備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: MP影響実験での底質中MP濃度の定量

マイクロプラスチック(MP)の話。MPの影響を調べた論文はもうすでにめちゃくちゃ多いですが、実はMPの曝露濃度を実際に測っている研究は多くないそうです。もっとも、蛍光ビーズを用いた場合は実測している場合も多いでしょうが、ファイバーやフラグメントではやはり実測していない研究が多いようです。なおこれは自分で調べたわけではなく伝聞です。

底質にMPを混ぜ込んで曝露する実験もそれなりに報告されてきていますが、その論文でMP濃度の実測をしているのか、少し見てみました。論文の選択は適当です。

 

de Ruijter VN, Hof M, Kotorou P, van Leeuwen J, van den Heuvel-Greve MJ, Roessink I, Koelmans AA, 2023, Microplastic effect tests should use a standard heterogeneous mixture: Multifarious impacts among 16 benthic invertebrate species detected under ecologically relevant test conditions, Environ Sci Technol 57(48): 19430-19441.

MPのリスク評価のトップランナーKoelmans氏のグループの論文。16種の底生生物を、environmentally relevant microplastic standard(ERMP)なるものに曝露して致死やら成長阻害やらを調べた論文です。ERMPはPP・PE・PS・PETのフラグメント、PPのファイバーを混合したもので、環境中の比率を反映しているそうです。

曝露濃度は0.1~20% w/w-dryと非常に高くて、5%と10%の底質については28日間の曝露終了後にMP濃度を強熱減量で測っています。強熱減量って粗すぎるやろと思わなくもないですが、5%や10%も入れているなら、糞や餌の食べ残しなどの変動する要因よりもMPが圧倒的に多いから妥当なのでしょうか。

 

Bour A, Haarr A, Keiter S, Hylland K, 2018, Environmentally relevant microplastic exposure affects sediment-dwelling bivalves, Environ Pollution 236: 652-660.

PEのフラグメントを二枚貝に曝露した論文。二枚貝と底質中のMP濃度を実測しています。底質については、乾燥後、飽和NaClで繰り返し密度分離してセルロースろ紙でろ過して個数を計数。けっこう簡易な手法ですね。実測値は理論値の半分程度だったり。回収率の確認などは特にしていないっぽいです。

 

Wazne M, Mermillod-Blondin F, Vallier M, Hervant F, Dumet A, Nel HA, ... Simon L, 2023, Microplastics in freshwater sediments impact the role of a main bioturbator in ecosystem functioning, Environ Sci & Technol 57(8): 3042-3052.

二枚貝イトミミズ(Tubifex tubifex)をMP底質に曝露して、生物撹乱(bioturbation)やCO2、N-NOxのフラックスへの影響を調べた論文。始めMP濃度を測っているかと思って読んだら、測ってませんでした。Control条件(=MPを添加しない底質)のMP濃度を測っているだけでした。

ちなみにControl条件では、ZnCl2で密度分離の後、フェントン反応で、ナイルレッド染色して傾向顕微鏡で計数。たぶんこのような手法が一番ベタな感じだと思います。

 

 

 

2024年に出た6PPD-quinoneの論文

ギンザケ死亡症候群の原因物質であると2020年の年末に報告された6PPD quinone(6PPD-キノン; 6PPD-Q)の話(→2020年のScience)。6PPD-Qに関する全ての論文を詳細に読むことは既に辞めてますが、いくつか面白かったものをここにピックアップしておきます。

これまでの論文の備忘録はこちら:2021年に出た論文のまとめ2022年に出た論文のまとめ2023年に出た論文のまとめ

 

Fang J, Wang X, Cao G, Wang F, Ru Y, Wang B, Zhang Y, Zhang D, Yan J, Xu J, Ji J, Ji F, Zhou Y, Guo L, Li M, Liu W, Cai X, Cai, Z, 2024, 6PPD-quinone exposure induces neuronal mitochondrial dysfunction to exacerbate Lewy neurites formation induced by α-synuclein preformed fibrils seeding, J Hazardous Materials 465: 133312.

