備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: PPCPs汚染の世界規模でのモニタリング

Wilkinson JL, Boxall AB, Kolpin DW, Leung KM, Lai RW, Galbán-Malagón C, ... Teta C, 2022, Pharmaceutical pollution of the world’s rivers, Proc National Acad Sci 119(8).

PNAS。世界規模で医薬品・生活関連物質(PPCPs)の測定を行った論文。読みやすいです。自分の知っている研究者ではYork大のAlistair Boxallや韓国のKenneth Leungなどが著者に入っています。

やっていることはシンプルで、これまでモニタリング情報がなかった地域で環境水中のPPCPs濃度を測定し、生態系へのリスクを推定したり、PPCP濃度と社会経済的な指標との関連を議論したりしています。日本を含む104か国、1052地点からサンプリングし、61物質の分析を実施。砂漠や高地、バグダッド、南極からもサンプリングしています。

印象的なのは、低所得国よりも低中所得国(countries of lower-middle income)の方が高濃度汚染が見られたという結果。低所得国はそもそも医薬品が十分にないので汚染がそこまで進んでいないが、低中所得国だと医薬品はあるが水処理施設がないためにそのような結果になると考察されてます。

各物質単独の生態リスクを見た場合、あまり高くなく、一部の物質(特にpropranolol、sulfamethoxazole)でしか予測無影響濃度(PNEC)を超えてなかったようです。もっとも複数の物質による複合的な影響は、そこまで踏み込んで議論されていません。

わずか61個(いやもちろん1つの研究で実施するには十分多いのですが)のPPCPsの濃度が生態リスクをどこまで代表しているかは分からないので、こういう研究をバイオアッセイでやってみたら面白そう。水サンプルを凍結して送ってもらって、一か所でバイオアッセイ。ついでにTIE&EDAなこともやって何が主要なストレス要因物質か同定したら、めちゃ面白そう。

 

Gunnarsson L, Snape JR, Verbruggen B, Owen SF, Kristiansson E, Margiotta-Casaluci L, ... & Tyler CR, 2019, Pharmacology beyond the patient–The environmental risks of human drugs, Environ International 129: 320-332.

上のWilkinsonでのPNECソースに使われている論文。ちゃんと読んでません。どうやらこの論文もPPCPsの慢性試験データを集めてきて、解析している論文のようです。PPCPsのターゲット部位の相同遺伝子が対象生物(魚、ミジンコ、藻類)にあると毒性値が下がる傾向にあるのは、当たり前かもしれませんが面白い。生態毒性的にはSeqapassなどと似ているアプローチですね。

魚の血漿中濃度から毒性を予測しようとするアプローチで、抗がん剤の毒性を過小評価してしまうなどの話もあります。

 

 

 

Maack G, Williams M, Backhaus T, Carter L, Kullik S, Leverett D, ... Van den Eede C, 2021, Pharmaceuticals in the Environment: Just One Stressor Among Others or Indicators for the Global Human Influence on Ecosystems?. Environ Toxicol Chem, in press. 

ついでに。

ET&CにPPCPsの特集号が組まれていて、このMaack et al.(2021)はそのイントロ。「2016年にもPPCPsの特集号が組まれたけど、まだよく分からないこと多いよー」的な話。上のWilkinson et al.(2021)にもつながる、モニタリング地域の偏りも少し触れられています。

 

 

論文のメモ: 甲殻類のPAH代謝とCYP

いつも地味に気になっているがすぐ忘れてしまうCYP代謝のメモ。

 

Ikenaka Y, Eun H, Ishizaka M, Miyabara Y, 2006, Metabolism of pyrene by aquatic crustacean, Daphnia magna, Aquatic Toxicol 80(2): 158-165.

