備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 分配係数 Kocの値に何を使用するか

このへんの話 の続き。忘れそうなのでメモ。

 

Norman JE, Kuivila KM, and Nowell LH, 2012, Prioritizing pesticide compounds for analytical methods development: U.S. Geological Survey Scientific Investigations Report 2012–5045, 206 p. 

USGSでは、平衡分配法による底質のリスク評価で用いる分配係数Kocの値は、(1) 文献値、(2) PPDB(Pesticide Properties DataBase*1、(3) EPI Suiteの実験値または推定値、の順で優先して使用するそうです(上記Norman et al., 2012の19ページ)。

しかし文献値って何?推定値ではなく実験値のことだとは思いますが、特に底質の種類などについて指定はないのでしょうか。。文献によっては、同じ物質でもKocの値は余裕で1桁、場合によっては2桁以上ずれるはず。

 

なお日本の農薬(のPEC算出)については、「農薬の登録申請に係る試験成績について」に以下のような記述があります。ちなみにタイプ2,3,4,5は、おそらく"clay loam"、"silt loam"、"loam"、"loamy sand"のことで、pH・有機炭素量・clay含有量がそれぞれ異なる土壌(OECD TG106)。

(10)土壌吸着性に関する試験(2-9-10)

① 試験方法

OECDテストガイドライン106(2000年1月21日採択)に準じて測定する。ただし、供試土壌は、原則として当該テストガイドラインに示されている7つの土壌タイプのうち、タイプ2、3、4及び5ごとにそれぞれ1種類以上とし、少なくとも1種類は火山灰土壌を含める。なお、平衡化温度は25℃で測定する。

そして、こういう指摘もありました。Kocのばらつきを考慮するために、算術平均ではなく中央値を使え、とのこと。

*1:PPDBのKoc値はPSD Pesticide Data Requirement Handbook (2005)がソースらしい。

責任者出せメソッドは論文投稿でも有効

某ゲノムアナウンスメントを投稿した時の話。

 

ある学術誌にゲノムアナウンスメント(ゲノム情報の簡単な説明を書いた短報)が受理されて、APC(Article Publicationn Charge)を支払い、著者校閲を済ませ、出版同意書(Author Publishing Agreement)も提出し終えました。しかし、通常なら1週間もせずにオンラインで公開されるはずが、2週間経っても1ヶ月経っても公開されません。

1ヶ月経った時、しびれを切らしてウェブ上のお問い合わせフォームから事務局に問い合わせのメールを送りました。しかしノーレスポンス。めげずに1ヶ月ごとに(若干方法を変えつつ)問い合わせを送るも、毎度ノーレス。

3ヶ月経った時、Editor in Chiefにメール。すると、これまで問い合わせていた事務局のメールアドレスから即レスが! 曰く、出版同意書の処理が完了してないよ、とのこと。「いや、提出したし、証拠のPDFもあるよ〜」と思いつつも、手続きのための新たなURLを送ってくれたので大人しく従って、ゲノムアナウンスメントはすぐ公開されることになりました。システム的なトラブルだったのでしょうか。。。

 

トラブった時は、やはり偉い人に直接話をした方が早く解決しますね。勉強になりました。

論文のメモ: 生物種によって感受性が異なるのはなぜか?

Narcoticな毒性(あるいはbaseline toxicity)は、物質が生物膜に移行して、膜の完全性(integrity)を破壊するために生じると言われています。

そして毒性の大きさは、一般に生物種を問わず、脂質中の物質濃度で決まるとされています。

 

一方、生物体内の受容体と結合するなど、生物から何らかの反応を受けるような物質の毒性は、一般に予測するのが難しいとされています。

生物種(または物質)によって毒性は非常にばらつきます。

これは、このような反応性の物質は、生物のADME(吸収・分布・代謝・排泄)の影響を受けたり、作用機序(MoA; mode of action)が生物によって異なるためだと言われています。

 

このあたりの話について、以下、古めの論文を含むまとめ。

 

  

Vaal M, van der Wal JT, Hoekstra J, Hermens J, 1997, Variation in the sensitivity of aquatic species in relation to the classification of environmental pollutants, Chemosphere 35(6): 1311-1327.

