備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 単離したミトコンドリアの活性評価 ~フローサイトメーター~

フリーサイトメーター(FCM)で単離したミトコンドリアの膜電位やROS産生を評価した論文のメモ。手法を参考にするかも。

単離ミトコンドリア実験についての関連するメモはここ

 

Mattiasson G, 2004, Flow cytometric analysis of isolated liver mitochondria to detect changes relevant to cell death, Cytometry Part A: The Journal of the International Society for Analytical Cytology 60(2): 145-154.

タイトル通りフローサイトメーター(FCM)を用いて単離ミトコンドリアの活性などを評価した論文。FCMはFACSCalibur。Nonyl Acridine Orange(NAO)をミトコンドリアそのもののプローブとし、TMRMとDiIC1をミトコンドリア膜電位のプローブとしています。ROSのプローブはH2DCF-DA。そしてSwelling(膨潤)の指標としてフローサイトのSSC(側方散乱光)を用いています。膜電位のプローブとして、Rh123とJC-1は良くなかったので選択しなかったと書かれています。
Discussionにもありますが、膜電位の絶対値(mV)が分かるわけではないので、oligomycinによる過分極とFCCPによる脱分極は比較対象として必須みたいです。

 

Yang LY, Gao JL, Gao T, Dong P, Ma L, Jiang FL, Liu Y, 2016, Toxicity of polyhydroxylated fullerene to mitochondria, J Hazardous Materials 301: 119-126.

Polyhydroxylated fullereneの毒性評価にFCMを使用した論文。他にも膨潤とか酸素消費速度とか調べています。単離したミトコンドリアをRh123で染色し、fullerenolを曝露してからFCMで膜電位を測定しています。

FCMとは関係ありませんが、DPH(1,6-diphenyl-1,3,5-hexatriene)とHPを蛍光色素に用いた膜の流動性評価というのも行っています。これは分かるようでよく分かりません。

 

Zhang X, Zhang S, Zhu S, Chen S, Han J, Gao K, ... Yan X, 2014, Identification of mitochondria-targeting anticancer compounds by an in vitro strategy, Analytical Chemistry 86(11): 5232-5237.

HeLa細胞から単離したミトコンドリアをいろんな抗がん剤に曝露してFCMで調べた論文。こちらは上のYang et al. (2016) とは逆で、単離ミトコンドリア抗がん剤に2時間曝露してから、洗浄し、染色してFCMです。

CCCPでは側方散乱光は変化しない、つまり膨潤はしていないであろうことも書かれています。

 

Lu Z, Wang S, Ji C, Li F, Cong M, Shan X, Wu H, 2020, iTRAQ-based proteomic analysis on the mitochondrial responses in gill tissues of juvenile olive flounder Paralichthys olivaceus exposed to cadmium, Environmental Pollution 257: 113591.

ヒラメをカドミウムに曝露して、エラからミトコンドリアをQiagenのキット(Qproteome Mitochondria Isolation Kit)で単離。その後、TEMで観察したり、プロテオーム解析をしたり、FCMでMMPを解析したり。FCMはAccuri C6を使用し、膜電位の蛍光染色はJC-1を使用。

2025年に出た6PPDキノンの論文

ギンザケ死亡症候群の原因物質であると2020年の年末に報告された6PPD quinone(6PPD-キノン; 6PPD-Q)の話(→2020年のScience)。いくつか面白かったものをここにピックアップしています。AIによってサーベイが容易にできるようになった今でも、こうやって記録すると自分にとっては思い出しやすくて有益なのでやっています。

もうすでに網羅的な記録はやめていて、気まぐれな記録になっています。

2024年のメモはこちら

 

Jankowski MD, Carpenter AF, Harrill JA, Harris FR, Hill B, Labiosa R, Makarov SS, Martinović-Weigelt D, Nyffeler J, Padilla S, Shafer TJ, Smeltz MG, Villeneuve DL, 2025, Bioactivity of the ubiquitous tire preservative 6PPD and degradant, 6PPD-quinone in fish and mammalian-based assays, Toxicological Sciences, kfaf008.

