底生生物を用いる毒性試験では、自然環境中から採取した底質ではなく、人工的に作成した底質(以下、人工底質; artificial sediment, formulated sediment)を用いる場合があります。例えばユスリカの底質毒性試験は、石英砂とカオリンなどを混合した人工底質を用いるようにOECDや化審法で定められています。ある決まった人工的な底質を希釈に使用することに決めれば、「希釈に用いる底質の種類によって毒性が変化する」という課題もクリアできますね。
人工底質を用いるのが望ましいのは、一般にメカニズムベースの研究をする場合でしょう。メカニズムベースの研究というのは、例えば、亜鉛がユスリカに致死影響を及ぼすかどうかを考える時に、亜鉛の「どの曝露経路」「どの形態(speciation)」がどれだけ影響しているかを調査するものです。このような研究では、有害物質の曝露経路や形態をうまくコントロールしたいので、人工底質が適しています。もし環境底質を使用すると、有害物質の曝露経路や形態が、底質によって、または底質の採取時期によって大きく変わる可能性があります。
もちろんメカニズムベース以外の研究では、環境底質の使用が推奨されることがあります。現場の環境で「実際にどのような毒性影響が生じているのか」を知りたい場合には、その環境の底質を用いれば良いのです。
Mann R.M., Hyne R.V. and Ascher L.M.E., 2011, Foraging, feeding, and reproduction on silica substrate: Increased waterborne zinc toxicity to the estuarine epibenthic amphipod Melita plumulosa, Envron. Toxicol. Chem., 30(7), 1649-1658.
今回の論文は、人工底質と汽水産ヨコエビMelita plumulosaを用いて、亜鉛の毒性試験を行ったものです*1。
「亜鉛の毒性試験」といっても、waterborne zinc toxicityとタイトルにあるように、溶存態の亜鉛による水系曝露のみを考えようとしています。底質粒子への吸着態を経由する摂食曝露dietary toxicityは、この論文では影響を取り除こうと意図しています。
どのようにして摂食曝露の影響を取り除くのか。
汚染物質(ここでは亜鉛)が吸着しにくい粒子を底質に使用するのです。この論文では、シリカが用いられています。そしてこの粒子が、試験生物に摂食されないものであればなお良いです。
結果は下表です。シリカを入れた系の方が、LC50値*2が低い、すなわち毒性が高いことが分かります。底質を入れた方が、居住空間があって、ストレス低減になると思われるのに・・・。
シリカありの系での高毒性を筆者らは、粒子摂食が原因だと考えています。ヨコエビはシリカを食べるのだそうです。そして、シリカには亜鉛が吸着していると思われます。上層水中の溶存態亜鉛が消失していることから、そのように推察されています*3。
シリカを用いても、有害物質は吸着するし、粒子曝露は生じる。個人的に嫌な話でした。