2019, A study of the road sediment build-up process over a long dry period in a megacity of China, Sci Total Environ 696: 133788. 

あまりちゃんと読んでません。40日間も先行晴天時間があると塵埃の蓄積量はかなりカオスで予測不能という話。sinカーブでフィッティングする理由は不明…。

 

Ozaki N, Akagi Y, Kindaichi T, Ohashi A, 2015, PAH contents in road dust on principal roads collected nationwide in Japan and their influential factors, Water Sci Technol 72(7): 1062-1071. 

日本各地から塵埃(< 2mm)を採取して、PAHs濃度を分析。塵埃PAHs濃度と先行晴天時間との相関は微妙。1か所から繰り返し採取した場合でも同様。

 

 

ざっくりまとめると、ある地域全体の塵埃量(=雨天排水中のSS量)は先行晴天時間に伴って増加するが*2、塵埃中の物質濃度がどう変化するかは風などの要素が絡むため予測困難である、あるいは濃度そのものは別に変化しない、という感じでしょうか。

 

 

 

(追記 2021.10.31)

古いクラシカルな論文の方が、塵埃量と時間の関係(build up & wash off process)について納得いく説明しているものがある気がします。

上の論文たちは、build up processに着目したものが多いけど、wash offの不確実さ(=雨が降っても全ての塵埃が流されるわけではない)も考えないと塵埃量と先行晴天時間の関係は説明できないかも。

 

Sartor JD, Boyd GB, Agardy FJ, 1974, Water pollution aspects of street surface contaminants, J Water Pollut Control Fed 46(3): 458-67.

塵埃のBuild-upの過程の超古典っぽい論文。先行晴天時間が長いと塵埃の量は多くなるという知見と、細かい粒子ほど有害物質が高濃度に含まれるという結果を提示してます。ただし前者はかなりばらつきが大きい。

 

Vaze J, Chiew FH, 2002, Experimental study of pollutant accumulation on an urban road surface, Urban Water 4(4): 379-389.

道路に溜まった塵埃の全てが降雨で流されるわけではないことを実験的に示した論文。

 

*1:そこまで明確に書いてませんが。

*2:例えばLi et al., 2007とか。https://doi.org/10.1016/S1001-0742(07)60048-5

論文のメモ: AOPとComplex simplicity

Knapen D, 2021, Adverse outcome pathways and the paradox of complex simplicity, Environ Toxicol Chem. in press.

短い意見論文。ET&CのPoints of Referenceという枠。

AOP NetworkのKnapen氏が書いてたので、読んでみました。

AOP(Adverse Outcome Pathways)は、生物の複雑さを表現するにはシンプル過ぎるし、でも使用するには複雑過ぎる、という話。それに対し、Knapen氏はスティーブ・ジョブズを引用しながら、今は過渡期だからエレガントではないけど、あと何か"key, the underlying principle of the problem"が見つかれば、AOPは生物の複雑さを考慮しつつもエレガントに使えるようになるよ、と述べてます(意訳)。現状と方向性はおおむね同意でした。ただ生物の複雑さ(毒性メカニズムとか)の知見が揃っているとは自分はあまり思ってないのですが、魚(Knapen氏はゼブラフィッシュなどを扱ってるようす)と無脊椎の違いでしょうか。

冒頭の以下の文章笑いました。"AOPs are thus often perceived as being too simple and too complex at the same time, raising concerns that they may in fact slow down hazard and risk assessment instead of being a catalyst for supporting 21st century toxicology."

 

 

論文のメモ: 2021年に出た6PPD-Qの報告

ギンザケ死亡症候群の原因物質であると昨年末報告された6PPD quinone(6PPD-キノン)の話(→昨年末のScience)。今年になって環境分析の結果がいくつか出てきたので、まとめ。

 

 

Huang W, Shi Y, Huang J, Deng C, Tang S, Liu X, Chen D, 2021, Occurrence of substituted p-phenylenediamine antioxidants in dusts, Environ SciTechnol Letters 8(5): 381-385.