35物質、237生物種の毒性試験データを解析したSSD論文。データ選択の基準として、"at least ten species belonging to at least four taxonomic groups (Classes), including one fish species, one Daphnid and one insect. Toxicity"とある。藻類や植物のデータがあるのかどうかは不明。言及がないので含まれてない?

Verharrの4分類(inert =narcosis, less inert = polar narcosis, reactive, specifically acting)に従って35物質を分類して、specifically actingについてはさらにカーバメート、有機リン、塩素系殺虫剤に分類。
主要な結論は、Class1や2の物質、つまりnarcoticな毒性は生物種による感受性(Toxic Ratio = 実測値とKowによる予測値との差分)のばらつきが小さいけれど、Class 3や4、すなわちreactiveやspeciically actingな物質は感受性のばらつきが大きいよ、というもの。

また、ばらつきの大きいものほど分布が対称ではなく偏っていた。例えば有機リン系殺虫剤に対して甲殻類の感受性が極めて高いために対称ではなくなったそうです。こう書いてしまうとすごい当たりまえですが。。

ちなみに同じ年に同じグループから似たような論文が出てます。

 

Escher BI, Hermens JL, 2002, Modes of action in ecotoxicology: their role in body burdens, species sensitivity, QSARs, and mixture effects, Environ Sci Technol, 36(20): 4201-4217.

Escherさんの盛りだくさんな総説。D論の一部っぽい。上のVaal et al. 2002も図付きで引用されてます。

Baseline toxicityとそれ以外でMoAを分けて、メカニズムや毒性の時間経過などの違いをまとめています。

 

 

 

このような、生物種によるspecifically actingやreactiveな物質に対する感受性の差を、定量的に議論した例が以下。QSARは物質による差がメインだと思うので、ここでは考えませんでした。

生物の何が差を生み出しているのか。

TK-TD(toxicokinetics-toxicodynamics)的な観点から整理してみて、TKに重きを置いているのがVanden Brinkらによるbiological trait(生物学的形質?)なアプローチで、TD(≒MoA?)に重きを置いているのがUSEPAのLaLoneらによるSeqapassでしょうか。ただ眺めていると、TraitはTDも含んでいる場合もあるようす。まだまだよく分かりません。

  

LaLone CA, Villeneuve DL, Burgoon LD, Russom CL, Helgen HW, Berninger JP, ... & Ankley GT, 2013, Molecular target sequence similarity as a basis for species extrapolation to assess the ecological risk of chemicals with known modes of action, Aquatic Toxicol 144: 141-154.

USEPAのSeqapass。毒性のターゲット部位(受容体とか)における構造の違いが、種間の感受性差を生み出しているという考え。AOPにおけるMIE部分。よく例として出てくるのがアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤による毒性とAChEのアミノ酸配列との相関関係。

前々から気にはしているけど、詳しくはまだあまり追えていません。

 

Van den Berg SJ, Baveco H, Butler E, De Laender F, Focks A, Franco A, ... & Van den Brink PJ, 2019, Modeling the sensitivity of aquatic macroinvertebrates to chemicals using traits, Environ Sci Technol 53(10): 6025-6034.

こちらはBiological trait(生物学的形質)によって感受性を予測・説明できる、という考え。traitって何、という感じですが、この論文では寿命、サイズ、摂餌形態、至適温度、至適pHなどに着目しています。このグループの初期の関連研究はたぶんBaird & Van den Brink (2007)

系統関係(遺伝的距離とか)と感受性の関係に着目するのに近いですが、それよりももっと直接的なアプローチなのかも。 この論文に関しては、読み込んでませんが、何となく分かったような分からんような…。

 

Buchwalter DB, Cain DJ, Martin CA, Xie L, Luoma SN, Garland T, 2008, Aquatic insect ecophysiological traits reveal phylogenetically based differences in dissolved cadmium susceptibility, Proc Nat Acad Sci 105 (24): 8321-8326.

