下水道というワードが書名に入っているので、なんとなく読んでみました。
中里卓治, 2014, 下水道の考えるヒント2, 環境新聞社
雑誌連載の随筆をまとめた本なので、各テーマが5-6ページにおさまっています。MBRや汚泥処理法といった下水道に関する話もありますが、東日本大震災や旭山動物園など一般的な話題を論じたものも多いです。
印象的だった話をいくつか。
蛍光式DO計*1
従来のDO計は、酸素を選択的に透過する隔膜を利用したものです。この従来式は、隔膜の洗浄やゼロ点調整などメンテナンスが不可欠です。
そこでメンテナンスの手間が省ける新手法として蛍光式DO計が注目されてます。これは、LEDを利用した手法です。DO計から励起光が出て、水中の蛍光物質にあたり、蛍光が放射されます。この時、蛍光物質の周辺に溶存酸素があると励起エネルギーは酸素に奪われて、蛍光強度が減少します(消光)。この蛍光強度の変化をDO計で測定して、DO濃度に換算するのです。
原理から、懸濁物質やらによって測定が妨害されそうに感じましたが、ざっと調べてみると上手く測定できているみたいですね。なんか不思議。
下水汚泥からの金産出
長野県の豊田終末処理場では、汚泥から金が採取されています。特別な処理を施しているわけではなく、下水汚泥の溶融プロセスがたまたま金の精製になっていたというのが面白いです。
しかし、この豊田処理場の汚泥は福島の原発事故の影響を受けていたようです。なんでも汚泥から金だけでなく、放射性セシウムも検出されたために売却できなかったのだとか(参考URL:長野日報)。
下水の熱利用
下水の温度は、冬は気温より高く、夏は気温より低いです。その性質を利用して、下水を冷暖房に利用しよう、という試みは20年以上前から検討されていたようです。しかしいまだに導入が進んでいない理由として、筆者は次の3つを挙げています。
i) 節水意識の向上による下水温度の上昇(=夏季の冷熱源としての価値低下)、ii) 電力・ガス会社がいる中での新規参入の困難、iii) 大規模な地域冷暖房システムの需要減少。
この理由の3つ目にはなるほどと思わされました。詳細は次の段落にまとめた通りですが、これは技術開発で何とかなりそうな課題ですね。
かつては建設コストや維持管理コストが低く抑えられる、大規模な地域型冷暖房システムが好まれていました。しかし近年はヒートポンプの小型化が進み、ビル単位・フロア単位での使い勝手の良いビルマルチエアコンが低コストで可能になり、主流となりました。ビルマルチエアコンが導入されたタイミングで、下水熱利用の冷暖房はまだ大規模なシステムに則っていたため、普及できなかったんですね。
レバー式蛇口
昔はレバーを上げると水が止まる「下げ止め」が主流でした。しかし今はレバーを上げると水が止まる「上げ止め」が主です。何故でしょう。
きっかけは阪神淡路大震災らしいです。「下げ止め」だと地震の際の落下物や倒壊によって、自動的に水が出てしまいます。それを防ぐために「上げ止め」に変わったそうです。
Zパイプ
ボール紙にコールタールを塗っただけの「Zパイプ」なるものが、オイルショックの際の横浜市や横須賀市で、下水道の取付管*2代わりに使用されていたそうです。そのZパイプは30~40年も使用され続けていたと言います。