備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 生物分類による環境DNAの粒度分布の違い

Verdier H, Datry T, Logez M, Konecny‐Duprè L, Gauthier M, Lefébure T, 2024, Environmental DNA Particle Size Distribution and Quantity Differ Across Taxa and Organelles, Environmental DNA 6(5): e598.

似たような論文も多々ある中でこれをピックアップしている意味は特にないですが、たまたま読んだので。自分はこういう分子のcharacterizationをしている地味な研究が結構好きです。

ゼブラフィッシュ、アカガエルのオタマジャクシ、サカマキガイ、ミズムシ?の4種について、環境DNAの粒度分布を調べています。7・14・21日後の飼育水を8~0.2 µmのろ紙で環境DNAを連続ろ過、そして0.2 µm未満はエタ沈で回収。核DNAとしてITS、ミトコンドリアとして16S rRNAを見ています。

要旨に"For most taxa, the number of nuclear eDNA particles released in water was higher than that of mitochondrial origin"とあるから「んっ?」と思ったので、ITS2なら、そのことを要旨にも書いてほしいです。他のタンパクコードのシングルコピー遺伝子なら話がまた変わるので。でも本文を読むと、ゲノム中のコピー数はちゃんと考察されています。

肝心の粒度分布ですが、ゼブラフィッシュではITS2・16Sともに0.6~1.2 µmあたりがピークです。サカマキガイやミズムシも、若干のばらつきはあるものの、大体そんな感じです。一方、オタマジャクシは<0.2 µmと8 µmという両端にピークがあります。まあでもこの論文ではproductionとdegradationを明確に区別できていないので、ちょっと結論が出しづらいですね。

論文のメモ: 遺伝子発現解析と因果探索(IDA・PCなど)

Maathuis MH, Colombo D, Kalisch M, Bühlmann P, 2010, Predicting causal effects in large-scale systems from observational data, Nature Methods 7(4): 247-248.

変数間の因果関係が分からないときに因果効果を求める方法。Intervention-calculus when the DAG is absent、IDAと称して、その実験的な検証をした論文。出芽酵母S. cerevisiaeについて、遺伝子欠損株の発現データ267個(interventional data)と通常の発現データ63個(observational data)を対象にしています。遺伝子数は前処理後、5,361種。

遺伝子欠損株のデータを正解として、234種の欠損遺伝子が他の遺伝子に及ぼす総合因果効果(total causal effect)を求めています(= 234 × 5,360種の効果)。もう少し具体的には、遺伝子欠損株のデータから求めたTop m%の効果(遺伝子の組み合わせ; m = 5 or 10)と、観察データからIDAで求めたTop q%の効果(q = 50, 250, 1000, or 5000)を比較して、True positiveとFalse positiveを求めているという感じです。それで、完全なランダムやLASSOと比較してIDAは優れているよ、という話。ちなみにm =10・q = 50の時に、IDAのTrue positive率は66%で、完全なランダムの場合10%だったとのこと。

なお論文の著者陣によってIDAのためのRのpcalgというパッケージが作製されており、他の因果探索手法であるPCやFCI、LiNGAMなどが実装されています。

 

Zhang W, Lee A, Lee L, Dehm SM, Huang RS, 2024, Computational drug discovery pipelines identify NAMPT as a therapeutic target in neuroendocrine prostate cancer, Clinical Translational Sci 17(9): e70030.

上のpcalgを引用している論文として読んでみました。詳細は把握しきれてませんが、治療薬となり得る「nicotin-amide phosphoribosyltransferase(NAMPT)阻害剤」に対する感受性を示すマーカー遺伝子の特定に、因果探索手法PC(Peter-Clark)アルゴリズムを使っています。

データベースから細胞株ごとの薬剤感受性データと遺伝子発現データを取得して(ここがあまり詳しく書いていないから分からない…)、まずlimmaで発現変動遺伝子を500種特定し、それからPCでNAMPT阻害剤に対する感受性と直接的な因果関係のある遺伝子を絞り込むという流れ。

 

論文のメモ: 環境DNAとショットガンシーケンス

「環境DNAのシーケンス = アンプリコンシーケンス」とは限らないよという論文たち。

 

Manu S, Umapathy G, 2023, Deep sequencing of extracellular eDNA enables total biodiversity assessment of ecosystems, Ecological Indicators 156: 111171.