ミジンコにおける、PAHの1種ピレンの代謝産物を同定しています。Phase IでCYPによる酸化、Phase IIでsulfotransferaseなどによる硫酸抱合が生じていることを示唆。陸域の無脊椎では硫酸抱合はあまりなされておらず、ミジンコで硫酸抱合が生じているのは硫酸イオンが豊富な水域で進化した結果だろうという考察が面白い。CYP阻害剤としてSKF-525Aを使用。

 

Akkanen J, Kukkonen JV, 2003, Biotransformation and bioconcentration of pyrene in Daphnia magna, Aquatic Toxicol 64(1): 53-61.

上の論文で引用されていたもの。同じくミジンコ。14C標識してピレンそのものと代謝物含めたものの取り込みを調べた論文。こちらはPBO(piperonyl butoxide)でCYP阻害をしています。

 

Lee JH, Landrum PF, 2006, Application of multi-component damage assessment model (MDAM) for the toxicity of metabolized PAH in Hyalella azteca, Environ Sci Technol 40(4): 1350-1357.

ヨコエビH. aztecaにピレンとフルオレンを曝露させて、さらにPBOの有無による体内取り込みの違いを調べた論文。

PBOを共曝露することで代謝物に影響は生じていますが、親物質の濃度はピレン・フルオレンともに変化なし。この点、完全に勘違いしていてハッとさせられました。代謝の方が律速になっているからPBOの有無によって親物質濃度は変わらないんですね。

 

論文のメモ: 2022年に出た6PPD-Quinoneの報告

ギンザケ死亡症候群の原因物質であると昨年末報告された6PPD quinone(6PPD-キノン; 6PPD-Q)の話(→昨年末のScience)。2021年の半ばまではまだ標準品がなかったので速報的なものが多かったですが(→2021年に出た論文のまとめ)、Scienceの論文発表から丸1年以上経過したので、そろそろ本格的な報告が出始めてきました。

 

Seiwert B, Nihemaiti M, Troussier M, Weyrauch S, Reemtsma T 2022, Abiotic oxidative transformation of 6-PPD and 6-PPD quinone from tires and occurrence of their products in snow from urban roads and in municipal wastewater, Water Res 212: 118122.

6PPDや6PPD-Qをオゾン酸化して、生成される物質を探索した論文。

固体と液体の6PPDにオゾンをあてた時、固体の方が6PPD-Qができやすいというのは面白い。何故かはよく分かりません。物質によってその傾向は違っていて、例えば4-hydroxydiphenylamine(4-HDPA)などは液体の方が多く出来てます。これに関しては、4-HDPAがオゾン酸化以外に加水分解などで生成するからでしょうか?

雪を採取して、その液体成分と粒子状成分との比率を求めているのが面白い!検出された量のうち>90%が粒子から回収されたそうです。平衡に達するのが遅いので、ゆっくり水に溶けだすだろうというのはこれまでのJohannesen(2021, Arch Env Contam Toxicol)の報告などとも整合しています。ここに書いたNiu(2021, ES&T)みたいな手法で、流出水の平衡/非平衡状態を検証したい…!

あと下水処理場流入水・処理水を対象に分析もしています。6PPD-Qは処理水では検出されず、流入水でも晴れの間は検出されなかったそうです。

 

Rauert C, Charlton N, Okoffo ED, Stanton RS, Agua AR, Pirrung MC, Thomas KV, 2022, Concentrations of Tire Additive Chemicals and Tire Road Wear Particles in an Australian Urban Tributary, Environater Sci Tehcnol in press. 