この論文は上記2つの中間的なアプローチ? traitと系統関係に着目して、水生昆虫のCdに対する感受性を説明しようとした論文です。扱っているtraitは、金属の取り込み速度、排泄速度、解毒キャパシティなど。

詳しくはまだ読めてないので、後で読む。

金属の細胞内分画を扱っていて、USGSのSamuel Luomaも共著の一人。

 

Baas J, Kooijman SA, 2015, Sensitivity of animals to chemical compounds links to metabolic rate, Ecotoxicol 24(3): 657-663. 

Kooijman先生らの論文。生物の代謝(specific somatic maintenance)で感受性の違いを説明できるとするアプローチ。有機リン系殺虫剤とカーバメート系殺虫剤について、基礎代謝率(と呼んで良い?)が高いほど感受性が高いという相関を議論しています。なお基礎代謝率は成長と繁殖などのデータから推定されたもので、感受性は時間∞のEC0であるNEC(No effect concentrations)を指標として使用。

代謝とサイズの関係についての議論などほぼ理解できず、全体的に分かってない気がしますが、この論文はTK-TDのうちTKにフォーカスしてるということ? 上のLaloneら (2013) の感触とは大分異なるように思えますが。うーむ。

 

 

論文のメモ: 土壌・底質汚染についてのET&C Points of Reference

最近ET&C(Environmental Toxicology & Chemistry)にPoints of Referenceなる短いコーナーが出来ました。1,000 words以内の査読なしの意見論文だそうです。そのPoRに、今年になって土壌、底質の話が何度か登場していたので、メモっておきます。

 

Neaman A, Selles I, Martínez CE, Dovletyarova EA, 2020, Analyzing Soil Metal Toxicity: Spiked or Field‐Contaminated Soils?, Environ Toxicol Chem 39(3): 513-514.

 野外汚染土壌と清浄な土壌にスパイクした場合とでは、金属の毒性が異なるという話ですが、土壌ではSediment BLM(Biotic Ligand Model)的なスペシエーションを体系的に考慮するアプローチはとられていないのでしょうか?スパイクする塩の種類が大事とは述べられていますが…。引用されている文献たちは未フォロー。

 

 

Renaud M., Sousa JP, Siciliano SD, 2020, A Dynamic Shift in Soil Metal Risk Assessment, It is Time to Shift from Toxicokinetics to Toxicodynamics, Environ Toxicol Chem 39(7): 1307-1308.

と思ったら、こちらのPoRで"Despite considerable research on this topic, there is still no clear and consistent cor-relation between metal availability, soil properties, and toxicity"とあります。
そしてその理由として、"It is possible that for invertebrates soil ingestion and subsequent changes of metalavailability in the gut explain why metal bioavailability is not always linked to toxicity"とのこと。pHや温度などの環境要因がavailabilityへ及ぼす影響はよく研究されているが、摂餌とか行動へ及ぼす影響については研究が少ない。つまり、toxicokineticsな研究ばかりでtoxicodynamicsな研究が少ない、そうです。

引用されているSmolders et al. (2010) が面白そう。

  

Kvasnicka J, Burton Jr GA, Semrau J, Jolliet O, 2020, Dredging Contaminated Sediments: Is it Worth the Risks?, Environ Toxicol Chem, 39(3): 515-515.

汚染底泥の浚渫をして、魚のPCB蓄積を減らしても、それによるヒト健康リスクの低減は、浚渫によるPM2.5発生のリスク増大をカバーできない、とのことです。元ネタはKvasnickaら(2019)

 

論文のメモ: Target Lipid Modelとその底質基準への応用

USEPAのPAHの底質基準(USEPA,2003,EPA/600/R-02/013)のベースとなっている理論であるTLMと、その底質基準への応用について。

 

Di Toro DM, McGrath JA, Hansen DJ, 2000, Technical basis for narcotic chemicals and polycyclic aromatic hydrocarbon criteria. I. Water and tissue, Environ Toxicol  Chem 19(8): 1951-1970.