2021年の4月に公開された論文。投稿は2月!早い!

道路や駐車場、車内の塵埃を採取して、p-Phenylenediamine(PPD)類濃度を測定した論文。6PPD-Qは標準品がなかったため、親物質の6PPDの検量線を用いてます。

車内から採取した塵埃では6PPD-Q/6PPDの比が他に比べて高かったことから、車内で酸化されて6PPD-Qが生成されたのでは、と書いてますが、下Klöcknerら(2021, ES&T)を読んだら、単純に6PPDが分解されただけな気がします。

 

Klöckner P, Seiwert B, Weyrauch S, Escher BI, Reemtsma T, Wagner S, 2021, Comprehensive characterization of tire and road wear particles in highway tunnel road dust by use of size and density fractionation, Chemosphere 279: 130530.

2021年の4月に公開された論文。高速道路の塵埃を採取して、サイズや密度で分画した粒子中のベンゾチアゾール類や亜鉛、6PPD、6PPD-Qの濃度を測定してます。ただし6PPD-Qのみ標準品がなかったため、ピークエリアのみ。6PPD-Qは>250 μmにはあまり検出されてません。

 

Johannessen C, Helm P, Metcalfe CD, 2021, Detection of selected tire wear compounds in urban receiving waters, Environ Pollution 287: 117659.

これは2021年6月公開。実験開始時には6PPD-Qの標準品がなかったため、6PPDをオゾン酸化して6PPD-Qを合成してます。最終的には標準品で純度を検証。高速道路の排水の下流で雨天時に水を採取してhexamethoxymethylmelamineと6PPD-Q、diphenyl guanidineを測定。6PPD-Qの最大実測値は0.72 μg/Lで、ギンザケに対する24-h LC50と同程度(0.8 μg/L; Tian et al., 2020)。

※追記:ギンザケに対するLC50は0.095 ug/Lに修正されました(こちらの記事参考)。

 

Johannessen C, Helm P, Lashuk B, Yargeau V, Metcalfe CD, 2021, The tire wear compounds 6PPD-quinone and 1, 3-diphenylguanidine in an urban watershed. Arch. Environ. Contam. Toxicol.: 1-9.

これは2021年8月公開。上と同じグループから。上記Environ Pollutionと同じ場所から2019年と2020年に採取した水試料を固相抽出して、6PPD-Qとdiphenyl guanidine(DPG)を測定。ちなみに固相抽出にサロゲートは加えていません(が標準試料を加えた際の6PPD-Q回の収率は98%だそう)。6PPD-Q実測濃度の最大は2.3 μg/Lで、ギンザケの致死濃度を超えていました。

面白いのは、DPGは降雨開始直後に濃度のピークが来てすぐに濃度が低下するのに、6PPD-Qは降雨開始から数時間後に上がり始め、20時間ほど高い濃度が維持される点。おそらく疎水性の違い(DPGは比較的水に溶けやすいが6PPD-Qは溶けにくい)。

 

Klöckner P, Seiwert B, Wagner S, Reemtsma T, 2021, Organic Markers of Tire and Road Wear Particles in Sediments and Soils: Transformation Products of Major Antiozonants as Promising Candidates, Environ Sci Technol

2021年8月公開。一番上のKlocknerら(2021, Chemosphere)と同じUFZのグループから。タイヤのマーカ物質の探索を目的に色々やってますが、6PPD-Qに関するとこだけピックアップ。6PPD-Q濃度はサロゲートを用いた補正はされてません。

タイヤ破片中の親物質の6PPDはXeアークランプで照射(自然光2~7週間相当)すると濃度が減少するが、6PPD-Qはほとんど減少しない。またLC/MS/MSによる6PPD-Qの定量は、フラグメント(m/z: 187)より元のm/z 299の方が感度が良い。タイヤ破片あるいは道路塵埃を用いた溶出液(2 g/L, 48h)で6PPD-Qがほぼ検出されない(これは降雨時の報告からすると意外。溶出にプラスチックを使って吸着してロスしている可能性ある?)。