公開は2025年1月22日。USEPAを中心としたグループからの報告。ゼブラフィッシュ稚魚、ファットヘッドミノー稚魚、ニジマス鰓細胞株RTGill-W1、ヒト肝癌由来細胞株HepG2など色々なアッセイで6PPDと6PPD-Qの毒性を評価した研究です。ファットヘッドミノーはRNA-Seqをしたり、ゼブラフィッシュは行動解析をしたり、ニジマス鰓細胞はCell Painting Assay(Nyffeler et al., 2025, ET&C)をしたり。Cell Painting Assayは、要は複数の染色をして共焦点顕微鏡で画像を取得してDNA、ミトコンドリアなどの部位ごとに面積などを解析するアッセイのようですが、ニジマス鰓細胞では6PPD-Qに対してRNAが最も感受性が高かったとのこと。

 

Harris FR, Jankowski MD, Villeneuve DL, Harrill JA, 2025, Phenotypic Profiling of 6PPD, 6PPD-Quinone, and Structurally Diverse Antiozonants in RTgill-W1 Cells Using the Cell Painting Assay, Environ. Sci. Technol. Letters, in press.

公開は2025年5月23日。上の論文の続きですね。IPPDやDPPD、7PPD、77PDなどのPPD類とそのキノン体などを、RTGill-W1のCell Painting Assayで評価。Phenotype altering concentration(PAC)は、7PPD-quinoneと77PD-quinoneが6PPD-Qと同程度であったそうです。一方6PPD-Qと構造がかなり類似しているIPPD-quinoneは、ややPAC値が高めだったようです。

18物質の試験が1か月以内に終わったと書いてます。

 

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論文のメモ: 因果探索の実データへの応用

因果探索の応用について。このへんの記事の続き。

 

Brouillard P, Squires C, Wahl J, Kording KP, Sachs K, Drouin A, Sridhar D, 2024, The Landscape of Causal Discovery Data: Grounding Causal Discovery in Real-World Applications, arXiv:2412.01953.

模擬データではなく実際のデータに因果探索を適用した事例についてのサーベイ論文。生物学、神経科学、地球科学、社会科学、経済学などが対象。因果探索手法のパフォーマンスを評価する指標metricは主に(i)Structural、(ii)Qualitative、(iii)Obesrvational、(iv)Interventionalだと整理しています。Structural metricはground truth(=真の経路)が分かっているときに、推定と真の構造を比較する。Qualitativeはground truthが不明のときに、背景知識からあり得る経路かどうかを判断する。

ベイジアンネットワークで因果探索したScienceの論文(Sachs et al., 2005)の1st authorも著者に入っています。そのSachsのデータをこれまで使ってきた因果探索な論文ではground truth(=真の経路)が研究によって違っているとか。それでこのプレプリントで改めてground truthをアップデートして紹介しています。

AOPと因果推論についての論文(Zhou et al., 2025)でも言及されてましたが、この論文でも"While a gene knockout is usually considered as an intervention targeting a specific gene, in reality, gene knockouts exhibit off-target effects"とあります。ノックアウトは純粋な介入ではないかもしれない。

生物学の項目で紹介されているCRISPRとシングルセルRNA-Seqを組み合わせたPerturb-Seqの存在を初めて知りました。

 

 

 

Cao L, Su J, Wang Y, Cao Y, Siang LC, Li J, Saddler JN, Gopaluni B, 2022, Causal discovery based on observational data and process knowledge in industrial processes, Industrial & Engineering Chemistry Research, 61(38): 14272-14283.