 

 

平衡分配理論(EqP)とTarget Lipid Model(TLM)。EqPについては前回書きました。一方のTLMは、ざっくり書くと「narcoticな毒性は、脂質中の物質濃度がCL*に達すると、どの物質でも同じレベルの影響(例えば50%致死)が生じる」というもの。式で書くとこんな↓感じ。

 {LC50}=C_{L}^* / {K_{LW}}     (Eq.1)

KLMは脂質-水間の分配係数で、物質の水-オクタノール分配係数Kowと対数軸で比例してます。なので、

 log LC50 = log C_{L}^*  - log K_{LW} = log C_{L}^*  - ( a_0 + a_1・log K_{ow} )     (Eq.2)

と式変形できます。Eq.2によると、毒性は物質のlog Kowによって予測できると言えます。

 

TLMの仮定は、「50%致死影響につながる脂質中蓄積濃度CL*は、生物種によって異なるが、全ての物質について同じである」ことと、「分配係数KLMは、物質によって異なるが、全ての生物種について同じである」こと。

ある生物種を用いた複数物質の毒性試験データについて、x軸をlogKow、y軸をlogLC50としてEq.2の関係をプロットすると、切片がlog CL*-a0、傾きがa1となります。2つめの仮定にしたがうと、a1はどの生物種についても共通です(値はほぼ1)。

 

USEPA(2003)などの底質基準は、水のみ曝露試験のデータを元にした上記のTLMの回帰式から、95%の種を保護できる急性影響濃度を求め、Acute-Chronic Ratio(ACR)によって慢性影響の値に変換し、最終的にEqPで底質濃度に変換しています。

 

 

Redman AD, Parkerton TF, Paumen ML, McGrath JA, den Haan K, Di Toro DM, 2014, Extension and validation of the target lipid model for deriving predicted no‐effect concentrations for soils and sediments, Environ Toxicol Chem 33(12): 2679-2687.

USEPA(2003)などの底質基準では、上述のように水のみ曝露試験のデータからEqPで底質濃度に変換しています。一方、このRedman et al.(2014)は、底質スパイク試験のデータをEqP(とTLM)で(CL*に)変換して、水のみ曝露試験のデータと比較しています。

底質スパイク試験から推定したCL*(論文ではCTLBBと表記)は、水のみ試験のCL*より若干低めの分布。論文では意味のある差ではないと述べてますが、どうなんでしょう。

底質スパイク試験から推定したCL*は、底質濃度をKocで割って水中濃度に変換してから、TLMによって脂質中濃度CL*に変換した値なので、①Koc推定値にバイアスがある(実態よりも高い値を用いてしまっている?)、②底質試験系は平衡状態ではなくEqPの適用が不適切である、あたりが原因で実は意味のある差なのでは?

 

 

論文のメモ: 平衡分配法における分配係数Kocの不確実さ

前回書いたように、底質基準の設定法にはざっくり3つのアプローチがあります。

2つ目のアプローチ(EqP)では、分配係数Kdと水のみ曝露の毒性値Cw(≒水質基準値)を用いて、底生生物に影響の生じうる底質濃度Csを算出します。

C_S= {K_d}・{C_w}    (Eq.1)

このKdは通常、底質の有機物質と水との分配Kocで表現されます。すなわち、

C_S= {f_{oc}}{K_{oc}}・{C_w}    (Eq.2) 

です。この式の水中濃度Cwは、フリー溶存濃度を表してます。つまり、溶存有機炭素(DOC; dissolved organic carbon)などに収着している画分は含まれていません。例えばDi Toro 1991↓で詳しく解説されています。

Di Toro DM et al., 1991, Technical basis for establishing sediment quality criteria for nonionic organic chemicals using equilibrium partitioning, Environ Toxicol Chem 10 (12): 1541-1583. 

