備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: トキシコゲノミクスのデータベースを生態毒性学に活用した例

トキシコゲノミクス(toxicogenomics)は、トキシコロジー(toxicology, 毒性学)とゲノミクス(genomics, ゲノム学)をあわせた言葉で、遺伝子の変異や発現変動を網羅的に見ることで生体内で生じる毒性影響のメカニズムを理解しようという学問です。

Comparative Toxicogenomics Database (CTD) なるデータベースが、化学物質と関連する遺伝子およびパスウェイ・疾患のリストをまとめています。CTDはヒトやマウスだけでなく、色んな生物種を網羅しているので、生態毒性学にも活用できそうです。

 

 

「Comparative Toxicogenomics Database

Davis A.P., Grondin C.J., Johnson R.J., Sciaky D., King B.L., McMorran R., Wiegers J., Wiegers T.C., and Mattingly C.J., 2017, The comparative toxicogenomics database: update 2017. Nucleic Acids Res., 45 (D1), D972-D978.

2017年のupdate版。

データはここで公開されています。ほぼ毎月updateされている模様。「Download」からcsvファイル等をダウンロードすれば、大規模データの解析もできます。

 

 

「環境中で採取した非モデル生物をシステムレベルで理解したい

Williams T.D., Turan N., Diab A.M., Wu H., Mackenzie C., Bartie K.L., Hrydziuszko O., Lyons B.P., Stentiford G.D., Herbert J.M., Abraham J.K., Katsiadaki I., Leaver M.J., Taggart J.B., George S.G., Viant M.R., Chipman K.J., and Falciani F., 2011, Towards a system level understanding of non-model organisms sampled from the environment: a network biology approach. PLoS Comput Biol, 7 (8), e1002126.

 7地点から採ってきたヒラメのメタボロームとトランスクリプトーム(+αでバイオマーカーなど)を調べて、各地点の有害物質汚染との関連を考察した論文。

大昔に読んだときは理解できなかった部分がとても面白かったです。各地点で発現した遺伝子が一般にどのような化学物質によって引き起こされるかを、CTDで検索してます(表2)。MeV (Multiple experiment Viewer) を使って解析している様子。でも表2の導き方がいまいち分からない。Enrichment解析をしているが…。

このCTDによる検索の結果は必ずしも正しくない、ということもDiscussionで少し述べられてます。例えばCTDで「煙草の煙」が示唆されても、単純にAhR inducerかもしれない、とのこと。

 

「生物影響と汚染物質の関連付けをおこなう事前知識ベースの手法

Schroeder A.L., Martinović-Weigelt D., Ankley G.T., Lee K.E., Garcia-Reyero N., Perkins E.J., Schoenfuss H.L., and Villeneuve D.L., 2017, Prior knowledge-based approach for associating contaminants with biological effects: A case study in the St. Croix River basin, MN, WI, USA, Environ. Pollut., 221, 427-436. 

USEPA・USGSあたりのお仕事。既にここまでやられているとは…、ちょっと落胆。

下水処理施設の上流・下流の河川水を採取して、大規模な化学分析とファットヘッドミノーの遺伝子発現解析を実施しています。研究の構成はFig. 1に示されています。

自分の理解不十分なのか、ネットワークモデルを構築する意義が良く分からない。結局、1つの化学物質に対してCTD曰く関連のある遺伝子XXX個のうち、実際に発現変動した遺伝子がYYY個あって、その変動が有意かどうか、フィッシャーの正確率検定のようなもので判断しているだけでは?面白かったけれど、理解不十分。また読む必要あり。データ解析法の元ネタ論文(Catlett et al., 2013, BMC Bioinforma)を読んだ方が良いかな?

この研究のようなデータベースをもとにおこなう解析は、(まあ当然ではあるけど)研究の盛んな物質を重視する傾向があることもdiscussionで指摘されてます。

 

 

Szklarczyk D., Santos A., von Mering C., Jensen L.J., Bork P., and Kuhn M., 2015, STITCH 5: augmenting protein–chemical interaction networks with tissue and affinity data, Nucleic Acids Res., 44 (D1), D380-D384.

CTDと似たようなデータベース。STITCHはCTDからもデータを収集しているようです。とりあえずメモとして。