ここに書いた話の続き。
ある未知生物のDNAからミトコンドリアCOI様配列が見つかった時、それが本物のCOI配列の場合もあれば、核DNA配列の場合もあれば、バクテリア配列のコンタミの場合もあります。さらにヘテロプラスミー(heteroplasmy)の可能性もあります。ヘテロプラスミーとは、1個体(というか1細胞)の中に複数のミトコンドリアの遺伝子型genotypesが見られる現象のことです。
Doublet V, Souty-Grosset C, Bouchon D, Cordaux R, Marcadé I, 2008, A thirty million year-old inherited heteroplasmy, PLoS One 3(8): e2938.
卵子が形成される過程でミトコンドリアの数が激減するため、通常は(哺乳類では?)ミトコンドリアのheteroplasmyは世代を超えて受け継がれないそうです(=homoplasmyのまま)。しかし、この論文のダンゴムシではheteroplasmyが世代を経て観察されています。
面白いのが、直鎖状と環状のミトコンドリアが共存していて、環状のもの(28kb)は直鎖状のもの(14kb)が二つ合わさって形成されているということ(Raimondら, 1999)。ゲノムって学べば学ぶほど訳わかんないですね。この本を読んで以降、ゲノムの複雑さに関する話題にとても興味あり。
numtの論文を読んでいる時、「どうしてnumtとheteroplasmyを区別できるのか」あるいは「Stop codonがない=偽遺伝子ではない=heteroplasmy、という論理をとっている論文が多いが、核DNA配列でもstop codonが見つからない場合もあるのでは?」と思ってましたが、この論文はちゃんとミトコンドリアを単離した上でPCRしてます。
(2019.12.20 追記)
「ミトコンドリアDNAをエンリッチすることでnumtのコンタミを減らす」
Wang D, Xiang H, Ning C, Liu H, Liu JF, Zhao X, 2019, Mitochondrial DNA enrichment reduced NUMT contamination in porcine NGS analyses, Briefings in bioinformatics.
上に書いた、numtとheteroplasmyの区別に関する疑問に関連して。
ミトコンドリアをハイブリベースのCapture kitまたはLong-PCRでエンリッチしてNextSeq 500で読んだ配列と、whole genomeをHiSeq 2000で読んだ配列(WGS)を比較して、WGSは当たり前だけどnumtを多く検出してしまうのでミトコンドリアDNAの変異検出には向かないよ、という話。Long-PCRでもいくつかミトコンドリアDNAではない変異(=numt)を検出してしまうようです。
(2020.01.19 追記)
「まるでジグソーパズルなミトコンドリアDNA」
Marande W, Burger G, 2007, Mitochondrial DNA as a genomic jigsaw puzzle, Science 318(5849): 415-415.
上のダンゴムシよりもっと複雑かも。ディプロネマという生物のミトコンドリアDNAは100以上のclass A(6 kbp)とclass B(7 kbp)に大別できる染色体からなっている。Class AとBの両方に同一の遺伝子の断片が載っていて、転写後にconcatenationして一つのcDNAとなるそうな。う〜ん、すごい。
この生物種のミトコンドリアDNAについては割と論文出てるみたいです。