公開は2023年12月。6PPD-Q関連の論文を多く出している香港浸会大学(Hong Kong Baptist University)のグループなどから。マウスの神経細胞(neuron)に6PPD-Qを曝露したりしています。色々やってますが、ドーパミン作動性ニューロンに6PPD-Qを曝露してからのSeahorse XFe96での酸素消費速度(OCR)実験に興味あり。Oligomycin、FCCP、Rotenoneを使用してBasal・Spare capacity・Proton leak・ATP production・Maximal・Non-mitochondrialの酸素消費速度を算出していますが、Mahoneyら(2022)とは異なり、6PPD-Qによってuncouplingが生じているわけではなさそう。

 

Wang W, Chen Y, Fang J, Zhang F, Qu G, Cai Z, 2024, Toxicity of substituted p-phenylenediamine antioxidants and their derived novel quinones on aquatic bacterium: Acute effects and mechanistic insights, J Hazardous Materials 133900.

公開は2024年2月。これも香港浸会大学のグループが中心になっている論文。6PPD・6PPD-Qだけでなく、DPPDやIPPDなどのPPD類とそのキノン体の毒性を、海洋性発光バクテリアVibrio fischeriの発光阻害試験で評価しています。6PPD含むすべてのPPD類について、PPDの方がそのキノン体よりも毒性が強い(mg/Lベースでの毒性値が低い)という結果。そして、親化合物とキノン体の毒性は相関があったということです。つまりサケ科に対する6PPD-Qのような特殊な毒性は見られなかったということですね。

 

Liao XL, Chen ZF, Ou SP, Liu QY, Lin SH, Zhou JM, Wang Y, Cai Z, 2023, Neurological impairment is crucial for tire rubber-derived contaminant 6PPDQ-induced acute toxicity to rainbow trout, Science Bulletin 69(5): 621-635.

公開は2023年12月。こちらも香港浸会大学の方が参加してますが、中心は広東工業大学の人たち。概要はまあタイトル通り。それ以上のMIE(Molecular Initiating Event)が何なのかまでは、保留という感じ。

ニジマスを用いて、サケ科において既存文献で言われている6PPD-Qの急性毒性メカニズムを一通りおさらい+発展させてみた感じの研究で、神経伝達物質(GABA、アセチルコリンドーパミンセロトニンなど)をmRNA・質量分析定量したり、血液脳関門についてin vitroの細胞アッセイをしたり、6PPD-Qとアセチルコリンエステラーゼのドッキングシミュレーションをしたりしている点は新しいです。曝露後の行動変化の定量も既存研究より詳しく行っており、脳の6PPD-Q濃度を生存個体と瀕死個体で分けて定量しているのも好感触です。

 

Zhang YY, Huang JW, Liu YH, Zhang JN, Huang Z, Liu YS, Zhao JL, Ying GG, 2024, In vitro metabolism of the emerging contaminant 6PPD-quinone in human and rat liver microsomes: Kinetics, pathways, and mechanism, Environ Pollution 123514.

公開は2024年2月。華南師範大学から。ヒトとラットの肝臓ミクロソームを用いて、6PPD-Qの代謝を評価した論文。6PPD-QとCYPsの分子ドッキングシミュレーションもしています。

CYPの阻害薬を入れての実験も行っており、ヒトではCYP1Aを阻害するANFによって代謝が阻害されているため、CYP1A2が主要な分解酵素だと考察されています。一方ラットでは色んな阻害薬で阻害が見られており、CYP1A2やCYP3A1、CYP3A1、CYP2C11が関与しているのではないかとのことです。

 

Guo Z, Cheng Z, Zhang S, Zhu H, Zhao L, Baqar M, Wang L, Sun H, 2024, Unexpected Exposure Risks to Emerging Aromatic Amine Antioxidants and p-Phenylenediamine Quinones to Residents: Evidence from External and Internal Exposure as Well as Hepatotoxicity Evaluation, Environment & Health in press.

これも公開は2024年2月。南開大学のグループから。芳香族アミン系の酸化防止剤20種と6種のPPD-Qを対象にして、室内の塵埃、ハンドワイプ、尿における濃度を測定し、さらに一部のPPD類とPPD-Qについては、ヒト肝癌由来細胞株であるHepG2を用いて細胞毒性試験を実施しています。アミン系の酸化防止剤ということで、PPD類だけでなく、1,3-diphenylguanidineや1,2,3-triphenylguanidineなどのグアニジンや、ナフチルアミンも解析しています。

細胞毒性については、やはりキノンになることで毒性が増加するわけではないようです。上のWangら(2024, JHM)と同様に、サケ科の一部の種以外ではそうなるのですね。

 

Wei LN, Wu NN, Xu R, Liu S, Li HX, Lin L, Hou R, Xu XR, Zhao JL, Ying GG, 2024, First Evidence of the Bioaccumulation and Trophic Transfer of Tire Additives and Their Transformation Products in an Estuarine Food Web, Environ Sci Technol in press.