オーストラリアからの報告。6PPD-Qだけでなく、ジフェニルグアニジンやベンゾチアゾール類、HMMMなどのタイヤ添加物の都市河川中濃度を測定しています。さらに熱分解GC/MSで、粒子中のスチレン・ブタジエンゴム、、ブタジエンゴムの含有量を測り、タイヤ・路面摩耗粒子(TRWPs)の量を推定しています。この論文はまだ6PPD-Qの標準品ではなく、合成品を使っていますね。また、6種類のタイヤ粉末からの物質の溶出試験も実施。

ちょっとdescriptibveな感もありますが、オーストラリアではアメリカやカナダ、ドイツに比べて対象物質の濃度が低い、降雨の後半まで濃度が持続するなど、興味深い話もあり。後者はfist flush(汚濁負荷の大半が降雨初期に流出する現象)ではないものとして、Peterら(2020)などが報告している話と一致しています。

 

(追記 2022.02.18)

こんな記事を発見。

West Coast Salmonids All Tired Out? – Estuary News Magazine

Jenifer McIntyreさんの結果として、"Beyond coho, other salmonid species seem more tolerant of exposure to tire leachate and stormwater. In lab testing, McIntyre says, the same exposure rates that quickly killed coho did not cause death in chum and sockeye salmon. In steelhead and Chinook, some of the fish died after exposure. Some of these findings are yet to be published."とあります。Chum salmonシロザケについては論文でも、路面排水で死ななかった話が報告されてますが、他のサケでも知見が揃ってきているようす。

 

(追記 2022.03.09)

Brinkmann M, Montgomery D, Selinger S, Miller JG, Stock E, Alcaraz AJ, Challis JK, Weber L, Janz D, Hecker M, Wiseman S, 2022, Acute Toxicity of the Tire Rubber-Derived Chemical 6PPD-quinone to Four Fishes of Commercial, Cultural, and Ecological Importance, Environ Sci Technol Lett in press.

カナダから毒性試験の報告。カワマスSalvelinus fontinalisニジマスOncorhynchus mykissには0.1~2 μg/Lで致死影響が出るのに、ホッキョクイワナSalvelinus alpinusチョウザメAcipenser transmontanusには20 μg/Lでも影響が出なかったそうです。同じ属でも感受性が10倍以上違っていて、面白い!

 

(追記 2022.03.24)

Cao G, Wang W, Zhang J, Wu P, Zhao X, Yang Z, Hu D, Cai Z, 2022, New evidence of rubber-derived quinones in water, air, and soil, Environ Sci Technol in press.

6PPD-Qも含めたPPDのキノン体5種の濃度を、香港の大気粉塵、路面排水、道路脇の土壌について調べた論文。6PPD-Q以外のキノン体は標準品がないため、合成しています。

大気粉塵や土壌では親物質とキノン体の濃度は同じくらいなのに、路面排水だとキノン体濃度が高く検出されたというのは面白い(ただ大気粉塵ではDPPDだけキノン体がかなり増えています)。大気粉塵ではDPPDのキノン体の割合が高く、路面排水や土壌では6PPD-Qの割合が48~76%と高いです。

路面排水中の6PPD-Qの濃度は0.21~2.43 μg/Lで、全てのサンプルでギンザケの24-h LC50値(95 ng/L; Tian et al., 2022, ES&T Letters)よりも高いですね。受水域ではもちろんもっと薄くなるはずですが。

 

 

(追記 2022.04.19)

Hu X, Zhao HN, Tian Z, Peter KT, Dodd MC, Kolodziej EP, 2022, Transformation Product Formation upon Heterogeneous Ozonation of the Tire Rubber Antioxidant 6PPD (N-(1, 3-dimethylbutyl)-N′-phenyl-p-phenylenediamine), Environ Sci Technol Letters in press.

Scienceの論文のグループから。Pureな6PPDとタイヤ粉末をオゾン酸化させて、6PPD-Qや他の変化物の生成を調べた論文。6時間の反応で、pureな6PPDからは9.7%の6PPDが、タイヤ粉末からは0.95%が6PPD-Qに変化したとのことです(molベース)。59~81%以上の6PPDが反応していることから、6PPD-Qのほかにも色々生成していることが分かります。そして実際にそれらの物質の生成がQTOF-MSで調べられています。

 

 

(追記 2022.05.13)

Zhang YJ, Xu TT, Ye DM, Lin ZZ, Wang F, Guo Y, 2022, Widespread N-(1, 3-Dimethylbutyl)-N′-phenyl-p-phenylenediamine Quinone in Size-Fractioned Atmospheric Particles and Dust of Different Indoor Environments, Environ Sci Technol Letters in press.

