備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: イオン性物質の生態リスク評価

水/オクタノール分配係数(KOW)でざっくりと生物蓄積性を推定できる中性物質と比べて、生物蓄積・毒性の予測が困難なイオン性有機物質の話。

 

Escher BI, Abagyan R, Embry M, Klüver N, Redman AD, Zarfl C, Parkerton TF, 2020, Recommendations for improving methods and models for aquatic hazard assessment of ionizable organic chemicals, Environ Toxicol Chem 39(2): 269-286.

出版された時から読もう読もうと思っていながら積読してましたが、最近ET&Cの2020年のBest Paper Awardsにノミネートされているのを見て、ちゃんと読みました。

イオン性物質の生物への移行(あるいは毒性)が、ほぼ非荷電種(neutral species)によって決まりイオン種は寄与しなければ、生物への移行はKOWに非荷電種の割合をかけることでおおよそ予測できるはずです。しかし実際には、水中の非荷電種の量だけではうまく移行量や毒性をうまく説明できないことが多いようです。

これは、ざっくり書くと、非荷電種だけでなくイオン種も生物内に移行するため(kinetic ion-trapping model)と、生物体内では水中と異なる新たな非荷電種とイオン種の平衡が成り立つ場合があるため、そして毒性への寄与もイオン種の方が強い場合があるため、に大別できそうです。

しかしEscherさんはこういう良い感じの総説を書くのがとても上手いですね。

 

 

Bittner L, Klüver N, Henneberger L, Mühlenbrink M, Zarfl C, Escher BI, 2019, Combined ion-trapping and mass balance models to describe the pH-dependent uptake and toxicity of acidic and basic pharmaceuticals in zebrafish embryos (Danio rerio), Environ Sci Technol 53(13): 7877-7886.

上の論文と同じくUFZのグループなどからの論文。ゼブラフィッシュ胚をイオン性有機物質に96時間複数のpH条件下で曝露し、体内濃度を測定した研究。正直ざっとしか読めてません。

非荷電種(neutral species)とイオン種の両方が同等に取り込まれるとするモデル(mass balance model)だと上手く体内濃度を説明できないが、上記総説でも紹介されているion-trapping modelだと割と上手く説明できる、という結果。

体内での分配を正確に予測するためには、neutralとion speciesの両方についてタンパク質・脂質への分配係数が必要。この論文ではpp-LFERやCOSMOmicなどで予測してますが、pp-LFERは中性物質メインなので、より高精度な毒性予測のためにはこの分配係数の精度を高める必要があるとのこと。