 

(追記 2021.09.24)

Zhang Y et al., 2021, p-Phenylenediamine Antioxidants in PM2.5: The Underestimated Urban Air Pollutants, Environ Sci Technol

2021年9月公開。中国からPM2.5中のPPD類の報告。6PPD-Qがオゾン酸化によって生成されるという話に基づき、6PPD-Qとオゾン濃度(あるいは6PPD)との相関も見ています。論文では相関係数を示して相関があると書いてますが、散布図も見せて欲しいところ。この点については判断保留。

6PPD-Q以外のPPD類のキノンも検出しています。ただ、標準品がないため定性的な分析のみ。

 

(追記 2021.09.27)

Challis JK, Popick H, Prajapati S, Harder P, Giesy JP, McPhedran K, Brinkmann M, 2021, Occurrences of Tire Rubber-Derived Contaminants in Cold-Climate Urban Runoff, Environ Sci Technol Letters.

2021年9月公開。カナダ。2019年の雨天時排水stormwaterと2020年の河川水をretrospectivelyに分析。6PPD-Qだけでなく、N,N'-diphenyl guanidine(DPG)などの二環アミン4種も分析。

6PPD-Qは他のアミンと比べ、検出濃度のピーク時期が異なっています。雨天時排水中の6PPD-Q濃度は平均593 +/- 525 ng/Lで、時にはギンザケのLC50(800 ng/L)を超えています。

※追記:ギンザケに対するLC50は0.095 ug/Lに修正されました(こちらの記事参考)。

論文のメモ: 洪水による底質中汚染物質の移動と生態影響

日本でもスコールみたいな雨が頻発するようになって久しいですが、増水や洪水による(化学物質の移動を介した)生態影響の話。

 

Crawford SE, Brinkmann M, Ouellet JD, Lehmkuhl F, Reicherter K, Schwarzbauer J, ... Hollert H, 2021, Remobilization of pollutants during extreme flood events poses severe risks to human and environmental health, J Hazard Mater 126691.

洪水による生態影響と言うと、生物が流されるとか生息場所が壊されるなどの物理的な影響をまずは思いつきがちですが、泥に蓄積した有害物質が水中に再び巻き上がって移動する事によるecotoxな影響もありえます。その影響をどういう試験で調査するかの方法論などを中心にした総説。魚類を用いた底質試験を開発したHollertさんらのグループから。

 

Müller AK, Leser K, Kämpfer D, Riegraf C, Crawford SE, Smith K, ... Hollert H, 2019, Bioavailability of estrogenic compounds from sediment in the context of flood events evaluated by passive sampling, Water Res 161: 540-548.

これも同じグループの論文。底質を採取して、エストロゲン活性を調べるYES assayの変法とノニルフェノール・E1・E2・EE2を測定したという割とシンプルな研究ですが、"flood events"という文脈に位置付けられているのは、採取した底質を実験室で再懸濁させ、その懸濁液中ののニルフェノールなどの濃度をパッシブサンプラーで測定しているためです。この戦略、面白いですね。

 

Niu L, Ahlheim J, Glaser C, Gunold R, Henneberger L, König M, ... Escher BI, 2021, Suspended particulate Matter—A source or sink for chemical mixtures of organic micropollutants in a small river under baseflow conditions?, Environ Sci Technol 55(8): 5106-5116.

これは面白い!洪水とは関係ありませんが、底質の巻き上がりと浮遊物質の沈降に伴う有害物質の移動に関するのでここにまとめて記録。河川水と底質を2箇所から採取し、642個の有機物質について、ろ過して得た粒子状浮遊物質(suspended particulate matter; SPM)中の濃度と底質中濃度、(上層)水中濃度を測定し、上層水と間隙水についてはパッシブサンプリング(PES)でフリー溶存濃度(Cfree)を測定しています。面白いのは、上のMüllerら(2019)と同様、SPMを再懸濁させてそこでのフリー溶存濃度(Cfree,SPM)を測定して、通常のCfreeと比較している点。72%の物質では、Cfree,SPMの方が通常のCfreeより大きく、これらの物質は河川で、粒子状浮遊物質SPMから水に溶け出すフラックスのある状態(つまり非平衡状態)だったと解釈できます。そしてCfree/Cfree,SPM比は物質のlog KOWと正の相関にありました(log KOW 4~6あたりで1:1)。他にも642物質をneutralとcharged chemicalsに分けて議論していたり、AhR活性やPPAR結合をin vitroバイオアッセイで調べたりして盛りだくさんです。

