備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

最近読んだ論文のメモ: タバコの吸い殻やニコチンによる生態毒性

ついこの前、アセチルコリンエステラーゼ阻害を持つ農薬 (カーバメイト系・有機リン系) の毒性が塩分増加に伴って増大することを示す論文をいくつか読んでました。もしかしたらニコチンも同様の作用を示すのではと思い、また論文探し。

 

「魚類に対するタバコ吸い殻 浸出液の毒性」

Slaughter E., Gersberg R.M., Watanabe K., Rudolph J., Stransky C. and Novotny T.E., 2011, Toxicity of cigarette butts, and their chemical components, to marine and freshwater fish, Tobacco Cont., 20(Suppl 1), i25-i29. 

タバコの吸い殻(cigarette butt)の生態毒性。タバコの吸い殻を24時間水に浸しておき、その浸出液で海産魚A. affinisと淡水魚P. promelasの毒性試験。

どちらの種に対しても、毒性は「使用済み タバコ*1+フィルター SCB > 使用済みフィルター SF > 未使用フィルターのみ USF」の順に高かったそうな。未使用のタバコ部分のみは試験してない様子。「使用済みタバコ+フィルター SCB」は2本/Lで致死率100%という高毒性。思った以上に毒性が高かったです。さらに意外だったのが、フィルターのみのUSFでもLC50が 5 ~ 13.5 本/Lと割と高毒性なこと。

魚種による致死応答の違い。LC50は2倍ほどの差で、海産魚Topsmeltの感受性の方が高い。前回の記事で書いたような塩分による毒性の違いを実は期待していましたが、この結果だけでは判断できないか。(この論文で使用された魚2種の感受性比較が他の論文でなされてたので、リンクを貼っておきます。)

主題とは関係ありませんが自動タバコ火付け機みたいなもの(TE-10 Smoking Machine)が使われてて、へーと思った。

 

「水生生物へのニコチンの毒性」

Konar S.K., 1977, Toxicity of nicotine to aquatic life, Indian J. Fisheries, 24(1 & 2), 124-128.

いくつかの論文で引用されていたので見てみましたが、記述が適当であまり信頼できない感じの論文。実験量は多そうですが。ニコチンは硫酸ニコチンとして添加している。たぶん濃度はnominalであって、実測値では無さそう。

 

D. pulexに対する非致死毒性」

Savino J.F. and Tanabe L.L., 1989, Sublethal effects of phenanthrene, nicotine, and pinane on Daphnia pulex, Bull. Environ. Contam. Toxicol., 42(5), 778-784.

Daphnia pulexに対するニコチンの毒性。ニコチンは、キャリア溶媒などを使用せずにそのまま水に溶解させています*2しかし、実際に測定されたニコチン量は添加した量の0~10%....(液液抽出後GC-PIDで定量)。添加したニコチンの大部分が試験容器へ吸着したか、揮発したか、餌に吸着したか...。

16dの致死率のNOECは0.12 mg/Lで、その結果をもとにValcarcelら (2011) はPNECを算出してます。こういう実測濃度とかけ離れた1つのデータからPNECのような基準を算出するプロセスにはちょっとなぁ...という感じ。

 

都市排水中のニコチン汚染源としてのタバコの吸い殻

Green A.L.R., Putschew A. and Nehls T., 2014, Littered cigarette butts as a source of nicotine in urban waters, J. Hydrol., 519, 3466-3474.

では、ニコチンはタバコの吸い殻から実際に水環境に流出しているのか、その濃度は影響のあるレベルなのか、その疑問に関してこの論文を読んでみました

タバコの吸い殻からのニコチン浸出実験を、バッチ試験と模擬雨水試験(1.44 mm/d)でおこなってます。バッチ試験での吸い殻1 gからのニコチン流出量は最大7.1 mg。そして模擬雨水試験の結果と、市街地の吸い殻の捨てられ状況とから実際の雨天時排水中のニコチン濃度を推定してます。いわく、初期降雨における濃度は平均 0.62 mg/Lで、最大 11.4 mg/L。

この値は、Dapnia pulexへのNOEC 0.12 mg/Lと比べると十分大きいと結論してます。もっとも流出過程での損失を考えるともう少し濃度は下がるから、水生生物への影響という観点では安全側の評価でしょうが。

 

「ポイ捨ての分布とごみからの汚染物質の溶出」

Moriwaki H., Kitajima S. and Katahira K., 2009, Waste on the roadside,‘poi-sute’waste: its distribution and elution potential of pollutants into environment, Waste Manag., 29(3), 1192-1197.

こちらも似たような実験をおこなってます。吸い殻からのニコチン浸出試験。ただニコチンに関する記述はほんの少しで、論文のメインは市街地におけるポイ捨てごみの量や分布についての調査みたい。

*1:本体というか?葉タバコの入っている部分。

*2:log(Kow)は1.17で、1000,000 mg/Lまでは水に溶解するらしい。