備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文「塩分・粒子径が底質へのPAH吸着に与える影響」

PAH(多環芳香族炭化水素)などの疎水性物質は、底質に蓄積しています。底質中へのPAHの隔離(sequestration)は、時間経過に伴って進行すること(aging effect)は以前紹介しました(→時間経過によって土壌中PAHの分布はどう変化するか)。

 

aging effectは数か月以上の時間スケールですが、今回はもっと短く数時間単位の話です。なので粒子の内部に入り込んでいく隔離現象というより、粒子の表面への吸脱着の話です。

Wang J. et al., 2014, Adsorption of PAHs on the sediments from Yellow River Delta as a function of particle size and salinity, Soil Sediment Contam.:Inter. J., accepted. 

 黄河河口の底質とPAH汚染海水を接触させ、底質へのPAHs吸着と塩分・粒子径の関係を調べた研究です。結果は、

  • 粒子径が小さいと吸着も増加
  • 塩分が高いと吸着も増加

というものでした。結果自体は既往研究で同じようなものが多くあり、黄河の底質で実施したことがただ新しいという、環境科学に何気にありがちな研究でしたが、イントロと考察をざっと読んで頭が整理できました。特に塩分との関係について。

塩分増加に伴ってPAHの吸着が増加したのは、「①塩析効果(salting-out effect)によってPAHの溶解度が減少したこと」と、「②底質からのDOM溶出が抑制されて底質粒子の吸着能が増したこと」、「③PAHと底質粒子との電気的な反発が塩類イオンによって緩和されたこと」が理由だと考察されています。

 

しかしここに生物への毒性影響を加えて考えると、問題が一気に複雑になりますね…。塩分が増加したら、底質への吸着量が増加して毒性が減少する、と単純に言えないのではないでしょうか。確かにPAHの溶存態濃度は減りますが、塩析効果によって活量は増加するでしょうし*1、また、粒子に吸着したものを食べる摂食曝露の影響も出てくるかもしれません。

*1:無視できるレベル?計算してないので不明。