人為起源のPAH(多環芳香族炭化水素)は、降雨や路面排水によって河川や海などに運ばれます。そしてその疎水性のために、懸濁物質や生物表面に吸着し、底質へと蓄積します。
そのような経路だけでなく、PAHは水中の藻類による取り込み・代謝も受けます。下の論文は、benzo[a]pyreneを4種の藻類に与え、蓄積と代謝を調べた研究です。
Kirso U. and Irha N., 1998, Role of algae in fate of carcinogenic polycyclic aromatic hydrocarbons in the aquatic environment, Ecotoxicol. Environ. Safety, 41,1, 83-89.
以下に結果のいくつかを。
- 藻類Enteromorpha intestinalisによる水中benzo[a]pyreneの除去率は、酵素cytochrome P450、o-diphenol oxidase、peroxidaseを阻害した時に減少した。これらの酵素がB[a]P代謝に関与していると考えられる。
- 藻類へのbenzo[a]pyreneの移行割合は、藻類種によって異なる。例えばFucus vesiculosusの場合は投与したB[a]Pのおよそ90%が藻類へ移行したが、Chara asperaとEnteromorpha intestinalisの場合は10~40%しか藻類へ移行しなかった。
- C. asperaとE. intestinalisの実験では、B[a]P投与量の50~85%が消失していた。代謝分解されていたと思われる。
底質中のPAHsには、どれだけ藻類由来のものがあるんでしょうか。上のような結果だけを見てどうこう言うのは、藻類の種による違いが大きすぎて難しいですね。水俣での底質中のメチル水銀蓄積については、藻類の寄与が大きかったという話を聞きましたが。