室内の浮遊粒子中の6PPD-Q濃度と、多様な室内環境における塵埃中の6PPD-Q濃度を報告しています。浮遊粒子については、ヒトへの影響の観点から、0.43−0.65, 0.65−1.1, 1.1−2.1, 2.1− 3.3, 3.3−4.7, 4.7−5.8, 5.8−9.0, and 9.0−10 μmと細かく分画してそれぞれの濃度を測っています。結果、粗いほど(9~10 μm)濃度が高かったそうです。また色んな住環境で測定した結果、車中の塵埃が最も高濃度で、次いでショッピングモールとのこと。

 

(追記 2022.07.22)

Klauschies T, Isanta-Navarro J., 2022, The joint effects of salt and 6PPD contamination on a freshwater herbivore, Science Total Environ, 829, 154675.

あまりちゃんと読んでませんが、6PPDとNaClのワムシに対する複合影響を調べて、6PPD-Qについては単独曝露の影響を調べているようです。6PPD-Qは1000 µg/Lでもワムシ個体群に影響がなかったようです。

 

(追記 2022.08.05)

Di S, Liu Z, Zhao H, Li Y, Qi P, Wang Z, ... & Wang X, 2022, Chiral perspective evaluations: Enantioselective hydrolysis of 6PPD and 6PPD-quinone in water and enantioselective toxicity to Gobiocypris rarus and Oncorhynchus mykiss. Environ International 166, 107374.

6PPD-Qには光学異性体が存在します。キラルカラムで異性体を分離して、それぞれの加水分解速度・分解産物・魚毒性を調べた論文です。

結果、光学異性体による加水分解の差は見られませんでした。魚毒性はコイ科のG. rarusニジマスで調べていますが、コイ科に対しては異性体間での差はないものの(96h-LC50: 162–201 µg/L)、ニジマスに対してはS-6PPD-Qの方がR-6PPD-Qより2.6倍毒性が高かったそうです。2.6倍というのは差があると言って良いか微妙なレベルですが…。なおニジマスへの毒性レベルは上に書いたBrinkmannら(2022, ES&T Letters)と同程度です。

 

Ji J, Li C, Zhang B, Wu W, Wang J, Zhu J, ... & Li X, 2022, Exploration of emerging environmental pollutants 6PPD and 6PPDQ in honey and fish samples. Food Chemistry, 133640.

6PPD-Qの食品サンプル(はちみつ&魚)からの抽出法を検討した論文。QuEChERS(Quick、Easy、Cheap、Effective、Rugged、Safe)という手法を初めて知りました。アセトニトリル・塩析・分散固相抽出を利用した手法で、脂肪を多く含むサンプルに対して有効みたいです。

 

Deng C, Huang J, Qi Y, Chen D, & Huang W, 2022, Distribution patterns of rubber tire-related chemicals with particle size in road and indoor parking lot dust, Sci Total Environ, 157144.

2021年にいち早く6PPD-Qの実測報告をした中国のグループの論文。ちゃんと読んでませんが、道路塵埃をサイズ分画し(<20, 20–53, 53–125, 125–250, 250–500, 500–1000 μm) 、それぞれの画分でのベンゾチアゾール類とPPD類の濃度を測定しています。<125 μmの画分でいずれの物質も濃度が高い。

 

 

(追記 2022.08.26)

さすがにもう全部の6PPD-Q報告はまとめきれなくなりました。いくつか書き忘れたものが既に出てきてます。

これからは面白いもの、重要なものだけ記録します。

Mahoney H, da Silva Junior FC, Roberts C, Schultz M, Ji X, Alcaraz AJ, ... & Brinkmann M, 2022, Exposure to the Tire Rubber-Derived Contaminant 6PPD-Quinone Causes Mitochondrial Dysfunction In Vitro. Environ Sci Technol Lett in press.