 

気をつけなければならないのは、見かけのKocについて。

Eq.2によって、フリー溶存濃度Cwから底質濃度Csを(またはCsからCwを)求めることができます。しかし、当たり前ですが、用いるKocが正しくなければその計算も誤ったものになります。昔書いた見かけ上の分配係数(apparent partitioning coefficient)の問題。 CwではなくCdissolved、つまりフリー態とDOCへの収着分を合計した濃度を誤って分配係数の算出に用いると、

K_{oc'} = {C_{s}}/({f_{oc}}・{C_{dissolved}}) ={C_{s}} / ({f_{oc}} ({C_{DOC}}+{C_{w}})) =  

 {K_{oc}}/ (1+ {m_{DOC}}・{K_{DOC}})     (Eq.3) 

となり、実際のKocよりも低いKoc'を求めてしまいます。ちなみにmDOCはDOC濃度で、KDOCは CDOC/Cw

 

古い実験データだとこの見かけの分配係数Koc'を求めていたりします。また、Koc'と同時にDOC濃度を報告している文献であっても、信頼できる分配係数KDOCの値がないためにKocが求められない場合があったりします。

そのため、水-オクタノール分配係数Kowとの相関や(例:DoToro et al., 1991; Karickhoff et al. 1979)、化学物質の分子記述子に基づく予測式(LSER; linear solvation energy relationships; 参考: Endo & Goss, 2014)を利用する方法などが、簡便かつエラーの生じにくいKocの取得法として用いられてます。例えば、古いですがUSEPA(2003↓)では、Kowとの相関から求めたKocを用いて、EqPアプローチによってDieldrinのbenchmarkを提案しています(もっとも実測+Kdocで求めたKoc値とKowとの相関から求めたKoc値は同じくらい)。

USEPA, 2003, Procedures for the derivation of equilibrium partitioning sediment benchmarks (ESBs) for the protection of benthic organisms: Dieldrin, EPA/600/R‐02/010. 

 

2000年代半ばくらいからは、パッシブサンプラーを用いてフリー溶存濃度を測定することが多くなったので、信頼できるKocは簡易な実験でも求められるようになりました。例えばUSEPA(2012↓)が、フリー溶存濃度の求め方をまとめてます。

もっとも、たとえ信頼できる実験から導き出されたとしても、底質の種類などによってKocの値はばらつくため(例: Hawthrone et al. 2006、上に述べた予測式の値を"代表的な値"としてEqPアプローチに用いるのは妥当ではないでしょうか。

USEPA, 2012, Equilibrium Partitioning Sediment Benchmarks (ESBs) for the Protection of Benthic Organisms: Procedures for the Determination of the Freely Dissolved Interstitial Water Concentrations of Nonionic Organics, EPA/600/R‐02/012. 

 

 

もっと本質的には、底質濃度Cs(あるいはCs/foc)ではなくフリー溶存濃度で基準が設定できれば、生物学的利用能(bioavailability)を適切に考慮できるはず。例えば昨年でた総説McGrath et al.(2019)は、Cwをパッシブサンプラーで測定した方が、底質濃度とEqPアプローチを用いた方法よりも、底質中の多環芳香族炭化水素(PAHs)の毒性の有無を適切に判断できるとまとめてます。

ただ、現実的にCwのモニタリングが可能でなければ、底質濃度Cs(あるいはCs/foc)で基準を設定するのは仕方ない。

 

 

論文のメモ: 生態系保全のための農薬の底質基準

ひきつづき自宅就業中。

 

Nowell LH, Norman JE, Ingersoll CG, Moran PW, 2016, Development and application of freshwater sediment-toxicity benchmarks for currently used pesticides, Sci Total Environ 550: 835-850.

