備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

環境中のPAHs・論文「シドニーの路面堆積物・土壌・底質中のPAHs」

PAHs(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons;多環芳香族炭化水素)はN,O,Sなどのヘテロ原子や置換基を含まない、複数の芳香環からなる炭化水素の総称です。例えば代表的なPAHsにbenzo[a]pyreneがあります。

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図:benzo[a]pyrene

多くのPAHsは変異原性や発がん性を持ち、環境中に広く存在しています*1。PAHsの発生源は、主に「pyrogenic(燃焼起源)」なものと「petrogenic(石油起源)」なものに分けられます。前者の例は車の排気ガスや森林火災などで、後者の例としては原油や精製品(タイヤやアスファルトなど)があげられます。このようにPAHsは非意図的に発生するので、発生源の特定が難しく、対策が中々施せないという問題があります。

Nguyen T.C. et al., 2014, Polycyclic aromatic hydrocarbons in road-deposited sediments, water sediments, and soils in Sydney, Australia: Comparisons of concentration distribution, sources and potential toxicity, Ecotoxicol. Environ. Safety, 104, 339-348.

シドニーで土壌、路面堆積物(road-deposited sediments)、底質のPAHs16種を測定した論文です。下は一部結果のメモ。

  •  土壌、路面堆積物、底質中の16種PAHs合計濃度はそれぞれ2.80, 2.91, 1.76 mg/kg(いずれも平均値)。
  • 土壌と路面堆積物の中で最も濃度が高かったPAHsはfluorantheneとpyrene(0.4~0.6 mg/kg程度)。
  • fluorantheneとpyreneの存在比などから、PAHs発生源は次のように推測できた。路面堆積物は燃焼起源と石油起源の両方。土壌と底質は主に燃焼起源。
  • PAHsの組成に関して主成分分析とクラスター解析したところ、シドニーのKogarah湾底質のPAHsは路面堆積物より土壌からの寄与が大きいと考えられた。

 

分子でよむ環境汚染

分子でよむ環境汚染

 

 

*1:この段落の参考図書:「分子でよむ環境汚染」鈴木聡 編著