備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: リスク評価ツールとしてのヨコエビのエクジソン受容体

Sousa JP, Espeyte A, Neuparth T, Recoura-Massaquant R, Bancel S, Delorme N, Chaumot A, Castro LFC, Santos MM, Geffard O, Ruivo R, Degli-Esposti D, 2026, The amphipod ecdysone receptor as a complementary tool for environmental risk assessment: from functional analysis to proof of concept study, Environment International 110210.

内分泌かく乱作用をターゲットにした化学物質のリスク管理・評価は脊椎動物に偏っているので、無脊椎動物でもやろうよ、ということで脱皮・成長・繁殖にかかわるエクジソン(ecdysone)の受容体(EcR)に着目して、ヨコエビGammarus属のEcRとRXRのレポータージーンアッセイ系(ヘテロダイマー)を構築し、環境水に適用した論文。

無脊椎動物の内分泌かく乱の話は、派手ではないけどここ数年ずっと進められている印象です。適当に流し読みした感じですが、ネオニコのイミダクロプリドがG. fossarumのEcR:RXRレポータージーンアッセイ系でわずかに陽性だという話もあります。ただもう一種のG. locustaでは特に陽性ではない、というより一濃度区でしか試験していないようです。

環境水に適用している点はとても良い。もっとも陽性になった場合の原因物質までは探っていないようです。

論文のメモ: ゼブラフィッシュ胚試験と甲状腺ホルモン阻害

Knapen D, Vergauwen L, Baumann L, Holbech H, 2026, Advancing fish embryo tests for endocrine disruptor testing: assessing endocrine adversity in nonprotected life stages, Environ Toxicol Chem, 45(2): 289-291.

ET&C誌のPoints of Reference。

魚類胚急性毒性試験いわゆるFET(OECD TG236)は、動物福祉に配慮しつつ内分泌かく乱の"adversity"も考慮できるようにOECDで改良中である(tFET)、というある種の宣伝記事。内分泌かく乱というより実質的には甲状腺ホルモンかく乱のことですね。tFETとの比較で出されているのはRADARやREACTIVのようなアッセイ。これらは内分泌かく乱作用をスクリーニング的に検出できるがadversityは分からない、と整理されています。

てっきりtFETもスクリーニング的な位置づけかと思っていたので少し意外でしたが、甲状腺ホルモンのかく乱に関してはtFETでも遊泳能力の低下が検出できて生態学的に意義のある影響を捉えられると主張されているんですね。

 

Vandeputte E, Stinckens E, Verreth J, Fibiger Sørensen S, Holbech H, Vergauwen L, Knapen D, 2026, Zebrafish neuromast development: a target for endocrine disrupting chemicals?, Frontiers Toxicol 8: 1733477.

上の論文と同じグループから。魚の側線(lateral line)における感丘(neuromast)はhair cellsがあり機械的な刺激を神経シグナルに変換しています。ばらつきが大きく、あまりキレイな結果ではありませんが、FM1-43でゼブラフィッシュのhair cellsを蛍光染色して、甲状腺ホルモン合成阻害剤やエストロゲン受容体アンタゴニストがhair cellsの発達を阻害したと報告しています。

ただ側線や感丘の発達が内分泌かく乱阻害に特有の影響とは言っていないようです。

 

2026年に出た6PPDキノンの論文まとめ

ギンザケ死亡症候群の原因物質であると2020年の年末に報告された6PPD quinone(6PPD-キノン; 6PPD-Q)の話(→2020年のScience)。いくつか面白かった論文をここにピックアップしています。

2024年、2025年のメモはそれぞれこちらこちら

 

McMinn MH, Tang Y, Berger P, Poisson K, Oliveira Tavares Lima A, Stubbins A, Güler AT, Tian Z, 2025, From the Road to the Field: Decoding Chemical Transformation in Aging Tire and Artificial Turf Crumb Rubber, Environ Sci Technol 60(1): 1051-1062.