公開は2024年3月。華南師範大学と中国科学院大学から。(更新中)

 

 

(2024.04.24追記)

Jiang Y, Wang C, Ma L, Gao T, Wāng Y, 2024, Environmental profiles, hazard identification, and toxicological hallmarks of emerging tire rubber-related contaminants 6PPD and 6PPD-quinone, Environ lnternational in press.

公開は2024年4月。また総説が出ています…。昨年出版されまくった総説についてはこちら参照

環境化学・生態毒性関連の査読付き雑誌に関する所感 ~2024年1月時点~

環境化学および生態毒性関連の査読付き雑誌(ジャーナル)についての所感。現時点で思ったことを記録として残しておきます。誰かに提言しているわけではなく、将来の自分のために個人的なスタンスを書き残しているという感じ。想定しているのは以下の表のような雑誌。

 

雑誌名 出版社 Impact factor (2022)
Journal of Hazardous Materials Elsevier 13.6
Journal of Hazardous Materials Letters Elsevier
Water Research Elsevier 12.8
Environment International Elsevier 11.8
Environmental Science & Technology ACS 11.4
Environmental Science & Technology Letters ACS 10.9
Science of Total Environment Elsevier 9.8
Environmental Pollution Elsevier 8.9
Chemosphre Elsevier 8.8
Ecotoxicology and Environmental Safety Elsevier 6.8
Marine Pollution Bulletin Elsevier 5.8
Environmental Science and Pollution Research Springer Nature 5.8
Environmental Science: Processes & Impacts RSC 5.5
Toxics MDPI 4.6
Aquatic Toxicology Elsevier 4.5
Environmental Toxicology & Chemistry Wiley 4.1
Archives of Environmental Contamination and Toxicology Springer Nature 4.0
Toxicological Sciences Oxford Univ. 3.8
Water MDPI 3.4
Integrated Environmental Assessment and Management Wiley 3.1
Bulletin of Environmental Contamination and Toxicology Springer Nature 2.7
Environmental Monitoring and Contaminants Research JSTAGE
Journal of Water and Environment Technology JSTAGE
Japanese Journal of Environmental Toxicology JSTAGE

は環境系の総合誌環境化学や生態毒性に限定されないテーマを扱っている雑誌。Water Res. とWater、JWETはそもそも少し分野が違うかもしれませんが、何となく載せてます。

 

 

Impact factorについて

上の表を作ってHAZMAT(J Hazardous Materials)のIFの高さにびっくり。Elsevierのウェブサイトを見ると、2018年は7.7、2019年は9.0、2020年は10.6、2021年は14.2なのでここ2年ほどで急増している感じですね。なぜかは知りません。それほど優れた論文が多い印象は正直ありませんが、これは私の見ている範囲の問題かもしれません。

STOTEN(Science of Total ...)もここ数年でIFが増えた印象でしたが、2018年は5.6だったようなので元からHAZMATよりは低かったんですね。個人的にHAZMATはあまり読みませんが、STOTENは眺めることが多いです。STOTENのIFが上がり始めた2019~2020年くらいに「しょうもない論文が多くなってきたな」と思った記憶がありますが、2023年の今は結構面白い論文も多い印象を受けます。未だ玉石混交ですが、玉の割合が多くなってきたような。もっとも根拠ゼロの体感でしかないです。IFにつられて良い論文が集まりやすくなったのでしょうか。

一方、Aquatic ToxicologyやET&C(Environmental Toxicology & Chemistry)はIFがあまり増加していないため、相対的な地位は低下しています。それに伴ってか、最近は質が低い論文を以前より目にすることが多くなった気がします。これも根拠ゼロの体感ですが。ET&Cは、SETACの旗艦誌(flagship journal)なので、今でも面白い論文や大人数が集まってのオピニオン論文みたいなのはそれなりに掲載されていますがね。しかし両者ともまさかMDPIのToxicsにIFが抜かされているとは…。

ES&Tはそれなりに信頼しています。やっぱりEditorの権限が強くて査読者に頼り切っていないのが査読の過程から感じとれますが、そこが論文の質につながっているのかもしれません。

 

