備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

塩酸からのDOCコンタミ

TOC計で水試料のDOC(溶存有機炭素)濃度をよく測定しています。

TOCはTotal Organic Carbonなので、TC(全有機炭素)からIC(無機炭素=炭酸塩炭素)を差し引いて求めます。その測定法には一般にTC-IC法とNPOC法(Non-Purgeable Organic Carbon)がありますが、いずれの方法でも水試料に酸を添加してICを揮発させる工程が含まれます。この酸として塩酸を用いることが多いです。

私の用いているTOC計では1 mol/Lの塩酸を使用するのですが、12 mol/Lなどの濃く、かつ純度の高い塩酸をたびたび希釈するのは面倒なので、1 mol/Lの塩酸を富士フィルム和光から購入しました。

この塩酸を、2年近く希釈せずにそのまま装置に使用してきましたが、今月になってブランク試料からも明確にピークが検出され始めました。色々検証した結果、純度の高い塩酸を装置に入れた場合はピークが消え、1 mol/Lの塩酸にTOCが含まれていることが判明しました。

 

1 mol/Lの塩酸は2年近くは問題なく使えていましたが、急にコンタミ源になってしまいました。プラっぽい容器(素材は不明)に入っていたため、何かが溶出してきたのでしょうか。TOC分析用のグレードではないのを使用していたのが良くなかったのですが、µg/Lオーダーの微量分析ならともかくmg/Lオーダーで検出されるのかぁと少し驚きました。

塩酸容器の素材が何か分かりませんが、プラスチック汚染、プラスチックの添加剤として使用される化学物質による汚染が問題となっている今、面白い問題でした。

論文のメモ: 分解サンプルのRNA-Seq解析パイプラインDegNorm

Xiong B, Yang Y, Fineis FR, & Wang JP, 2019, DegNorm: normalization of generalized transcript degradation improves accuracy in RNA-seq analysis, Genome Biol 20(1): 1-18.

RNAの分解度の指標であるRIN(RNA Integrity Number)。RINはrRNAをベースにしているためサンプル全体の指標であり、遺伝子(転写産物)単位の指標ではありません。そこで、遺伝子(転写産物)単位の分解度の指標としてTIN(Transcript Integrity Number)が提案されていました(参考記事)。しかしTINは異なる遺伝子に対しても均一な分解を仮定していますが、これは現実的ではないとしてこのDegNormが新たに提案されたようです。確かにFigure 1を見ると、RNA分解による影響は領域によってかなり異なっています。ただしFigure 1eはAlternative splicingみたい。

手法の詳細は正直理解できていませんが、異なるサンプル調整法(ホルマリン固定パラフィン包埋FFPEかfresh frozen)やライブラリ調整法(mRNAセレクトかrRNA除去)で検討している点は評価できます。なんとなく良さげなパッケージな気がします。

Rでパッケージが公開されています(Githubページ)。

SETAC North America 34-th Annual Meeting をチラ見した

11月13~17日にピッツバーグで開催されました。私は全く参加していませんが、要旨集がネットで見られるので主に6PPD-キノン(6PPD-Q)に関する発表でどんなのがあったのかをざっと確認してみました。

 

6PPD-Qに関する発表は全18件あり、そのうち8件が生態毒性、7件がモニタリングや分析法、1件が加水分解性や大気中の分解性(2.07.P-We008 by Smithers ERS)、1件が代替物に関する議論(4.13.V-03 by Washington State Department ofEcology)、1件が6PPDのオゾン反応に関する化学計算シミュレーション?(8.13.V-03)に関するものでした。8.13.V-03はChemRxivに同じ著者による原稿がアップされています。

