備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 先行晴天時間と道路塵埃

雨が降ると河川や湖沼に流れ出る道路塵埃(路面粉塵)。道路塵埃中には多くの有害物質が含まれるので、降雨時の水域で水生生物への悪影響が検出されることが、しばしばあります。

雨が降るまで道路塵埃が路面上で放置される時間(先行晴天時間; antecedent dry weather period)によって、道路塵埃の量や塵埃中有害物質の濃度はどう変わるのか、について論文を読んだのでメモ。物質は主に多環芳香族炭化水素(PAHs)。

 

Zhang J, Li R, Zhang X, Ding C, Hua P, 2019, Traffic contribution to polycyclic aromatic hydrocarbons in road dust: a source apportionment analysis under different antecedent dry-weather periods, Sci. Total Environ. 658: 996-1005. 

先行晴天時間1, 5, 10日の道路塵埃を、ドイツ・ドレスデンで採取して、道路面積あたりのPAHs収量(g/m^2)と塵埃中のPAHs濃度(mg/kg)を測定。収量は先行晴天時間に伴って増加したが、濃度は一度下がってまた増加したそうです。後半の理由がいまいちよく分かりません。粒子径分布が(風の影響とかで)変わっているかもしれないので、そのようなデータもあれば良かったです。

 

Gbeddy G, Egodawatta P, Goonetilleke A, Akortia E, Glover ET, 2021, Influence of photolysis on source characterization and health risk of polycyclic aromatic hydrocarbons (PAHs), and carbonyl-, nitro-, hydroxy-PAHs in urban road dust, Environ Pollution 269: 116103. 

オーストラリアで採取した道路塵埃への254 nm UV照射実験。ピレンやナフタレン、フェナントレンは照射によって濃度が変化しやすいが、フルオランテンやベンゾ[a]ピレン、クリセンなどは比較的安定。生の濃度データはGbeddy et al. (2021, EES) の方に示している?変化のしやすさは蒸気圧と関係するかも*1、ということもEESの方に記載あり。

 

Gbeddy G, Jayarathne A, Goonetilleke A, Ayoko GA, Egodawatta P, 2018, Variability and uncertainty of particle build-up on urban road surfaces, Sci Total Environ 640: 1432-1437. 

細かい粒子(< 75 μm)の溜まり方は予測が難しい。場所(やタイミング?)によって増えたり、減ったり。でも塵埃全体(< 3mm)の量は、先行晴天時間が増えるとべき関数に従って増える。

 

Wang J, Huang JJ, Li J, 2019, A study of the road sediment build-up process over a long dry period in a megacity of China, Sci Total Environ 696: 133788. 

あまりちゃんと読んでません。40日間も先行晴天時間があると塵埃の蓄積量はかなりカオスで予測不能という話。sinカーブでフィッティングする理由は不明…。

 

Ozaki N, Akagi Y, Kindaichi T, Ohashi A, 2015, PAH contents in road dust on principal roads collected nationwide in Japan and their influential factors, Water Sci Technol 72(7): 1062-1071. 

日本各地から塵埃(< 2mm)を採取して、PAHs濃度を分析。塵埃PAHs濃度と先行晴天時間との相関は微妙。1か所から繰り返し採取した場合でも同様。

 

 

ざっくりまとめると、ある地域全体の塵埃量(=雨天排水中のSS量)は先行晴天時間に伴って増加するが*2、塵埃中の物質濃度がどう変化するかは風などの要素が絡むため予測困難である、あるいは濃度そのものは別に変化しない、という感じでしょうか。

 

 

 

(追記 2021.10.31)

古いクラシカルな論文の方が、塵埃量と時間の関係(build up & wash off process)について納得いく説明しているものがある気がします。

上の論文たちは、build up processに着目したものが多いけど、wash offの不確実さ(=雨が降っても全ての塵埃が流されるわけではない)も考えないと塵埃量と先行晴天時間の関係は説明できないかも。

 

Sartor JD, Boyd GB, Agardy FJ, 1974, Water pollution aspects of street surface contaminants, J Water Pollut Control Fed 46(3): 458-67.

塵埃のBuild-upの過程の超古典っぽい論文。先行晴天時間が長いと塵埃の量は多くなるという知見と、細かい粒子ほど有害物質が高濃度に含まれるという結果を提示してます。ただし前者はかなりばらつきが大きい。

 

Vaze J, Chiew FH, 2002, Experimental study of pollutant accumulation on an urban road surface, Urban Water 4(4): 379-389.

道路に溜まった塵埃の全てが降雨で流されるわけではないことを実験的に示した論文。

 

*1:そこまで明確に書いてませんが。

*2:例えばLi et al., 2007とか。https://doi.org/10.1016/S1001-0742(07)60048-5