公開は2025年12月ですが、2026年のメモに載せておきます。Science論文の1st authorのTian氏のグループです。人工芝のcrumb rubber粒子とタイヤ摩耗粉塵(TWP)、タイヤトレッド凍結破砕粒子(CMTT)を劣化させて、タイヤ関連物質の経時変化をノンターゲット分析で調べた研究。分子ネットワーキングで構造に基づく化学物質の類型化を行っている点が特徴的です。

TMQ(2,2,4-trimethyl-1,2-dihydroquinoline)やそのオリゴマーをピックアップして議論しています。特にオリゴマーは廃タイヤ粉末(crumb rubber)を投与したヨコヅナダンゴウオの血中から検出されたという報告があるとのこと。TMQはポリマーで、他の化合物とくっついて未知の反応物を色々と生成するようです。6PPD-Qはあまり関係なし。

 

Liu L, Zhao W, Luo X, Tan X, Liu L, Huang L, Yuan Z, Li Zm, Li F, Zheng H, 2026, Environmentally relevant 6PPD-quinone drives personality-specific behavioral abnormalities in juvenile grouper through interplay between neuroinflammation and gut microbial dysbiosis, Aquatic Toxicol 107707.

公開は2026年1月3日。耐性種であるハタを6PPD/6PPD-Qに曝露して行動や腸内細菌叢、脳の遺伝子発現変動を調べた研究。6PPDや6PPD-Qに曝露した時にILやTh1/Th2パスウェイなどが動いているとか、タイトジャンクション関連のclaudin-4とmmp13aが発現低下/増加しているとか。ただしclaudin-4は6PPDと6PPD-Qの両方に関して。

しかしこの議論をしておいてBlairとGreerを引用していないのは驚きです。

 

Ren S, Xia Y, Wang M, Zhao S, Wu X, Man M, Du Y, Yang D, Lv M, Chen L,  Ding J, 2026, Evaluating 6PPD-Q bioavailability and biotransformation in zebrafish by diffusive gradients in thin-films, Environ Research: 123851.

公開は2026年1月21日。あまり深く読んでませんが、DGT(Diffusive Gradients in Thin-films)で曝露実験系におけるbioavailableな6PPD-Qの濃度測定を実施した研究です。6PPD-Qの代謝産物も測定しているのがミソ。これまでの6PPD-Q研究と一致して、ベンゼン環にOHが付与されるものが、CYPによる主要な産物のようです。

 

(2026.02.27 追記)

Wei N, Yan X, Yu M, Li R, Xiao Z, Chen S, Yangb L, Wang Q, Liu Q, Jiang, G, 2026, Binding of N-(1, 3-Dimethylbutyl)-N’-phenyl-p-phenylenediamine Quinone (6PPDQ) to Mitochondrial Proteins Provokes Mitochondria Dysfunction. Chemical ResToxicol.

公開は2026年2月19日。ヒト肺がん非小細胞(A549)を用いて6PPD-Qのタンパク質への結合脳を調べ、NDUS6・COX5B・ATP5PBの3つのタンパク質がミトコンドリア阻害の主要因であることを見つけたという論文。複合体IおよびIVの活性低下、膜電位の低下やATPの減少、ROS増加が8.9 ug/Lの6PPD-Qによって生じたとのこと。

 

(2026.03.25 追記)

Fu Z, Mao W, Qu J, Wu X, 2026, Mitochondrial DNA copy number mediates PPD-Qs-induced lipid level alterations in humans, Ecotoxicol Environ Safety 314: 120047.

公開は2026年3月21日。中国の成人255名の血中脂質とPPD-Q濃度、およびミトコンドリアコピー数を調べてその関連を議論した論文です。6PPD-QだけでなくIPPD-Qや77PD-Q、CPPD-Q、DPPD-Qなども調べています。血清PPD-Q濃度と脂質レベルが正の相関関係にあり、PPD-Q濃度とミトコンドリアDNAコピー数にも正の相関があるとのことです。ミトコンドリアDNAのコピー数が増えているのはadaptive/compensatoryな反応ではないかと推測しています。

 

(2026.05.10 追記)

Scholz NL, Davis JW, Spromberg JA, Feist BE, Linbo TL, Labenia JS, Cameron JR, French BL, Baldwin DH, Incardona JP, Collier TK, 2026, The Origin Story for 6PPD-quinone in Ecotoxicology, Environ Sci Technol Letters, accepted.

公開は2026年4月25日。元(?)NOAAのScholz氏ら、米国西海岸におけるギンザケの死亡に長年関わってきた人達による6PPD-Q発見にいたるまでのお話しと今後の展望。

 

Soucek DJ, Dorman RA, Candrl JS, Moody AH, Lane RF, Greer JB, Hansen JD, Steevens JA, 2026, Time course of effects and tissue concentrations of 6PPDQ in three sensitive salmonids with additional data for two centrarchid species, Environ Sci Technol, 60(8): 6002-6010.

