備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

ノンポイント汚染

2023年に出た6PPD-quinoneの報告

ギンザケ死亡症候群の原因物質であると2020年の年末に報告された6PPD quinone(6PPD-キノン; 6PPD-Q)の話(→2020年のScience)。当時はCAS番号が割り振られていないなど、全くの新規物質でしたが環境中での検出例や動態、毒性に関する報告が色々と出てきま…

SETAC North America 34-th Annual Meeting をチラ見した

11月13~17日にピッツバーグで開催されました。私は全く参加していませんが、要旨集がネットで見られるので主に6PPD-キノン(6PPD-Q)に関する発表でどんなのがあったのかをざっと確認してみました。 6PPD-Qに関する発表は全18件あり、そのうち8件が生態毒性…

論文のメモ: 2022年に出た6PPD-Quinoneの報告

ギンザケ死亡症候群の原因物質であると昨年末報告された6PPD quinone(6PPD-キノン; 6PPD-Q)の話(→昨年末のScience)。2021年の半ばまではまだ標準品がなかったので速報的なものが多かったですが(→2021年に出た論文のまとめ)、Scienceの論文発表から丸1…

論文のメモ: サケの産卵前致死の事例

サケが川に遡上してきて産卵前に死亡する現象(Prespawn mortality)。ギンザケを対象にしたScience論文のグループの研究(NOAA、ワシントン州立大学、ワシントン大学タコマ校など)ばかり追ってましたが、この現象は他のグループからも色々報告されてました…

論文のメモ: ギンザケに対する6PPD-キノンの急性毒性値の更新

2020年の末にワシントンのグループによって、降雨時のギンザケ死亡の原因物質であることが報告された6PPD-キノンの続報(参考:ギンザケの死亡を引き起こすタイヤ由来の化学物質)。 Tian Z, Gonzalez M, Rideout CA, Zhao HN, Hu X, Wetzel J, ... Kolodzie…

SETAC NA 42nd Annual Meeting

オンライン開催。 自分は共著の発表一つだけしかしていませんが、いくつか発表を聞いてました。オンライン開催だと、新しいヒト・発表への出会いが中々うまくいかない反面、いつでも発表が聞けるのは嬉しい。なお、リアルタイムの催しは一つも参加できません…

論文のメモ: TRWPの環境中での変化

Wagner S, Klöckner P, Reemtsma T, 2021, Aging of tire and road wear particles in terrestrial and freshwater environments–A review on processes, testing, analysis and impact. Chemosphere: 132467. タイヤ由来の微量物質やマイクロプラスチックな…

論文のメモ: 先行晴天時間と道路塵埃

雨が降ると河川や湖沼に流れ出る道路塵埃(路面粉塵)。道路塵埃中には多くの有害物質が含まれるので、降雨時の水域で水生生物への悪影響が検出されることが、しばしばあります。 雨が降るまで道路塵埃が路面上で放置される時間(先行晴天時間; antecedent d…

論文のメモ: 2021年に出た6PPD-Qの報告

ギンザケ死亡症候群の原因物質であると昨年末報告された6PPD quinone(6PPD-キノン)の話(→昨年末のScience)。今年になって環境分析の結果がいくつか出てきたので、まとめ。 Huang W, Shi Y, Huang J, Deng C, Tang S, Liu X, Chen D, 2021, Occurrence of…

論文のメモ: 路面排水に曝露したギンザケに現れる症状

昨年末に出たScience論文の関連(→その時の自分のメモ)。 Blair SI, Barlow CH, McIntyre JK. 2021. Acute cerebrovascular effects in juvenile coho salmon exposed to roadway runoff. Canadian J Fish Aquat Sci 78(2): 103-109. 血液脳関門(BBB; Bloo…

