「底質と底質抽出物の毒性評価」
Wiklund A.K.E. and Broman B.S.D., 2005, Toxicity evaluation by using intact sediments and sediment extracts, Mar. Pollut. Bull., 50(6), 660-667.
パルプ工場付近の底質の毒性を、ヨコエビMonoporeia affinisによって評価した論文。処理を施していない汚染底質よりも、トルエン-ヘキサンで抽出した画分を(アセトンに溶かしてから)参照底質にスパイク(1週間静置)した底質の方が毒性が高かったという結果。
底質毒性でbioavailabilityを考慮しないといけない好例。こういうことが生じ得るので、生物個体を用いる底質TIEにおいて「底質から抽出+スパイク」という手法はあまり用いられず、吸着剤使用がメインになっているんだと理解してます。それで「抽出+スパイク」手法は、bioavailabilityをきちんと考慮しなくてもよい(?)in vitroのバイオアッセイと組み合わせるのが主流なんでしょう(EDA; Effect Directed Analysis)、たぶん。
ただ「抽出+スパイク」手法をin vivoでおこなっても、つまりこの論文の方法でも、毒性要因のスクリーニング目的なら十分効果はあるのでは? 実際、下の論文(Boxall and Maltby, 1995)はきれいな結果をだして、要因の特定につなげてます。
というか抽出をヘキサンのような強力なものでおこなうから良くないのかも。Bioavailabilityを模擬・考慮した抽出法で同様のことをすれば問題は少なくなりそう。
「路面排水に汚染された底質中の有機物質分析」
Boxall A.B. and Maltby L., 1995, The characterization and toxicity of sediment contaminated with road runoff, Water Res., 29(9), 2043-2050.
数年前に一度見た論文ですが、もう一度読み直し。底質TIEの古典的な論文。汚染底質をジクロロメタンで抽出し、抽出物を極性で分画。各画分をアセトンに溶かしてヨコエビの毒性試験。上の論文と同様の手法ですね。ヨコエビに対する毒性が高いのは、PAHsなどが含まれる中程度極性の画分(FB)という結果。
なんだかGC/IRを使いたくなりました。
「バイオアッセイによる河川底質中の有機毒性物質の特定」
Brack W., Altenburger R., Ensenbach U., Möder M., Segner H. and Schüürmann G., 1999, Bioassay-directed identification of organic toxicants in river sediment in the industrial region of Bitterfeld (Germany)—a contribution to hazard assessment, Arch. Environ. Contam. Toxicol., 37(2), 164-174.
これも、底質抽出物をwater onlyのバイオアッセイにスパイクして毒性要因の推定を試みた論文。ざっと読んだだけです。まずアセトンで抽出してヘキサンやジクロロメタンで分画。最終的にアセトンに溶かしてスパイク。
大抵の画分ではスパイクしたら沈殿してしまった、って普通に報告してます。こういう記述を見ると、やはり底質から抽出する手法がTIEで使われないのも納得。
毒性の高い画分に見られた物質を単独で(またはmixtureとして)アセトンに溶かして毒性試験すると、底質抽出物の毒性より低くなったり、高くなったりという結果も出てます。筆者らは、対象にしていない物質による毒性・または拮抗作用だろうと書いている。似たような話は今年の環境毒性学会でされてましたね*1。
一番上の論文のところで書いたようなことは、イントロで述べられてました。
Effect data from this approach are useful for the identification of potential organic toxicants in the sediment but are no measure for the toxicity of the bulk sediment.
*1:ただキャリア溶媒が底質抽出物の試験と参照物質のスパイク試験とで異なっていたかも?記憶があいまい。