備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 尿に含まれるRNA

尿のにおいから、線虫にがんを診断してもらう検査があります。

その臨床における有効性はよく知りませんが、尿にいろいろな成分が含まれることは確かで、尿には数十~数百nmサイズのexosomeがあり、そこにmiRNAやmRNAが含まれているという研究は数多くあるようです。それらRNAを測定することで、がんなどの診断を非侵襲的に行おうという試みも多数あります。

 

この話に興味をもったのは、環境RNAです。

水生生物の周りの水に多様な種類のRNAが含まれているということが近年明らかになってきていて(例えばTsuri et al., 2020, Environ DNA)、そのRNA(=環境RNA)を調べることで生物の生理状態を評価できるのではないか、という期待が膨らんできています。

しかしそのRNAは生物体内のどこ起源なのでしょうか。例えばこの記事でも触れたCristescu (2019, Trends Ecol Evol)はextracellular vesicles(EVs, 上に書いたexosomeもEVsの1種)にRNAが含まれていて、それが体外に出ることはあると述べています。

 

ということで、ヒトの尿にどのようなRNAが含まれていて、それらの起源はどの組織・器官なのかに関する文献を読んでみました。これらの知見は環境RNA(の基礎研究)にも応用できるはず。なお論文はperplexity AIに教えてもらいました。

 

 

Zhu Q, Cheng L, Deng C, Huang L, Li J, Wang Y, Li M, Yang Q, Dong X, Su J, Lee LP, and Liu F, 2021, The genetic source tracking of human urinary exosomes. Proceedings of the National Academy of Sciences, 118 (43), e2108876118.

ヒトの尿のexosomeをRNA-Seqして、その由来を解析しています。由来の解析はsingle-cell RNA-SeqのデータとCIBERSORTというツールを使用したそうです。CIBERSORTはバルクのRNA-Seqデータから組織や細胞別のプロファイルをdeconvolutionするために使用されるっぽい。Deconvolutionって質量分析では最近よく聞きますがRNA-Seqでも似たようなことがされてるんですね。ちなみにQiagenのmiRNeasy Miniを使って抽出し、rRNA除去の後、SMARTでライブラリ作製し、HiSeqでシーケンス。

尿exosomeのRNAは膀胱bladderの割合がダントツに高く、次いで肺lung、大腸colon、脳、甲状腺thyroid、副腎adrenal glandの順でした。腎臓は意外と少ない。細胞の種類ごとに見ると多い順から、内皮細胞endothelial cell、basal cell、単球monocyte、樹状細胞dendritic cell、proximal tubule progenitor、B cell、pancreas exocrine cell。単球や樹状細胞、B細胞のような免疫関連が割と含まれています。

この論文の本題であるがんに関係する話はあまり読んでません。