ElsevierとSpringer Nature・MDPIには投稿しない

これは個人的なこだわり。ElsevierやSpringer Natureの暴利を貪る姿勢には辟易しているので、なるべくこれらの雑誌には投稿しないようにしています。学術誌の購読料・掲載料高騰は「有名雑誌に掲載したいという研究者のスケベ心」が引き起こしているという指摘(by @the_kawagucci)にかなり賛同していて、自分自身でできることをやろうという考えです。もっとも有名雑誌に載せる理由は別に報酬目当てや名誉欲だけではなく、論文の反応が得られやすい・引用されやすい、あるいは査読の質が高いという点もあるとは思いますが。

ただこのこだわりは、自身が第一著者や責任著者の論文に限っています。特に若い研究者が第一著者の場合は、Elsevierの雑誌の高いImpact Factorや速い査読期間に強い魅力があるのも事実なので。ある程度の実績を得てきたからこういったこだわりを表明できるのであり、ポジショントークだとは認識しています…。

ElsevierやSpringer Natureを除くと、WileyのET&CかACSのES&T、RCSのESP&I、あとはJ-STAGEの雑誌くらいしかこの業界の雑誌はありません。環境学というより毒性学ですがOxfordのTox Sciもアリでしょうか。こういうところの雑誌を盛り上げていければなぁと思います。

 

 

論文のメモ: ToxCast/Tox21によるin vivoの生態毒性予測の可能性

Palomares IMR, Bone AJ, 2024, Predictive value of the ToxCast/Tox21 high throughput toxicity screening data for approximating in vivo ecotoxicity endpoints and ecotoxicological risk in eco-surveillance applications, Sci Total Environ 169783.

Schaupp et al. (2023) と同じようにin vitroのハイスループットスクリーニング試験(HTS)をin vivoの生態毒性予測に活かせるかというモチベーションの論文。

非常にざっくり書くと、Schaupp et al. (2023) と同じ目的で、異なるデータベース・解析方法で再検討して、「ToxCastと生態毒性のin vivo毒性値は相関がほとんどない」ことを述べています。なおin vivoのデータとして使用されたのは、EnviroToxデータベースの毒性値やPosthumaのSSD(Species sensitivity distribution)の慢性HC5、NORMANデータベースのPNEC、USEPAの農薬ベンチマークの4種。一方in vitroの毒性値にはACC(Activity concentration at cut-off)というLOEC的なものとAC50を使用。全てのアッセイを対象にするだけでなく、ZebrafishのFET試験や、cytotoxiciyに関するアッセイだけを解析するなど、ToxCastの解析法もいくつか検討しています。

また、神経毒性物質やAChE阻害物はin vivoの毒性値の方が低い(=conservative)ことや、逆に溶媒や界面活性剤ではin vivoの毒性値の方が高いことも示されています。前者は、魚類の胚試験も含むin vitroの弱点として良く言われていることですね。溶媒などについては、これらの毒性が特異的ではない、narcoticなものだからではないかと考察されています。

さらに、河川の化学物質モニタリングデータ(Waterbase Water Quality ICM database)と併せて、ToxCastのデータでリスクの高い物質を優先順位付けするのは妥当なのかどうかを検討しています。上に書いたようなことから、正直妥当とは言い切れないわけですが。優先順位付けは例えばCorsi et al. (2019) あたりで行われています。

 

Schaupp et al. (2023) と一緒に考えると、現状のin vitroデータから直接的に生態毒性の強さを知ることは上手くいかないと分かります。今後は、生態毒性向けのin vitroデータを蓄積していくことや、現状の哺乳類ベースのin vitroデータを生態毒性向けに適切に変換すること(IVIVE)が重要なのでしょう*1。生態毒性のin vitroでは例えばニジマスのエラ細胞試験が近年OECDのテストガイドライン化され、注目されていますね。

 

 

*1:このためにはこの論文のような検討を少し発展させて、MoAごとにもう少し詳細に見るとか、それぞれの毒性値の分布を詳細に見るとか、できることはあるかも。

論文のメモ: 化学物質曝露による遺伝子発現の時系列変化

化学物質の生物影響を調べる室内実験は、その多くが濃度応答反応を見ていて、時間と応答の関係を見ている研究は比較的少ないです。ここでは化学物質に曝露して、遺伝子発現応答の時間変化を追った研究について。

 

Schüttler A, Altenburger R, Ammar M, Bader-Blukott M, Jakobs G, Knapp J, Krüger J, Reiche K, Wu GM, Busch W, 2019, Map and model—moving from observation to prediction in toxicogenomics, Gigascience 8(6): giz057.