工業プロセスでの因果探索の利用についての総説とケーススタディ。因果探索とは何ぞやという話から、手法の例としてDirectLiNGAMとGFCIを紹介し、工業プロセスの事例に適用。そのケーススタディでは、2つの因果探索手法についてprecision・recall・g-scoreを事前知識あり・なしで比較しています。

 

論文のメモ: 細胞外小胞は室内塵埃における環境アレルギーのキャリアー

Long L, Xu XL, Duan YF, Long L, Chen JY, Yin YH, Zhu YG, Huang Q, 2024, Extracellular Vesicles Are Prevalent and Effective Carriers of Environmental Allergens in Indoor Dust, Environ Sci Technol 59(4): 1969-1983.

面白い!室内ダストの細胞外小胞(Extracellular Vesicle;EV)がアレルゲンのキャリアになっているという話。

中国の都市・郊外エリアから広く室内ダストをサンプリングして、遠心・ろ過・超遠心そしてOptiPrepを用いた密度分離でEVを回収し、EVのメタゲノム解析(ショットガン?アセンブリしている)とメタプロテオミクス解析を実施。EVの安定性試験などやELISA動物実験も行っていて、盛り沢山で面白いです。

ダスト全体とダスト中のEVについてそれぞれメタゲノム解析を行い、80%ほどがバクテリア、残りがアーキア、真核生物のようです。EV関連のゲノムの方が地域による差がないとのこと。EVに入っているものは種類がある程度決まっていて、かつ安定しているのでしょうか。このへんのEVの環境動態が特に興味あります。シンプルに量だけを考えるとEV以外のアレルゲンの方が多いのですが、安定性やbioavailability(この用語が妥当かどうかは知りませんが)とかを考えてEVに着目している感じですね。ちゃんとEVの方が非EVよりもアレルギーを引き起こすことが確かめられています。

最後にEV由来のアレルギーと化学物質との複合影響も考えないとね、という話もあります。

全貌は把握しきれてませんが、なかなか迫力と読み応えがあります。

 

 

論文のメモ: ゼブラフィッシュ胚試験の形質データの活用~INTOB~

Michaelis P, Klüver N, Aulhorn S, Bohring H, Bumberger J, Haase K, Kuhnert T, Küster E, Krüger J, Luckenbach T, Massei R, Nerlich L, Petruschke S, Schnicke T, Schnurpel A, Scholz S, Schweiger N, Sielaf D, Busch W, 2025, Leveraging zebrafish embryo phenotypic observations to advance data-driven analyses in toxicology, Environ Sci Technol 59 (9): 4304–4317.

ドイツのヘルムホルツ環境研究センター(UFZ)から。ゼブラフィッシュDanio rerioの胚試験データ(OECD テストガイドライン236)の600以上の実験データをまとめてデータベース(INTOB: Integrated Effect Database for Toxicological Observations)として公開した論文です。生データと解析用のRコードはここに公開されています。

浮腫や心拍低下、色素の低下、眼の縮小、発達の遅延などの形質の異常の発生確率を用いて化学物質の作用機序を分類しようという試みは、過去にブログに書いたvon Hellfeldら(2022)と同じアプローチですが、このMichaelisら(2025)の方が定量的で良いですね。なかなか迫力があって面白い論文です。

 

しかしlow pigmentation(色素の低下?)はadverse outcomeに結び付くのでしょうか。あまり分かっていませんが、生態学的に重要と言われたら納得しますけど。low pigmentationはFETが代替するとされている魚類急性致死毒性とは関連していない気がしますので、この論文でいう物質の分類が必ずしもAOP的なものに結び付くわけではないと思いました。致死や繁殖阻害のような影響と紐づいてないというか。

あと観察対象にする時間(例:72 hpf、96 hpf、120 hpf)が変わると分類もかなり変わっています。これを見せられると、作用機序の分類は、Verhaarらの古典的な時間依存性のモデル(Verhaar et al., 1999)の方が筋が良いと思ってしまいます。

 

生成AI時代の科学研究

生成AIすごいですよね。OpenAIが先日公開したDeep Researchは、専門家レベルレベルのレポートを数十分間で生成できるとかなんとか。ウェブ上の情報を検索して、重要な文献を過不足なく捉えたレポートが出力されるという話を色々目にしました。月3万円の課金はしていないので自分では触っておりません。

