備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

分子生物学

論文のメモ: 皮脂や糞便のmRNAシーケンス解析

尿に含まれるRNAの話を以前書きました。 水生生物の環境RNAという観点では、尿の他に皮膚と糞も重要なソースだろうと思い、今度は皮膚と糞のmRNAをシーケンスする話。これらはヒトの研究です。どちらもAmpliSeqという、PCRでターゲット遺伝子を増幅してから…

論文のメモ: 単離したミトコンドリアの応答の種間差

この記事の続き。 生物種によってミトコンドリアのswelling assayの応答が異なるという論文がありましたが、同じように種によって単離したミトコンドリアの応答が異なる話。 Ricchelli F, Dabbeni-Sala F, Petronilli V, Bernardi P, Hopkins B, Bova S, 200…

論文のメモ: 環境RNAで水生生物の生活段階を区別できる

Parsley M, Goldberg C, 2023, Environmental RNA can distinguish life stages in amphibian populations, Mol. Ecol. Resources, in press. これまでの環境RNAの論文は、リボソームRNAやミトコンドリアRNAなど、条件や生活段階で変化しないような遺伝子を…

論文のメモ: 尿に含まれるRNA

尿のにおいから、線虫にがんを診断してもらう検査があります。 その臨床における有効性はよく知りませんが、尿にいろいろな成分が含まれることは確かで、尿には数十~数百nmサイズのexosomeがあり、そこにmiRNAやmRNAが含まれているという研究は数多くあるよ…

論文のメモ: ナノポアシーケンサーを用いたTargeted RNA-Seq

Oxford Nanopore Technology社のシーケンサー。ナノサイズのポアにDNA・RNAを通して、その際の電流の変化から塩基配列を読み取ります。 ポアを通している途中で興味のある配列(群)でなければ、そのDNA・RNAを吐き出して、無駄な配列を読まないようにする「…

「相分離生物学の冒険」感想

つくばエクスプレスの線路破断のため3時間ほどつくば駅周辺に留まることになり、本屋に寄った際に購入。冒頭の息子さんの食物アレルギーのくだりでもう心を掴まれて購入決定しました。 相分離生物学(Phasing biology)は、タンバク質や遺伝子などの生物の個…

オルソログを教えてくれるRパッケージorthogene

異なる生物種間のオルソログを検索して紐づけてくれるRパッケージです。GitHubページはここ。 使いやすくて非常に助かりました。1.5年前からBioconductorにあるみたいですが、5年くらい前にあればめちゃめちゃ使ってましたね…、 マニュアルに大抵のことは書…

論文のメモ: ミトコンドリアのSwelling assay

ミトコンドリアの機能の研究方法についてお勉強。酸素消費速度(OCR)とか膜電位とか。 その中でMitochondrial swelling assayというのがあり、少しメモ。Swellingとは膨潤と訳されることが多く、例えばミトコンドリアの膜透過性遷移孔(mPTP)が開く際など…

論文のメモ: 近年の生態毒性分野でのトランスクリプトーム解析

3歳半になった娘と暮らしていると、クレヨンしんちゃん(原作。アニメはほとんど知らない。)は、育児マンガだったんだなと良く思います。昔読んだクレしんの場面が頻繁に脳内再生されます。 生態毒性な分野でのRNA-Seq解析の使われ方について。何か特定の物…

論文のメモ: 分解サンプルのRNA-Seq解析パイプラインDegNorm

Xiong B, Yang Y, Fineis FR, & Wang JP, 2019, DegNorm: normalization of generalized transcript degradation improves accuracy in RNA-seq analysis, Genome Biol 20(1): 1-18. RNAの分解度の指標であるRIN(RNA Integrity Number)。RINはrRNAをベース…

論文のメモ: 高分解能質量分析と分子レベルのターゲット予測手法(SEA)の組み合わせ

Kumar N, Zhao HN, Awoyemi O, Kolodziej EP, Crago J, 2021, Toxicity Testing of Effluent-Dominated Stream Using Predictive Molecular-Level Toxicity Signatures Based on High-Resolution Mass Spectrometry: A Case Study of the Lubbock Canyon Lak…

論文のメモ: 環境RNA(eRNA)のあれこれ

某オンラインセミナーで紹介されていた論文たち。 河川や海、陸域における生物種の在、不在や生物量を推測するための環境DNA(eDNA)。環境DNAは、既に死んでいる生物からも検出されるため、本当はその対象地域に生息していない魚種なのに漁港や家庭排水のた…

論文のメモ: RNA-Seqの前処理にトリミングは必要ない

タイトル通り。 これまで普通にトリミングしてました。確か(クオリティ)トリミングあり/なしでde novoアセンブリの結果があまり変わらないとかは自分で確認しましたが、mRNA定量への影響はそう言えば検証してませんでした。 こういう「一部では常識」みた…

論文のメモ: 生態リスク評価におけるEvolutionary Toxicology

化学物質の汚染にさらされたとき、ある生物種の個体群(または複数種の集まりcommunity)が化学物質に対する耐性を持つことは良く知られています。殺虫剤に耐性を持つ蚊や抗生物質の効かない薬剤耐性菌などが特に有名ですね。 耐性を獲得するメカニズムは、…

論文のメモ: 種の感受性分布における自己相関の補正

種の感受性分布(Species Sensitivity Distribution; SSD)。 化学物質に対する生物種の感受性は、経験的に対数正規分布にフィットすることが知られています。その性質を利用して累積分布関数で種の感受性を表現したのがSSDです。SSDを利用して5%の種が影響…