細胞外(extracellular)の環境DNAを、ろ過、lysis-freeのリン酸バッファーとカラムで回収してPCR-freeの方法でショットガンシーケンスした論文。シーケンスリードの87%はバクテリアで真核生物の割合は少ないものの、familyレベルの多様性(familyの種類)は真核生物の方が高かったそうです。これは面白いですが、そもそもreference databaseの偏りが影響しているようです。

全16サンプルで3.3兆塩基。昔、100Gb(つまり10億塩基)を外部委託してNovaSeq6000で読んだときは15万円ほどかかったので、データ量とコストが比例すると素朴に仮定すればハンパない予算をつぎ込んでいることになりますが、さすがにこの計算よりは安いでしょう。

 

Whitmore L, McCauley M, Farrell JA, Stammnitz MR, Koda SA, Mashkour N, ... & Duffy DJ, 2023, Inadvertent human genomic bycatch and intentional capture raise beneficial applications and ethical concerns with environmental DNA, Nature Ecol. Evol. 7(6): 873-888.

ちゃんと読んでませんが、水や砂、大気からの環境DNAをIlluminaとOxford Nanopore Technologies(ONT)のシーケンスで網羅的にショットガンシーケンス。ヒトのゲノムのすべての染色体についてeDNAを検出できており、さらに一番長いリードは148,969 bpで、平均の長さは1,514 bpだったそうです。ちなみにミトコンドリアは全長に34 bp足りない16,535 bpが読めたリードがあったとのこと。

 

McCauley M, Koda SA, Loesgen S, Duffy DJ, 2024, Multicellular species environmental DNA (eDNA) research constrained by overfocus on mitochondrial DNA, Sci Total Environ 912: 169550.

上の論文と同じグループから。こちらもIlluminaとONTで、生物組織やeDNAをショットガンシーケンスしています。生物組織ではミトコンドリアのコピー数が多いため、ミトコンドリアDNA >> 核DNAとなりますが、eDNAでは逆にミトコンドリアDNA < 核DNAとなっています。核膜による保護のために核DNAの方が分解されにくいのでは、ということですが、実験室レベルでは逆の結果を示す文献もあるのが不思議ですね。

 

Nastassia Patin, Kathleen Pitz, Jacoby Baker, et al., 2024, Catching small fish in a big pond: targeted vs untargeted sequencing for marine eukaryotic eDNA, ESS Open Archive.

メタバーコーディングとショットガンシーケンスを200以上のサンプルについて比較した論文。分類群によってはショットガンシーケンスの方が良いという結果。詳細まで読めてないので、あとで読みます。

 

「失敗の科学」感想

面白かったです。
「成長型のマインドセット」で物事を考えて、失敗を検証し、失敗から学び、個人や組織を成長させる。それに成功した人や組織とうまくいかなかった人や組織の違いを具体例豊富に述べた本です。例は、航空機事故や医療事故、経済学者の予測、冤罪、さらには小林尊からベッカムまで幅広く出てきます。
 
失敗の「科学」とあるように、仮説を立ててそれを検証するという科学の基本的なサイクルや、小さな試行錯誤を繰り返すことこそ重要だというのが骨子でしょうか。実際ポパーが何度も登場します。もっとも原題は"Black box thinking: The surprising truth about success"ということでscienceという単語は含まれてないようですが。というか、原題のsuccessが失敗に置き換わっているのが、本書でも指摘されている失敗を極度に恐れる日本人の性質を表しているような…。
なぜ失敗・ミスを受け入れられないのか。その原因として認知的不協和や記憶の不確かさなどが紹介されています。ダニエル・カーネマンなども出てきて、そういう方面では有名な話も多いですが、全体として楽しめました。
 
 
失敗から学ぶ方法は科学のアプローチであるとはいえ、科学に携わっている人が必ずしもそのアプローチを実行できているとは限りません。経済の予測が失敗から学ばない(というより失敗を認めない)例として挙げられているように。
ですので、失敗から学ぶためのマインドセットとシステムをこの本から学ぶのは、科学的アプローチに親しんでいる研究者にとっても有益かもしれません。(ちょっと飛躍した話:これまでの投資や実績によって判断が縛られてしまったり、データではなく自分が正しいと思い込んでしまったりするのは中々避けがたいので、個人的な戦略としては、研究分野を微妙に変え続けるのが良い気がしています。)
 
 
 