生態毒性に関する発表で面白そうだったのは以下。

  • Huntsman Marine Science Centerによるタイセイヨウサケへの24-h LC50が19.7 µg/Lと報告したもの(2.07.P-We012)。もっともこれは環境中での濃度よりかなり高く、さらに6PPD-Qに高感受性の種に現れる影響であるヘマトクリットや血糖値の増加などは見られなかったそうです。生活史ごとの感受性の違いも見たそうです。
  • なんといってもUniv of Saskatchewanの2つの発表。1つは、6PPD-Qに曝露したニジマス(高感受性種)とホッキョクイワナ(耐性種)の酸素消費速度に影響はなかったものの、両種でpassive ventricular fillingが増加し、ニジマスでのみend systolic volumeとatrial and ventricular contractile rateの減少が見られたという報告(2.15.P-Th166)。sympathetic stimulationの証拠と書いています。観察された症状はメトヘモグロビンの増加によって引き起こされている可能性があるとも述べています。
  • EAWAGらの発表。ニジマスのエラ細胞株を使ったOECD TG249をタイヤ粉末と関連化学物質に適用(4.13.V-02)。タイヤ粉末のEC50は2.02 g/Lで、6PPD-quinoneは3 mg/Lまで毒性影響が見られなかった、とのこと?いまいちアブストラクトでは詳細がわかりませんでした。この前段の研究はこちら
  • Univ of Saskatchewanのもう1つの発表(4.18.P-Mo145)。Liver perfusion assayでニジマスによる6PPD-Qの代謝能を調査。トランスポート阻害剤であるシクロスポリンAも投与したが、代謝能に変化はなかったそうです。またin vivoで、胆のう中に水酸化物とグルクロン酸抱合体を確認したとのこと。
  • USEPAがファットヘッドミノーのRNA-Seqをしたとのこと(2.15.P-Th167)。どの組織かは不明。DEGからMoAは特に分からなかったそうです。というかそもそもファットヘッドミノーには致死影響が出ていない…。

 

代替物の議論の発表者をググったら、US Tire Manufacturers Association(USTMA)のこんな文書を発見。6PPDの代替物は、酸素やオゾンからタイヤを保護出来て、かつタイヤゴム中にうまく分散(adequate solubility and diffusivity)して、タイヤ製造に悪影響を及ぼさないことなどの基準を満たさないといけないと述べています。6PPDと同じPPD類のCPPDやIPPDも候補に挙げられていますが、CPPDは1~2年間しかタイヤを保護できないため、IPPDは皮膚感作性があるために適当ではないとのことです。

 

 

6PPD-Q以外では、Hyalella aztecaの6~7週齢の個体を用いて42日間の繁殖試験を行った発表(1.08V-01 by Univ of Guelph & Env Climate Change Canada)を聞いてみたかったです。他の話題はそれほど検索できてません。

 

論文のメモ: ベイジアンネットワークによる魚類急性毒性の予測

Belanger SE, Lillicrap AD, Moe SJ, Wolf R, Connors K, Embry MR, 2022, Weight of evidence tools in the prediction of acute fish toxicity. Integr Environ Assess Manag, in press.

P&GのScott Belangerらによるレビュー。動物愛護・動物福祉の観点から魚類急性試験(AFT)を削減あるいは代替しようという流れについて。いつもの胚試験(Fish Embryo Test; FET)とAFTとの比較の話かと思って(→Belanger et al., 2013のこと)長い間スルーしてましたがベイジアンネットワーク(BNによる急性毒性の推定の話があったので再読。

関連する情報をインプットして、BNで各証拠の重み(WoE)を明示しつつ(?)、AFTの毒性値を推定する話。インプットは、化学物質の物性(log Kowや分子量)、FET、甲殻類、藻類への毒性値など。物性の情報として構造活性相関(QSAR)の予測値を利用することも可能。また、FETだけでなく近年OECDのテストガイドライン化もされたエラ細胞試験を利用してもOK。他にも魚類による代謝OECD 319)や作用機序(MoA)なども。

ベイジアンネットワークBNによるアウトプットは、ある範囲に毒性値が入る確率がどれくらいか、というもの。例えば「0.01~0.5 mg/L:60%、0.5~5 mg/L:30%、5~100 mg/L:10%」みたいな感じ。

ベイジアンはリスク評価と相性が良さそうだと改めて。従来的な毒性試験の信頼性評価を定量的に実施できる点が良いですね。例えば、追試データがあれば事後分布が変わるとか。

 

Moe SJ, Madsen AL, Connors KA, Rawlings JM, Belanger SE, Landis WG, ... & Lillicrap AD, 2020, Development of a hybrid Bayesian network model for predicting acute fish toxicity using multiple lines of evidence, Environ Modelling Software, 126: 104655.