論文のメモ: ナノマテリアル曝露に共通する遺伝子発現パターンのメタ解析

Burkard M, Betz A, Schirmer K, Zupanic A, 2019, Common gene expression patterns in environmental model organisms exposed to engineered nanomaterials: A meta-analysis, Environ Sci Technol 54(1): 335-344. スイスからの論文。 ナノマテリアルに…

論文のメモ: RNA-Seq論文では条件をちゃんと報告しよう

RNA-Seq Blogで紹介されていた論文。 Simoneau J, Dumontier S, Gosselin R, Scott MS, 2019, Current RNA-seq methodology reporting limits reproducibility, Briefings in Bioinformatics. RNA-Seqをおこなって、生データのリポジトリ場所・前処理ツール…

論文のメモ: 等脚類のheteroplasmy

ここに書いた話の続き。 ある未知生物のDNAからミトコンドリアCOI様配列が見つかった時、それが本物のCOI配列の場合もあれば、核DNA配列の場合もあれば、バクテリア配列のコンタミの場合もあります。さらにヘテロプラスミー(heteroplasmy)の可能性もありま…

論文のメモ: 無脊椎動物のAhR発現

脊椎動物では、いわゆるダイオキシン類やPAHsがAhR(aryl hdrocarbon receptor)に結合し、CYP1Aなど多くの遺伝子の発現を誘導することが知られています。一方、無脊椎動物ではダイオキシン類はAhRと結合しないと言われてます。 Hahn ME, 2002, Aryl hydroca…

メモ: Nanoporeロングリードのアセンブリ

Oxford Nanopore TEchnologies(ONT)のロングリードとIlluminaなどのショートリードのデータを組み合わせてde novoアセンブリするとき、どのツールを使用するかの話。 ロングリードは長いけどエラー率高い。ショートは短いけど、エラー率低く安く大量に読め…

論文のメモ: 核DNAにおけるミトコンドリア様配列

ある生物種のゲノム解析をしていて。 解読したミトコンドリアゲノム配列が、同じ種の既知のミトコンドリアcytochrome c oxidase subunit I(COI)配列と大きく異なっていました。 始めは、既存の報告で隠蔽種の存在が示唆されていたので、自分の読んだ配列と…

STRINGdbを用いたPPIネットワーク解析 その2: DEG解析など

前回の続き。今回は、STRINGdbから得たPPI networkの情報を、DEG解析(Differentially Expressed Genes)の結果と絡める方法について書きます。 前回までの話 ゼブラフィッシュのPPI networkをSTRINGdbから取得します。例えばこんな感じのデータ。 > full.gr…

STRINGdbを用いたPPIネットワーク解析

タンパク質間相互作用 (protein-protein interaction; PPI) のデータベースであるSTRING (Search Tool for the Retrieval of Interacting Genes/Proteins)。以下は、そのデータを使ってRでネットワーク解析してみた個人的な備忘録です。大部分は"STRINGdb Pa…

論文のメモ: RNAの分解度評価 ~Transcript Integrity Number~

「RNA-Seqデータの特性評価のためのシンプルなガイドライン」 Son K., Yu S., Shin W., Han K., Kang K., 2018, A Simple Guideline to Assess the Characteristics of RNA-Seq Data, BioMed Research International, Article ID 2906292. RNA-Seqのデータは…

論文のメモ: Daphniaのストレス応答遺伝子データベース

「Daphnia stressor database: 10年来のDaphniaのomicsデータを遺伝子アノテーションにフル活用」 Ravindran SP, Lueneburg J, Gottschlich L, Tams V, Cordellier M, 2018, Daphnia stressor database: Taking advantage of a decade of Daphnia'-omics' da…

論文のメモ: AOP Networkについて

AOP(Adverse Outcome Pathways)に関する話。 ETCに出ていた以下のcompanion papers+αを読んで、AOPの理解が進んだので備忘録的に書いておきます。どちらもOpen Accessです。 ざっくり言うと、「AOPは個々に独立しているわけではなく別の複数のAOPsと関連し…

論文メモ: ヨコエビ Hyalella aztecaのゲノム

「底質毒性と進化毒性学のモデル生物:Hyalella aztecaのトキシコゲノム」 Poynton HC, Hasenbein S, Benoit JB, Sepulveda MS, Poelchau MF, Hughes DST, Murali SC, Chen S, Glastad KM, Goodisman MAD, Werren J, Vineis JH, Bowen JL, Friedrich M, Jone…

「ヒトゲノムを解読した男:クレイグベンター自伝」感想

ひと月くらい前に読了。 バイタリティに富んだ人間という一言に尽きます。 彼が海軍衛生兵としてベトナムへ従軍していた時の話。腹部に傷を負った二人の男が同時期に病院に運ばれてきた。ひとりは生きて当然だと思われたが、すぐに息を引き取った。もうひと…

論文のメモ: omics technologyとAOP

AOP(Adverse Outcome Pathways)の構築に、網羅的な生物応答の解析技術(omics)を用いて何ができるかというお話し。omicsの中でも特にtranscriptomicsについて。 「化学物質リスク評価へAOPを適用するうえでomicsの果たす役割」 Brockmeier EK, Hodges G, …

論文のメモ: トンネル洗浄水による遺伝子発現変動

「交通関係の汚染に曝露されたブラウントラウトの肝臓の遺伝子発現プロファイル」 Meland S, Farmen E, Heier LS, Rosseland BO, Salbu B, Song Y, Tollefsen KE, 2011, Hepatic gene expression profile in brown trout (Salmo trutta) exposed to traffic …