備忘録 a record of inner life

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論文のメモ: 2021年に出た6PPD-Qの報告

ギンザケ死亡症候群の原因物質であると昨年末報告された6PPD quinone(6PPD-キノン)の話(→昨年末のScience)。今年になって環境分析の結果がいくつか出てきたので、まとめ。

 

 

Huang W, Shi Y, Huang J, Deng C, Tang S, Liu X, Chen D, 2021, Occurrence of substituted p-phenylenediamine antioxidants in dusts, Environ SciTechnol Letters 8(5): 381-385.

2021年の4月に公開された論文。投稿は2月!早い!

道路や駐車場、車内の塵埃を採取して、p-Phenylenediamine(PPD)類濃度を測定した論文。6PPD-Qは標準品がなかったため、親物質の6PPDの検量線を用いてます。

車内から採取した塵埃では6PPD-Q/6PPDの比が他に比べて高かったことから、車内で酸化されて6PPD-Qが生成されたのでは、と書いてますが、下Klöcknerら(2021, ES&T)を読んだら、単純に6PPDが分解されただけな気がします。

 

Klöckner P, Seiwert B, Weyrauch S, Escher BI, Reemtsma T, Wagner S, 2021, Comprehensive characterization of tire and road wear particles in highway tunnel road dust by use of size and density fractionation, Chemosphere 279: 130530.

2021年の4月に公開された論文。高速道路の塵埃を採取して、サイズや密度で分画した粒子中のベンゾチアゾール類や亜鉛、6PPD、6PPD-Qの濃度を測定してます。ただし6PPD-Qのみ標準品がなかったため、ピークエリアのみ。6PPD-Qは>250 μmにはあまり検出されてません。

 

Johannessen C, Helm P, Metcalfe CD, 2021, Detection of selected tire wear compounds in urban receiving waters, Environ Pollution 287: 117659.

これは2021年6月公開。実験開始時には6PPD-Qの標準品がなかったため、6PPDをオゾン酸化して6PPD-Qを合成してます。最終的には標準品で純度を検証。高速道路の排水の下流で雨天時に水を採取してhexamethoxymethylmelamineと6PPD-Q、diphenyl guanidineを測定。6PPD-Qの最大実測値は0.72 μg/Lで、ギンザケに対する24-h LC50と同程度(0.8 μg/L; Tian et al., 2020)。

※追記:ギンザケに対するLC50は0.095 ug/Lに修正されました(こちらの記事参考)。

 

Johannessen C, Helm P, Lashuk B, Yargeau V, Metcalfe CD, 2021, The tire wear compounds 6PPD-quinone and 1, 3-diphenylguanidine in an urban watershed. Arch. Environ. Contam. Toxicol.: 1-9.

これは2021年8月公開。上と同じグループから。上記Environ Pollutionと同じ場所から2019年と2020年に採取した水試料を固相抽出して、6PPD-Qとdiphenyl guanidine(DPG)を測定。ちなみに固相抽出にサロゲートは加えていません(が標準試料を加えた際の6PPD-Q回の収率は98%だそう)。6PPD-Q実測濃度の最大は2.3 μg/Lで、ギンザケの致死濃度を超えていました。

面白いのは、DPGは降雨開始直後に濃度のピークが来てすぐに濃度が低下するのに、6PPD-Qは降雨開始から数時間後に上がり始め、20時間ほど高い濃度が維持される点。おそらく疎水性の違い(DPGは比較的水に溶けやすいが6PPD-Qは溶けにくい)。

 

Klöckner P, Seiwert B, Wagner S, Reemtsma T, 2021, Organic Markers of Tire and Road Wear Particles in Sediments and Soils: Transformation Products of Major Antiozonants as Promising Candidates, Environ Sci Technol

2021年8月公開。一番上のKlocknerら(2021, Chemosphere)と同じUFZのグループから。タイヤのマーカ物質の探索を目的に色々やってますが、6PPD-Qに関するとこだけピックアップ。6PPD-Q濃度はサロゲートを用いた補正はされてません。

タイヤ破片中の親物質の6PPDはXeアークランプで照射(自然光2~7週間相当)すると濃度が減少するが、6PPD-Qはほとんど減少しない。またLC/MS/MSによる6PPD-Qの定量は、フラグメント(m/z: 187)より元のm/z 299の方が感度が良い。タイヤ破片あるいは道路塵埃を用いた溶出液(2 g/L, 48h)で6PPD-Qがほぼ検出されない(これは降雨時の報告からすると意外。溶出にプラスチックを使って吸着してロスしている可能性ある?)。

 

(追記 2021.09.24)

Zhang Y et al., 2021, p-Phenylenediamine Antioxidants in PM2.5: The Underestimated Urban Air Pollutants, Environ Sci Technol

2021年9月公開。中国からPM2.5中のPPD類の報告。6PPD-Qがオゾン酸化によって生成されるという話に基づき、6PPD-Qとオゾン濃度(あるいは6PPD)との相関も見ています。論文では相関係数を示して相関があると書いてますが、散布図も見せて欲しいところ。この点については判断保留。

6PPD-Q以外のPPD類のキノンも検出しています。ただ、標準品がないため定性的な分析のみ。

 

(追記 2021.09.27)

Challis JK, Popick H, Prajapati S, Harder P, Giesy JP, McPhedran K, Brinkmann M, 2021, Occurrences of Tire Rubber-Derived Contaminants in Cold-Climate Urban Runoff, Environ Sci Technol Letters.

2021年9月公開。カナダ。2019年の雨天時排水stormwaterと2020年の河川水をretrospectivelyに分析。6PPD-Qだけでなく、N,N'-diphenyl guanidine(DPG)などの二環アミン4種も分析。

6PPD-Qは他のアミンと比べ、検出濃度のピーク時期が異なっています。雨天時排水中の6PPD-Q濃度は平均593 +/- 525 ng/Lで、時にはギンザケのLC50(800 ng/L)を超えています。

※追記:ギンザケに対するLC50は0.095 ug/Lに修正されました(こちらの記事参考)。