備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: ToxCastデータと生態毒性in vivoデータの比較

Schaupp CM, Maloney EM, Mattingly KZ, Olker JH, Villeneuve DL, 2023, Comparison of in silico, in vitro, and in vivo toxicity benchmarks suggests a role for ToxCast data in ecological hazard assessment, Toxicological Sciences 195(2): 145-154.

以前読んだ論文(Schaupp et al., 2022)の続編。ToxCastのようなハイスループットのin vitroアッセイ(HTS; High-Throughput Screening assay)は哺乳類ベースなので、水生生物などの生態リスク評価に使用できるかどうか、よく分かりません。そのへんのHTSの生態リスクへの応用の話は若干古いかもですが、Villeneuve et al. (2019, ET&C) に詳しいです。

この論文は、in vitroなToxCastとin sillicoなQSAR(quantitative structure-activity relationship)、そしてin vivoな毒性値のそれぞれで水生生物に関するPOD(Point-of-departure)を計算して比較した研究です。QSARはUSEPAのECOSARとTESTから、in vivoの毒性値もUSEPAのデータベースECOTOXから集めています。

ToxCastに関しては、多様なアッセイの活性値の分布から求められるACC5(5th centile of activity concentration at cutoff)とcytotoxicity lower boundの2種類をPODとして検討しています。

 

結果、ACC5はECOTOXのin vivoデータと有意な相関を示さず、物質の作用機序(MoA)ごとに見た場合でも、アセチルコリンエステラーゼ阻害の場合のみ有意な相関が見られたとのこと。ただ、cytotoxicity lower boundとECOTOXは有意な相関を示しています。そしてECOTOXの毒性値は概ねnon-specificな毒性を反映しているのだと議論しています。ただFigure 4でも示されているように、相関があると言ってもばらつきは非常に大きくて、PODの比が10倍の範囲内に収まっていない物質の方が多いようです。ACC5-ECOTOXの比較でもcytotoxicity-ECOTOXでも。

細かいが気になった点。ECOTOXのデータとして、生死や繁殖、成長と行動異常や分子・細胞レベルの応答まで集めて、分類して解析しています。急性/慢性の区分や生物分類群(無脊椎/魚類/植物)の区分を設けています。EC50を物質と区分ごとに集めてその最小値をPODとしているとのことですが、「ある物質Xの魚類に対する毒性値」と言っても複数魚種のデータおよび複数文献のデータの中から最小値を選んでいるということですよね。最小値よりもHC5(Hazardous concentration for 5% of species)のようなデータのばらつきを考慮できる指標の方が良いとは思いました。ToxCastではACC5を計算していますからね。