昔読んだ論文(→ここ)。ドイツのUFZなど。ゼブラフィッシュ胚を化学物質に異なる時間・濃度で曝露して、マイクロアレイで発現解析した論文。物質はジクロフェナック、ジウロン、ナプロキセンの3種。曝露時間は3、6、12、24、48、72時間の6点、濃度はLC0.5~LC25の間で6点。連数はよく分かりません。場合によってはn=3ぽいけど、n=1のところもある?ただ1サンプル当たり20個の胚を一緒にしている様子。

時間と濃度を同時に考慮して発現変動をモデリングしようという主張をしていて、既存の公表データを合わせて解析しています。中々重厚です。結果が自己組織化マップ(SOM)で表されていて一見どう解釈して良いか分からない気も…。濃度依存性はヒルの式で数式化して、さらにヒルの式のEC50は対数正規分布モデリングしています。

 

Ankley GT, Villeneuve DL, 2015, Temporal changes in biological responses and uncertainty in assessing risks of endocrine-disrupting chemicals: Insights from intensive time-course studies with fish, Toxicological Sci 144(2): 259-275.

USEPAがファットヘッドミノーを用いて内分泌かく乱作用のある8つの物質の毒性試験をした結果をまとめた論文。ビテロジェニンや血中エストラジオール(E2)、生殖腺におけるアロマターゼ(cyp19a1)やsteroidogenic acute regulatory(STAR)のmRNA発現量の経時変化などを追っています。さらに物質のないところに移してどう回復するのかも見ています。この記事の中でこの論文だけ、網羅的な発現解析ではなく定量PCRです。

詳しくは正直読んでいませんが、例えばケトコナゾールによるE2濃度の上昇は1~2時間で確認できたり、また曝露が済めば1~2日間で対照区レベルまで回復したり。

 

Serra A, Fratello M, Del Giudice G, Saarimäki LA, Paci M, Federico A, Greco D, 2020, TinderMIX: Time-dose integrated modelling of toxicogenomics data, Gigascience 9(5): giaa055.

これもちゃんと読んでません。メモ。マウスやヒトの細胞に化学物質(たぶん主にdrug)を曝露した際の遺伝子発現データベースであるOPEN TG-GATEを再解析した論文。時間と濃度の両方を考慮してモデリング使用という話。POD(Point of depature)を求めることが目的っぽい。

 

Gao C, Weisman D, Lan J, Gou N, Gu AZ, 2015, Toxicity mechanisms identification via gene set enrichment analysis of time-series toxicogenomics data: impact of time and concentration, Environmental Sci Technol 49(7): 4618-4626.

2015年の論文。GFP融合タンパクを組み込んだ大腸菌E. coliを用いて、106個のレポーター遺伝子の発現を5分おきに120分間調べた研究。3つの物質について、6濃度×3 replicatesで実験しています。

CPCA(Common Principal Component Analysis)とTELI(Transcriptional Effect Level Index)の2つの指標でそれぞれ遺伝子をランク付けしてエンリッチメント解析。エンリッチメント解析は、permutation testで実施。なおCPCAでは、合っているか自信ないですが、行に時間、列に遺伝子をとった発現レベルの行列でPCAをして、時間変動の大きい遺伝子を抽出している感じです。TELIは、Gou & Gu(2011, ES&T)で提唱された指標で、横軸に時間、縦軸に開始時からの発現変動レベルをとって、その積分値を計算したもののようです。CPCAとTELIベースのパスウェイエンリッチメント解析の結果は、一致していたりしていなかったり。

この論文、10年ほど前にしてはデータが豊富で、記述もクリアで面白いです。しかしDiscussionでも述べられているように、CPCAは時間による変動の大きい遺伝子を重要だと仮定していますが、この仮定が妥当かどうかは、遺伝子やパスウェイによって異なるでしょう。

 

 

この記事のタイトルに「遺伝子発現の時系列変化」と書きましたが、上のどの論文も、時間と濃度を変数として遺伝子をパターン化・グループ化するのがメインで、時間変化の意味・中身を考察しているのは少数です。例えば、時間変化のパターンからどの遺伝子(群)が上流・下流とか、曝露物質の最初期の分子応答がどの遺伝子でそれがadverse effectにつながるとかのAOP構築的な話をしたりしているわけではないです。Schüttlerら(2019)は若干それに近い議論もしていたり、Ankley & Villeneuve(2015)は少数の遺伝子ながらそのような議論をしていますがデータドリブンの解析ではありません。