ChatGPTを始めとする生成AIの恩恵を最も享受できる職業は研究者だなと前々から思っていましたが、その思いを改めて強くしました。

 

 

このようなAIの進化を見ながら、科学研究や研究者のあり方について近頃ぼんやり思っていること二点を簡単に記録しておきます。

まず一つ目は、研究が評価される単位が学術論文ではなくてパフォーマンスや発見・開発したものに移行するかもしれないこと。

AIが容易に論文を書いてしまう時代。Deep Researchのようなツールがあっという間に出来の良い総説論文や解説論文を作成してしまうので、既存論文を列挙しただけだったり、特に主張や意見のなかったりする総説には既に目ぼしい価値がありません。もちろん、追加のデータ解析を提示していたり、新しい主張や意見を述べていたりする総説には価値があるでしょうが、そうではない論文は読む意義がなくなりそうです。もっと言うと、いずれAIがメタ解析などは簡単に実施してしまうと思います(というか既に似たようなのはあると思います)。論文を執筆することのハードルが下がると、例えばそれなりの質の論文を月に数十本とか書くことも不可能ではないでしょう。

そういった状況で、論文の数やら被引用数などを指標にして、研究(者)の評価をするのはナンセンスです。もっと「AIを使って何をしたか」「何を成し遂げたか」が評価の軸になるのではないかなと、願望を込めて思っています。まぁそういう評価にも課題は多々あるのでしょうが。

 

二つ目は、研究活動の民主化

もちろんデータを生成するために、実験器具とか設備が必要な状況は変わりませんが、それらが不要な分野、例えばデータ解析系の分野ではAIの力で独力でも気軽に研究ができるようになると期待してます。生命科学系ではDIYバイオみたいな話もありますが、同じようなイメージです。職業研究者以外が気軽に研究活動をできる時代。近年漫画や音楽、動画作成で起きているようなことに近いでしょうか。趣味の一環として研究がある状態です。

 

 

あと、大学や大学院での研究教育とAIについても何か書きたい気もしますが、あまりまとまっていないので辞めておきます。現時点では、学生や諸学者も自らの頭で考えつつも、AIをとにかく使い倒すのが良いと思っています。

 

論文のメモ: 因果探索手法の有効性の検証~サンプルサイズと仮定からの逸脱との関係~

Prakash S, Xia F, Erosheva E, 2024, A Diagnostic Tool for Functional Causal Discovery, arXiv:2406.07787.

観察データから因果の向きを推定する因果探索(causa discovery)の手法であるLiNGAM(Linear Non-Gaussian Acyclic Model)が、2変量の因果の向きを正しく推定できるかシミュレーションベースで検討した論文。サンプルサイズや仮定の逸脱に対して因果探索がどれだけ頑健かを調べています。さらに因果の向きが既知の実データ4種での検討もあります。

LiNGAMのおもな仮定は、その名前の通り線形性と誤差の非ガウス分布で(他の仮定は未観測共通原因がないことや非巡回性)、多くの応用研究では仮定からの逸脱を事後的に検証していますが、分布の検定はサンプルサイズが小さいと検出力が低いなどの課題があり、妥当な検証ができない可能性があります。そこでどの程度の仮定からの逸脱なら正しく因果の向きを推定できるか検証した、という背景です。

ニジマスの28日間曝露後の湿重量データを実データとして検証に使用しています。元ネタはbmd Rパッケージ。2パラメータの指数的減衰関数(たぶんy = a・e^-bx)がフィットすることが知られているため、変換してからLiNGAMを当てはめたみたいです。普通に考えたらy(湿重量)を対数にすれば良いのかと思いきやx(濃度)の値が変わっているので(Figure 5)、どういう変換をしたのかよく分かりません。結果、LiNGAMではおおむね因果の向きを正しく推定できており、サンプルサイズが増えると正しい推定の確率も微増したようです。しかし、この実データの何が仮定から逸脱しているのか明示されてないから、何を検証しているのか良く分かりません…。それとも実データは仮定からの逸脱とは関係ないのかな。まぁでもこういう検証がまだされていないのかとか、参考になりました。

