備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: ベイジアンネットワークによる魚類急性毒性の予測

Belanger SE, Lillicrap AD, Moe SJ, Wolf R, Connors K, Embry MR, 2022, Weight of evidence tools in the prediction of acute fish toxicity. Integr Environ Assess Manag, in press.

P&GのScott Belangerらによるレビュー。動物愛護・動物福祉の観点から魚類急性試験(AFT)を削減あるいは代替しようという流れについて。いつもの胚試験(Fish Embryo Test; FET)とAFTとの比較の話かと思って(→Belanger et al., 2013のこと)長い間スルーしてましたがベイジアンネットワーク(BNによる急性毒性の推定の話があったので再読。

関連する情報をインプットして、BNで各証拠の重み(WoE)を明示しつつ(?)、AFTの毒性値を推定する話。インプットは、化学物質の物性(log Kowや分子量)、FET、甲殻類、藻類への毒性値など。物性の情報として構造活性相関(QSAR)の予測値を利用することも可能。また、FETだけでなく近年OECDのテストガイドライン化もされたエラ細胞試験を利用してもOK。他にも魚類による代謝OECD 319)や作用機序(MoA)なども。

ベイジアンネットワークBNによるアウトプットは、ある範囲に毒性値が入る確率がどれくらいか、というもの。例えば「0.01~0.5 mg/L:60%、0.5~5 mg/L:30%、5~100 mg/L:10%」みたいな感じ。

ベイジアンはリスク評価と相性が良さそうだと改めて。従来的な毒性試験の信頼性評価を定量的に実施できる点が良いですね。例えば、追試データがあれば事後分布が変わるとか。

 

Moe SJ, Madsen AL, Connors KA, Rawlings JM, Belanger SE, Landis WG, ... & Lillicrap AD, 2020, Development of a hybrid Bayesian network model for predicting acute fish toxicity using multiple lines of evidence, Environ Modelling Software, 126: 104655.

もう少しモデルの詳細に踏み込んだ原著。BNモデルの当時のデモページがこちら。アップデートされたバージョンはこちら

まだ詳細をよく理解できていませんが、BNもかなり経験則と学習データ依存な感じ。例えばBNの肝である条件付き確率表(Conditional probability tables)は、専門家判断(expert knowledge)や学習データの頻度で決まっています。化学物質のカテゴリーが一つのline of evidence(=親ノード)なのですが、どのカテゴリーの時に毒性が強い、中くらい、弱いという条件付き確率が学習データの頻度で決まっているわけです。

透明化されているようで、ネットワークが巨大化すれば結局は不透明な専門家判断と同じ感じになるような気もします。

 

 

 

SWiFTなるプロジェクトのページに発表資料など色々公開されています。

Strengthening Weight of Evidence for FET data to replace acute Fish Toxicity (SWiFT) |HUGIN SWiFT

 

 

(追記 2022.11.24)

Jaworska J, Gabbert S, Aldenberg T, 2010, Towards optimization of chemical testing under REACH: a Bayesian network approach to Integrated Testing Strategies, Regulatory Toxicol Pharmacol 57(2-3): 157-167.

生態毒性ではないが、化学物質のリスク評価文脈でのベイジアンネットワークの古めの論文。適用法は↑と似ています。