ちら見して放っていた論文。底質基準の考え方と歴史がBackgroundにまとまっていて良いです。

底質基準の決め方、主な3つ。

1) 経験的な方法。ERM(Effect Range Median)、ERL(Effect Range Low)の類。野外の汚染底質のデータを用いる疫学的な手法。野外の底質は、当然多様な物質によって汚染されてるので、注目している物質の影響のみを取り出すのは難しい。

2) 平衡分配法EqP。Di Toro 1991に詳しい。水の濃度と分配係数が分かれば、平衡状態の底質濃度も分かる。課題は、分配係数Kocの推定に不確実性があり、底質の種類ごとに異なってしまうことと、対象が非イオン性有機物に限定されること。

EqPを底質基準の設定に用いる上で満たされているべき仮定は、①水生生物と底生生物の感受性が等しい、②系が平衡状態にある、③底質の有機物濃度でnormalize可能あたり。

3)"Spiked Sediment Bioassay (SSB)"。底質に試験物質を添加して毒性試験をおこなう。課題は、試験できる生物種が限られていること。

 

この論文では、できれば 3)SSB の方法で、ただしスパイク試験のデータがなければ 2)EqP の方法で農薬の底質benchmarkを提案してます。導出されたbenchmarkの数は、2)EqP で81物質、3) SSB で48物質。なお対象としている生物群は無脊椎のみ。これはスパイク試験が無脊椎くらいでしかやられてないから。

SSBとEqPのbenchmark値の比較もしてます。どちらが高い、低い、という訳ではないけど、おおよそ100倍の差におさまってます。SSBの生物種はユスリカとヨコエビ(H. azteca)ですが、EqPの生物種は底生生物ではなく水中にいる生き物(水質基準の元になったデータ)という非対称性はあるようです。ちなみに平衡分配法で使用するKocの値は、PPDB Database、USEPAのEPI Suiteや個別の文献から取得したとのこと。

この比較をもう少し深く見てみたい(EqPによる基準導出の仮定を疑うような視点で)けど、中々面白かったです。 

 

(追記 2020.09.15)

Kocの値の選択について別の記事に書きました。

 

「すごい進化」感想

 面白いし、読みやすい。オススメです。

 

一見すると不合理な進化、例えば不完全な擬態など、はどうして生じるのか。

なんらかの制約によって進化が中途半端になってしまったのか、それとも実は自然淘汰を経て十分に適応した結果(=環境に適した形質が残った状態)なのか。

本書は、後者の考え方をベースに様々な進化の例を紹介してます。左巻きのカタツムリ(p.11)や、捕まえにくく栄養価も高くない餌に固執するクリサキテントウ(第3章)、不完全な擬態(p. 204)の話など。

特に、筆者自身の研究成果であるクリサキテントウの話が面白く、かつ「進化は制約か適応どちらで説明できるか」という大きな問いの流れの中で具体的な事例を詳細に詰めていっているのが研究者として素敵です。なぜ良くない餌をわざわざ食べているのかという疑問から、他種のメスに求愛するエラーを防ぐためという仮説を導いて、さらにオス殺しバクテリアの感染の話までつながる流れはワクワクしました。

 

 

論文のメモ: ヨコエビのサイズと細粒分への応答

絶賛自宅就業中。

 

Anderson B, Phillips B, Voorhees J, Siegler K, Trowbridge P, 2020, Size-specific responses of the amphipod Eohaustorius estuarius to clay in sediment toxicity testing, Environ Sci Pollut Res 1-8.

ここに昔書いたのと同じマイナーな話。10日の底質試験における海産ヨコエビEohaustorius estuariusの生存率は、カオリンの割合が多いほど低くなる(あまりキレイなdose-responseではないけど)。その低下の度合いは、ヨコエビのサイズが大きいほど顕著とのこと。完全に逆だろうと思ってたので意外でした。カドミウムに対する感受性はほぼ変わらないため(と言ってもヨコエビサイズが大きいほど感受性は微妙に高い)、細かい粒子特有の何かがあるのかも、という話。

ありうるメカニズムが考察で述べられてます。成体ヨコエビの方が剛毛(setae)の密度が高いために、カオリンの詰まる(くっつく?)割合が高いのでは、という説は面白い。でもそれによってエネルギー消費が増えて死ぬってのはホントでしょうか。10日間という短期間の致死がエネルギーで説明できるのかは判断保留。

論文のメモ: 化学物質の毒性作用機序(MoA)の分類と生態リスク評価

化学物質の作用機序(mode of action; MoA) 。

あるMoAは特定の生物分類群に強い毒性を示すが、別の分類群には効きにくい。一方生態系の保護は、特定の分類群だけでなく、全ての分類群をなるべく対象にしたい。MoAの情報をどのように生態リスク評価・管理に役立てるべきか。メモ。

 

 

Kienzler A et al., 2019, Mode of action classifications in the EnviroTox Database: Development and implementation of a consensus MOA classification, Environ Toxicol Chem 38(10): 2294-2304.