公開は2026年2月19日。USGSから。ギンザケ、カワマス、ニジマスの6PPD-Q試験を標準化された条件でやり直したという論文。死亡した個体全身の6PPD-Q濃度を定量していて、感受性の中程度のニジマスは、高感受性のギンザケやカワマスよりも体内濃度が高いという結果。つまり取り込み量だけで感受性が決まるわけではないということですね。これは既存論文と同じです(Hiki and Yamamoto, 2022, ES&T Letters)。

 

Lin J, Roberts C, Kohlman E, Jain N, Amekor M, Alcaraz AJ, Wiseman S, Hogan N, Brinkmann M, Hecker M, 2026, Molecular Toxicity Pathways and Transcriptomic Points of Departure (tPODs) of 6PPD-Quinone in Early-Life Stage Lake Trout (Salvelinus namaycush), Environ Sci Technol 60, 15, 11324–11336

公開は2026年4月8日。カナダのサスカチュワン大学から。レイクトラウトの稚魚を対照区含む6濃度区(n = 5)の6PPD-Qに曝露してtranscriptomic Points of Departure (tPOD) を求めた研究。レイクトラウトの96時間LC50は過去の文献で0.50 μg/L、45日間のLC50は0.39 μg/Lとされていて、算出方法に次第ではありますがtPODも同程度とのこと。

 

Cheng R, Zhang W, Su Y, Yang Z, Shao X, 2026, Chemoproteomic Profiling Reveals 6PPDQ-Mediated Neurotoxicity in Rainbow Trout through Disruption of the Glutamate–Glutamine Cycle, Environ Sci Technol accepted.

公開は2026年5月5日。中国の中山大学から。ニジマス脳で6PPD-Q曝露によりグルタミンシンテターゼ(GS)の阻害が生じ、グルタミン酸が蓄積し、NMDA受容体が刺激されCa2+が過剰流入し、細胞死につながったとのこと。これはかなり衝撃。clickable probを用いた手法の新しさも驚きだし、結果も妥当な気がします。驚きで詳細を読め込めていないのですが、曝露後20分でGSの活性が下がったとあります。この反応が6PPD-Q毒性の端緒だとすれば、次は種間感受性と物質特異性がここで説明できるかどうかがカギですね。

 

Enrichment解析の多種間比較ツール: EchoGO

Escobar-Sierra C, Langschied F, Inostroza PA, 2026, EchoGO: A Cross-Species Consensus Framework for Functional Enrichment in Non-Model Organisms, Zenodo, DOI: 10.5281/zenodo.17658714

ZenodoやGitHubで公開されているRパッケージ。まだ使っていませんが、とりあえずメモ。ゲノムがある種にも、ゲノムがない種(de novo RNA-Seq)にも対応しているとのこと。

 

論文のメモ: 化学物質モニタリングの不足と限界

Bub S, Petschick LL, Stehle S, Wolfram J, Schulz R, 2025, Limitations of chemical monitoring hinder aquatic risk evaluations on the macroscale, Science 388(6753): 1301-1305.

ドイツの人たちがアメリカの公共の化学物質モニタリングデータと生態毒性データを解析した論文です。生態リスクを適切に評価するための化学物質の測定がなされていないのではないか、というのが主要なメッセージ。毒性データとしてEnviroToxやREACH、さらにはin vitroのToxCastやin silicoのECOSARを参照して、そのうちのごく一部しかモニタリングされていないことを指摘しています(図1)。もっともモニタリングされている物質は毒性が強い傾向にあるようです。

あとは時空間的な分布と、化学分析の検出・定量下限の話。殺虫剤は毒性が低いので検出・定量ができないためにリスクを把握できていないことがあると指摘されています。ピレスロイドがやり玉に挙げられていますが、ピレスロイドは疎水性がかなり高いので、底質濃度を代わりに測定してやれば良いのでは。

論文のメモ: Emerging contaminantsのリスク評価へのビッグデータの活用(因果推論+機械学習)

Cui HL, Gao SH, Wang HC, Zhang LY, Luo Y, Ying GG, Sun WL, Yu YJ, Liang B, Wang AJ, 2025, Big data integration for environmental risk assessment of emerging contaminants, Nature Sustainability, 1-11.

