備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

最近読んだ論文のメモ: 除草剤・殺虫剤の毒性と塩分

もしかしたらと思い付きで、高速道路などにおける除草剤の使用について調べてます。今は道路などで除草剤の散布はほとんどされてないだろうとは思いつつ。

あまり情報が見当たらなかったのですが、平成元年の国会質問で高速道路での除草剤使用について触れられてましたゴルフ場及び堤防等の農薬汚染に関する質問主意書。ちなみに当時の竹下内閣の答弁はこちら。高速道路で、アージラン, 2・4-D, ラウンドアップといった除草剤が相当量使用されていると書かれてます。また道路や公園等での除草剤使用は建設省所管で農薬取締法の適用外だとか。もう25年以上前の話ですが、今はどうなってるんでしょう。

新しいものだとこんな話もありました。ラウンドアップ50 Lが北海道の中央分離帯20 kmにまかれていたとのこと。 

 

「高速道路での除草剤の流出」

Huang X., Pedersen T., Fischer M., White R. and Young T.M., 2004, Herbicide runoff along highways. 1. Field observations, Environ. Sci. Technol., 38(12), 3263-3271.

高速道路沿いに5種の除草剤(oryzalin, isoxaben, diuron, clopyraild, glyphosate)を実際に撒いて、その雨天時流出を測定した研究。詳細は読んでないです。初期降雨で30~77%は流出し、残った除草剤は一次反応式に従って濃度減少していく、流出水中のSSに吸着している画分は定量限界以下という結果。5種の除草剤のlog(Kow)は-4.1~3.73。

 

「塩分がaldicarbの毒性に与える影響」

Wang J., Grisle S. and Schlenk D., 2001, Effects of salinity on aldicarb toxicity in juvenile rainbow trout (Oncorhynchus mykiss) and striped bass (Morone saxatilis× chrysops), Toxicol. Sci., 64(2), 200-207. 

こちらも流し読み。有機リン系カーバメイト系の農薬の毒性は、高塩分域で増大する傾向が一般的にあるらしく、そのメカニズムを知りたくて読んでみました。

カーバメイト系の殺虫剤aldicarbのニジマスに対する致死率は、高塩分 (18 ppt) に馴致した場合に30%から91%に増加したという結果。aldicarbはフラビン含有モノオキシゲナーゼ (FMOs) によってスルホキシド化され、代謝活性化する。塩分はそのFMOsの発現を促進するので、高塩分域ではaldicarbの毒性が増大したのでは、と考察されてます。

 

「高塩分馴致が有機リン系殺虫剤phorateの毒性を増加させる」

Lavado R., Maryoung L.A. and Schlenk D., 2011, Hypersalinity acclimation increases the toxicity of the insecticide phorate in coho salmon (Oncorhynchus kisutch), Environ. Sci. Technol., 45(10), 4623-4629. 

またも流し読み。このグループは塩分馴致と殺虫剤の毒性に関する論文をいくつも出してるみたいです。

有機リン系の殺虫剤であるホレートphorateを、淡水馴致・海水馴致したギンザケに曝露。上に書いたのと同じように、海水に馴致すると毒性が増してます。またスルホキシド化などの代謝活性化が促進されています。代謝物の方がアセチルコリンエステラーゼ阻害活性が大きいことがin vitroの実験で検証されている。

塩分はFMOsの発現を促進する」のは、浸透圧調節物質osmolytesの生成のためではないかとDiscssionで述べられてます。

 

「4種の殺虫剤毒性に対する浸透圧の影響」

Song M.Y. and Brown J.J., 1998, Osmotic effects as a factor modifying insecticide toxicity on Aedes and Artemia, Ecotoxicol. Environ. Safety, 41(2), 195-202. 

蚊Aedes taeniorhynchus とアルテミアを用いて、4種の殺虫剤 (aldicarb, dimethoate, tebufenozide, imidacloprid) の毒性試験を実施した研究。

魚類以外でも、高塩分域で殺虫剤の毒性が増加していることを示した知見です。あまりクリアな結果ではありませんが。この論文自体は致死率をエンドポイントにしているので、メカニズムは検討されてません。ただ高塩分馴致で毒性が増大した理由は、(上に書いたような代謝活性化ではなくて)Na+/K+ ATPase 阻害によるものではないかと述べられてます。

 

(追記 2021.11.28)

Knysh KM, Courtenay SC, Grove CM, van den Heuvel MR, 2021, The Differential Effects of Salinity Level on Chlorpyrifos and Imidacloprid Toxicity to an Estuarine Amphipod, Bulletin Environ. Contam. Toxicol. 106(5), 753-758.

汽水のヨコエビを用いて、有機リン系殺虫剤のクロルピリホスネオニコチノイド系殺虫剤のイミダクロプリドの急性毒性を、20 PSUと30 PSUで調べた研究。クロルピリホスは30 PSUで1.5倍ほど毒性増加したが、イミダクロプリドはほぼ変わらなかったそうです。