色んな生態毒性データベースの情報をまとめて作られたEnviroTox Databaseには、各物質のMoA情報も記載されています。

EnviroToxのMoAは、既存のMoA分類をまとめて、Specific、Narcotic、Unclassifiedの3つに再分類したものです。

既存の分類とは、Verhaar (1992, Chemosphere)、USEPA Assessment Tool for Evaluating Risk (ASTER)、OASIS、USEPAのMoAToxの4つ。VerhaarとOASISのMoAはOECD QSAR Tool Boxから取得。MoAToxの分類はUSEPAのToxicity Estimation Software Tool (TEST) から取得してます。ちなみにこれらの分類は、全て化学物質の構造をベースにしています。

 

各MoAの毒性値を見ると、specificが魚類と甲殻類に対する毒性が強く(特に甲殻類)、藻類にはあまり効かない傾向にあります。これは、MoAの分類が基本魚類のデータに基づいていることに起因するようです。

また、MoAの分類は基本急性毒性に基づいているが、"indication of a specifically acting MOA may be used as a flag for potential chronic sublethal activity"とも述べられてます。

 

 

Verhaar HJ, Van Leeuwen CJ, Hermens JL, 1992, Classifying environmental pollutants, Chemosphere 25(4): 471-491.

オランダのユトレヒト大学のVerhaar氏らによる4分類。inert・less inert・reactive・specifically actingの4つ。Inertはnonplora narcopsis、less inertはpolar narcosisのことです。化学物質の構造で分類し(ただしspecificだけは知識でカテゴライズ)、各分類の物質の毒性レベルがlog Kowで予測されるレベルからどれだけ乖離しているか(Toxic Ratio)を、グッピーPoecilia reticulata)の急性LC50値で評価しています。

Toxic Ratioは reactive > specifically acting > less inert > inert。reactiveとspecifically actingのTRは裾が広い。

 

 

Hendriks AJ, Awkerman JA, de Zwart D, Huijbregts MA, 2013, Sensitivity of species to chemicals: Dose–response characteristics for various test types (LC50, LR50 and LD50) and modes of action, Ecotoxicol Environ Safety 97: 10-16.

急性LC50、LR50、LD50で種感受性分布(SSD)を描き、その平均値と標準偏差をMoAごとに比較した論文。

SSDの試験種数が増えると平均と標準偏差のばらつきは共に減少していき、specific/reactiveなMoAほど平均は小さく、標準偏差は大きくなります。Specificなものはある分類群には効くが、別の分類群には効かないため偏差が大きくなるわけですね。

Suggestionは、試験生物種が少ない時SSDを描いてもその値の信頼性は低いため、MoAの同じ物質と比較したら良いんじゃないかというもの。

 

 

Awkerman JA, Raimondo S, Jackson CR, Barron MG, 2014, Augmenting aquatic species sensitivity distributions with interspecies toxicity estimation models, Environ Toxicol Chem 33(3): 688-695.

この文脈では少し毛色が違うかも。

化学物質に対する感受性の種間外挿を行うツールICE (Interspecies Correlation Estimation) を使って推定した毒性値をSSDに入れたらどうなるか、という論文。入手可能な生物種のデータを全て入れて推定したHC5(5% Hazard concentration; 5%の種が影響を受ける濃度)をreference HC5とすると、ICEによる推定値を含んだSSDのHC5とreference HC5との差はほぼ10倍以内に収まったとのこと。

MoAごとの違いを見ると、refererence HC5とICEによる推定を含んだHC5との差のばらつきは、なぜか有機リンで一番大きい。