またカナダから。ニジマスのエラ・肝細胞を用いて6PPD-Qの毒性試験をした論文。6PPD-Qがエラ細胞のミトコンドリアのuncouplingを引き起こしていることを報告。

 

French BF, Baldwin DH, Cameron J, Prat J, King K, Davis JW, McIntyre JK, Scholz NL, 2022, Urban Roadway Runoff Is Lethal to Juvenile Coho, Steelhead, and Chinook Salmonids, But Not Congeneric Sockeye, Environ Sci Technol Lett in press.

Science論文のグループから。6PPD-Qではなく、路面排水にOncorhynchus属の魚を24時間曝露し、致死応答を調べた論文。ギンザケやスチールヘッド(O. mykiss)には明確な影響が出るが、マスノスケは微妙(致死率0~13%)で、ベニザケには全く影響が出なかったそうです。

 

(追記 2022.09.16)

Johannessen C, Metcalfe CD, 2022, The occurrence of tire wear compounds and their transformation products in municipal wastewater and drinking water treatment plants, Environ Monitor Assess 194(10): 1-11.

6PPD-Qの最初期の環境分析報告を出したJohannessen氏らの論文。下水処理水の流入水、放流水にパッシブサンプラー(POCIS)を仕掛けてタイヤ関連物質(6PPD-Q、DPG、HMMMとその変化体)の分析をしています。水中濃度に換算しておらずサンプラー中濃度しか報告していないので、ちょっと片手落ち感が否めませんが、放流水で6PPD-Qが検出されているなどの結果は面白いです。しかも流入水より高い場合もあります。オゾン処理でもしている施設なのでしょうか…?

 

(追記 2022.11.07)

Masset T, Ferrari BJ., Dudefoi W, Schirmer K, Bergmann A, Vermeirssen E, ...  Breider F, 2022, Bioaccessibility of Organic Compounds Associated with Tire Particles Using a Fish In Vitro Digestive Model: Solubilization Kinetics and Effects of Food Coingestion, Environ Sci Technol in press

Eawagなどからタイヤ添加物(2-mercaptobenzothiazole MBTやdiphenylguanidine DPG)およびその環境変化体の、タイヤ粉末(というかCMTT; cryo-milled tire tread)から模擬消化液への溶出を調べた論文。餌としてヨコエビの粉末を入れて、溶出がどうなるのかも調べてます。ヨコエビがあることで、親水性の物質は溶出しにくくなり、疎水性物質は溶出しやすくなったと報告されています。

 

(追記 2022.12.13)

Fohet L, Andanson JM, Charbouillot T, Malosse L, Leremboure M, Delor-Jestin F, Verney V, 2022, Time-concentration profiles of tire particle additives and transformation products under natural and artificial aging, Sci Total Environ: 160150.

タイヤ・路面摩耗粉末(TRWP)とタイヤトレッドの凍結粉末(CMTT)を用いて、タイヤに含まれる添加物とその変化物の、光分解・熱分解・野外での光分解による濃度変化を調べた論文。時間があったら自分もやろうと思っていた内容ですが、良く書けていて、もう自分でやることはなさそう。イントロも良く書けてます。

6PPDなどの添加物は熱や光で分解するが、CMTT中の6PPD-Qは主に光条件下で生成し、また分解するベル型(上に凸型)の経時変化を示しています。CMTTではなくTRWPだと、6PPD-Qは始めから濃度が高く、あとは減衰するのみというのは面白いですね。またこの記事の上の方にも書いたSeiwertら(2022, Water Res)のように色んな変化物を見ています。

 

論文のメモ: サケの産卵前致死の事例

サケが川に遡上してきて産卵前に死亡する現象(Prespawn mortality)。ギンザケを対象にしたScience論文のグループの研究(NOAA、ワシントン州立大学ワシントン大学タコマ校など)ばかり追ってましたが、この現象は他のグループからも色々報告されてました。

 

Bowerman T, Keefer ML, Caudill CC, 2016, Pacific salmon prespawn mortality: patterns, methods, and study design considerations, Fisheries 41(12): 738-749.