SETAC-Asia Pacific 14th Biennial Meeting at Tianjinに参加しました

環境毒性と環境化学の学会であるSETACのAsia-Pacific会議に参加しました。2年に1回の開催で、今回は天津での開催でした。

 

縁あって、あるセッションの共同座長として招待してもらったのですが、すごい歓迎ぶりでした。座長や招待講演者のおそらく全員に対して、空港から会場までの1時間半ほどの車での送迎を手配し、さらに参加費と宿泊費を提供していました。セッションの数は全部で37個だったので座長が2人ずつだとしても最低74人。100人以上は招待していたはずです。夕食では食べきれないほどの料理を山ほど出してくるというベタな歓待もありました。

ちなみに参加者は1000人超えで、体感では9割以上が中国人でした。たぶん日本人は10人くらいだったと思います。

例えば18セッションも同時に進んでいるなど、パラレルで実施されているセッションが多すぎて、あまり全体像は把握できなかったかも。

 

中国がすでにオンライン決済が進んでいるとは良く聞いてましたが、学会の交流でも名刺交換など一切なくて、WeChatのIDを交換しまくりでした。交換した後に誰がどれか分からなくなるので、所属とか話したことをメモしました。

 

 

個人的に面白かった発表は、以下。

  • 誘導ラマン散乱による分子分光イメージング法で水滴内の各種イオン濃度を測定し、pHの分布を計算するという研究(Gong et al., 2023, PNAS)。
  • 分子学的・生化学的な影響をSSDに組み込んだ研究。具体的にはvitellogeninnのmRNA発現などをエンドポイントとして、重みづけしてspecies sensitivity weighted distribution(SSWD)の中に組み込んでいるということです。「おいおい」と始めは思いましたが、NAMsな昨今、方向性は間違ってないかも。重みづけは何らかのvalidationが必要とは思いましたが。論文はZhang et al., 2024, Chemosphere
  • トロント大学のHui Peng氏による6PPD-Qの毒性。いくつかは既に発表しているpreprintの内容でしたが、6PPD-Q-C3OHはギンザケ細胞CSE-119で約60 ppbのLC50を示し、6PPD-Qと同程度であったものの、6PPD-Q-C4OHは有害影響を示さなかったという結果は新しいデータで色々とびっくり。 (2024.11.08追記)細かいデータの値が後ほど出たプレプリントと違う?この記事参照。プレプリントでは6PPD-Q-C3OHのEC50は67.4 ppbだが、6PPD-QのEC50は17.1 ppbで、6PPD-Q-C3OHの毒性は6PPD-Qより低め。(追記ここまで)
  • 抗菌材Azoxystrobinの継世代影響(Transgenerational effect)。F0にNOEC以下で曝露し、F1とF2には曝露をしていないのに、F2に心拍や体長などの発達異常が見られたという話。原因となる遺伝子のDNA methylationや発現なども解析されていて、中々面白かったです。いくつか関連の論文はすでに出ているようです(例:Cao et al., 2019, STOTEN)。

 

 

 

 

論文のメモ: ミジンコのミトコンドリア膜電位の蛍光アッセイ

Abele C, Perez A, Höglund A, Pierozan P, Breitholtz M, Karlsson O, 2024, Automated Image-Based Fluorescence Screening of Mitochondrial Membrane Potential in Daphnia magna: An Advanced Ecotoxicological Testing Tool, Environ Sci Technol, in press.

オオミジンコと蛍光色素JC-1を用いたスクリーニングアッセイの開発。JC-1はミトコンドリアの膜電位が高いと凝集体として赤色を示しますが、膜電位が低いと単量体として緑色になります。JC-1を使ってミトコンドリア膜電位を調べるというだけでは全く新しくないですが、新規性のポイントはin vivoのミジンコを使ってハイスループットの試験系を構築している点のようです。

オオミジンコは脱共役剤などの評価対象の物質に2 or 24時間曝露した後に、JC-1に30分間曝露し、5%エタノールで昏睡させてから、遠心でマイクロプレートの底に張り付けて共焦点顕微鏡でイメージ解析するという流れ。面白いしやってみたいなと思いますが、共焦点顕微鏡がないと出来ないかも。共焦点顕微鏡でさえFig5を見るとバラツキが大きそうです。

 

6PPDの膜電位への影響は、2時間曝露では明確ではなかったが24時間曝露では確認できたとかなんとか。

ミジンコって5%のエタノールだと5分以内に昏睡状態(というか動かなくなる)に陥って、元の水に戻したら回復するというのが地味にびっくり。

論文のメモ: 魚類急性致死試験の代替法としてのFET試験の改良

魚類胚を用いた急性毒性試験(Fish Embryo Acute Toxicity Test; FET試験)の話。代替試験法を従来の試験法に近づける話という意味では、この記事の話などに近いです。

 

Reichstein IS, Becker AH, Johann S, Braunbeck T, Schiwy S, Hollert H, Schiwy A, 2024, Biotechnological metabolization system has the potential to improve the predictive ability of the fish embryo acute toxicity (FET) test with the zebrafish (Danio rerio), Environmental Sciences Europe 36(1): 1-15.

