備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

「幼児教育の経済学」感想

幼少期の教育に介入する社会政策によって、教育を受けた子供の学力・学歴は高くなり、生涯収入は増え、犯罪率は低下する。幼少期の教育への介入の効果は、生涯にわたって持続し経済的な利益を産むために、経済的な効率性が良い。思春期や成人を対象にした職業訓練プログラムなどの政策よりも、費用対効果が高いと考えられる。

なお幼少期の教育に介入した場合、子供のIQなど認知的能力は一時的に増加するが、その効果はすぐになくなってしまう。それでも生涯収入や犯罪率などの社会的成功への影響は持続することから、認知的能力だけでなく非認知的能力(=肉体的・精神的健康や根気強さ・注意深さ・意欲などの女湯動的性質)が教育によって向上したことが重要だと思われる。

 

要旨はだいたいこんな感じです。30ページくらいが上記のような内容を述べたHeckmanの文章で、その後各分野の専門家から数ページのコメントが続き、最後にHeckmanの回答7ページ。かなり薄い本で、すぐに読み終えられます。Heckmanの主張は主にペリー就学前プロジェクトとアベセダリアンプロジェクトの2つに拠っていて、短いPerspective論文がScience(DOI: 10.1126/science.1128898)にも出ています。

公共政策に関する本であって、我が子の教育のための何かを得るために親が読むような本ではありません。「非認知的スキルってどうやって鍛えるの?」という疑問も当然出てきますが、教育の具体的な方法論を述べている本でもないです。あと、幼少期の教育問題というより、実質は貧困問題かも。

 

Heckmanの主張の是非は詳しくないので正直よく分かりませんが、この本を読む限りはもっともらしく思えます。ヘッドスタート影響研究では介入の効果が見られなかったという反論に対する回答(=ヘッドスタートでは対照群でもある程度の教育が施されていた)も腑に落ちます。

しかし対コロナ政策を色々見てきた今、政策に反映されるかどうかはエビデンスの強固さ以外の要因の方が大きいなとしみじみ思います。エビデンスが全てに優先すべきとまで言うと学者の傲慢ですが、せめて合理的には政策が決定されて欲しいですね。

 

(2021.07.07追記)

非認知的能力い関するエビデンスの怪しさ、不十分さについて。