備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 遺伝子ネットワーク推定とAOP

マイクロアレイやRNA-seqのデータから遺伝子間の関係(ネットワーク)を推定し、有害物質によって引き起こされる悪影響adverse outcomesのメカニズムを明らかにしようという研究について。

 

「システム生物学アプローチによってNarcosisのCa依存メカニズムを解明する

Antczak P, White TA, Giri A, Michelangeli F, Viant MR, Cronin MT, Vulpe C, Falciani F, 2015, Systems biology approach reveals a calcium-dependent mechanism for basal toxicity in Daphnia magna, Environ Sci Technol, 49(18), 11132-11140.

昔2回ほど簡単に読んだけど、頭に残ってなかったので精読し直しました。

Narcosis(Basal toxicity)のメカニズムをシステム生物学的なアプローチで明らかにしたよ、という論文。疎水性の物質ほど毒性が大きい、それは疎水性物質ほど細胞膜のintegrityを阻害しやすいから、ということまで既存研究で分かっていたけれど、より詳細なメカニズムまでは明らかになっていなかったそうです。この論文は、2013年ESTのDaphnia magnaトランスクリプトーム解析論文のマイクロアレイデータ(26種の有機物質に24h曝露)用いて、曝露物質のlogKowと遺伝子発現、曝露物質の物性との関係を調べることによって、その詳細なメカニズム理解に迫ったものです。細胞膜でのCa輸送阻害がnarcosisのMolecular Initiating Event(MIE)ではないか、というのが結論。

Ca関係のpathwayが怪しいと見做すきっかけになった結果は、logKowと発現データの相関(Significance Analysis for Microarrays; SAM, Table S6)?色々やっているけど、肝心の結果の記述はあっさりしてます。Ca阻害がMIEだという仮説の検証のため複数の追加実験をおこなっていて、投げっぱなしでないのは好感が持てます。

イントロ読んだ時は、全自動的なデータ解析でAOP(Adverse Outcome Pathway)を構築するのかと思ったけど、意外と泥臭いことやってました。

 

AOPリバースエンジニアリング

Perkins EJ, Chipman JK, Edwards S, Habib T, Falciani F, Taylor R, Aggelen GV, Vulpe C, Antczak P, Loguinov A. 2011. Reverse engineering adverse outcome pathways. Environ Toxicol Chem 30(1): 22-38.

上の論文は、この総説?を先に読んだ方が理解しやすいかも。Ankleyら(2009, Aquatic Toxicology)のファットヘッドミノーのマイクロアレイデータを用いて、ネットワーク解析をおこなった論文。RのminetパッケージとSoftware Environment for Biological Network Inference(SEBINI)を使って、ARACNeとCLRで解析。

上のAntczakら(2015)もそうだけど、遺伝子発現データだけでなくadverse outcome(AO)データ自身もネットワークに組み込んでいるのが面白い。この論文では、繁殖能低下の代わりにtestosteronレベルをAOとしてます。AOと関連の深いpathwayを探索するという目的に適している方法だと思います。

データ解析の結果を一人歩きさせないよう述べた次の文は大事。"these results must be evaluated by both leveraging preexisting knowledge of the biological system and targeting follow-up experiment to explicitly test the hypothesis generated."