どうでも良いけど、SPMとかSPE、PESとかの似たような略語が出過ぎで読み始めは頭に入ってこなかったです。SPMはSPMEと空目して、PES(=Passive Equilibrium Sampling)のことかと思ってしまうし。

 

 

 

これまで環境水のサンプリングは、晴天時にしかやったことありませんでしたが、雨天時にもやってみたくなりました。

某誌での 修正原稿 受付日

某環境系の論文誌に1st authorの論文がアクセプトされました!その前日、共著の論文もその姉妹誌にアクセプトされました。

 

そこで気になったのが、どちらの論文でもアクセプトの前日や前々日に、Editorial Officeから引用文献の書き方とか「ふつうは著者校正で対応するんじゃないの?」レベルの細かい修正についての追加連絡が来て、それら修正に対応したらすぐにアクセプトでした。

そんで公開された論文のページを見たら、"Revised"の日付がEditorial Officeからの修正意見に対応した日になってるんですよね。例えば"Revised 2021.08.17,  Accepted 2021.08.18"みたいに表記されてるわけです。

いや~この日付だけ見たら、論文著者(私や共著者)が査読対応を完了させたのが8/17で、Editorは速攻でアクセプトを決めたように見えますけど、論文著者が実質的な査読対応(=Editorial Officeではなく査読者からのコメントへの対応)を終えて雑誌に再投稿したのは"Revised"の日付の1~2週間前ですからね。

同じ雑誌の他の多くの論文でも、同様に"Revised"と"Accepted"がわずか1~2日違いになってました。なので、邪推ですが、"Revised"と"Accepted"の間隔を短くして、雑誌側が迅速に対応しているように思わせるために、論文の内容ではなく体裁に関する修正コメントを無理くり出している...? う~む。

 

 

 

論文のメモ: イオン性物質の生態リスク評価

水/オクタノール分配係数(KOW)でざっくりと生物蓄積性を推定できる中性物質と比べて、生物蓄積・毒性の予測が困難なイオン性有機物質の話。

 

Escher BI, Abagyan R, Embry M, Klüver N, Redman AD, Zarfl C, Parkerton TF, 2020, Recommendations for improving methods and models for aquatic hazard assessment of ionizable organic chemicals, Environ Toxicol Chem 39(2): 269-286.

出版された時から読もう読もうと思っていながら積読してましたが、最近ET&Cの2020年のBest Paper Awardsにノミネートされているのを見て、ちゃんと読みました。

イオン性物質の生物への移行(あるいは毒性)が、ほぼ非荷電種(neutral species)によって決まりイオン種は寄与しなければ、生物への移行はKOWに非荷電種の割合をかけることでおおよそ予測できるはずです。しかし実際には、水中の非荷電種の量だけではうまく移行量や毒性をうまく説明できないことが多いようです。

これは、ざっくり書くと、非荷電種だけでなくイオン種も生物内に移行するため(kinetic ion-trapping model)と、生物体内では水中と異なる新たな非荷電種とイオン種の平衡が成り立つ場合があるため、そして毒性への寄与もイオン種の方が強い場合があるため、に大別できそうです。

しかしEscherさんはこういう良い感じの総説を書くのがとても上手いですね。

 

 

Bittner L, Klüver N, Henneberger L, Mühlenbrink M, Zarfl C, Escher BI, 2019, Combined ion-trapping and mass balance models to describe the pH-dependent uptake and toxicity of acidic and basic pharmaceuticals in zebrafish embryos (Danio rerio), Environ Sci Technol 53(13): 7877-7886.