もう少し遺伝子間の上流・下流関係に迫っている解析の例はないかなということで読んだのが下の論文です。適当に選んだのでもう少し類似の論文を読みたいところですが、とりあえずひとまとめ。化学物質曝露ではない。

Schlamp F, Delbare SY, Early AM, Wells MT, Basu S, Clark AG, 2021, Dense time-course gene expression profiling of the Drosophila melanogaster innate immune response, BMC Genomics 22(1): 1-22.

ショウジョウバエ大腸菌由来のリポ多糖に曝露して、5日後までの20時点のRNA-Seqをした論文。わずかn=2ですが、その代わり20時点なので全40サンプル。対照群もとらず曝露群だけですが、まぁそんなものなのかも。

時間変化をSpline回帰したり(RのmaSigPro package)、自己相関ベースでクラスタリングしたり(同じくRのTSClust)、周期性を探索したりして(JTK_Cycle; この辺よく分かってない)、時間依存性のある遺伝子群を見つけ出し、さらにそれらの遺伝子群についてはグレンジャー因果性に基づいて遺伝子ネットワークを推定しています。勉強になりそうなので、また後で読む。

 

 

 

2023年によく聞いた音楽

2023年のSpotifyまとめ。12月のまだ1日なのに今年のまとめが出されるのが、ちょっとイヤかも。まだ今年を終わらせないでくれー。

 

今年のTop5。Watson、LEX、LANA、Creepy Nuts、JUMADIBA。日本語ラップばかりのラインナップでした。

Watsonは確かにかなり聞いた印象。ラップが良いのもあるけど、歌詞も可愛げがありますよね。

LEXは2021年のSpotifyまとめにもランクインしてました(→これ)。2021年によく聞いていたBAD HOPやゆるふわギャング、Elle Teressaが今年はランクインしてないのを見ると、自分の中でのLEXのヒットが長い。ゆるふわとかもまだ聞いてますけどね。

LANAがLEXの妹だったことを、今年の10月くらいに知ってびっくり。

Creepy Nutsは、のびしろとかよく聞きました。

JUMADIBAは主体的に選んで聞いた印象があまりないですが、結構好きです。たぶんWatsonとかを聞いているときによく流れていたのだと思います。

 

 

あとはよく聞いた曲のTop 45。

上のメンツ以外だと、BonberoとかCandee、Awichとかが入ってきました。今年は本当に日本語ラップばかりでした。

Awichは今本当に勢いを感じます。全然音楽の話ではないけど、そろそろ研究の世界で中堅と言える年齢の自分としては、Awichの業界を盛り上げる姿勢は見習うべきだなと感じたり。業界の若い衆をフックアップしつつ、外の業界ともつながりを広げていく姿勢ですね。自分の才能を生かして良い曲を作るという意味では、もちろんLEXとか一昔前のKOHHとかの勢いは凄いor凄かったわけですが、Awichの奮闘も素晴らしいなとしみじみ思います。

 

 




 

論文のメモ: ToxCastデータと生態毒性in vivoデータの比較

Schaupp CM, Maloney EM, Mattingly KZ, Olker JH, Villeneuve DL, 2023, Comparison of in silico, in vitro, and in vivo toxicity benchmarks suggests a role for ToxCast data in ecological hazard assessment, Toxicological Sciences 195(2): 145-154.

以前読んだ論文(Schaupp et al., 2022)の続編。ToxCastのようなハイスループットのin vitroアッセイ(HTS; High-Throughput Screening assay)は哺乳類ベースなので、水生生物などの生態リスク評価に使用できるかどうか、よく分かりません。そのへんのHTSの生態リスクへの応用の話は若干古いかもですが、Villeneuve et al. (2019, ET&C) に詳しいです。

この論文は、in vitroなToxCastとin sillicoなQSAR(quantitative structure-activity relationship)、そしてin vivoな毒性値のそれぞれで水生生物に関するPOD(Point-of-departure)を計算して比較した研究です。QSARはUSEPAのECOSARとTESTから、in vivoの毒性値もUSEPAのデータベースECOTOXから集めています。