もう少しモデルの詳細に踏み込んだ原著。BNモデルの当時のデモページがこちら。アップデートされたバージョンはこちら

まだ詳細をよく理解できていませんが、BNもかなり経験則と学習データ依存な感じ。例えばBNの肝である条件付き確率表(Conditional probability tables)は、専門家判断(expert knowledge)や学習データの頻度で決まっています。化学物質のカテゴリーが一つのline of evidence(=親ノード)なのですが、どのカテゴリーの時に毒性が強い、中くらい、弱いという条件付き確率が学習データの頻度で決まっているわけです。

透明化されているようで、ネットワークが巨大化すれば結局は不透明な専門家判断と同じ感じになるような気もします。

 

 

 

SWiFTなるプロジェクトのページに発表資料など色々公開されています。

Strengthening Weight of Evidence for FET data to replace acute Fish Toxicity (SWiFT) |HUGIN SWiFT

 

 

(追記 2022.11.24)

Jaworska J, Gabbert S, Aldenberg T, 2010, Towards optimization of chemical testing under REACH: a Bayesian network approach to Integrated Testing Strategies, Regulatory Toxicol Pharmacol 57(2-3): 157-167.

生態毒性ではないが、化学物質のリスク評価文脈でのベイジアンネットワークの古めの論文。適用法は↑と似ています。

 

論文のメモ: 種の感受性分布を考慮したPAHsの底質基準

Zhang Y, Yin J, Qv Z., Chen H, Li H, Zhang Y, Zhu L, 2022, Deriving freshwater sediment quality guidelines of polycyclic aromatic hydrocarbons using method of species sensitivity distribution and application for risk assessment, Water Res 225: 119139.

今さらPAHs+底質試験+SSDでWater Researchに載るのかという意味でのメモ。4PAHsについて慢性底質試験データからSSD(種の感受性分布)を求めて(一部急性データや水のみ試験を使用してACRや平衡分配理論で換算)、他のPAHsについてはlog Kowとの相関で基準値を推定するなどしています。野外底質を採取して慢性底質試験を実施している点が、強いて言えば評価された点なのかも。

 

論文のメモ: ToxCastデータとタンパク質配列を水生生物保全の基準値導出に活用する

Schaupp CM, LaLone CA, Blackwell BR, Ankley GT, Villeneuve DL, 2022, Leveraging ToxCast data and protein sequence conservation to complement aquatic life criteria derivation, Integr Environ Assess Manag, accepted.

USEPAからの論文。SeqAPASSのLaLoneら。

ToxCastのハイスループットなin vitroデータを使って、水生生物保全の水質基準に資するような考察ができるか検討した論文です。やってることは主に(i)水生生物への基準値とToxCastの毒性値の比較と(ii)ToxCastから水生生物に対する毒性の作用機序(Mode of Action; MoA)を推定できるかどうか、の2つです。後半のMoAに関して、SeqAPASSを使ったりしています。

MoAの検討ではcelecoxib、TCDDというMoAがハッキリしていそうな物質の他に、ペンタクロロフェノール、PFOA、PFOSも取り上げています。ペンタクロロフェノールは、いろいろな異なるパスウェイに同じような濃度で反応しているからbaseline toxicityだと示される、と述べています。この議論参考になります。またペンタクロロフェノールのようなbaseline toxicityの物質についてToxCastから水生生物への基準を策定するのはおかしな話で、narcosisのQSARを使えば良いとあります(意訳)。

事例研究という感じで記述的に長々と書いている論文ですが、非常に勉強になりました。

 