FET試験は、稚魚をもちいた魚類急性致死試験(OECD Test Guideline 203; AFT)の代替法として位置づけられていますが、胚の代謝能が低いので毒性を過小・過大評価する場合があるのでは、という欠点が指摘されています。そこで、「代謝させてからFET試験してみたよ」という論文。代謝は、ラット肝臓S9画分やewoS9Rというpermanent cell line由来の画分を使用して、37°C・2時間処理することで実施しています。

結果、Allyl alcoholは代謝を事前に行うことで、FETのLC50がAFTのLC50と近づきました。代謝活性化を評価できています。Bisphenol Aでは代謝により解毒されたのか、FETのLC50はやや増加。しかし、もともとFETとAFTの差は多くの物質で大きくないので、あまり効果は見えづらいようです。FETとAFTで差のあるクロルピリホス(AFTではLC50が10 µMで、FETでは> 100 µM)では、代謝による効果が見られていません…。Bioavailabilityの問題かもと書いていますが、もともと神経毒性はFETで検出しづらいと言われていますからね。

試験物質の曝露濃度や代謝物濃度を実測していないのは、結構大きなマイナスかも。

 

 

von Hellfeld R, Pannetier P, Braunbeck T, 2022, Specificity of time-and dose-dependent morphological endpoints in the fish embryo acute toxicity (FET) test for substances with diverse modes of action: the search for a “fingerprint”, Environ Sci Pollution Res 1-17.

上の論文でも共著に入っているBraunbeck氏らの研究。FET試験では、4つのエンドポイントが定められていますが(凝集・体節形成・尾部剥離・心拍の有無)、他に観察したら作用機序と分かるよ、という提案です。作用機序の異なる18物質に曝露して、高濃度ではspecifcな変化は見られなかったが、EC50より低い低濃度ではspecificな変化が見られたとのこと。もっとも高濃度でも、眼の肥大化や脊椎湾曲など少数の物質でしか見られない影響もあるようです。

この論文はまだpreliminaryな感じで定性的な評価にとどまっていますが、動画・画像解析と組み合わせて定量化して欲しいです。心拍とかはすぐにでも出来そう。

 

 

論文のメモ: 野外環境でのイネの連続トランスクリプトーム

野外での連続の網羅的遺伝子発現解析。植物だと破壊的なサンプリングってあまり影響がなさそうだから(とはいえ下の論文は同じ植物からの繰り返しサンプリングはしてないようですが)、連続で発現解析をするのもOKなのかも。

研究の具体的な内容はさておき、方法論の参考としてメモ。

 

Nagano AJ, Sato Y, Mihara M, Antonio BA, Motoyama R, Itoh H, Nagamura Y, Izawa T, 2012, Deciphering and prediction of transcriptome dynamics under fluctuating field conditions, Cell 151(6): 1358-1369.

イネではありませんが、野外で時系列データ取りたいなと思い、その実験デザインの参考に読みました。この論文では、461個のマイクロアレイデータを取得しています。48hのうち2hごとに採取したデータや、1週間のうち0:00と12:00に採取したデータ等。つまり日内変動や季節変動を評価できるようなデータをとっている感じです。

このデータ採取の目的はタイトルにあるように、いろんな要因(気温・plant age・solar radiationなど)から発現を説明・予測したいということです。

これはもう10年以上前の研究で、同じグループから同様の野外環境での連続トランスクリプトーム解析の論文が出ています(Nagano et al., 2019, Nature Plantsなど)。新しい論文は入手できなかったので見ていませんが、今なら当時より低価格で大規模な解析がやりやすくなっているでしょう。 

 

論文のメモ: ラマン分光法による非侵襲的な遺伝子発現の推定

詳細は理解していませんが、驚いたことをメモ。

ラマン分光法って遺伝子発現とリンクさせられるほど解像度が高いとは。蛍光分析とは異なり、特別な前処理を要せず(?)そのままの細胞を対象に出来るのは素晴らしい。

 

Kobayashi-Kirschvink KJ, Nakaoka H, Oda A, Ken-ichiro FK, Nosho K, Fukushima H, ... Wakamoto Y, 2018, Linear regression links transcriptomic data and cellular Raman spectra, Cell Systems 7(1): 104-117.