ToxCastに関しては、多様なアッセイの活性値の分布から求められるACC5(5th centile of activity concentration at cutoff)とcytotoxicity lower boundの2種類をPODとして検討しています。

 

結果、ACC5はECOTOXのin vivoデータと有意な相関を示さず、物質の作用機序(MoA)ごとに見た場合でも、アセチルコリンエステラーゼ阻害の場合のみ有意な相関が見られたとのこと。ただ、cytotoxicity lower boundとECOTOXは有意な相関を示しています。そしてECOTOXの毒性値は概ねnon-specificな毒性を反映しているのだと議論しています。ただFigure 4でも示されているように、相関があると言ってもばらつきは非常に大きくて、PODの比が10倍の範囲内に収まっていない物質の方が多いようです。ACC5-ECOTOXの比較でもcytotoxicity-ECOTOXでも。

細かいが気になった点。ECOTOXのデータとして、生死や繁殖、成長と行動異常や分子・細胞レベルの応答まで集めて、分類して解析しています。急性/慢性の区分や生物分類群(無脊椎/魚類/植物)の区分を設けています。EC50を物質と区分ごとに集めてその最小値をPODとしているとのことですが、「ある物質Xの魚類に対する毒性値」と言っても複数魚種のデータおよび複数文献のデータの中から最小値を選んでいるということですよね。最小値よりもHC5(Hazardous concentration for 5% of species)のようなデータのばらつきを考慮できる指標の方が良いとは思いました。ToxCastではACC5を計算していますからね。

 

 

 

論文のメモ: 皮脂や糞便のmRNAシーケンス解析

尿に含まれるRNAの話を以前書きました

水生生物の環境RNAという観点では、尿の他に皮膚と糞も重要なソースだろうと思い、今度は皮膚と糞のmRNAをシーケンスする話。これらはヒトの研究です。どちらもAmpliSeqという、PCRでターゲット遺伝子を増幅してからシーケンスする手法を使用しています。Ion AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression kit。

技術的なところに興味があり、読みました。

 

Inoue T, Kuwano T, Uehara Y, Yano M, Oya N, Takada N, Tanaka S, Ueda Y, Hachiya A, Takahashi Y, Ota N, Murase T, 2022, Non-invasive human skin transcriptome analysis using mRNA in skin surface lipids, Communications Biology 5(1): 215.

花王の論文。皮脂(Skin surface lipids; SSLs) を顔からワイプして回収。そこに含まれるRNAを抽出し、2万以上(合ってる?)のヒト遺伝子をAmpliSeqでシーケンス。

AmpliSeqを用いて非侵襲的に皮膚関連の診断を行えるかどうか、の手法確立論文だと思いますが、定量PCRとの比較やreplicate間の比較、アトピー性皮膚炎の人と健常者の人とのAmpliSeqプロファイル比較などを実施しています。面白かったのは、SSLs+AmpliSeqと起源と思われる部位(表皮epidermis、皮膚腺sebaceous glandsなどをレーザーで切り取り?)との比較を行っている点。結果、表皮と皮膚腺と毛包が主な起源ではないかとのこと。

あと地味にRNaseまで見ているのが面白いです。RNaseがあるけど、脂の存在や低めのpHのおかげか、あまりRNAが分解されていないのも面白い。ただAmpliSeqのライブラリ調製後にAMPure beadsで精製すると成功確率*が上がる、という技術的な知見が一番参考になったかも。マッピング率は平均84%(健常者)または92%(アトピー性皮膚炎)でした。これは下のSchlabergら(2018)に比べると高いですね。
なお成功確率についての表現は"Use of the optimized protocol (by standardizing conditions of reverse transcription and target amplification, and adding a purification step after target amplification) led to an improvement in library production efficiency, and the transcriptome sequencing resulted in a success rate of 95%."ですが、success rateって何?ローディングが上手くできたチップの割合とか?

詳細は読みこんでいませんが、大変面白かったです。

 

 

Schlaberg R, Barrett A, Edes K, Graves M, Paul L, Rychert J, ... Leung DT, 2018, Fecal host transcriptomics for non-invasive human mucosal immune profiling: proof of concept in Clostridium difficile infection, Pathogens Immunity 3(2): 164.