環境化学物質3学会合同大会に参加しました

6/14から6/16まで富山国際会議場で開催された環境化学物質3学会合同大会に参加しました。環境化学会、環境ホルモン学会、環境毒性学会の3つの学会が合同で行う発表会です。ちなみに私はこのうちの2学会の会員です。

開催後に事務局から来た報告メールによると、696件の参加登録があり、そのうち環境化学会から539名、環境ホルモン学会から69名、環境毒性学会から77名、招待講演11名ということで、圧倒的に環境化学会が優勢でした。実際、参加している感じはほぼ環境化学会だった気がします。私は1回しか参加したことないですが…。

もし環境化学会に参加したことのない方たちが今回の合同大会を良いと感じていて、さらに学会の運営にスケールメリットがあるなら、環境化学会が他学会を統合しても良いのでは(参考:学会って必要か?)。知らんけど。

 

 

コロナ禍以降初の対面学会でした。

月並みですが、やはり人と会えるメリットは代えがたいですね。発表を聞いて情報収集したり、質疑応答をするだけなら、洗練されたオンライン学会や下手すりゃSNSでも十分だと感じる場合がありますが、特にこれまで面識のなかった人に会えたのは対面学会の恩恵だなと思えました。

 

 

個人的な細かい感想。

  • マイクロプラの毒性、影響を見てる人はやはり環境分析に比べると少ない。粒子毒性とかベクター効果とか問わず。これは他の物質、汚染についても言えるかもですが。
  • TTR先生から、国研の肩書は一般の方からは行政・権力として映ることもあるから成果を発表する際には(想定以上の抵抗を受けるから)気を付けた方が良いとアドバイスをいただきました。今回地味に一番心に残っている話。
  • 自由集会はもう少しインタラクティブにしたかった気もするが、あれで良かった気もする。ターゲットにする人を厳密に定めていない集会だったので(それが悪いという訳ではないです)、あれ以上は難しいかも。
  • 医薬品の企画、面白かったです。現状では影響の多くが検知できてなさそうで、発展の余地がまだまだあると思わされました。
  • 年配の方による暴走気味の質疑が多かったです。あれが生じないようにしようとすれば自由な質疑が失われるか、半クローズドな学会になってしまうので、個々人でディフェンスするしかないかも。熟練の方はうまくかわしてました。

 

論文のメモ: 水質基準導出の毒性データにおける水生生物種の多様性

Coleman AL, Edmands S, 2022,  Data and Diversity in the Development of Acute Water Quality Criteria in the United States, Environ Toxicol Chem 41(5): 1333-1343.

自然界の生物種の多様性に比べると、ごくわずかな生物種の毒性データに基づいて設定されている、化学物質に関する水質基準。そのデータセットの多様性が米国で初めに生物に対する基準が設定された1985年から変わっているのか、基準に使用されたデータの生物多様性と基準値は関連しているのか、などを調べた論文。後者は、現在入手できるデータをランダムに再選別して評価している様子。

結果、多様性は過去からあまり変わっておらず(毒性データの種数は増えても魚類と節足動物が増えてるだけ?クラゲcnidariaなど一部の新規分類もありそうですが)、基準値と多様性の関係は明瞭ではなかったそうです。

 

問題意識としては、SSD(Species Sensitivity Distribution)に用いられる生物種は偏っていることを問題視したこの論文(Moore et al., 2020, IEAM)も近いです。自分も似た問題意識を持ってますが、このET&C論文のような過去との比較というアプローチはとらないだろうな、と思ったので面白かったです。自分なら、化学物質のメカニズムから出発して、生物分類群が変われば基準値が変わると想定される事例をベースに解析しますね。

 

SETAC Europe 32nd Annual Meeting@Copenhagenにオンラインで参加しました

オンラインと現地のハイブリッド開催。

自分はオンラインのみで参加。ハイブリッドと言いつつ、ほぼ現地開催メインのようでした。Q&Aにほぼ書き込みを見なかったくらい、オンラインは全然盛り上がっていませんでした…。前回参加した完全オンラインのNorth Americaではもう少し書き込みがあった気がします。