酵母大腸菌RNA-Seqプロファイルと、Ramanスペクトルが対応できるという話。両者はともに高次元データですが、LDA(線形判別分析)で次元削減してみると、両者の関連が見えたという感じ。始めはラマンスペクトルがRNAを直接反映しているのかと思い、衝撃というか信じられんと感じましたが、実際そんな訳はなく、(RNAよりもっと存在量の多い)タンパクとか脂質とか他の分子のプロファイルを反映していて、間接的にRNAプロファイルとリンクできる、という話のようです。それでも十分面白いし、酵母ではmRNAよりncRNAの方がラマンスペクトルと対応しているのも面白いです。

所属先からは閲覧できませんでしたが、続編もあり、そちらではシングルセルRNA-Seqと結び付けています。機械学習で発現データを予測する感じですね。

 

 

論文のメモ: MP影響実験での底質中MP濃度の定量

マイクロプラスチック(MP)の話。MPの影響を調べた論文はもうすでにめちゃくちゃ多いですが、実はMPの曝露濃度を実際に測っている研究は多くないそうです。もっとも、蛍光ビーズを用いた場合は実測している場合も多いでしょうが、ファイバーやフラグメントではやはり実測していない研究が多いようです。

なお上記は自分で調べたわけではなく伝聞です。

底質にMPを混ぜ込んで曝露する実験もそれなりに報告されてきていますが、その論文でMP濃度の実測をしているのか、少し見てみました。論文の選択は目に付いたものを適当に拾っています。

 

de Ruijter VN, Hof M, Kotorou P, van Leeuwen J, van den Heuvel-Greve MJ, Roessink I, Koelmans AA, 2023, Microplastic effect tests should use a standard heterogeneous mixture: Multifarious impacts among 16 benthic invertebrate species detected under ecologically relevant test conditions, Environ Sci Technol 57(48): 19430-19441.

MPのリスク評価のトップランナーKoelmans氏のグループの論文。16種の底生生物を、environmentally relevant microplastic standard(ERMP)なるものに曝露して致死やら成長阻害やらを調べた論文です。ERMPはPP・PE・PS・PETのフラグメント、PPのファイバーを混合したもので、環境中の比率を反映しているそうです。

曝露濃度は0.1~20% w/w-dryと非常に高くて、5%と10%の底質については28日間の曝露終了後にMP濃度を強熱減量で測っています。強熱減量って粗すぎるやろと思わなくもないですが、5%や10%も入れているなら、糞や餌の食べ残しなどの変動する要因よりもMPが圧倒的に多いから妥当なのでしょうか。

 

Bour A, Haarr A, Keiter S, Hylland K, 2018, Environmentally relevant microplastic exposure affects sediment-dwelling bivalves, Environ Pollution 236: 652-660.

PEのフラグメントを二枚貝に曝露した論文。二枚貝と底質中のMP濃度を実測しています。底質については、乾燥後、飽和NaClで繰り返し密度分離してセルロースろ紙でろ過して個数を計数。けっこう簡易な手法ですね。実測値は理論値の半分程度だったり。回収率の確認などは特にしていないっぽいです。

 

Wazne M, Mermillod-Blondin F, Vallier M, Hervant F, Dumet A, Nel HA, ... Simon L, 2023, Microplastics in freshwater sediments impact the role of a main bioturbator in ecosystem functioning, Environ Sci & Technol 57(8): 3042-3052.

二枚貝イトミミズ(Tubifex tubifex)をMP底質に曝露して、生物撹乱(bioturbation)やCO2、N-NOxのフラックスへの影響を調べた論文。始めMP濃度を測っているかと思って読んだら、測ってませんでした。Control条件(=MPを添加しない底質)のMP濃度を測っているだけでした。

ちなみにControl条件では、ZnCl2で密度分離の後、フェントン反応で、ナイルレッド染色して傾向顕微鏡で計数。たぶんこのような手法が一番ベタな感じだと思います。