備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: ナノポアシーケンサーを用いたTargeted RNA-Seq

Oxford Nanopore Technology社のシーケンサー。ナノサイズのポアにDNA・RNAを通して、その際の電流の変化から塩基配列を読み取ります。

ポアを通している途中で興味のある配列(群)でなければ、そのDNA・RNAを吐き出して、無駄な配列を読まないようにする「adaptive sampling」もできるという話があります。

興味のある配列だけを読む場合、通常のシーケンサーならばPCRするとか対象外の配列を除外する等の前処理を行いますが、その前処理が不要ならばとても嬉しいですね。Read UntilというAPIを使って実行するとのこと。Nanopore Communityから入手できます。

Nanopore CommunityのDocumentationからadaptive samplingのページを見ると、adaptive samplingには50 fmol(フェムトモル, 10^-15 mol)のDNAがあれば十分でそれ以上あっても得られるデータ量はあまり増えないらしいです。読みたい配列は、(ゲノム配列と)bedファイルを指定すれば良いようです。 ただbedファイルがなければ、entire FASTA/minimap2 indexも使用できると書いています。

 

今回はこのadaptive samplingをRNAに適用した論文をまとめ。

 

Naarmann-de Vries IS, Gjerga E, Gandor CL, Dieterich C, 2022, Adaptive Sampling as tool for Nanopore direct RNA-sequencing, bioRxiv 2022-10.

2022年の10月にbioRxivにポスト。in vitro転写合成(IVT)した配列を用いて通常のダイレクトRNAシーケンスとadaptive samplingを比較したり、ヒトとマウスのサンプルを用いて、通常ならシーケンスの30~40%を占めるミトコンドリア由来のRNAを除去できるか検討したり。興味のない配列を除外するDepletion modeと、興味ある配列だけ取り込むEnrichment modeがあるそうですが、depletion modeの方が効率が良いそう。この辺の機構は良く分かりません。

Adaptive samplingの手法はあまり詳しく書いていない、というかONTのマニュアル通りにやれるからそもそもこんなものでOKなのかも?これまたよく分かりません。ライブラリはdirect RNA sequencing kit(SQK-RNA002)で調製。

(追記 2023.09.15)

"RNA"という雑誌に公開されてました。DOI: 10.1261/rna.079727.123

(追記終わり)

 

Sneddon A, Ravindran A, Hein N, Shirokikh NE, Eyras E, 2022, Real-time biochemical-free targeted sequencing of RNA species with RISER. bioRxiv, 2022-11.

2022年の11月にbioRxivにポスト。Read Untilでadaptive samplingするためにはリアルタイムで電流データを配列データに変換しなければならない(=basecalling)ので、コンピュータのリソースが必要。そこで、RISERというソフトを開発して、リアルタイムのベースコールを行わずにRNAの種類(coding or non-coding RNA)ごとにadaptive samplingできるようにしたという話。GitHubにRISERのコードが公開されています。

ONTでは3末端からシーケンスされるため、poly Aを識別してadaptive samplingしている様子。なのでreferenceも必要ないっぽいです。だとすると3末端が切れている分解RNAに適用するのは微妙かも。

 

Wan Y, Yang L, ..., Cheng A, 2023, Direct RNA sequencing coupled with adaptive sampling enriches RNAs of interest in the transcriptome. Research Square.

2023年2月28日にResearch Squareにポスト。6月7日現在、Nature系の雑誌で査読中。ONTの人も著者に入っています。

カンジダ症の原因である真菌Candida albicansRNAににadaptive samplingを適用。この論文でもdepletion modeとenrichment modeのどちらも検討しています。また、アノテーションされている転写産物を除外して、新しい転写産物を発見するという何とも活かした使い方をしています。

しかしcoding RNAの中から特定のものを読みたい/除外したい場合は、いくらかpoly A tailを読んでから判断することになるため、(短いRNAには)adaptive samplingの効果が少なくとも現時点では限られてしまうかも、とのこと。

自分がadaptive samplingを使う場合はこの論文が一番参考になりそう。