Twitterで様子を見ると、1つの大きな会場に1人くらいマスクを着けている人が居たり居なかったり。飲み会もコロナ禍前のように行われてるようでした。

 

オンラインでは発表を聞く気がそもそも起きないのですが、いくつかの発表について感想とメモ。時差があるため基調講演などは聞いていないし、好きなものを拾っているだけなので、会場全体の流行り感・盛り上がり感とか人気のあったセッションなどは全然掴めていないと思います。

  • マイクロプラスチック関係は、環境中から検出されましたみたいな話からeffect寄りの話が少し増えてきた印象。これは個人的に好ましいです。「こういう条件ではマイクロプラスチックをよく摂取しがち」みたいなマニアックな研究も多くなってきている気がします。
  • マイクロプラのおかげで、タイヤ関連の発表が多かったです。
  • PFASは聞いてません。流行しているけど個人的にあまり興味のないテーマは、やはり現地に居さえすれば何となくの感触はつかめるのに…。つくづくオンライン参加が惜しいです。
  • Persistent, Mobile, and Toxic (PMT) substancesの発表が多かった。Hans Peter Arpさんなど。水処理でも除けず飲料水から検出される、というところから話が始まっているらしく、生態毒性的にToxicなのかどうかはよく分からないと思って眺めてます。メラミンとか、1,4-ジオキサン、ベンゾチアゾール、1,3-ジフェニルグアニジンなど。

 

  • DEB(Dynamic Energy Budget)モデル関係の発表を聞く。例えば4.05.P-We181など。農薬の非定常曝露による影響を予測するためにTKTDモデルを活用する文脈。EFSAのOpinion("Scientific Opinion on the state of the art of Toxicokinetic/Toxicodynamic (TKTD) effect models for regulatory risk assessment of pesticides for aquatic organisms")などが引用されています。TKTDモデルは個人的にはメカニズムを探求する目的で興味があり、この応用にはそれほど惹かれませんが、sub-lethalな影響を予測するモデル研究がいっぱい報告されているのは嬉しい。
  • 上と関連してGUTS(General Unified Threshold models of Survival)の発表。開発者以外のチームからも発表が多く、実用段階に入りかけている(?)ことがうかがえました。パルス的な曝露に使ってみたよ、というケーススタディが多かった印象です。

 

  • Fraunhofer IMEの人などによる固体ポリマーの毒性評価(4.06.P-We201, 4.06.V-04)。藻類とミジンコには急性毒性が出なかったとのこと。一方、P&GとAarhus大学などからはポリクオタニウム(Polyquaternium)のゼブラフィッシュ胚とミジンコ、藻類に対する毒性について(4.06.V-05, 4.06.V-03)。いずれの発表でも電荷密度が高いほど毒性は強くなる結果で、分子量との相関はないとのことでした。電荷密度との関係はBoethling and Nabholz (1997, EPA)ですでに言われているそうです。
  • さらにP&Gらの発表でカチオンポリマーのQSAR(4.06.T-02)。

 

  • 1.03.P-We324。種の感受性分布(SSD)を求める際に、例えば殺虫剤や除草剤のように特異的に効く生物分類群がある場合は、分類群ごとにSSDを求める、という話。HC50の95%信頼区間が重なるかどうかで、SSDを分割するか判断しているっぽい。RIVMのPosthumaも共著。
  • 3.05.P-Tu108。アーヘン工科大学が、表面積を大きくするため(?)に3Dプリンターポリ乳酸(PLA)の剣山みたいなのを作ってpassive dosing/samplingしてました。
  • 底質はそれほど目を引く発表はなかったかも。passive samplingで底泥の再懸濁による影響を調べたものなどは良かったです。

 

 

8月までウェブサイトは見られるらしいので、後で追記するかもしれません。

 

 

論文のメモ:ニジマス鰓細胞のタイトジャンクションとイオン性有機物質

Fuchylo U, Alharbi HA, Alcaraz AJ, Jones PD, Giesy JP, Hecker M, Brinkmann M (2022). Inflammation of gill epithelia in fish causes increased permeation of petrogenic polar organic chemicals via disruption of tight junctions, Environmental Sci Technol 56(3): 1820-1829.