Prespawn mortality(PSM)の調査方法に関するレビュー。死亡の原因は、高温、高密度、感染症、(高温に伴う)貧酸素、そしてギンザケの研究で言われている路面排水などの複合的なものだと述べています。

PSMが見られるサケは、chinook salmon(Oncorhynchus tshawytscha; king salmon, マスノスケ)が多く、sockeye salmon(Oncorhynchus nerka; ベニザケ)やcoho salmon(O. kisutch ; ギンザケ)も。稀にchum salmon(O. keta; シロザケ)とニジマスsteelhead(O. mykiss)の死亡も報告されているようです。この論文の対象地域は北米北西海岸のみ。

 

Keefer ML, Naughton GP, Clabough TS, Knoff MJ, Blubaugh TJ, Morasch MR, ... & Caudill CC, 2020, Tissue toxicants and prespawn mortality in Willamette River Chinook salmon, Environ Biol Fishes 103(2): 175-183.

上のレビューのグループから、産卵に成功/失敗したchinook salmonメスの筋肉や皮膚中の有害物質濃度(金属、DDT、PCB濃度など)を測定した論文。有害物質濃度との関連は認められなかったという結論です。

なお金属や殺虫剤、PAHを対象とした同様の検討はcoho salmonギンザケでもなされていて、6PPD-キノンが原因とするScience論文に行き着くわけです。

"We did not expect evidence of acute toxicity like the respiratory impairment observed in Puget Sound coho salmon (e.g., McIntyre et al. 2018) based on seasonal patterns of mortality in the Willamette River populations (Bowerman et al. 2018)."として、chinook salmonの場合は慢性影響ではないかと書いてます。この記述に関してはちょっと保留。症状などから魚種によって別のメカニズムだと言えるなら信憑性が高いですが。

 

 

論文のメモ: ギンザケに対する6PPD-キノンの急性毒性値の更新

2020年の末にワシントンのグループによって、降雨時のギンザケ死亡の原因物質であることが報告された6PPD-キノンの続報(参考:ギンザケの死亡を引き起こすタイヤ由来の化学物質)。

 

Tian Z, Gonzalez M, Rideout CA, Zhao HN, Hu X, Wetzel J, ... Kolodziej EP, 2022, 6PPD-Quinone: Revised toxicity assessment and quantification with a Commercial Standard. Environ Sci Technol Letters.

昨年の学会(SETAC NA 42nd Annual Meeting)で報告されていた内容です。

Science論文の時は、6PPDのオゾン酸化またはタイヤからの精製物を用いて、毒性試験・定量していましたが、市販の標準品を用いて改めて実験し直すと、ギンザケに対する24-h LC50はScience論文の790 ng/Lから8倍ほど低下して、わずか95 ng/Lになったとのこと。毒性試験は市販品を用いて3回やり直しており、それなりに信頼性はありそう。95 ng/Lという低濃度は中々ないレベルで、パラチオンやクロルピリホスカドミウムなどと毒性の強さを比較されています。

毒性値が低くなったと言っても、Science論文では環境試料の定量も毒性試験も、同じ自前の合成品を用いて行ったので、環境中濃度の推定値も同様に低くなっており、Science論文における野外での6PPD-キノンのリスク評価結果は特に変わらないと思われます。

 

論文のメモ: 底質(毒性試験)における生物攪拌の影響

2歳半近くになりイヤイヤ期を脱した娘。この1年間くらい、だいたい同じ年齢の甥っ子や姪っ子(つまり娘にとってはいとこ)と会うたびに、おもちゃを取り合って衝突していましたが、ようやくそれが収まる兆しを見せてきたかも。帰省の間、数回に1回、自ら引く姿を見せていました。

