生物の遺伝子発現と環境要因の関係について。
「こういう環境要因(例:化学物質曝露とか温度などの物理的要因)によって〇〇遺伝子の発現が変動する」という遺伝子発現のプロファイリングをおこなった既存研究は数多くあります(参考:こちら・こちら)。
そのようなプロファイリングの最終的なゴールは、例えば「遺伝子発現データを生物の健康診断ツールにする」などです。
同じストレス要因であっても、曝露時間が異なれば発現変動する遺伝子も異なります。曝露の始めは過敏に応答したり、ずっと曝露されていると適応したりするためです。曝露時間が遺伝子発現に与える影響を、ミミズを使って検討した論文はこのブログでもメモしました(→こちら)。
下の論文は、「3つのストレス要因×3つの曝露時間」の9条件で遺伝子発現の違いを調べた研究です。試験生物はオオミジンコDaphnia magnaです。
Jansen M., Vergauwen L., Vandenbrouck T., Knapen D., Dom N., Spanier K. I., Cielen A. and De Meester L., 2013, Gene expression profiling of three different stressors in the water flea Daphnia magna, Ecotoxicol., 22(5), 900-914.
- 「寄生生物・魚のカイロモン・カルバリル(カーバメイト系殺虫剤)」×「曝露時間 48h, 96h, 144h」の9条件を試験。
- 1734個の断片を含むマイクロアレイで、9条件+コントロール条件の曝露個体の遺伝子発現解析。
- 試験した9条件において、コントロールと比べて有意に発現が変動した遺伝子数はわずか148個。
- 寄生系では、96h曝露しか発現変動した遺伝子はなかった。
- カイロモン系では144h曝露が48h, 96h曝露より発現変動した遺伝子数が多かった。サイズの大きいDaphniaの方が被食リスクが高いから、長期間曝露して成長した個体の方がカイロモンに鋭敏の応答するのではないかと考察されている。
- カルバリル系では、曝露時間による発現変動遺伝子数の差はあまりなかった。しかし発現変動した遺伝子は、全ての曝露時間でほとんど異なっていた(重複していなかった)。