上皮細胞のタイトジャンクションのバリア機能が低下すると、有害物質が魚の体内に入りやすくなるのではないかという仮説を検証した論文。感染症と化学物質の複合曝露という文脈。ニジマスの鰓細胞とニジマス個体を、リポ多糖(LPS)に曝露して炎症反応を起こさせ、バリア機能を低下させてからOil sands process-affected water(OSPW)の細胞/体内移行を調べています。

論旨は明確で、仮説通りの結果。qPCRとRNA-Seqをしたり、in vivoとin vitroの両方を試験したり、経上皮電気抵抗(TER)を調べていたり仕事は丁寧。中性物質ではなくイオン性有機物質(IOC)を対象にしていることと、OECDテストガイドラインにも採択されたばかりのニジマス鰓細胞を用いている点がトレンドを抑えていて、ES&Tという感じ。強いて言えばエラへの移行の話が半定量的なので、その点はもっと定量的に知りたかったです。

この論文読むにあたりClaudinとかTERとか色々調べて、勉強になりました。面白かったです。

Claudinファミリーには、ヒトなどでは20種以上の遺伝子があり、それぞれイオンや溶質の透過性を規定しているらしいです。イオンチャネル様構造を作るタイプもあれば、強いバリアを作るタイプもあるとか(岩本&古瀬, 2013, Drug delivery System)。

上のFuchyloら(2022)で引用されていたTrubittら(2015, Comparative Biochem Physiol)では"Based on in silico analysis, Cldn-10e is expected to form cation-selective paracellular pores (Tipsmark, unpublished),"とありました。

 

Brinkmann M, Alharbi H, Fuchylo U, Wiseman S, Morandi G, Peng H, Giesy JP, Jones PD, Hecker M (2020). Mechanisms of pH-dependent uptake of ionizable organic chemicals by fish from oil sands process-affected water (OSPW). Environ. Sci. Technol. 54(15): 9547-9555.

上の論文と同じグループで、同じくニジマスエラ細胞のイオン性物質の透過について。

エラ細胞にOSPWを曝露し、複数pH下での、ナフテン酸混合物や、OSPW中の有機酸の細胞への取り込みを評価した論文。有機酸は低pHだとneutralになるため取り込まれやすいのかと思いきや、結果は逆で高pH(8.5)の方が多くの種類の有機酸が細胞へ移行しています。もっともDicyclohexylacetic acidなどの一部標準品は高pHほど取り込まれにくくなっています。
この理由として有機酸は両親媒性(amphiphilic)で、pH 8.5付近ではリン脂質にくっつくからではないか、とか能動的な取り込みがあるのでは、と考察されています。
能動的な取り込みについては、ATP-binding cassetteトランスポーターなどを阻害するCyclosporin A共存下でOSPWに曝露して、有機酸の取り込みが減少することも確認されてます。
さらにin vivo、つまりニジマス個体を使った実験も行っています。in vivoの結果、エラへの取り込みはin vitroの結果と合致していますが(高pHほど取り込み増加)、体全体への取り込みはpH 7.4で最大だったそうです。

 

 

Erickson RJ, McKim JM, Lien GJ, Hoffman AD, Batterman SL, 2006, Uptake and elimination of ionizable organic chemicals at fish gills: I. Model formulation, parameterization, and behavior, Environ Toxicol Chem 25(6): 1512-1521.

ちょっと古めですが、イオン性有機物質(IOC)の魚への移行について。

pHが変化してもあまりIOCの毒性や移行は変わらないことがイントロで述べられていて、IOC(というか有機酸)のbioavailabilityは(i)CO2アンモニアなどの排泄物がミクロな環境のpHを変えうること、(ii)エラ上皮はいくつもの層があって体内への移行は複雑であること(ここの理解怪しい)、(iii)荷電した状態でも膜を通過すること、が影響するとのことです。この論文はこれらの影響を数理モデル化した研究っぽいです。ちゃんと読んでませんが面白そう。