備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文「時間経過によって土壌中PAHの分布はどう変化するか」

PAH(多環芳香族炭化水素)は、疎水的な性質のために土壌や底質に多く蓄積してます。土壌や底質中のPAHは、粒子表面に吸着していたり、あるいは粒子の微細孔に隔離されたりしています。そのため、容易に抽出されにくかったり、生物に利用されにくかったりします(=bioavailabilityが低い)。

そしてそのbioavailabilityの低下は、土壌・底質粒子とPAHとの接触時間が長いほど顕著になります。この効果を「aging effect(経時効果)」と呼びます。

下の論文は、aging effectが土壌中のPAHの分布に与える影響を調べたものです。具体的には、PAHの一種であるpyreneが土壌中の砂・シルト・粘土のどの画分にどれだけ存在するかを、いくつかの接触時間(最大90日)ごとに測定した研究です。

Wei R. et al., 2014, The effect of aging time on the distribution of pyrene in soil particle-size fractions, Geoderma, 232, 19-23.

アジ化ナトリウム(NaN3)を加えて微生物分解を抑制した系と、そのまま何も加えていない系を用いて、90日間培養しています。 

アジ化ナトリウムを加えて滅菌した系でも、pyreneの抽出量は減少しました。90日間の培養中に隔離されていたのです。

ここまではよくある話。少し意外だったのが、というかこの論文の売りだった点ですが、pyrene全量に対しての砂・シルト・粘土などの画分ごとの存在割合が接触時間によって変化しなかったようです(Fig. 3)。つまりpyreneのsequestration(隔離)はどの粒子径でも同じ速度で起こっているのです。粒子径が異なると、鉱物の組成やら有機物量が変わって来るので、隔離速度も変化しそうなのに・・・?

その疑問に対する筆者らの考察は、90日間ではまだ隔離が十分に起きておらず、表面への吸着しか生じていないため、粒子径の違いによる特徴は見られなかったというものでした*1 。

 

有機物質を土壌や底質にスパイクする際は3か月以上静置しないと駄目とは聞きますが、それを用いて毒性試験をするとなると中々簡単に出来る実験ではないですね。

*1:これは正直、納得・理解しきれてません。初期の吸着速度も粒子径によって変化するのでは?