備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ:ニジマス鰓細胞のタイトジャンクションとイオン性有機物質

Fuchylo U, Alharbi HA, Alcaraz AJ, Jones PD, Giesy JP, Hecker M, Brinkmann M (2022). Inflammation of gill epithelia in fish causes increased permeation of petrogenic polar organic chemicals via disruption of tight junctions, Environmental Sci Technol 56(3): 1820-1829.

上皮細胞のタイトジャンクションのバリア機能が低下すると、有害物質が魚の体内に入りやすくなるのではないかという仮説を検証した論文。感染症と化学物質の複合曝露という文脈。ニジマスの鰓細胞とニジマス個体を、リポ多糖(LPS)に曝露して炎症反応を起こさせ、バリア機能を低下させてからOil sands process-affected water(OSPW)の細胞/体内移行を調べています。

論旨は明確で、仮説通りの結果。qPCRとRNA-Seqをしたり、in vivoとin vitroの両方を試験したり、経上皮電気抵抗(TER)を調べていたり仕事は丁寧。中性物質ではなくイオン性有機物質(IOC)を対象にしていることと、OECDテストガイドラインにも採択されたばかりのニジマス鰓細胞を用いている点がトレンドを抑えていて、ES&Tという感じ。強いて言えばエラへの移行の話が半定量的なので、その点はもっと定量的に知りたかったです。

この論文読むにあたりClaudinとかTERとか色々調べて、勉強になりました。面白かったです。

Claudinファミリーには、ヒトなどでは20種以上の遺伝子があり、それぞれイオンや溶質の透過性を規定しているらしいです。イオンチャネル様構造を作るタイプもあれば、強いバリアを作るタイプもあるとか(岩本&古瀬, 2013, Drug delivery System)。

上のFuchyloら(2022)で引用されていたTrubittら(2015, Comparative Biochem Physiol)では"Based on in silico analysis, Cldn-10e is expected to form cation-selective paracellular pores (Tipsmark, unpublished),"とありました。

 

Brinkmann M, Alharbi H, Fuchylo U, Wiseman S, Morandi G, Peng H, Giesy JP, Jones PD, Hecker M (2020). Mechanisms of pH-dependent uptake of ionizable organic chemicals by fish from oil sands process-affected water (OSPW). Environ. Sci. Technol. 54(15): 9547-9555.

上の論文と同じグループで、同じくニジマスエラ細胞のイオン性物質の透過について。

エラ細胞にOSPWを曝露し、複数pH下での、ナフテン酸混合物や、OSPW中の有機酸の細胞への取り込みを評価した論文。有機酸は低pHだとneutralになるため取り込まれやすいのかと思いきや、結果は逆で高pH(8.5)の方が多くの種類の有機酸が細胞へ移行しています。もっともDicyclohexylacetic acidなどの一部標準品は高pHほど取り込まれにくくなっています。
この理由として有機酸は両親媒性(amphiphilic)で、pH 8.5付近ではリン脂質にくっつくからではないか、とか能動的な取り込みがあるのでは、と考察されています。
能動的な取り込みについては、ATP-binding cassetteトランスポーターなどを阻害するCyclosporin A共存下でOSPWに曝露して、有機酸の取り込みが減少することも確認されてます。
さらにin vivo、つまりニジマス個体を使った実験も行っています。in vivoの結果、エラへの取り込みはin vitroの結果と合致していますが(高pHほど取り込み増加)、体全体への取り込みはpH 7.4で最大だったそうです。

 

 

Erickson RJ, McKim JM, Lien GJ, Hoffman AD, Batterman SL, 2006, Uptake and elimination of ionizable organic chemicals at fish gills: I. Model formulation, parameterization, and behavior, Environ Toxicol Chem 25(6): 1512-1521.

ちょっと古めですが、イオン性有機物質(IOC)の魚への移行について。

pHが変化してもあまりIOCの毒性や移行は変わらないことがイントロで述べられていて、IOC(というか有機酸)のbioavailabilityは(i)CO2アンモニアなどの排泄物がミクロな環境のpHを変えうること、(ii)エラ上皮はいくつもの層があって体内への移行は複雑であること(ここの理解怪しい)、(iii)荷電した状態でも膜を通過すること、が影響するとのことです。この論文はこれらの影響を数理モデル化した研究っぽいです。ちゃんと読んでませんが面白そう。