Nature SustainabilityのPerspective論文。Emerging contaminantsのリスク評価をテーマにして、因果推論というワードが登場していたので、関連する箇所のみ読みました。すごく真新しい話が書いているわけではありませんが、因果推論まわりのメモです。

BOX1にBig dataから優先すべき化学物質を同定する試みの例が述べられています。ざっくり書くと、XG Boostなどの機械学習を用いて、Shanon indexのような指標を説明できる化学物質を選ぶという流れです。因果推論は、その機械学習のあとに色んな要素の関係を解釈するためのツールとして用いるイメージですね。

サンプルサイズが小さいため、SHAPなどで機械学習で変数を選択しても、それは因果の証拠というよりも探索的・仮説構築的なものだと言及されています。

(追記 2026.01.20)

Han M, Liang J, Jin B, Wang Z, Wu W, Arp HPH, 2024, Machine learning coupled with causal inference to identify COVID-19 related chemicals that pose a high concern to drinking water, iScience 27(2): 109012.

COVID-19に関連する化学物質のPBT(persistence/bioaccumulation/toxicity)特性を予測する論文。まぁQSARな話で、分子記述子からPBT特性を予測する機械学習モデルを作成するという内容です。ここまでは良くある内容ですが、比較的新しいのは上記のperspectiveと同様に、SHAPで重要な変数を抜き出して、その変数間での因果推論を実施している点でしょうか。最上流と最下流(PBT特性)の変数はドメイン知識で決定。

論文のメモ: 環境リスク評価におけるNAMsの受容を阻害するもの

Jeffcoat P, Hickey GM, Maguire S, Basu N, 2025, Breaking the “Toxic Ignorance Cycles” that Hinder New Approach Method (NAM) Acceptance in Environmental Risk Assessment, Environ Sci Technol, in press.

カナダMcGill大学の論文。ES&Tの"Policy Analysis"という枠。抽象的で少し難解でしたがなかなか面白かったです。

非常にざっくり書くと、NAMs(New Approach Methodologies)のような新しい技術についてデータ不足だからといつまでも意思決定に使用しなければ、さらにデータが生成されずに悪循環に陥るという話を議論しています。そしてその悪循環を打破するための方策を述べています。

詳細は理解しきれてませんが、不確実性やignorance*1を考慮したうえでNAMsの規制導入を提案している点は同意(Figure 2の本文言及あたりで述べられています)。暴論を言えば、現在の化学物質のリスク評価も不確実性だらけで、現実世界で生じているリスクをそのまま反映しているわけではないため、NAMsを導入すると決めてその方向で割り切って進めるのは悪くないと思います。

 

ちなみに引用されているUSEPAの"Value of Information Case Study"という報告書。その中で、短期間曝露実験のOMICSベースのNAMsを用いて行政判断にかかる時間を短縮することは、公衆衛生の面でも経済的にも便益が大きいと述べられているそうです(→報告書)。NAMsについてこのように規制コストと便益のトレードオフを正面から議論されているのは知りませんでした。

*1:Ignoranceには選択的なignorancemforbidden knowledge、nescienceがあるなど、なんと訳すべきか迷ったのでそのままignoranceとしました。

論文のメモ: tPOD導出方法の比較~whole vs targeted~

Villeneuve DL, Nash M, Biales A, Bush K., Evensen G, Everett L, Haselman J, Hazemi M, Le M, Poynton H, Seligmann B, Wehmas L, Yeakley J, Flynn K, 2025, Comparison of whole transcriptome and targeted RNA sequencing for ecological high-throughput transcriptomics, Regulatory Toxicol Pharmacol 105898.

USEPAのDanielさんらの成果。Whole transcriptomeと一部の遺伝子を対象にした場合でtPOD(transcriptomic Point of Departure)が異ならないか検討した研究。こういう検討が必要だなと思っていましたが、やっぱり既にやられていますね。

ファットヘッドミノー、オオミジンコ、ユスリカ、緑藻を対象にして、化学物質による遺伝子発現への影響を解析するコスパの良い手法(1サンプル50$以下?)を募ってコンペをしています(Ecotox TARGET Challenge)。2020年から募集。7つ手法の応募があり、そのうち2つはCOVID-19の影響でキャンセル。24時間の曝露とRNAサンプルの調製を1つのラボで完了させてRNAを配布。曝露は対照区を含め3濃度区。

5つの手法のうち、4つがwhole seqで1つだけsentinel genesを対象にしたtargeted RNA-Seq(2,000程度の遺伝子)です。そして唯一のtargeted RNA-SeqだったBioSpyder社のTempO-Seqがコンペを優勝して300T$をゲットしています。

