降雨時の路面排水が及ぼす生態影響を、バイオアッセイで調べた文献たち。
「降雨時間と高速道路排水の毒性との関係」
Kayhanian M., Stransky C., Bay S., Lau S.L., and Stenstrom M.K., 2008, Toxicity of urban highway runoff with respect to storm duration, Sci Total Environ., 389(2), 386-406.
淡水産のC. dubia、ファットヘッドミノーP. promelas、緑藻P. subcapitatumと海産のウニS. purpuratus、発光バクテリアP. phosphoreum (Microtox) を用いて、高速道路排水の毒性を評価した研究。大規模な研究で面白かったです。
この論文のメインの結果は、初期降雨に伴う流出 first flush の毒性が高いというもの。first flushほど汚濁物質の濃度が高いからこの結果は妥当なんですけど、注意しないといけないのは時間が経った時の排水でも毒性の高いものがあるという点。
毒性の原因物質は、TIEで調べられてます。EDTAの添加やpH9で毒性が下がっていることや、化学分析結果からCuとZnがメイン毒性要因だと結論付けてます。
最後に排水サンプルのobserved Toxic Unit (TU) とCu・Zn濃度から推測されるpredicted TUとを比較して、多くのサンプルで「observed TU > predicted TU」 になったと示してます。そんで、Cu, Zn以外の要因が影響しているだろうと考察してますが、スペシエーションを考慮してないから実はCu, Znの影響ってもっと小さいかも。特にCuはかなりDOCと錯体を形成するだろうから(下のNason et al., 2012 参照)、predicted TUはもっと小さい可能性あり。(もちろんフリー態だけが毒性を示すのかどうかとか、色んな議論があるでしょうが。)
またabstractに「Surfactants were also found to be the cause of toxicity in less than 10% of the samples.」と書いてますが、その根拠がいまいち分かりませんでした。TIEでAerationによって毒性の低減したサンプルがあって、発泡してたからでしょうか? それでSurfactantが要因だと断定するのは行き過ぎでは…。
「降雨時の都市排水の毒性評価」
Waara S. and Färm C., 2008, An assessment of the potential toxicity of runoff from an urban roadscape during rain events, Environ. Sci. Pollut. Res., 15(3), 205-210.
高速道路排水の急性毒性をD. magnaとMicrotox、ホウネンエビT. platyurus、ウキクサL. minorで評価した論文。同じ場所から時期を分けて65サンプルを採取したけど、急性毒性を示したものはなかったみたいです。こういうネガティブ?な結論(毒性がないのは実際の生態系にとってはポジティブですけど)だけの論文も珍しい。
毒性がないのは交通量が2万/日と少なめだから、との考察。
「都市排水毒性の探索的研究」
Marsalek J., Rochfort Q., Brownlee B., Mayer T., and Servos M., 1999, An exploratory study of urban runoff toxicity, Water Sci. Technol., 39 (12), 33-39.
多くの路面排水サンプル(70個)でスクリーニング的な試験をおこなったexploratoryな研究。D. magnaと発光バクテリアMicrotox、クロモカルト、ミトコンドリア毒性を対象にしてます。
それぞれのバイオアッセイでEC10程度ならば影響なしと判断しているのですが、大体半分の試験で影響なしだったとか。交通量10万/日以上の高速道路では比較的毒性が検出されやすく、影響ありのサンプルは60%という結果(といっても上のKayhanianの論文 (2008) のように降雨時期との関係を示さないとあまり意味ない議論かも)。
ここからは、排水に含まれる重金属のspeciationに関する論文たち。
「高速道路排水における銅のspeciation測定」
Nason J.A., Sprick M.S. and Bloomquist D.J., 2012, Determination of copper speciation in highway stormwater runoff using competitive ligand exchange–Adsorptive cathodic stripping voltammetry, Water Res., 46(17), 5788-5798.
高速道路排水に含まれるCuのフリー態濃度を、stripping voltammetryで調べた論文。
細かい部分は読んでませんが、多くのサンプルでCuの錯形成率(有機・無機含む)は90%以上だったそうな。化学平衡モデルのVisual Minteqによる計算結果もその傾向を支持していて、でもVisual Minteqは実測値よりフリー態濃度を多めに計算していたそうです。
「水文学が降雨時排水中の重金属speciationに及ぼす影響」
Dean C.M., Cartledge F.K., Pardue J.H. and Sansalone, J.J., 2005, Influence of hydrology on rainfall-runoff metal element speciation, J. Environ. Engineer., (4), 632-642.
路面排水の大御所Sansalone氏の論文なのでチラ見してみました。Minteqで排水中の重金属(Cu, Zn, Cd, Pb)のspeciationを計算した論文。DOMとの平衡計算はGaussianモデル使用。