論文のメモ: ギンザケの死亡を引き起こすタイヤ由来の化学物質が同定される

悔しい気持ちはあるけど、それ以上に妄想が広がって楽しい。ただ悔しい気持ちが少ないのは、今はもうこの界隈から手を引きかけていたからかも。 Tian Z, Zhao H, Peter KT, Gonzalez M, Wetzel J, Wu C, ... McIntyre JK, Kolodziej EP, 2020, A ubiquitous …

論文のメモ: 路面排水によるギンザケ死亡症候群

2000年代からアメリカ北部でギンザゲの死亡症候群が見られ、その原因として路面排水が疑われています。以下は、その一連の論文。NOAAとワシントン州立大学あたりが中心に研究してるみたいです。 「Puget Sound都市河川で頻発するギンザケ成魚の死亡」 Scholz…

論文のメモ: トンネル洗浄水による遺伝子発現変動

「交通関係の汚染に曝露されたブラウントラウトの肝臓の遺伝子発現プロファイル」 Meland S, Farmen E, Heier LS, Rosseland BO, Salbu B, Song Y, Tollefsen KE, 2011, Hepatic gene expression profile in brown trout (Salmo trutta) exposed to traffic …

論文のメモ: 底質の何%が路面堆積物に由来するのか

路面上に堆積している塵埃は雨天時に水域に運ばれます。水に溶けにくい、あるいは分解されにくい物質は水域の底質として蓄積していきます。では、底質の何%が路面堆積物に由来するのか。その割合を調べた論文たち。 「総説:タイヤの摩耗粒子の発生と影響」…

論文のメモ: 都市環境における農薬の分布

以前、道路での除草剤・殺虫剤散布について調べました。その時は有益な情報をあまり見つけられなかったので、新たに情報を追加してみました。 「都市における塵埃粒子中の殺虫剤の分布」 Richards J., Reif R., Luo Y., and Gan J., 2016, Distribution of p…

論文のメモ: 路面排水の生態影響

降雨時の路面排水が及ぼす生態影響を、バイオアッセイで調べた文献たち。 「降雨時間と高速道路排水の毒性との関係」 Kayhanian M., Stransky C., Bay S., Lau S.L., and Stenstrom M.K., 2008, Toxicity of urban highway runoff with respect to storm dur…

最近読んだ論文のメモ: ニコチンの生態毒性 その5 ~微生物分解~

まだニコチン関連の論文読んでます。こうやって一つの物質に関して色んな角度から情報を収集するのって、意外と楽しいですね。 「カフェイン・コチニン・ニコチンの微生物分解」 Bradley P.M., Barber L.B., Kolpin D.W., McMahon P.B. and Chapelle F.H., 2…

最近読んだ論文のメモ: パルス曝露の影響

定常的な曝露ではなくて、短期間の曝露の影響についてどんな研究がなされているのかちょっとだけ調べてみました。農薬の研究が結構多いみたいです。 「短期間の殺虫剤曝露がヨコエビの生存と繁殖能に与える影響」 Cold A. and Forbes, V.E., 2004, Consequen…

最近読んだ論文のメモ: タバコの吸い殻やニコチンによる生態毒性 その3 ~ニコチンのfate~

これまで、タバコの吸い殻による生態毒性に関していくつか文献を読んできました。タバコ浸出液にTIEを適用してニコチンが主な毒性要因らしいとした論文や、タバコ吸い殻からのニコチン浸出量を測定した論文など。 最近読んだ論文のメモ: タバコの吸い殻やニ…

最近読んだ論文のメモ: タバコ吸い殻による生態毒性 その2

この前に続き、タバコ吸い殻の浸出液の生態毒性。 「タバコ吸い殻浸出液のTIE」 Micevska T., Warne M.S.J., Pablo F. and Patra R., 2006, Variation in, and causes of, toxicity of cigarette butts to a cladoceran and microtox, Arch. Environ. Contam…