Targeted RNA-Seqが優勝したということでwhole seqとの比較も実施。ただ、その比較は過去のtPODを求めたwhole seqのデータを元にシミュレーションだけで実施。なので上のEcotox TARGET Challengeとはほぼ無関係?それなのにタイトルと図がwhole vs targetedにフォーカスを合わせているのは、ちょっと実態と合っていないような…。まぁ、それはともかく、targeted RNA-Seqでは化学物質に反応するような遺伝子が選ばれていて、whole RNA-Seqとほぼ同等(そしてたまに低め)のPODが導出されるとの結果でした。

 

 

 

論文のメモ: 大気環境DNAの最近の研究例

表題通りです。下のNature Eco Evoの論文をメモしておきたかっただけですが、ついでに同時期に眺めた論文も記録。

(追記2025.09.24)

Environmental DNAという雑誌で「Environmental DNA Traveling by Air」という特集号が組まれています。この記事の一番下の"Winds of Change"論文の他にも、花粉のDNAやコウモリDNAのパッシブサンプリングなどの論文があります。

(追記終わり)

 

Nousias O, McCauley M, Stammnitz MR, Farrell JA, Koda SA, Summers V, Eastman CB, Duffy FG, Duffy IJ, Whilde J, Duffy DJ, 2025, Shotgun sequencing of airborne eDNA achieves rapid assessment of whole biomes, population genetics and genomic variation, Nature Ecol Evol, 1-18.

2023年にナノポアのロングリードシーケンサーで大気や水の環境DNAをショットガンシーケンスした論文を2023年にNature Eco Evoに発表したグループから(当時の感想:こちら)、その続報的な論文です。この論文もロングリードとショートリードで大気含めて色んな環境DNAをシーケンシングしています。別の論文で集めたサンプルのデータも入っていて寄せ集めな感じもあり若干読みづらいですが、かなり力技で面白いです。

大気環境DNAをロングリードで読んでほぼミトコンドリア全長がつながるとか楽しすぎます。

大気のサンプルは野外と室内から。ステリべクスの0.22 μmを用いてポンプ・パッシブ・車の屋根に着けて走行の3通りで収集。Qiagenのキットで抽出。さらに窓ガラスをふき取って環境DNAを回収するという試みも実施しており、面白い。このswabサンプルは少しばらつきが大きいようです。

データ解析はオープンソースクラウドベースパイプラインのCZ ID(https://czid.org/)で実施。

ショットガンで環境DNAをシーケンスすることにより、①生物多様性のモニタリング、②集団遺伝学(population genetics)、③病原体のモニタリング、④アレルゲンや麻薬(narcotics)のモニタリング、⑤薬剤耐性菌のモニタリング、⑥生物資源調査(bioprospecting)が可能になると整理しています。アレルゲンとしてはピーナッツや花粉など。AMRとか

あと、ヒトDNAを調査することの倫理的な議論もあります。

 

Tang L, 2025 Sequencing DNA in the air, Nat Methods 22, (1395)8.

上記論文の紹介記事。ラストオーサーのフロリダ大学Duffy氏へのインタビューなど。

 

Lin R, Yan Z, Yao M, 2025, Robust passive sampling of airborne environmental DNA to monitor plants and animals, Methods Ecol Evol, in press.

大気環境DNAのパッシブサンプリング手法を比較した論文。ワセリン・オイルなどを塗ったスライドガラス、ナイロンやガラス繊維製のろ紙、静電式ダストクロス(EDC)をサンプラーの素材として試験しています。サンプラーは木の枝からワイヤーでつるしています。植物(trnLc/h)と脊椎動物(12S rRNA-V5領域)を標的としてアンプリコンシーケンシング。

検出できたOTU数は、EDCが植物についても動物についても最多でした。次いで多かったのは植物表面のswabサンプル。

サンプリング時間の影響をEDCとPESについて調べていて、どちらのサンプラーでも時間が増えると植物のOTU数は減り、動物のOTUは増えています。動物のOTUが増えていくのは、いろんな種のDNAが徐々に蓄積していったからだと言えますが、植物の場合は時間とともにイチョウの割合が増えていたことから、イチョウの花粉が多量に付着して他の生物のDNAが検出されなかったのではと考察されています。

 

Tulloch RL, Adams CI, Barnes MA, Clare EL, van de Ven HC, Cridge A, ... & Hahn E E, 2025, Winds of Change: Charting a Pathway to Ecosystem Monitoring Using Airborne Environmental DNA, Environ DNA, 7(4), e70134.