論文のメモ: AOPと因果推論

AOP(Adverse Outcome Pathways)は、分子レベルから個体・個体群レベルの生物影響をつないで、化学物質の悪影響を整理する枠組みです。そのAOPと因果関係、因果推論についての話。

 

Spînu N, Cronin MT, Madden JC, Worth AP, 2022, A matter of trust: learning lessons about causality will make qAOPs credible, Computational Toxicol 21: 100205.

Judea Pearlの著書「The book of why(因果推論の科学)」をquantitative AOP(qAOP)と絡めて語っているコメンタリー。qAOP(あるいはAOP)の信頼性を高めるのに因果推論が活用できるという趣旨です。いわゆるNAMs(New Approach Methodologies)は近年、AOPの構築や行政活用もなされようとしていますが、NAMsが実務的に利用されるには信頼が大事だよね、とのこと。"Although relevant and reliable methodological approaches are being developed and demonstrated, a key pre-requisite for their widespread application is trust."

技術的な話はそれほど多くなく、紹介されている因果推論手法はベイズネットワーク中心です。Hillの基準などの話もあり。

 

Zhou Z, Pennings JL, Sahlin U, 2025, Causal, predictive or observational? Different understandings of key event relationships for adverse outcome pathways and their implications on practice, Environ Toxicol Pharmacol 113: 104597.

AOP構築のハンドブックやAOPに関するOECDのガイダンスドキュメント、あるいはその他の論文で、AOPのKey Event間の関係(KER)は、予測(predictive)と因果(causal)のどちらで記述されているのかを調べた研究。ハンドブックでは、予測も因果も使われており、KERの定義としてはどちらも求められるようです。ただ、実際に作成されているAOPでは、その完成度合(WoEの度合)によって予測なのか因果なのかが違うとのこと。因果性を厳密に求めたいならばランダム化実験をおこなう必要がありますが、それを実行した文献はありませんでした。代わりに、上流のKEを阻害して因果性を検証する実験はそれなりに行われています。ただknock-outのように上流のKEを阻害しても、別のKEに影響する可能性があるため、必ずしもバイアスのない因果性を同定できているわけではないと注記されていますね。

毒性学の実験は、doseとoutcomeは確かにランダム化できるけど、途中のKey Eventはランダム化できないから観察データから因果推論するしかないよね、という整理には首肯しまくり。またDiscussionで、DAG、構造方程式モデリングSEM)やらベイジアンネットワークのようなツールは予測に役立つが、バイアスを調整していない場合などは因果を推定できているわけではないことが記されています。

 

Zgheib E, Gao W, Limonciel A, Aladjov H, Yang H, Tebby C, ... , Bois FY, 2019, Application of three approaches for quantitative AOP development to renal toxicity, Computational Toxicol 11: 1-13.

qAOP構築について3つの手法(容量応答モデリング、ダイナミックベイジアンネットワーク、システムバイオロジーモデリング)を比較した研究。事例は酸化ストレスによる慢性腎毒性。詳しくは読んでませんが、下のMoe et al.(2021)での紹介によると、システムバイオロジーモデリングでは57の微分方程式と335のパラメータを使用しているとのこと。

 

Moe SJ, Wolf R, Xie L, Landis WG, Kotamäki N, Tollefsen KE, 2020, Quantification of an adverse outcome pathway network by Bayesian regression and Bayesian network modeling, Integr Environ Assess Manag 17(1): 147-164.