Clostridium difficile感染症CDI)。上のInoueら(2022)と同様にAmpliSeqを使用して、ヒトの糞便のmRNA解析を行っています。

ヒトのアクチンとバクテリアの16S rRNAの逆転写-定量PCRを実施して、その比率が>10^(-4) 以上のサンプル(すなわちヒトmRNAの相対量が多いサンプル)のみAmpliSeqに回しています。平均して58.5%のリードがヒト遺伝子にマッピングされ、マッピング率はactin/16Sの比率に比例していました。こちらの論文では"Amplified libraries were eluted in 30 uL of low TE buffer after purification"と書いてあるもののその精製の詳細は不明。

あとヒト遺伝子へのマッピング率はTaxonomerというツールを使っています。

 

論文のメモ: 単離したミトコンドリアの応答の種間差

この記事の続き。

生物種によってミトコンドリアのswelling assayの応答が異なるという論文がありましたが、同じように種によって単離したミトコンドリアの応答が異なる話。

 

Ricchelli F, Dabbeni-Sala F, Petronilli V, Bernardi P, Hopkins B, Bova S, 2005, Species-specific modulation of the mitochondrial permeability transition by norbormide, Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Bioenergetics 1708(2): 178-186.
Zulian A, Petronilli V, Bova S, Dabbeni-Sala F, Cargnelli G, Cavalli M, ...  Ricchelli F, 2007, Assessing the molecular basis for rat-selective induction of the mitochondrial permeability transition by norbormide, Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Bioenergetics 1767(7); 980-988.

ラットに特異的に効く殺鼠剤のnorbormide。Endo体とexo体のうち、endo体のみラットに致死毒性を生じるそうです。

先行研究のRicchelliら(2005)では、ラット・マウス・モルモット(guinea pig)の単離ミトコンドリアにnorbormideを与えて、酸素消費速度やswelling、Ca retention capacity(CRC)などを調べています。酸素消費速度に差はなかったけれど、ラットだけでnorbomideによるswellingの促進とCRC低下への影響が観測されています。Swellingはシクロスポリンの共曝露によって阻害されることから、norbormideは膜透過性遷移孔(PTP)に作用しているのではないかと考察されています。

続編のZulianら(2007)では、norbormideのラットへの致死毒性がendo異性体のみで生じることから、異性体によるミトコンドリア応答の違いを調べています。こちらの論文はほとんど読んでいないのでabstractの情報ですが、どうやらPTPへの影響は異性体によって変わらなかったそうです。

 

Panov A, Dikalov S, Shalbuyeva N, Hemendinger R, Greenamyre JT, Rosenfeld J, 2007, Species-and tissue-specific relationships between mitochondrial permeability transition and generation of ROS in brain and liver mitochondria of rats and mice, American J Physiology-Cell Physiol 292(2): C708-C718.

マウスとラットの脳および肝臓のミトコンドリアを単離して、Caを投与した際のCa retention capacityとSwelling assay、膜電位の測定を実施。あまりちゃんと読んでませんが、CRCとswellingの結果がマウスとラット、さらに脳と肝臓で異なるというものらしいです。

 

 

論文のメモ: 環境DNAのメチル化

Zhao B, van Bodegom PM, & Trimbos KB, 2023, Environmental DNA methylation of Lymnaea stagnalis varies with age and is hypermethylated compared to tissue DNA. Molecular Ecology Resources, 23(1): 81-91.

環境DNAでメチル化を見た初の論文。異なる月齢4段階(1~200日)のモノアラガイ(Lymnaea stagnalis)を用いて、飼育水槽の環境DNAのメチル化をbisulfite処理+HISeqシーケンスで網羅的に調べています。比較のために組織DNAのメチル化も見ています。非常にシンプルなデザインですが、環境DNAのメチル化を調べた論文は初めてとのことで、面白かったです。環境DNA界隈は個々の遺伝子のみを定量PCRで読んでいる研究は多いですが、これは網羅的に読んでいる点が個人的には良かったです。

環境DNAのメチル化は日齢によって異なるパターンを示しており、環境DNAから齢構成を推測できる可能性が示唆されています。しかし、面白いのは環境DNAと組織DNAはかなり異なるメチル化パターンを示していて、環境DNAはhypermethylatedのようです。おそらく不要になってメチル化された細胞が環境DNAの起源だからと議論されています。

本文ではほぼ議論されてませんが、mapping efficiencyが環境DNAでは5%以下、組織DNAでは18%以下(SupportingのData S1)。環境DNAではバクテリアのDNAが多くてマッピング率が低いのかと思いましたが、なぜ組織DNAでもこれほど低いのでしょうか…?