ちゃんと読んでませんが、2024年のSouthern eDNA学会での大気環境DNAの課題や今後の展望についての議論をまとめたものらしいです。

 

論文のメモ: 単離したミトコンドリアの活性評価 ~フローサイトメーター~

フリーサイトメーター(FCM)で単離したミトコンドリアの膜電位やROS産生を評価した論文のメモ。手法を参考にするかも。

単離ミトコンドリア実験についての関連するメモはここ

 

Mattiasson G, 2004, Flow cytometric analysis of isolated liver mitochondria to detect changes relevant to cell death, Cytometry Part A: The Journal of the International Society for Analytical Cytology 60(2): 145-154.

タイトル通りフローサイトメーター(FCM)を用いて単離ミトコンドリアの活性などを評価した論文。FCMはFACSCalibur。Nonyl Acridine Orange(NAO)をミトコンドリアそのもののプローブとし、TMRMとDiIC1をミトコンドリア膜電位のプローブとしています。ROSのプローブはH2DCF-DA。そしてSwelling(膨潤)の指標としてフローサイトのSSC(側方散乱光)を用いています。膜電位のプローブとして、Rh123とJC-1は良くなかったので選択しなかったと書かれています。
Discussionにもありますが、膜電位の絶対値(mV)が分かるわけではないので、oligomycinによる過分極とFCCPによる脱分極は比較対象として必須みたいです。

 

Yang LY, Gao JL, Gao T, Dong P, Ma L, Jiang FL, Liu Y, 2016, Toxicity of polyhydroxylated fullerene to mitochondria, J Hazardous Materials 301: 119-126.

Polyhydroxylated fullereneの毒性評価にFCMを使用した論文。他にも膨潤とか酸素消費速度とか調べています。単離したミトコンドリアをRh123で染色し、fullerenolを曝露してからFCMで膜電位を測定しています。

FCMとは関係ありませんが、DPH(1,6-diphenyl-1,3,5-hexatriene)とHPを蛍光色素に用いた膜の流動性評価というのも行っています。これは分かるようでよく分かりません。

 

Zhang X, Zhang S, Zhu S, Chen S, Han J, Gao K, ... Yan X, 2014, Identification of mitochondria-targeting anticancer compounds by an in vitro strategy, Analytical Chemistry 86(11): 5232-5237.

HeLa細胞から単離したミトコンドリアをいろんな抗がん剤に曝露してFCMで調べた論文。こちらは上のYang et al. (2016) とは逆で、単離ミトコンドリア抗がん剤に2時間曝露してから、洗浄し、染色してFCMです。

CCCPでは側方散乱光は変化しない、つまり膨潤はしていないであろうことも書かれています。

 

Lu Z, Wang S, Ji C, Li F, Cong M, Shan X, Wu H, 2020, iTRAQ-based proteomic analysis on the mitochondrial responses in gill tissues of juvenile olive flounder Paralichthys olivaceus exposed to cadmium, Environmental Pollution 257: 113591.

ヒラメをカドミウムに曝露して、エラからミトコンドリアをQiagenのキット(Qproteome Mitochondria Isolation Kit)で単離。その後、TEMで観察したり、プロテオーム解析をしたり、FCMでMMPを解析したり。FCMはAccuri C6を使用し、膜電位の蛍光染色はJC-1を使用。

 

(追記 2025.10.23)

Saunders JE, Beeson CC, Schnellmann RG, 2013, Characterization of functionally distinct mitochondrial subpopulations, Journal of Bioenergetics and Biomembranes, 45(1): 87-99.

ウサギの腎臓から単離したミトコンドリアのカルジオリピンをNAOで染色、膜電位はTMRM。フローサイトメーターで評価。この論文もフローサイトのSSC(側方散乱光)をミトコンドリアの体積の評価に使用しています。

NAOは膜電位には影響されずにミトコンドリア量を反映している(Fig 3 a-d)、などの検証を丁寧に進めていて好感触。ミトコンドリアの直径に該当する数百nmのビーズを流してSSCが体積の指標であることの妥当性も検証しています(Fig 4)。この論文ではビーズ直径が500 nmより大きくなるとSSCが減少しています。

NAOが高いミトコンのサブ集団は膜電位が高く、FCCPによる脱分極の影響を受けにくい、という結果は面白いです。ミトコン内膜のカルジオリピンが絶縁体insulatorとして機能して高電位を維持している、とか。