上の論文と同じくUFZのグループなどからの論文。ゼブラフィッシュ胚をイオン性有機物質に96時間複数のpH条件下で曝露し、体内濃度を測定した研究。正直ざっとしか読めてません。

非荷電種(neutral species)とイオン種の両方が同等に取り込まれるとするモデル(mass balance model)だと上手く体内濃度を説明できないが、上記総説でも紹介されているion-trapping modelだと割と上手く説明できる、という結果。

体内での分配を正確に予測するためには、neutralとion speciesの両方についてタンパク質・脂質への分配係数が必要。この論文ではpp-LFERやCOSMOmicなどで予測してますが、pp-LFERは中性物質メインなので、より高精度な毒性予測のためにはこの分配係数の精度を高める必要があるとのこと。

 

論文のメモ: 魚類(胚)を用いた底質毒性試験

魚類を用いた底質の毒性試験。

魚は水中(水柱)にいるのに底質の汚染評価に使えるのかとか、bioavailabilityの問題がどう解釈されているのか知りたくてざっと読んでみました。

 

Saiki P., Mello-Andrade F, Gomes T, Rocha TL, 2021, Sediment toxicity assessment using zebrafish (Danio rerio) as a model system: Historical review, research gaps and trends, Science of The Total Environment: 148633.

ゼブラフィッシュを用いた底質毒性試験のレビュー。こういう論文があるよ、という話がメインでクリティカルな内容はあまり書かれてません。

魚類胚試験(いわゆるFET)を定めたOECDのテストガイドライン(TG)236が2013年に出て、その影響か、2014年と2015年にゼブラを用いた底質試験の論文数が増えてます。その後また落ち着いてますが。。

いろんな生活段階が使用される中、やはり胚-仔魚期が最も多いようす。そして4割強がWhole-sedimentを使用していて、3割ほどが有機溶媒による抽出物を試験対象としています。

 

Hollert H, Keiter S, König N, Rudolf M, Ulrich M, Braunbeck T, 2003, A new sediment contact assay to assess particle-bound pollutants using zebrafish (Danio rerio) embryos, J Soils Sediments 3(3): 197-207.

ゼブラフィッシュの胚試験を、有機溶媒による抽出物や間隙水ではなく、底質そのものに適用したたぶん最初の論文。でも底質は湿底質ではなくて、凍結乾燥させてから使用しています。間隙水より底質そのものを使った方が毒性が高い、というのは面白い結果です。

しかしこの原因が「胚はparticle-boundなfractionの影響を受けるから」と解釈できるように書かれているのは違う気がする。どうも検証されていないっぽいですが、曝露形態の違い(水or 粒子)というより、これは曝露系が非平衡状態にあることの副作用(→Fischer model案件)では?。底質があるとpassive dosingで濃度が比較的一定に保たれますが、底質がないと濃度は減衰してしまいます。

 

Hallare AV, Seiler TB, Hollert H, 2011, The versatile, changing, and advancing roles of fish in sediment toxicity assessment—a review, J Soils and Sediments 11(1): 141-173.

上のHollertら(2003)のグループからの総説。この記事の冒頭の総説より突っ込んでいます。水中に棲む魚を底質評価に用いるのは妥当なのか、という問いにも応えていて、カレイなどの底生魚を用いた試験が多いことや、水中に棲む魚でも底質をbreeding substrateとして利用している(ため生態的な意義を考慮するとは繁殖を影響とすべき)ことなどが議論されています。

なおゼブラフィッシュに関しては"Upon spawning, the zebrafish eggs sink straight to the bottom of the water column and come into direct contact with the sediments and possible contaminants. That is why this method was believed to offer the most realistic scenario concerning bioavailability of chemicals in field situations (Küster and Altenburger 2008)."と書いてます。ゼブラを底質試験に使う正当化は割とされているかも。

またこの総説の時点では凍結乾燥させた底質を使用してますが、後のFeilerら(2013, ET&C)などはそのままの底質を用いているもよう。