ベイジアンネットワークによるAOP定量化の事例。ジクロロフェノール曝露によるウキクサの葉数減少に関するAOP。MIEは酸化的リン酸化の活性低下と活性酸素種の生成という2又のAOP networkの定量化をベイジアン回帰分析とベイジアモデルンネットワークで行っています。データの元ネタはXie et al. (2018, Aquatic Toxicology) 。若干元ネタ論文と、書かれているAOPが異なります。

 

 

 

(追記 2025.01.16)

Svingen T, Villeneuve DL, Knapen D, Panagiotou EM, Draskau MK, Damdimopoulou P, O’Brien JM, 2021, A pragmatic approach to adverse outcome pathway development and evaluation, Toxicological Sci 184(2): 183-190.

因果推論・因果探索とは関係ないけど、要旨に「A major challenge for broader application of the AOP concept in regulatory toxicology, however, has been developing robust AOPs to a level where they are peer reviewed and accepted. 」という文言を見つけたのでメモ。本文にも「It is not a grueling task to provide a conceptual idea for an AOP nor to provide some basic level of background information.」とあります。思いつくのは簡単ですが、やっぱり信頼できるレベルまで持っていくのが難しいんですよね。論調としては、上のSpinu et al.とかZhou et al.とも同じです。AOPの査読がOECDではなくET&Cでなされるようになったのは、この論文の動きからですかね。AOPの中心的な人も著者陣に入っています。

対策として、KE間の関係(KER)を実際的なAOP構築の単位とすべし、という提言はもっとも。KERを最小単位にすることで、確立した知見のKERにAOP構築・査読のエフォートを割く必要がなくなります。

 

 

論文のメモ: ゼブラフィッシュの心拍数データの簡易な取得法

Sampurna, B. P., Audira, G., Juniardi, S., Lai, Y. H., & Hsiao, C. D. (2018). A simple imagej-based method to measure cardiac rhythm in zebrafish embryos, Inventions 3(2): 21.

マジのメモ。Image Jで動画を取り込んで、心拍数のデータを取得する簡単な方法。ほぼTime Series Analyzer(リンク)というpluginを使用するだけですので、ざっといくつかのツールや論文を見た感じだとこれが最も簡易な方法の一つです。心臓部分を囲って、Time Series AnalyzerのプラグインからAddとGet Averageを押すだけ。

この論文では心房と心室を分けていますが、もちろん分けなくても解析は可能です。ただその場合は若干汚い時系列データになるかも。

 

論文のメモ: 生物分類による環境DNAの粒度分布の違い

Verdier H, Datry T, Logez M, Konecny‐Duprè L, Gauthier M, Lefébure T, 2024, Environmental DNA Particle Size Distribution and Quantity Differ Across Taxa and Organelles, Environmental DNA 6(5): e598.

似たような論文も多々ある中でこれをピックアップしている意味は特にないですが、たまたま読んだので。自分はこういう分子のcharacterizationをしている地味な研究が結構好きです。

ゼブラフィッシュ、アカガエルのオタマジャクシ、サカマキガイ、ミズムシ?の4種について、環境DNAの粒度分布を調べています。7・14・21日後の飼育水を8~0.2 µmのろ紙で環境DNAを連続ろ過、そして0.2 µm未満はエタ沈で回収。核DNAとしてITS、ミトコンドリアとして16S rRNAを見ています。

要旨に"For most taxa, the number of nuclear eDNA particles released in water was higher than that of mitochondrial origin"とあるから「んっ?」と思ったので、ITS2なら、そのことを要旨にも書いてほしいです。他のタンパクコードのシングルコピー遺伝子なら話がまた変わるので。でも本文を読むと、ゲノム中のコピー数はちゃんと考察されています。

肝心の粒度分布ですが、ゼブラフィッシュではITS2・16Sともに0.6~1.2 µmあたりがピークです。サカマキガイやミズムシも、若干のばらつきはあるものの、大体そんな感じです。一方、オタマジャクシは<0.2 µmと8 µmという両端にピークがあります。まあでもこの論文ではproductionとdegradationを明確に区別できていないので、ちょっと結論が出しづらいですね。