大人から見ると明らかに会話が成立していないけど、というか会話すらほぼないけど、年長の子の「イェーイ」的な声に合わせて2歳頃の子たちが爆笑する様子が面白い。

 

Ciarelli S, van Straalen NM, Klap VA, van Wezel AP, 1999, Effects of sediment bioturbation by the estuarine amphipod Corophium volutator on fluoranthene resuspension and transfer into the mussel (Mytilus edulis), Environ Toxicol Chem 18(2): 318-328.

古いけど見落としていた論文。フルオランテンをスパイクした底質に、ヨコエビCorophium volutatorとイガイMytilus edulisを30日間曝露させ、イガイへのフルオランテンの移行などを調べた研究です。ヨコエビの数が増えると、ヨコエビの活動( = bioturbation)によって懸濁粒子が増えて、イガイへのフルオランテンの移行量も増えています。

よくある感じの研究ですが、上層水におけるフルオランテンの溶存態と懸濁態や、間隙水中の濃度をちゃんと測定しているのがポイント高い。

 

 

2021年によく聴いた音楽

Spotifyで2021年によく聴いた曲のリスト。

今年は通勤中LEX聴きまくってました。LEXは本当に聴き心地が良い。声がひとつの楽器という感じ。あまりRapとかHip hopに囚われてない感じなのも良い。基本何言っているのか分からないし、歌詞見てもやっぱり何言ってるのか分からないことが多いですが。

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BAD HOPとElle Teresaは去年から引き続き。

Jin Doggは今年からちゃんと聴きました。Jin Doggは言葉がスッと頭に入ってきます。このレベルはKOHH以来かも。その分、攻撃的な曲は聴くのが辛い時もあるかも。

あとランクインしてたのはkim taehoon、JP THE WAVY、Creepy Nuts、OZ Worldとか。High School DropoutのDADAは最近割と聴いてましたが入ってなかった。たぶん12月から聴き始めたから集計されてないっぽい。f:id:Kyoshiro1225:20211228203436p:plain

 

論文のメモ: マイクロプラスチックとバイオフィルム

論文書きのための論文読みばかり続くと、テンション下がってきますよね。漫然と読みたい時もある。てことで面白そうだったマイクロプラスチック論文。今のところマイクロプラには(ほぼ)自らの研究でかかわってませんが、来年度はいくつか関わりそうな感じ…。

 

Amariei G, Rosal R, Fernández-Piñas F, Koelmans AA, 2021, Negative food dilution and positive biofilm carrier effects of microplastic ingestion by D. magna cause tipping points at the population level, Environ Pollution 118622.

ポリエチレン(PE)を下水流入水で1〜3週間培養したら、PEを与えない場合に比べてむしろオオミジンコの14-day生存率が増加した。これは、培養することでPE表面にバイオフィルムができ、ミジンコの餌として機能し、PEマイクロプラスチックの主な毒性原因である"food dilution"が働かなくなったからでは、というお話。"food dilution"を軸にするために、そもそもの生存試験の餌の藻類を低濃度(0.0125 mgC/L/day)で与えています。

"To our best knowledge this work is the first quantitative assessment of this interaction(=biofilm形成とMP自身の影響)."と書いてますが、その定量的な議論はいまいち追いきれず。

 

Schür C, Weil C, Baum M, Wallraff J, Schreier M, Oehlmann J, Wagner M, 2021, Incubation in Wastewater Reduces the Multigenerational Effects of Microplastics in Daphnia magna, Environ Sci Technol 55(4): 2491-2499. 