最近読んだ論文のメモ: タバコの吸い殻やニコチンによる生態毒性

ついこの前、アセチルコリンエステラーゼ阻害を持つ農薬 (カーバメイト系・有機リン系) の毒性が塩分増加に伴って増大することを示す論文をいくつか読んでました。もしかしたらニコチンも同様の作用を示すのではと思い、また論文探し。 「魚類に対するタバコ…

最近読んだ論文のメモ: 除草剤・殺虫剤の毒性と塩分

もしかしたらと思い付きで、高速道路などにおける除草剤の使用について調べてます。今は道路などで除草剤の散布はほとんどされてないだろうとは思いつつ。 あまり情報が見当たらなかったのですが、平成元年の国会質問で高速道路での除草剤使用について触れら…

最近読んだ論文のメモ: 底質のTIE (底質抽出画分をスパイクする場合)

「底質と底質抽出物の毒性評価」 Wiklund A.K.E. and Broman B.S.D., 2005, Toxicity evaluation by using intact sediments and sediment extracts, Mar. Pollut. Bull., 50(6), 660-667. パルプ工場付近の底質の毒性を、ヨコエビMonoporeia affinisによっ…

最近読んだ論文のメモ: 内因性ノイズと外因性ノイズ・Niの毒性機構・AFLPにおけるヘテロ接合度の算出

「単一細胞における確率論的な遺伝子発現」 Elowitz M.B., Levine A.J., Siggia E.D. and Swain P.S., 2002, Stochastic gene expression in a single cell, Science, 297(5584), 1183-1186. 難しくてあまり理解できなかった…。内因性ノイズとかでググると、…

最近読んだ論文のメモ: ブラジルと中国の底質汚染・多変量解析による汚染底質の分類

「ブラジルにおける下水流出が底質汚染に及ぼす影響」 Abessa D.M., Carr R.S., Rachid B.R., Sousa E.C., Hortelani M.A. and Sarkis J.E., 2005, Influence of a Brazilian sewage outfall on the toxicity and contamination of adjacent sediments, Mar.…

最近読んだ論文のメモ: 雨水と底質とWET・HOCの分配とDO

「雨水と底質の汚染評価における従来・新規の毒性試験手法の役割」 Burton G.A., Pitt R. and Clark S., 2000, The role of traditional and novel toxicity test methods in assessing stormwater and sediment contamination, Crit. Reviews Environ. Sci.…

最近読んだ論文のメモ: 個体群と休眠 ・ 実験室と野外個体群 ・ 融雪剤と浸透土壌

「休眠に投資する個体群の増加ポテンシャルの推測」 Montero-Pau J., Gabaldón C., Carmona M.J. and Serra M., 2014, Measuring the potential for growth in populations investing in diapause, Ecol. Model., 272, 76-83. 休眠卵を持つなど、一時的に休…

論文「ゼブラフィッシュと水浄化技術:有害な都市排水の対策としてのバイオリテンション」

路面排水の生態毒性評価に関する論文。具体的な毒性低減策と結びつけた研究はあんまり見たことがなかったので、メモ。高速道路で採取した路面排水を土壌カラムに通して、ゼブラフィッシュの毒性試験をおこなったもの。 McIntyre J.K., Davis J.W., Incardona…

論文「二枚貝は融雪剤汚染を記録しているか?」

融雪剤として使用される塩(塩化ナトリウム; road-salt)が生態系へ悪影響を与えているかも、という論文はこのブログで紹介してきました(→こちら)。Nature系のオープンアクセス誌であるScientific Reportsに、関連する論文が先月出ていました。ほとんど読…

論文「路面融雪剤の見直し:局地的~全国的スケールでの生態毒性と水質影響」

道路に積もった雪を溶かすためにまく塩(塩化ナトリウム)は、水生生物に悪影響を与えるかもしれないという記事を昔書きました(→こちら)。塩化ナトリウムは舗装された道路を流れ、河川や湖に流入します。その地点の塩濃度は上昇し、淡水でしか生きられない…