Norwayのグループの論文。上と同じように、下水流入水で38時間培養したポリスチレン(PS)を、低餌濃度で(0.05 mgC/daphnid/day)オオミジンコに曝露して、多世代の生存や産仔を見ています。こちらの論文でも、下水で培養することでマイクロプラスチックの毒性は下がっています。その原因はほぼdiscussionのみ。培養によって表面のチャージや粒子径に変化はなかったと書いています。

 

 

論文のメモ: 地表オゾン濃度の季節変動

Tanimoto H et al., 2005, Significant latitudinal gradient in the surface ozone spring maximum over East Asia, Geophys Res Letters 32(21): 1-5.

忘れそうなのでメモ。

地表のオゾン濃度には季節的な周期性があって、日本含む東アジアでは春に高くなる。北の方ほど最高濃度に達する時期が遅めで、日本は5月ころに最大になる。このへんに詳しい。

 

ちなみに東京都の過去のオゾン濃度、ではなく光化学オキシダント濃度は東京都環境局で入手可能。

SETAC NA 42nd Annual Meeting

オンライン開催。

自分は共著の発表一つだけしかしていませんが、いくつか発表を聞いてました。オンライン開催だと、新しいヒト・発表への出会いが中々うまくいかない反面、いつでも発表が聞けるのは嬉しい。なお、リアルタイムの催しは一つも参加できませんでした。。

 

 

6PPD-quinone関係の発表が10個もありました。Q&Aも盛り上がっている気がしました。なんとなく。

  • 02.09.10: ギンザケに路面排水を曝露させて、トレーサー物質の脳への移行を調べたもの。Blair et al. (2021, Canadian J. Fish Aquat. Sci.) の続き。魚のsurfacingの前から既にトレーサーは脳に移行しつつあり、血液脳関門(BBB)は破壊されている様子。鰓についても同様にleakingあり。しかし3時間以内に反応が出るというのは速い。どういうメカニズムなのか。
  • 04.03.01: 6PPDとタイヤ破砕物をオゾン酸化させて、6PPD-Qの生成率を観察。モル割合で、6PPDのせいぜい10%以下しか6PPD-Qにならない。タイヤ破砕物の場合、わずか1%。
  • 04.12.09: Science論文の筆頭著者によるプレゼン。合成した6PPD-Qは、市販品に比べて15倍もピークが低く、これまでの定量結果は過大評価だったとのこと。更新されたギンザケのLC50は95 ng/L。低い!
  • 04.12.20: 河川底泥から6PPD-Qはほとんどの場合検出下限以下(< 0.25 ng/g)だったとのこと。雨が降った後でも、雨が200日(!)降っていない場合でも同じ。

 

その他の発表。

  • 01.14.11: Hyalella aztecaの胚発生試験の開発。ヨコエビの胚発生モデルと言えばP. hawaiensisがありますが。これはやってみたい! まずオス・メスそれぞれ分けてから2週間置いて、その後ペアを作成し、解剖して取り出す。
  • 02.01.10: H. aztecaの慢性繁殖試験について。オーストラリアのMelita pulumulosaの試験に触発されて、性成熟した個体を用いてオスの割合を減らせば、産仔数のばらつきを減らせるんじゃないかという提案。個人的には実用化するとはあまり思えませんでしたが。
  • 03.04.04: 低濃度のネオニコは蝶の蛹化を阻害する。Crustacean cardioactive peptide (CCAP) の阻害がメカニズム?
  • 01.05.02: Altenburger氏らのzebrafish transcriptomics。前からself-organizing mapを用いた解析をしてましたが、今回はmixture effectsに応用。作用機序の異なる物質間の、遺伝子レベルの応答でもconcentration addition (CA) モデルで予測できるというのは面白い。しかし細かいところは正直フォローできてません。この手の研究では一歩抜きんでている印象。

あまり真新しく感じたのはなかったけど、その他AOPとか、底質汚染関係とか、無脊椎動物関係などをよく聞きました。依然として発表が多かったマイクロプラとPFASは正直あまり聞いてません。